カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。ツイッターアカウントは@makimogpfbです。

F-エフ-31話(最終回)脚本:月下の旅立ち

アニメ・F-エフ-は、六田登氏の漫画をアニメ化した作品。破天荒だが天才的なドライビングテクニックを持つ青年・赤木軍馬が、様々なドラマを経てレーサーとなり、数々の勝負を繰り広げていく姿を描く。
監督は真下耕一氏で、高屋敷氏はシリーズ構成・全話脚本を務める。
今回は、コンテ/演出が澤井幸次氏、脚本が高屋敷英夫氏。

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  • 今回の話:

年内最後の、鈴鹿F3レース決勝。1位を走る聖(軍馬のライバル)と、2位の軍馬は、限界を超えた勝負の世界に突入する。その果てに、何が待ち受けているのだろうか…

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本記事を含めた、当ブログにおけるF-エフ-の記事一覧:

http://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23F-%E3%82%A8%E3%83%95-

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1位の聖(軍馬のライバル)と、2位の軍馬は、二人きりの勝負に突入する。
不治の病で死と隣り合わせにいる聖は、「エンジンの歌が聞こえる」と、独自の精神世界を走るようになる。超常の精神世界は、アカギ(脚本)でも描写される。

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聖のテールに食らいつく軍馬もまた、彼のマシンに引っ張られるような感覚を持つ。
まるで世界が自分の手の中にあるように感じる聖は、更に自分の世界に没入。
ここもまた、アカギ(脚本)の精神世界に重なるものがある。

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さらに聖は、マシンや自然といった、光輝く「世界」を全身に感じる。そして、太陽が彼を照らす。あしたのジョー2(脚本)でも、「輝き」が表現され、MASTERキートン(脚本)でも、全ての生死を見ているかのような太陽が出現する。

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悟りの境地に入ったような聖は、すぐ後ろを走る軍馬の「命の鼓動」(原作では、エンジンの鼓動)すら手に取るようにわかるようになる。
聖と軍馬は、あしたのジョー最終回(脚本)のホセと丈のように、魂をぶつけ合う。

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聖の異変に気付いたタモツ(軍馬の親友だが、現在は聖のメカニック)は、間近に聖が見える位置まで駆けつける。そんな彼に聖は、「赤木軍馬という男と世界へ行け」と、グローブの片方を託す。あしたのジョー2(脚本)にて、グローブを葉子に託した丈を思わせる。

また、ここでも太陽が映る。あしたのジョー2(脚本)と比較。

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聖の思いを受けたタモツは、以前開発した、(聖に何かあったら)マシンを止める装置を発動できなくなってしまう。

一方軍馬は、聖のマシンの加速に引っ張られる現象を利用することを思いつく。

その時、「自分を超える方法を教えてやる」という聖の言葉を思い出した軍馬は、「たった今お前の事が大好きになったぜ」と思う。
カイジ(シリーズ構成)にて、心を通わせた佐原とカイジが思い出される。

軍馬は限界の限界までマシンの性能を引き出し、自分を超えた走りで、ついに聖を抜く。
自分の限界を突破し勝ち抜く主人公を、高屋敷氏は強調する。
はじめの一歩3期・カイジ(脚本)、エースをねらえ!(演出)と比較。

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走り行く軍馬を見て満足する聖は、意識朦朧となってコースアウトする。
軍馬は、聖の吐血によって、自分のヘルメットのシールドや手に血がついているのに気付く。
あしたのジョー2(脚本)の、出血場面と比較。

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追って来ない聖を気にしつつ、軍馬はチェッカーを受け優勝。
その後、急いで駆けつけた軍馬に、聖は、もう片方のグローブを託す。
手から手へ思いを伝える場面の強調は、高屋敷氏の真骨頂。
カイジ(シリーズ構成)、めぞん一刻MASTERキートンワンナウツ(脚本)と比較。

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軍馬の手を取りながら、「世界には…お前より速い奴は…ゴマンといるぜ…世界には…」(原作では「世界…へ…た…のむ…ぜ…」)と言って、聖は絶命する。
アニメでは、1話で聖が軍馬に言った、「サーキットにはな、お前より速い奴はゴマンといるんだぜ」をベースにしており、シリーズ構成の見事さが光る。

