カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。ツイッターアカウントは@makimogpfbです。

グラゼニ(2期)14話脚本:他者を見つめた先に

アニメ・グラゼニは、原作:森高夕次氏、作画:アダチケイジ氏の漫画をアニメ化した作品。監督は渡辺歩氏で、高屋敷英夫氏はシリーズ構成・全話脚本を務める。2期は1期最終回12話からの続きで、開始話数は13話。

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  • 本作のあらすじ:

プロ野球投手・凡田夏之介は、年棒にこだわるタイプで、「グラウンドにはゼニが埋まっている(すなわちグラゼニ)」が信条。そんな彼の、悲喜こもごものプロ野球選手生活が描かれる。

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今回は、コンテが齋藤徳明氏、演出が門田英彦氏、脚本が高屋敷英夫氏。

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本記事を含めた、グラゼニに関する記事一覧:

http://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%82%BC%E3%83%8B

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  • 今回の話:

怪我から復帰し、4ヶ月ぶりに一軍に上がった夏之介。彼と同時に一軍に上がった外野手・樹は、ポテンシャルはあるのだがプロ意識に欠けており、夏之介は振り回されてしまう。

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神宮でのホームゲームにて、怪我から復帰した夏之介は出番に備えて待機し、彼と同時に一軍に上がった外野手・樹はスタメンに出ていた。

ここで、夏之介の二軍生活時の回想が入る。凝った時系列操作を、高屋敷氏は得意とする。カイジ(シリーズ構成/脚本)やチエちゃん奮戦記(脚本)でも、それが見られる。
例としては、チエちゃん奮戦記24話の脚本を挙げたい:

http://makimogpfb2.hatenablog.com/entry/2017/03/06/163010

夏之介の回想により、樹の人物像が語られる。
彼は夏之介曰く「草野球のおっさん」であり、プロ意識に欠ける所がある。
屈託ない笑顔で野球を楽しむ彼は、打撃も守備もポテンシャルがあるのだが、戦略的思考や、したたかさが無い。だから、打率は良くても打点は低く、状況を見て四球を選ぶことも、ほぼ皆無。
このあたり、1980年版鉄腕アトム13話(脚本)にて、ロボット故に「悪い心」が無く、真っ直ぐすぎるために戦略性に欠けるアトムを描いたことが思い出される。
また、純粋故に周りが迷惑を被ることがある点は、元祖天才バカボンの演出/コンテや脚本におけるパパにも通じる。

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このように、高屋敷氏は「過度に純粋であるが故の戦略性の無さ」を否定的に描き、原作通りでも強調する。逆に、複雑な内面を持ち、知略に長けるキャラが好きなようで、そういったキャラは、善悪の区別無く肯定的に描く。

夏之介の(二軍での)回想の中で、夏之介と樹が居酒屋で飲むシーンがあるのだが、ビールテロは高屋敷氏の担当作に、とにかく多い。MASTERキートンカイジ2期・めぞん一刻(脚本)、宝島(演出)と比較。

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この居酒屋での会話の中で、樹がもうすぐ父親になることが判明する。
そして彼は優しい妻と義父母に囲まれ、引退後は義父の和菓子屋チェーンを継ぐことになっていることも、夏之介のナレーションで語られる。
そんな樹を見ながらも夏之介は、自分は体一つが資本なので、1日も早く一軍に戻らねばと(でなければ年棒も下がってしまう)決意する。

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ここは、「自分とは何か」→「自分の道は自分で決めろ」→「自分を強く保て」という、高屋敷氏のテーマの一つが表れているように感じる。

ここで回想は終わり、時系列は現在に戻る。樹は、ヒット性の当たりを打つものの、相手チームのファインプレーに悉く阻まれ、結果を出せずにいた。
それを見守る夏之介は、樹は不運というだけでなく、プロ根性の欠如もあって打てないのだと考える。
ここで夏之介の眼鏡に樹が映る。鏡、水面、瞳などに「真実」を映す場面は、よく出てくる。F-エフ-(脚本)、ベルサイユのばら(コンテ)、蒼天航路(脚本)と比較。

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夏之介は夏之介で、せっかく一軍に復帰しているのに、(ブルペンで投げることはあっても)いまだマウンドに立てずにいることを内心嘆く。
そこへ、ようやく迫田(ブルペンコーチ)から肩を作れとの声がかかり、夏之介はグローブを掴む。この時、グローブのアップがある。「もの言わぬもの」の意味深アップは多い。F-エフ-・カイジ2期・めぞん一刻(脚本)と比較。

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そして遂に、夏之介は左のワンポイントリリーフとしてマウンドに上がる。ここ(8回表、2アウト、ランナー2塁)で打者一人を抑えることができれば評価を上げることができるのだ。ここでも、ボールやグローブの意味深アップがある。

