カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

宝島10話演出:絶望の船

アニメ・宝島は、スティーブンスンの原作小説を、大幅に改変してアニメ化した作品。監督は出崎統氏。高屋敷英夫氏は、偶数回の演出を務める(表記はディレクター)。
今回の脚本は篠崎好氏で、コンテが出崎統氏、演出が高屋敷英夫氏。

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本記事を含めた、宝島の記事一覧:

http://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E5%AE%9D%E5%B3%B6

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  • 今回の話:

宝島にもうすぐ到着するヒスパニオラ号にて、反乱の噂をパピー(見張り役)から聞いたジムは、シルバー(料理長)と共に真偽を確かめに行くが、船員達は博打をしていただけだった。だがその後ジムは、シルバーが元海賊であり、部下を集めて宝の横取りを図っていることを聞いてしまう。

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冒頭、料理・食事シーンがあるが、美味しそうな食事シーンは、高屋敷氏の担当作に多く出てくる。挙げればキリがないが、DAYS・グラゼニ(脚本)と比較。

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船がもうすぐ宝島に着くと知り、心踊るジムは、眠れないなどと日記に書くも眠りこけてしまう。同室のレッドルース(船のオーナー・トレローニの執事)は、そんなジムに毛布をかけてくれる。優しいお爺さんは、色々な作品で印象に残る。花田少年史蒼天航路・DAYS・めぞん一刻(脚本)と比較。

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ジムは金銀財宝の夢を見るが、相当に幼い。
高屋敷氏は、キャラクターのコミカルさ・幼さを強く描写する。
1980年版鉄腕アトム(脚本)、元祖天才バカボン(演出/コンテ)、めぞん一刻カイジ2期(脚本)と比較。

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そんな折、見張り係のパピーがジムを呼び出し、反乱を企てている男達がいると話す。パピーは関西弁を話すお調子者として描かれており、カイジ(脚本)の、関西弁を話すうさんくさい男・船井と少し重なるものがある。

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パピーに導かれ、何やら企てている男達を目にしたジムは、その事をシルバー(料理長)に話す。そこでシルバーは、ジムと共に調査に行くことにする。ジムはそれを喜ぶ。喜ぶ姿が、これまた幼い。カイジ2期・陽だまりの樹グラゼニ(脚本)、ベルサイユのばら(コンテ)と比較。

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シルバーとジムが、反乱を企てる男達がいるのかどうか密かに見に行った所、亀レース賭博に興じる男達がいるだけだった。高屋敷氏は、カイジ(脚本)はじめ、相当に博打場面に縁がある(オリジナルでも結構出る)。カイジ2期(脚本)と比較。

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翌日の夕方、ジムは夕陽を見ているシルバーを目にする。意味深な夕陽の織り成す「間」の描写は数多い。F-エフ-・コボちゃん(脚本)、元祖天才バカボン(演出/コンテ)、ベルサイユのばら(コンテ)と比較。

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ジムは夕陽が大好きだと言うが、シルバーは、すぐに姿を隠し、人の心を夜の闇に突き落とす夕陽というものが、大人になると嫌いになったと話す。それでも美しいから、負けないように夕陽を見るのだとも言う。
出崎統監督の一派(高屋敷氏含む)は、夕陽に並々ならぬこだわりを持つが、その理由の片鱗が見られ、興味深い。

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夜、意味深にランプが映る。とにかくランプは頻繁に登場し、状況や心情と連動したり、全てを見ているものとして扱われたりする。カイジ2期(脚本)、空手バカ一代(演出/コンテ)、アカギ(脚本)と比較。

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そしてジムは、またしても眠れないなどと思いつつ熟睡して夢を見るが、この夢も相当コミカルで幼い。
じわじわ来るベルサイユのばら(コンテ)のマリーの妄想や、ルパン三世2nd(演出/コンテ)にて、不二子にスルーされるコミカルなルパンと比較。

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夢の中で、ジムはシルバーを「男の中の男」と評す。
なんとなくだが、カイジ(脚本)にて、船井(後にカイジを騙す)にすっかり心を許してしまうカイジと重なってくる。