ここも、あしたのジョー2最終回(脚本)にて、葉子にグローブを託した後、「真っ白に燃え尽きた」丈が重なっていく。

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「苦しかったろ…」と軍馬が聖のヘルメットとマスクを取ると、彼は白髪になっていた(原作では毛が抜ける)。これもまた、あしたのジョー2(脚本)の、白髪になったホセを思わせる。カイジ(脚本)にて焼き土下座をやりきった利根川や、アカギ(脚本)にて疲弊した鷲巣とも比較。

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男前が台無しじゃねえか…と軍馬は聖にマスクを被せ直し、彼を抱きしめる。
抱擁も、高屋敷氏の担当作では、よく強調される。
ど根性ガエル(演出)、グラゼニワンダービートS(脚本)、ベルサイユのばら(コンテ)、MASTERキートン(脚本)と比較。

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軍馬は聖のグローブを咥え、彼を担いで表彰台へと歩く。

そして、鳥と太陽が映る(アニメオリジナル)。鳥も太陽も、高屋敷氏の担当作に頻出。
家なき子(演出)、コボちゃんじゃりン子チエ(脚本)と比較。

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駆け付けたタモツは、軍馬の涙を見て、聖の死を悟る。
カイジ(脚本)にて、佐原の死に涙するカイジに通じる。
どちらも、魂を通じ合わせた相手を失っている。

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表彰台に聖を座らせた軍馬は、タモツに、シャンパンを持って来るよう頼む。ここも、高屋敷氏が得意とする、「手から手へ思いを伝える」が出ている。MASTERキートングラゼニワンダービートS(脚本)と比較。

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「景気よく行こうぜ」と軍馬は聖に語りかけ、シャンパンを開ける。
噴出するシャンパンに虹がかかる(アニメオリジナル)。
ベルサイユのばら(コンテ)、エースをねらえ!(演出)と比較。

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笑いながら号泣する軍馬は、シャンパンを聖にかける。ルパン三世3期・あしたのジョー2(脚本)などでも、亡き人を思う描写が丁寧に描かれる。

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ルーツは、脚本デビューし、演出の手伝いをしたジョー1における、力石の死であると思われる。

この壮絶な光景を見ても、将馬(軍馬の異母兄)は彼等を見下す。そんな彼を、ユキ(軍馬を慕う、赤木家の元使用人。将馬に囲われていたが逃走)はビンタし、去る(アニメオリジナル)。
ビンタも、よく出る。ベルサイユのばら(コンテ)、ど根性ガエル(演出)、カイジ2期・めぞん一刻(脚本)と比較。

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レースが終わり、皆は帰っていく(アニメオリジナル)。英二郎(タモツの父で、軍馬のメカニック)は、タツ(タモツの母)とヨリを戻す(原作にて、人間同士の勝負は軍馬が勝ったが、メカニックとしての勝負は、タモツが勝ったという解説がある)。

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そしてユキは飛行機に乗り、何処かへ旅立つ(アニメオリジナル)。純子(ヒロインの一人)とルイ子(聖の恋人)は、取り残された者同士、意気投合する。
最終回にキャラが旅立つ展開を、高屋敷氏は多く取り扱うが、原作で薄幸のユキを旅立たせたのは驚き。

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夜のサーキットに佇む軍馬は、聖のヘルメットの埃を、優しい手つきで払う(アニメオリジナル)。
優しい手つきで、物や人を撫でる場面は、よく出る。
めぞん一刻マッドハウス版XMEN(脚本)と比較。

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そしてそれを、満月が見守る。万物を「見ている」ような月の「間」を、高屋敷氏は実に多く出す。
はじめの一歩3期・火の鳥鳳凰編(脚本)、エースをねらえ!(演出)、蒼天航路(脚本)、元祖天才バカボン(演出/コンテ)と比較。

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聖のヘルメットを拾い上げた軍馬は、タモツと頷き合う。そして聖の遺言通り、「世界」へと歩を進める(アニメオリジナル)。友と共に「前に進む」のは、家なき子最終回(演出)を思い出させる。

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そして、軍馬の戦績が表示される。間には空白があり、末尾にはこう書かれている。「F1グランプリ出走予定」と…(アニメオリジナル。原作では、もっと後)。

