カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。ツイッターアカウントは@makimogpfbです。

グラゼニ(2期)15話脚本:「熱さ」への導線

アニメ・グラゼニは、原作:森高夕次氏、作画:アダチケイジ氏の漫画をアニメ化した作品。監督は渡辺歩氏で、高屋敷英夫氏はシリーズ構成・全話脚本を務める。2期は1期最終回12話からの続きで、開始話数は13話。

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  • 本作のあらすじ:

プロ野球投手・凡田夏之介は、年棒にこだわるタイプで、「グラウンドにはゼニが埋まっている(すなわちグラゼニ)」が信条。そんな彼の、悲喜こもごものプロ野球選手生活が描かれる。

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今回のコンテ/演出は又野弘道氏で、脚本が高屋敷英夫氏。

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本記事を含めた、グラゼニに関する記事一覧:

http://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%82%BC%E3%83%8B

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  • 今回の話:

夏之介が属する神宮スパイダース(ヤクルトスワローズがモデル)は、首位争いの真っ只中にいた。大事な試合が続く中、2軍から上がってきた外野手・樹はチグハグなプレーが続き、再び2軍に落とされそうになる。
夏之介は、樹のプロ根性の無さを、彼に面と向かって説く。
どういう風の吹き回しか、その後の樹は打ちまくる。そして、ついにスパイダースは首位に浮上するのだった。
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冒頭、緊張感を盛り立てる、ライトのアップ・間がある。様々な作品にて、意味深なランプの「間」が描写されている。
らんま・はじめの一歩3期・RIDEBACK(脚本)、宝島(演出)、空手バカ一代(演出/コンテ)と比較。

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名古屋ワイルドワンズ(中日ドラゴンズがモデル)をホームに迎えての試合にて、延長12回表に登板した夏之介は関谷(年俸が、夏之介のジャスト10倍の選手)と対決し、見事抑える。

色々な対決(特に6話)を経て、互いに意識し合う関谷と夏之介は、どことなく、あしたのジョー2(脚本)における、丈とライバル達の関係を思わせる。現にアニメでは、関谷の台詞を結構追加しており、二人の熱い関係を引き立たせている。

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勝てば夏之介に勝ち星が付き、チームも2位浮上という局面の12回裏。
2アウト満塁・サヨナラのチャンスでバッターボックスに立った樹(2軍から上がりたての野手)は、見逃せば押し出しサヨナラの球を打ってしまう。
それはヒット性の当たりではあったものの、関谷のファインプレーに阻まれ、試合は引き分けに終わる。

結局、順位は変わらず。同時期に一軍に上がった者として、ついつい樹を観察してしまう夏之介は、このままでは樹が再び二軍に落とされてしまうと分析する。

その後、樹は自宅にて身重の妻を見守る。胎児は逆子で生まれてくる可能性が高く、樹はそれを案ずる。
彼は、「パパの人生はな、お前に出会うためにだけあるんだからな」と、妻のお腹に語りかける。

前回14話に引き続き、人それぞれの事情が強調されている。
前回についての記事でも述べたが、高屋敷氏は、善悪・良い悪い・敵味方…などのラインを明確に引かない特徴がある。
特に蒼天航路のシリーズ構成・脚本にて、それは色濃く描かれていて、曹操が、自分には「割りきれない心の闇」があるのだと主張する所を最終回に持ってきている。

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演出として参加した宝島についても、「人間には色々な側面があり…」と、高屋敷氏はコメントしており(宝島ロマンアルバムより)、人間の複雑さを描きたい同氏の確固たる姿勢が窺える。

そして、首位モップス(巨人がモデル)本拠地での三連戦が始まる。

初戦は、モップスが大量リード(10点)。そんな中、9回表2アウト満塁の場面で代打として出た樹は、走者一掃のタイムリスリーベースヒットを打つ。だが当然、焼け石に水であり、試合は負け。夏之介は、樹のチグハグさに半ば呆れる。

試合後、夏之介は樹と話す。
樹は、自分のチグハグなプレーを自覚してはいるものの、息子が生まれてくるまでは一軍でいたい、と意思表明する。

こんな真剣な顔の樹は初めてだ…と夏之介は驚くも、樹の腹をどついて「お前のそういう所が甘チャンなんだよ」と言い、
子供が生まれた後は二軍に落ちてもいいのか、そんな事は関係なくずっと一軍にいればいいではないか…と説く。

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夏之介は更に続ける。
「家族のために野球をやる?笑わせんなよ。野球は自分のためにやるもんだろ」「上手くなったら喜び、下手糞になったら嘆く。それだけのこったろ」と。

二軍に落とされるというのは、下手だと言われたのと同じで、一軍にいるというのは、その逆。上手いと認められたいのが野球選手の本能であり、そこに家庭の事を絡めるな…と夏之介は樹にピシャリと言う。
このあたりの夏之介の熱さは、カイジ2期(シリーズ構成)にて、カイジが遠藤に熱く語る場面が思い出される(21話。脚本は広田光毅氏)。

