カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

おにいさまへ…1話脚本:花と雷

アニメ・おにいさまへ…は、池田理代子氏の漫画をアニメ化した作品で、華やかな女学園を舞台に様々な人間模様が描かれる。

監督は出崎統氏で、高屋敷英夫氏はシリーズ構成(金春氏と共同)や脚本を務める。

今回のコンテは出崎統監督で、演出が五月女有作氏、脚本が高屋敷英夫氏。

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当ブログの、おにいさまへ…に関する記事一覧(本記事含む):

http://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E3%81%8A%E3%81%AB%E3%81%84%E3%81%95%E3%81%BE%E3%81%B8%E2%80%A6

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  • 今回の話:

御苑生奈々子(みそのお ななこ)は、「おにいさま」と慕う、とある男性と文通している。
蘭学園高等部に入学した彼女は、様々な人々と出会う。そして学園にはソロリティと呼ばれる社交クラブがあることを知る。

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開幕、花(紫陽花)のアップがあるが、F-エフ-(シリーズ構成・全話脚本)1話開幕も花のアップ。

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また、時系列を原作からかなり変えており、とある人物の回想から始まる(原作では、ヒロインの奈々子が「おにいさま」と文通する経緯から始まる)。時系列を大胆に改変する技は、近年のグラゼニ(シリーズ構成・全話脚本)でも光る。

時は現在になり、奈々子が青蘭学園高等部の入学初日に着ていく服を選ぶ場面になる(私服も認められている)。状況や心情、真実を映すものとしての鏡は、よく出る。ベルサイユのばら(コンテ)、ルパン三世2nd(演出/コンテ)、カイジグラゼニ(脚本)と比較。

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今回、全編を通して桜の描写が印象的だが(奈々子のナレーションでも言及)、高屋敷氏は桜に色々な役割を持たせており、「人生」と重ねる場合がしばしば見られる。
はだしのゲン2・めぞん一刻RIDEBACKマッドハウス版XMEN・チエちゃん奮戦記(脚本)と比較。

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奈々子は、一緒の中学だった友人・智子と登校する。ここの登校シーンはアニメの追加で、二人の仲の良さが表れている。あらゆる作品に、可愛く微笑ましい友情描写がある。DAYS(脚本)、エースをねらえ!(演出)、F-エフ-・グラゼニ(脚本)と比較。原作つき作品でも、改変や追加をしてでも強調される要素。

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奈々子のナレーションで、今の父とは血の繋がりが無い(母の再婚相手)ことが語られる。
回想に出てくる、義父との出会いの場面は夕焼けが映える。情感ある夕焼けの場面は結構ある。
蒼天航路(シリーズ構成)、グラゼニ・F-エフ-・MASTERキートン(脚本)、ど根性ガエル(演出)と比較。

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ラッシュでバスから降りられなくなりそうになった奈々子を、上級生(女子だが男性的風貌)が助けてくれる。ここでは、手と手がクローズアップされる。手と手で心を伝える表現は頻出。宝島(演出)、ワンダービートSルパン三世2nd・ワンナウツ(脚本)と比較。

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クラス分けにて、奈々子は智子と別のクラスに。(ずっと一緒のクラスだったので)二人は残念がるが、この場面はアニメの追加で、やはり友情描写が微笑ましい。F-エフ-・グラゼニ(脚本)、エースをねらえ!(演出)と比較。このうちF-エフ-とグラゼニは、アニメの追加場面である事を確認済み。それくらい友情描写を前面に出す。

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奈々子は、同じクラスのマリ子に、友達になろうと言われる。
彼女の強引さは、カイジ(脚本)にて、会ったばかりのカイジに馴れ馴れしくする船井に通じるものがある。もっとも、船井には悪意があり、マリ子にはそういったものは無いが(少し病的ではある)。

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マリ子は奈々子の手を引っ張る。ここも、手と手のコミュニケーション。宝島(演出)、F-エフ-・グラゼニ陽だまりの樹(脚本)と比較。

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この場面の直後、奈々子と同じクラスではあるが年上(病気のため休学していた)のボーイッシュな女子・薫(通称「薫の君」)が登場する。

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そして講堂にて、生徒会長の一の宮蕗子(いちのみや ふきこ)がソロリティ(学園の社交クラブ)についての説明を行う。ここで太陽が映るが、太陽の意味深描写は、挙げればキリが無い程沢山出てくる。宝島(演出)、太陽の使者鉄人28号・チエちゃん奮戦記(脚本)と比較。

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マリ子は、なんとしてもソロリティに入りたいと奈々子に話す。
ここも、意志の固さを示す、手のアップが出てくる。こういった表現も多い。グラゼニ(脚本)と比較。どちらもアニメオリジナル描写。

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一年生のソロリティ定員は10名。それを話す蕗子が、カイジ(脚本)にて演説する利根川と重なってくる。本作の場合は学園、カイジの場合は船。どちらも閉鎖された空間であり、勝ち組・負け組のようなシステムであるからかもしれない。

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その後、サン・ジュストと呼ばれる人物が音楽室でピアノを弾き、生徒達は沸き立つ。その人物は、バスで奈々子を助けた上級生(朝霞れい)であった。ちなみに原作ではギターを弾く。