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ジムの夢の中のシルバーはジムに手を差し伸べ、ジムはそれを掴もうとする。
手と手のコミュニケーションは、数え切れないほど出る。
カイジ(シリーズ構成)、MASTERキートン・F-エフ-(脚本)と比較。

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夢から覚めたジムは空腹になり、リンゴ樽の中に入ってリンゴを食べ、居眠りする。
食いしん坊&眠りこける姿が幼い描写は頻出。F-エフ-(脚本)のアニメオリジナル場面と比較。

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話し声がしたので起きたジムは、リンゴ樽の隙間から様子を窺う。そして、シルバーがフリント海賊団の操舵手だったこと、彼が仲間を集めて財宝の横取りを企てていることを知る(亀レース賭博はカモフラージュ)。
カイジ(脚本)にて、仲間に裏切られるも、ガラスで仕切られ手出しできないカイジと比較。

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パピーは、シルバー一派に脅され、シルバー側に付くことにする。こちらも何やら、カイジ(脚本)にて、カイジを騙す船井と重なるものがある。

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シルバーの正体を知ってしまったジムは涙を流して絶望する。カイジ(脚本)にて、仲間に裏切られて涙を流し、崩れ落ちるカイジと比較。かたや演出、かたや(絵を管理できない)脚本、ここまでシンクロしてくるのは驚異的。

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そして船は、とうとう宝島を目前にするのだった。

  • まとめ

遂にシルバーが正体を現すわけだが、カイジ9話(脚本)とのシンクロ具合に驚かされた。
カイジも本作も、船での出来事であり、裏切られたカイジ/ジムが、ただ見るしかできない所も同じ。
そして、本作では財宝、カイジでは金をめぐる対立構造なのも共通。

つまり状況さえ揃えば、かたや演出作、かたや脚本作であっても、最終的な映像が似てくることが、今回も確認できた。
こういった不思議なシンクロ現象が起こり続けるのも、高屋敷氏の担当作を追う上で面白いところ。

今回は、高屋敷氏の持ち味である「キャラクターの幼さ」が上手く作用し、終盤の、シルバーの裏切りに絶望するジムが引き立っている。
脚本作(特にシリーズ構成作)でも凄まじいものがあるが、本作のような演出作でも、ここらへんは同氏の計算高さを感じる。

あと、興味深いのは、夕陽に関するジムとシルバーの会話。ここは、本作スタッフそれぞれの解釈がぶつかっているのではないだろうか。「夕陽が嫌い」は神に反抗する出崎統監督らしいし、逆に太陽や月に対し全知全能的なものを感じているらしき高屋敷氏は、「夕陽が大好き」なジム側かもしれない。

出崎統氏が監督、竹内啓雄氏・高屋敷英夫氏が演出の作品は、三者三様の個性の違いが目立ち、そこも面白いところ。
このことからも、出崎統監督は意外にもワンマンではなく、様々なスタッフの個性を取り込んでいることが見て取れる。

カイジ(シリーズ構成/脚本)ではエスポワール、本作(演出)ではヒスパニオラという船にて、様々なキャラクターのドラマが繰り広げられるが、閉鎖され、逃げられない空間であることが共通する。本作の経験を、高屋敷氏がカイジに活かしたことは、大いに考えられる。

高屋敷氏のように、演出作・脚本作ともに多い場合、両方を比べると、演出・脚本ともに出来ることは無限大であると思えてくる。同氏の場合、演出も脚本も、やりたい事が同じで、それが映像にしっかり出ているのが凄いと思う。

カイジ(脚本/シリーズ構成)では、船の名前が「エスポワール(希望)」なのに絶望的な状況が続き、今回では、宝島に近付いて希望に溢れていたジムが、シルバーの正体を知って絶望する。つくづく、この2作品の比較が面白い。

今回は、なんと大橋学氏の一人原画(御本人もツイッターで言及)。作画面でも凄まじい回だった。