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そして夏之介自身は、怪我をするまで一軍の最前線で戦ってきた自負があった。だからこそ、怪我で失われた4ヶ月を、優勝に貢献することで取り戻したい…と主張し、「悪いが、おれはお前とは違う」と樹を突き放す。

言い過ぎてしまったことを謝り、しばらく口をきいてくれなくても構わない、だが己の「甘チャン」を直さなければ二軍に落とされてしまうと樹に警告し、夏之介は去る。

ここは名場面で、夏之介役の落合福嗣氏の名演も光る。
そして(前回から引き続き)夏之介は樹を観察することで、やはり(無意識に)その先の「自分とは何か」を見つめていたことに気付かされる。だから、ここで自分の決意と目標を語る。樹にだけでなく、己自身にも語っているのだ。「自分とは何か」→「自分のなりたい自分になれ」→「自分の道は自分で決めろ」といったメッセージを、高屋敷氏はあらゆる作品で投げるが、本作でもそれが炸裂している。

一方、田辺監督らは、樹を二軍に落とすかどうかで議論する。監督は、ひとまずこのモップス戦が終わるまで判断を保留することにする。

そして対モップス2戦目。9回表、なんと樹が同点ホームランを打つ。
更に、9回からマウンドに上がった夏之介が11回まで投げて無失点で切り抜け、抑えの瀬川が12回を抑えて引き分けの結果に。

ロングリリーフをやり遂げた夏之介は小里ピッチングコーチに褒められる。中高年男性との微笑ましいスキンシップは多い。宝島(演出)、カイジ2期(脚本)と比較。

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モップス3戦目。樹は逆転3ランホームランを打つ。8回裏では夏之介が3人で抑え、9回も瀬川が抑えてスパイダースが勝利し、樹はヒーローインタビューを受ける。
この結果により、首位モップスとの差は1ゲームに。

樹を外せなくなった監督は、彼を広島遠征に連れて行くことにする。
すると樹は4打数3安打の活躍で、初戦勝利の立役者となる。
そしてこの試合、6回裏を抑えた夏之介に勝ち星がつく(シーズン4勝目)。この結果には、彼も驚く。
そしてスパイダースは首位に。

その後も樹は八面六臂の活躍を見せ、スポーツ新聞の紙面を飾るのだった。
(ほぼ原作通りではあるが)新聞記事にインパクトを持たせるのは、高屋敷氏の担当作に多々ある。ワンナウツ(脚本)、エースをねらえ!(演出)、アカギ(脚本)と比較。

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  • まとめ

樹にガツンと言う夏之介が非常に熱い。
夏之介自身は、(生まれてくる息子のために)いつになく野球に真剣になっている樹に驚いているが、視聴者側としては、こんなにも熱いものを持っている男だったのかと、夏之介に驚く。

ここの長台詞自体は、ほぼ原作通りではあるのだが、アニメでは、それまでの話の組み立て(まさにシリーズ構成)によって、かなり原作より熱い雰囲気になっている。表情や声も然り。

野球は「好きで選んだ道」であり、自分にはこれしかないと1期最終回(12話)で自覚した夏之介(この構成はアニメオリジナル)が、その直後(2期序盤)に怪我で4ヶ月も野球できなかったことが語られるわけで、その間、彼がどんな思いでいたかを考えると、1期から見ていた視聴者も胸が痛む構成になっている。

もともと本作は、夏之介が視聴者にストーリーを語るコンセプトになっており、アニメでは更にそれが強め(予告も夏之介のナレーション)。故に、視聴者が感情移入しやすい。

そこへ来て、チグハグな事をする樹の登場である。(年回りは同じだが)何から何まで夏之介と違う彼を見て、夏之介だけでなく視聴者も苛立つ作りになっている。

樹登場回(14話)から続く、この苛立ちが今回、夏之介も視聴者も爆発する。
だからといって、夏之介と樹、どちらが正しいのか、どちらが良い/悪いのかというラインは明確に引けなくなっている。
樹のように、子供のために野球をするのが悪いわけでもないし、自分のために野球をするのだと言う夏之介の気持ちも、(特に1期から見てきた)視聴者には痛いほど伝わってくる。

ここで思い出したいのが、高屋敷氏の「計算力の高さ」だ。上記のように書き出してみると、視聴者側が高屋敷氏にうまく「誘導」されているのがわかる。人間の複雑さや、「自己」にまつわる哲学、男の美学、人間愛…など、同氏の投げかけるテーマやメッセージは非常に熱いが、それを視聴者に感じさせるよう導く組み立てや計算が、とにかく緻密なのだ。これには、本当に脱帽させられる。

1話内でさえ、計算力の高さを感じるのに、F-エフ-*1や本作といった、高屋敷氏が全話脚本を書いているシリーズ構成作ともなれば、同氏の圧倒的な技術を感じることができる。

また、凡田夏之介というキャラクターが、アニメでは非常に「熱い男」として描かれているのだと、今回も感じさせられる。なぜそう感じるのかといえば、高屋敷氏の構成力の高さが窺え、毎度のことながら「やられた」と思うのである。

*1:当ブログの、F-エフ-に関する記事一覧:http://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23F-%E3%82%A8%E3%83%95-