カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。ツイッターアカウントは@makimogpfbです。

宝島16話演出:策を実行する勇気

アニメ・宝島は、スティーブンスンの原作小説を、大幅に改変してアニメ化した作品。監督は出崎統氏。高屋敷英夫氏は、偶数回の演出を務める(表記はディレクター)。
今回の脚本は山崎晴哉氏で、コンテが出崎統監督、演出が高屋敷英夫氏。

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本記事を含めた、宝島の記事一覧:

http://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E5%AE%9D%E5%B3%B6

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  • 今回の話:

船を岸に近付け、大砲の命中精度を上げたシルバー(元フリント海賊団幹部)達は、スモレット船長達が立て籠る砦に集中砲火を浴びせる。ジムは船の碇綱を切って、船を岸から遠ざける作戦を思い付き、ベン・ガン(島に住み着いている、元海賊)の舟を借りて海へ漕ぎ出す。様々な苦難を乗り越えたジムは、遂に碇綱を切ることに成功する。

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冒頭から、高屋敷氏の担当作で頻出するランプの意味深アップ・間が出る。とにかく挙げればキリが無いが、カイジ2期・F-エフ-(脚本)、空手バカ一代(コンテ/演出)と比較。

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砦が集中砲火を受ける中、船の碇綱を切って船を遠ざけ、大砲の命中精度を下げる作戦を思い付いたジムは、それをグレー(ナイフの達人)に告げ、砦を飛び出す。
グレーは後に、ジムの目を見たら止められなかったと、スモレット船長に言う。
決意に満ちた目をする主人公を、高屋敷氏は強く描写する。蒼天航路カイジ2期(脚本)と比較。

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何とか追手を振り切ったジムは、ベン・ガン(島に住み着いている元海賊)が寝泊まりしている地下洞窟を、偶然発見する。
ジムがベン・ガンに事情を説明する間、火の意味深アップ・間がある。これも数多くの作品で出てくる。コボちゃん(脚本)、ど根性ガエル(演出)、F-エフ-(脚本)と比較。

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ベン・ガンはジムの作戦に感心し、自作の舟のありかを教え、使っていいと言う。
孤独な人との交流は、高屋敷氏のポリシー・孤独救済の一環として印象深く描かれる。空手バカ一代(演出)、MASTERキートン・F-エフ-(脚本)と比較。

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ベン・ガンの舟を借りて海へ漕ぎ出したジムだったが、早々にオールが落ちて途方にくれる。ニャーしか相槌を打たないベンボー(ペットの子豹)に苛立ち、ジムは動物と同レベルの喧嘩をするも、我に帰る。底レベルの幼い喧嘩は、色々な作品で見られる。ど根性ガエル(演出)、めぞん一刻(脚本)と比較。

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舟を方向づける手段を失い、漂流するジムとベンボーを、太陽が照らす。全てを見ているかのような太陽は、数えきれないほど「登場」する。家なき子(演出)、らんま・ワンナウツ(脚本)と比較。

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一方、霧が出て来たため、シルバー(元フリント海賊団幹部)は部下に砲撃の中止を命じる。それを聞き、疲労困憊の砲手達は安堵。高屋敷氏は善悪の区別を明確にしない傾向にあり、敵の苦労もよく描く。カイジ2期・グラゼニ(脚本)と比較。こちらも、敵側の苦労が描かれている。

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そして、サメとの死闘を制するなどの苦難を乗り越えたジムは、潮の流れに乗り、なんとか船へと辿り着く。
シルバーを想像しながら、彼は碇綱を切るのだった。
立ち向かわねばならない人ということで、F-エフ-(脚本)、空手バカ一代(演出)、カイジ2期(脚本)、エースをねらえ!(演出)と比較。

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  • まとめ

緊迫した状況の中でも、ジムの幼さ・子供らしさが目立つ。
幼さの表現が巧みな一方、ジムが「男」になっていく兆しを見せていく演出も光る。
これは演出でも脚本でも、高屋敷氏が強く打ち出してくる要素の一つ。

オールを失くしたり、サメに襲われたりと、海に出てからのジムは苦難の連続。何度も心折れそうになる彼だったが、諦めずに目標を達成する姿が描かれた。
これもまた、ジムが大きく成長する瞬間を捉えている。
実際、顔つきも一瞬鋭くなる。

グレーが、ジムの目を見たら止められなかったと言うように、大人がハッとなる程の気迫をジムが持つようになったのも印象深い。
また、無茶を承知で飛び出す勇気は、少年らしさに溢れており、子供と大人の精神が混ざった、10代の少年独特の雰囲気が、よく出ている(13歳に見えない幼さだが…)。

ただ、無茶ではあるが、ジムは策を持って飛び出したわけで、無策ではない。
このあたりは、たとえどんな大義名分があっても無策を好まない、高屋敷氏の好みも出ている気がする。

そして作戦はよくても、そう易々とは行かず、トラブル続出のコンセプトは、ルパン三世2期(演出・コンテ・脚本)・3期(脚本)やキャッツアイ(脚本)、カイジ(脚本・シリーズ構成)でも活かされている。
特に脚本作は、非常に緻密で入り組んだ構成になっている。

あと、敵側の苦労を描いている点も、高屋敷氏の好みが窺える。このあたりも、カイジのシリーズ構成・脚本に繋がる。
また、1980年版鉄腕アトム(脚本)やMASTERキートン(脚本)でも、善悪の区別を明確にしない、同氏のポリシーが表れている。

そもそも本作は、原作を脚色してでも、恐ろしい海賊であるシルバーにスポットを当てるコンセプトになっているわけで、高屋敷氏が好む要素は大いにある。
高屋敷氏が演出・コンテで参加した空手バカ一代にも、善悪の区別を明確にしない話が結構ある。

今回は、無茶ながらも無策ではなく、挫けそうになるも諦めなかったジムの成長が見られ、シリーズ序盤の幼い姿から、かなり変化している。
少年→男への成長を切り取るのが巧みな、高屋敷氏の手腕が大いに振るわれている回だった。