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れいは、ギャラリーに向けバラを投げる(アニメオリジナル)。ここも、花の意味深表現。空手バカ一代(演出)、あしたのジョー2・コボちゃん(脚本)と比較。

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下校時刻になると、天気は雷雨となる。奈々子と智子は、喫茶店で雨宿りする(アニメオリジナル)。喫茶店での様々なドラマは、色々な作品で目立つ。エースをねらえ!(演出)、カイジ2期(脚本)と比較。ここは、出崎統監督も高屋敷氏も、エースをねらえ!の経験を使っている感じがする。

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そこへ、れいが通りかかり、二人組の女子が歓声を上げる。優秀モブは、沢山の作品で確認できる。あんみつ姫めぞん一刻グラゼニ(脚本)と比較。

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奈々子は、れいに傘を渡す自分を妄想する。心のこもった物を渡す状況は数多い。
コボちゃんワンダービートS・ミラクルガールズ・めぞん一刻(脚本)と比較。

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傘をささずに歩くれいに向かい、蕗子が車から傘を投げてよこす(アニメオリジナル)。二人が複雑な関係であることがわかる。
ドラマチックな傘の描写は、数々の作品にある。めぞん一刻・F-エフ-・はだしのゲン2(脚本)と比較。

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濡れた路面に、れいの顔が映る。前述の鏡と同じく、ここも状況・心情・真実を映す。グラゼニあんみつ姫・F-エフ-(脚本)と比較。

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れいは多くの薬を常用しており、依存気味になっている。カイジ2期(脚本)では、(地下では)飲み食いしか愉しみが無い故に、ビールや食べ物に依存気味になるシステムが描かれる。もっとも、れいは猛省しないが。

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一方、武彦(奈々子の文通相手)は奈々子からの手紙を読む。手紙を、高屋敷氏は重用する。宝島(演出)、ワンダービートSMASTERキートン・チエちゃん奮戦記・カイジ2期(脚本)と比較。

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また、川に浮かぶ空き缶の描写がF-エフ-(脚本)とシンクロを起こしている。

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自宅に帰った奈々子はシャワーを浴びる(アニメオリジナル)。シャワー演出は出崎統監督が得意としており、高屋敷氏も、時に原作を改変してでもシャワーシーンを入れる。空手バカ一代(演出/コンテ)、カイジ2期・グラゼニ(脚本)と比較。

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奈々子はマニキュアを塗ってみるが、何度もやり直し、ゴミをゴミ箱に投げるが外れる。ここも、物いわぬ物の意味深描写。
陽だまりの樹グラゼニ蒼天航路・F-エフ-(脚本)と比較。

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また、早く大人になりたいが空回りする様子は、宝島の演出にも見られた。

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春の嵐は嫌いではない…と奈々子は綴るのだった(アニメオリジナル)。今回、雷や雨が「活躍」している。
高屋敷氏は、色々な作品にて天候に重要な役割を持たせており、同氏の「お天道様」に対する畏敬の念が窺える。

  • まとめ

顔見せ回だが、詩的で美しい描写の連続。出崎統監督の持ち味が存分に発揮されている。また、長年一緒に仕事した高屋敷氏も、監督と上手く連携しているのが感じられる。

グラゼニ*1(高屋敷氏シリーズ構成・全話脚本)は、アニメオリジナルを追加してでも友情描写を強化しているが、本作でもそれが見られる。同氏の表現する友情は微笑ましく可愛いが、同氏の愛する野球(高校の野球部監督経験あり)の世界の、選手間の信頼関係がルーツかもしれない。

前述したが、原作と時系列が異なっており、まるで原作を一旦バラバラにしてアニメ用に再構築したような感じを受ける。
グラゼニ(シリーズ構成・全話脚本)でも大胆な時系列の改変が見られ、その手腕は目を見張るものがある。

冒頭の回想シーンで、幼少期の奈々子が「あなたは誰?」と連呼するが、この場面を序盤に持ってきたのが気になる。
「自分とは何か」は高屋敷氏が投げる大きなテーマの一つであり、やはり本作も、シリーズ構成において重要なものとして扱われている可能性が高い。

あと、演出作でも脚本作でも、手と手のコミュニケーションや、手を使った感情表現が目を引く。初期作の、ど根性ガエル(演出)からある特徴で、時代を経るにつれ重要度が増す。(絵をいじれない)脚本作でも、これが表れるのが不思議だが、カイジワンナウツのように、シリーズ構成の要に使われる場合もある。

出崎統監督も、高屋敷氏も、アニメ=映像であることを念頭に置き、台詞より視覚情報で訴える特徴がある。家なき子や宝島などでは、出崎統氏は監督、高屋敷氏は演出であったため、高屋敷氏の脚本は、まるで演出が一人増えたような趣がある。

それだけでなく、シリーズ構成・全話脚本のF-エフ-*2で炸裂したような、圧倒的な計算高さも見られる。
テーマやメッセージは熱い一方、同氏のストーリー構成は理路整然としていて、いつも脱帽させられる。第1話からして早くもそれが見られ、これから楽しみである。