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  • まとめ

話を追っているうちに薄々感じていたのだが、やはりアニメでは、「青春の輝きと、その終焉、そして旅立ち」が描かれている。
この構成は、高屋敷氏の大きな特徴であり、それが直球で表れている。

家なき子最終回(演出)では太陽に向かいレミ達が、あしたのジョー2最終回(脚本)では太陽に見送られながら、丈が旅立つ。
F-エフ-の場合は、月が見守る中、軍馬が旅立つ。この事からも、「太陽と月」は、高屋敷氏の作品世界で、非常に重要な役割を担っているのがわかる。

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また、何度か書いているが、
「自分とは何か」→「自分で選んだ道を行け」→「自分を確立しろ」→「己を強く保て」→「自分を超えろ」→「そして前に進め」と、「自分」にまつわる構成にもなっている。これは、カイジグラゼニのシリーズ構成/脚本にも適用されており、その一貫性に驚く。

そして、「生きざま」「どう生きるか」にも重点が置かれている。これもまた、カイジ、アカギ、グラゼニ(シリーズ構成/脚本)、あしたのジョー2(脚本)、めぞん一刻(脚本/最終シリーズ構成)など、高屋敷氏は数多く描く。これもまた、同氏の作品を追っていくと感銘を受ける。

話が進むにつれ、主人公が大きく成長していく構成も、高屋敷氏の得意分野。特に、少年や青年が「男」になっていく話作りが上手い。
本作でも、それが遺憾なく発揮されている。
画像は、成長・豹変の例。本作と、めぞん一刻(脚本・最終シリーズ構成)、DAYS(脚本)、カイジ2期(脚本・シリーズ構成)との比較。

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あと、あしたのジョー2(脚本)と本作を比較すると、共通するものが多く出て来る。
かたやボクシング、かたやモータースポーツなのに、何故か同じカテゴリのものを見ているような感覚に陥る。それだけ、スポーツというより、前述した「生きざま」にスポットが当たっている。

あしたのジョー2だけでなく、高屋敷氏がシリーズ構成・脚本を担当したスポーツアニメ(ワンナウツグラゼニ)においても、「生きざま」が描かれる。
ワンナウツの場合は、「勝負」に頑なにこだわる渡久地の、グラゼニの場合は、「好きで選んだ道」である野球に人生を賭ける夏之介の姿が印象深い。

アカギやカイジのシリーズ構成・脚本でも、「ギャンブルもの」である以上に、「生きざま」「どう生きるか」が前面に出ている(もともと原作も、そういった傾向にある)。
こういった共通点があるので、時代もジャンルも、取り扱う原作も違うのに、「同じカテゴリ」のように感じる。それだけ、高屋敷氏は個性が強いのだと思う。

聖と軍馬の間に芽生えた感情(愛情)に目を向けてみると、「二人だけの世界」に突入した結果と言える。
カイジ(脚本・シリーズ構成)でも、圧倒的孤独の中で、互いの存在を感じ合った佐原とカイジの間に、特別な感情が生まれる。
そして両作とも、片方が死んでしまう。

さらに遡ると、あしたのジョーの丈と力石の関係がある。
奇しくも高屋敷氏は、あしたのジョー1にて、丈が(死した)力石に対し、友情や愛情を超えた感情を抱いていたことを述懐する回の制作進行を担当しており、何らかの影響を受けた可能性がある。

こういった「魂を通わせた相手との死別」は悲劇であるが、主人公達は、これを通し「真の愛」を知る。劇場版スーパーマリオ(脚本)では、「勇気とは真の愛から生まれる」という直球台詞があり、高屋敷氏の持つ「人間愛」についてのポリシーが窺える。

色々な試練や経験を経て、最後に軍馬は前に進む。1話で彼が言う「前だ、前に行くんだ」(アニメオリジナル台詞)ともリンクしており、構成の妙を感じる。また、家なき子(演出参加)のテーマ、「前へ進め」も踏まえると感慨深い。

今回のサブタイトルは、「さらば軍馬! めざせ世界最速の男!!」。これは、聖の意志を継ぎ、旅立つ軍馬へのエールとも取れる。思えば、「赤木軍馬という男が、どう生きるのか」を見守る構成にもなっていた気がする。そして最後は、彼を見送る形になっているのではないだろうか。

次回は、本作における高屋敷氏の「シリーズ構成」について述べて行きたい。