カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。ツイッターアカウントは@makimogpfbです。

宝島22話演出:波打つ心

アニメ・宝島は、スティーブンスンの原作小説を、大幅に改変してアニメ化した作品。監督は出崎統氏。高屋敷英夫氏は、偶数回の演出を務める(表記はディレクター)。
今回の脚本は篠崎好氏で、コンテが出崎統監督、演出が高屋敷英夫氏。

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本記事を含めた、宝島の記事一覧:

http://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E5%AE%9D%E5%B3%B6

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  • 今回の話:

財宝の場所についての謎を解き始めたシルバー(元海賊)は、人質のジムを逃がす。複雑な思いのジムは、シルバーの命を狙うジョージ(シルバーの部下)に抗うも、シルバーは負傷。
一方、スモレット船長達は、上手い作戦でシルバー派を壊滅させ、シルバーを捕らえる。

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序盤、シルバー(元海賊)とジム(人質として拘束されている)が話すのを鳥が見守り、そして飛ぶ。こういった意味深な鳥の描写は、出崎統監督の流れを汲み、高屋敷氏の演出・脚本作ともに頻出。同氏は、鳥にストーリー性を持たせるのが特徴。陽だまりの樹(脚本)と比較。

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そして、木が映る。心情や状況と連動する自然や静物の描写は多く、独特のアップ・間がある。不思議なことに、これが脚本作でも出てくる。じゃりン子チエ蒼天航路・二舎六房の七人(脚本)と比較。

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一方、シルバー達を監視し、ジムを救う術を模索するスモレット船長達は、些細な事で口論になりそうになる。そこをベン・ガン(島に住み着いている、元海賊)が、自分の持ち芸で和ませる。コミカル要素を入れ込むのは、高屋敷氏の持ち味。ベルサイユのばら(コンテ)、太陽の使者鉄人28号(脚本)と比較。

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ベン・ガンは、コーヒーを飲もうと言い、自分の持ち芸(声真似)を再び披露して皆を笑わせる。コミュニケーションツールとしてコーヒーが使われるのはよくあり、マッドハウス版XMEN(脚本)にも出る(画像下段左)。また、皆が良い笑顔を見せる場面も多い。あんみつ姫(脚本)と比較(画像下段右)。

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財宝の場所の謎について考え込むシルバーの場面で、面白い所(ドクロの奥)にカメラを置く、出崎統監督の独特な構図が出る。影響下にある高屋敷氏も、単独でもこれを出す。本当に不思議なことに、脚本作でも出る。忍者マン一平(監督)、元祖天才バカボン(演出/コンテ)、カイジ2期(脚本)と比較。

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ドクロに残された印により、次の手がかりが骸骨島にあると気付いたシルバーは、木に登って島の位置を確認。ここも、木が印象的。F-エフ-・蒼天航路(脚本)、ベルサイユのばら(コンテ)と比較。年を経るにつれ、木の「役割」が大きくなっている。

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骸骨島に向かう道すがら、ジムは隙を見て逃げ出す。それを追いかけるシルバーは、ジムの入った池が底無し沼だと言って騙す。ここも、焦るジムがコミカルで、なんとも高屋敷氏的。ルパン三世2nd(演出/コンテ)、あしたのジョー2(脚本)と比較。

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シルバーは、スモレット船長達がいる方角をジムに教え、こっそり彼を解放する。気が立っている部下に、ジムがいつ殺されるかわからないから…との理由からだった。
そんなシルバーの背中を、ジムは複雑な表情で見つめる。

善悪の区別が明確でない、人間の複雑さは、高屋敷氏のテーマの一つ。蒼天航路(シリーズ構成・脚本)でも、それは色濃い。

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骸骨島の洞窟で、次なる謎解きに挑むシルバーの場面では、ドクロが揺れる。こういった「ものいわぬもの」の描写もまた、沢山確認できる。グラゼニ(脚本)、ベルサイユのばら(コンテ)、蒼天航路(脚本)と比較。

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シルバー達の後を追い、骸骨島に着いたスモレット船長達は、ベン・ガンの声真似芸を使い、フリント(大海賊団の頭)の亡霊が出たように装い、シルバーの部下を狼狽させる。そして、その隙に総攻撃、シルバー派は壊滅。結構いい策で、策略をめぐらせる事を好む高屋敷氏にマッチ。

あんみつ姫(脚本)でも、知略や悪知恵に長けるキャラが出るほか、カイジ(脚本・シリーズ構成)、ルパン三世(演出/コンテや脚本)や蒼天航路(シリーズ構成/脚本)など、知略を武器にするキャラは、高屋敷氏の担当作で目立つ。

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そして、反逆した部下・ジョージに襲撃されたシルバーは負傷。ジョージからシルバーを庇ったジムは、その理由がわからないと叫ぶ。こういった、善悪入り乱れた人間の心理の複雑さを高屋敷氏は強調する。F-エフ-・カイジ蒼天航路(シリーズ構成/脚本)でも、それは印象深い。

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  • まとめ

シルバーとジムの複雑な関係が浮かび上がり、善悪は単純に区別できないという高屋敷氏のテーマ(または好み)が出ている。
あるいは、こういった宝島の演出経験を、後の脚本作に活かしたのかもしれない。ただ、初期作の空手バカ一代の演出/コンテにも、この要素は見られる。

この、人間の複雑さを訴えかける高屋敷氏の方針は、特に蒼天航路(脚本/シリーズ構成)で目立つ。原作より残忍さを抑えてでも、凄まじい暴君・薫卓がかっこよく描かれていたほか、呂布曹操も、双方の大義や残酷さが等しく扱われていた。

更に突き詰めると、アカギ(シリーズ構成/脚本)では、人間の本質に迫ろうとするアカギが描かれた。これは、終わりなき探求であり、原作の超長期化も予言するものであった。
そういった事も含め、アカギの構成は実に深い。

その一方で、コミカルな要素を出すのを忘れない、高屋敷氏の姿勢も見える。
このあたりは、同氏が好きらしき、山田洋次監督作品の影響が大きいのかもしれない。
なんにせよ、あらゆる作品で目立ち、かつ武器となっている同氏の特徴である。

高屋敷氏の更なるテーマの一つ、「自分の道は自分で決めろ」も、今回出ている。シルバーから逃げろと言われても、密かにシルバーについて行き、彼を庇ったジムの行動は、「自分で」決めたこと(彼は、理由がわからないと言うが)。こういう成長も、同氏は印象深く表現する。

自分で自分の道を決めることができる「男」への成長は、特にF-エフ-*1カイジなどのシリーズ構成作にて炸裂しており、感動を呼ぶ。これは、本作の経験も大きいのではないだろうか。もはやジムは、序盤の非常に幼い姿から劇的な変貌を遂げている。

人間の心の複雑さや少年の成長、そして「自分」とは何か…それらを統括する「人間の本質」。
数十年に渡り、多数の作品でこれらを表現している同氏を、やはり尊敬する。