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「僕はとうとう…とうとうここに…帰ってきた…」と、マウンド上の夏之介も印象的に描写され、「(一軍の)プロ野球投手という自分」を取り戻したことが表現されている。

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F-エフ-*1(シリーズ構成・全話脚本)においても、主人公の軍馬が「レーサーである自分」を獲得していく経緯が丁寧に、そして劇的に描かれている。また、カイジ(シリーズ構成/脚本)でも、カイジが「勝つために生きる」自分を見出だす。

マウンドに上がった夏之介を、解説席の徳永(夏之介の先輩で、現在は解説者)が、レフトの大野(夏之介と同郷の後輩)が、モニターごしに渋谷(夏之介の友人で先発ローテ投手)らが固唾を飲んで見守る。
「自分は独りではなく、仲間がいる」というのも、高屋敷氏は、あらゆる作品で前面に出していく。カイジ2期・はじめの一歩3期(脚本)と比較。

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夏之介は打者を凡フライに打ち取った…はずが、ここでライトの樹がでしゃばったために「お見合い」*2が発生し、ヒットとなってしまう。そして失点という、なんとも不運な結果に。
結局ここで夏之介は降板、試合も負けてしまい、夏之介は樹のプロ意識の無さを痛感する。

試合後。(ヒットなしに終わったのも関わらず)樹は妻のお腹にいる、未来の息子に赤ちゃん言葉で話しかけていた。高屋敷氏は「幼さ」を老若男女に適用するが、妻に甘えるあたり、やはり元祖天才バカボン(演出/コンテや脚本)のパパと重なる。

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ところが、その息子が逆子であり、帝王切開になる可能性が高いことを妻から告げられ、流石に樹も、野球に対するモチベーションを上げる。
ここまで、悪いイメージが付いた感のあった樹だが、人それぞれに複雑な事情を持っていることが描かれる。ここの強調も、善悪/良い悪い/敵味方…などで明確にラインを引かない高屋敷氏らしさが出ている。

一方、何だかスッキリしない思いを抱えた夏之介は、お気に入りの定食屋であり、想い人のユキが働く「キッチン味平」に4ヶ月ぶりに赴く。

そこには、変わらぬ笑顔のユキがいた。注文する時しかユキとやりとりできない夏之介であったが、ユキの笑顔に癒される。
高屋敷氏の担当作には、晴れやかな笑顔を見せるキャラが多い。あんみつ姫(脚本)では、「笑うと可愛い」という直球台詞がある。

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そんな中、店内のテレビに夏之介が映るも、店内の皆は(店にいる)夏之介に気付かず、彼を話題にする。優秀なモブは、色々な作品で確認できる。カイジ2期・MASTERキートンめぞん一刻・F-エフ-(脚本)と比較。

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そして夏之介は、お気に入りのメニュー、唐揚げチャーハン(ユキが考案)を頬張り、パワーチャージするのだった。飯テロは、高屋敷氏の定番中の定番の特徴。ルパン三世2nd(演出/コンテ)、カイジ2期・F-エフ-・チエちゃん奮戦記(脚本)と比較。

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  • まとめ

何から何まで自分と異なる樹を見つめることにより、夏之介は「自分とは何か」を、やはり見つめていく構成になっている。
上述の通り、「自分」にまつわる色々なテーマを、高屋敷氏は提示する。この、同氏の長年のテーマを、あらゆる原作に巧妙に入れ込む手腕は、本当に見事。

怪我から復帰して、やっと一軍のマウンドに立てたと思ったら、(樹のヘマにより)アウトを取れず、夏之介は降板となってしまう。こういった「上手くいかない」事象も、構成の大事な要素として高屋敷氏は扱う。カイジのシリーズ構成でも、トラブル続きの展開を上手く構成している。
そういった困難から立ち上がっていく主人公を描くのも、同氏は上手い。

失意の夏之介を癒したのが、ユキの「笑顔」と、おいしい「食事」という、今回の組み立ても、多くの作品でそれらを非常に強く表現してきた、高屋敷氏らしさが出ていて良い。

また、モブの会話にて「人々に夏之介がどう認識されているか」も表れており、ここでも「自分とは何か」が突きつけられる。

現段階での彼は、人々にうっすらと認識されているに過ぎない。プロとして成功を掴み、グラウンドに埋まる銭=グラゼニを獲得する「自分」になるための「道」は、まだまだ長い。

だからこそ夏之介は、「グラゼニ!」と自らを奮い立たせる。その姿には、やはり三枚目ながら「男」を感じるわけで、「男のドラマ」に長ける高屋敷氏の本領が発揮されている。それを今回も実感できた。

*1:F-エフ-に関する記事一覧: http://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23F-%E3%82%A8%E3%83%95-

*2:選手と選手が見合ってしまい、両者の間にボールが落ちるミス