カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

グラゼニ(2期)18話脚本:呼び止めたい背中

アニメ・グラゼニは、原作:森高夕次氏、作画:アダチケイジ氏の漫画をアニメ化した作品。監督は渡辺歩氏で、高屋敷英夫氏はシリーズ構成・全話脚本を務める。
2期は1期最終回12話からの続きで、開始話数は13話。

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  • 本作のあらすじ:

プロ野球投手・凡田夏之介は、年棒にこだわるタイプで、「グラウンドにはゼニが埋まっている(すなわちグラゼニ)」が信条。そんな彼の、悲喜こもごものプロ野球選手生活が描かれる。

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今回は、コンテがボブ白旗氏、演出が吉田俊司氏で、脚本が高屋敷英夫氏。

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本記事を含めた、グラゼニに関する記事一覧:

http://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%82%BC%E3%83%8B

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  • 今回の話:

日本シリーズ期間中、若手やベテラン投手達とトレーニングに励む夏之介。だが一緒にトレーニングしていた若手二人は解雇され、かつて凄腕投手だった是川もトレードされることに。そんな是川を、夏之介は食事に誘い、想い人のユキが働く定食屋に連れて行くが…

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前回に引き続き、秋を示す銀杏並木が映り、そこを夏之介が走っていく(アニメオリジナル)。季節の移ろいを示す「自然」のクローズアップは、高屋敷氏の担当作に数多い。MASTERキートンめぞん一刻(脚本)、家なき子(演出)、チエちゃん奮戦記(脚本)と比較。

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そして、シャワーを浴びる夏之介のシーンがあるが(アニメオリジナル)、長年一緒に仕事した出崎統氏と同じく、シャワーシーンへのこだわりが感じられる。おにいさまへ…カイジ2期(脚本)、空手バカ一代(演出/コンテ)と比較。

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夏之介が服を着て眼鏡をかけるあたりで、四国での(期待の若手や売り出し中の選手のみ連れて行かれる)秋期キャンプに、自分も行きたいという夏之介のモノローグが入る。
ここは、「自分とは何か」という、高屋敷氏がよく打ち出すテーマの一環が少し見える。

また、原作よりモノローグが大分簡潔になっており、「まとめ」も上手い同氏の手腕が光る。

小里ピッチングコーチは、優勝争い中にフル稼働だった夏之介を褒め、四国くんだりまで体をいじめる必要は無いと、東京に残るよう指示する。
夏之介はそれを受けて、自分が一定の評価を貰っていることを実感する。
ここはアニメオリジナルで、1期1話から(追加・改変をしてでも)蓄積された夏之介の「熱さ」が描かれている。また、こちらも「自分とは何か」というテーマに繋がる。

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埼玉県戸田にある2軍練習場にて、夏之介は、凄腕投手だがここ2年は不振の是川や、プロ未勝利の若手投手・関島や庄野と班を組んでトレーニングに励む。

だが、関島と庄野は立て続けに解雇され、夏之介は是川と二人きりになってしまう。
そして是川は、次は自分ではないかと恐れる。

このあたりは、カイジ(シリーズ構成/脚本)の鉄骨渡りの犠牲者や、宝島(演出)で、夢半ばで死んでいく男達に、不思議と重なるものがある。

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ある晩是川は、トレードで神戸オックス(オリックスバファローズがモデル)に行くことが決まったことを夏之介に告げる。
ひとまず解雇や自由契約ではなかったことを、是川本人と夏之介は喜び、一緒に食事に行くことにする。

夏之介は、想い人・ユキが働く定食屋・キッチン味平に是川を連れて入るが、店内は大阪テンプターズ(阪神がモデル)対所沢ジャガーズ(西武がモデル)で行われている日本シリーズ終戦の観戦で盛り上がっていた。

戸惑いながらも夏之介達は食事し、生ビールを注文する。ビールテロは高屋敷氏の定番の特徴。現に、原作よりじっくり描写している。カイジ2期・MASTERキートンめぞん一刻(脚本)と比較。

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テンプターズファンのユキは、当然ながらテンプターズを応援。それを見つつ夏之介は、自分のフォアボールのおかげでテンプターズがクライマックスファイナルステージを制したこと(前回参照)を回想(味方打線が沈黙したのも原因だが)。

そんな自分を、ユキは未だにプロ野球投手と認識しない。(1期)12話でも描かれたが、「ユキに(プロ野球投手として)認識されない自分」もまた、「自分とは何か」の現実の一つ。

一方是川は、生ビールをもう一杯注文し、(神戸出身なので)子供の頃からテンプターズファンだと言う。
そしてユキに気軽に話しかける。
夏之介は、ここ1年、注文でしかユキと会話していない自分と比べてショックを受ける。これもまた、他人を通して「自分」を見つめる機会となっている。

ユキと是川は、テンプターズや、テンプターズのホーム・甲子園の話で盛り上がる。話の中で、甲子園名物・イカの丸焼きが出てくるが、非常に美味しそうである。原作通りだが、とにかく美味しそうな食べ物は高屋敷氏の担当作に付き物。関西つながりで、チエちゃん奮戦記(脚本)と比較。

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また、ここでもビールテロが炸裂。

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是川は、昔の甲子園の雑多な感じが好きだったと述懐。めぞん一刻(脚本・最終シリーズ構成)の一刻館や、はだしのゲン2(脚本)の原爆ドームなど、「生き物のような建物」を、高屋敷氏はよく「登場」させる。

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是川は更に、ピッチャーの目線で見た甲子園の話をし始め、夏之介に話を振る。
ユキは驚き、甲子園で投げたことがあるのかと、夏之介に尋ねる。彼は咄嗟に否定するも、初めて注文以外で彼女と口をきいたことに、内心驚く。
ここもまた、「プロ野球投手としての自分」と「ユキにとっての自分」が交錯する。

そんな中、テンプターズは3ランホームランを打たれ窮地に。
何故か是川は目に涙を貯めはじめ、それを見たユキと夏之介は驚く。
是川は、ユキが可愛いからテンプターズの話をしたが、もっと好きな球団があると告げる。
―それは、神宮スパイダース(夏之介達の所属する球団。ヤクルトスワローズがモデル)。

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是川はユキに一万円札を渡し、釣りはいらないと言う。
(自分が払うつもりだったので)夏之介は驚く。そんな彼をよそに是川は、ユキのハートは頂いたと店じゅうに宣言、その隙に夏之介の手を掴んで店を出る。
手と手のコミュニケーションは、非常に多く出てくる。おにいさまへ…陽だまりの樹めぞん一刻(脚本)と比較。

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是川は、夏之介がユキ目当てで店を選んだことを見抜いており、だから意地悪してやった…と言う。
そして「憎たらしいよ。神宮スパイダースに残れるお前がな」とこぼす。
夏之介に背中を向けてこの台詞を言う所が原作と異なっており、より哀愁が漂う。

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是川は、ユキと話しているうち、スパイダースのことが本当に好きだったことに気付き、トレードが悲しくなってきたと夏之介に話す。

だが、ユキが自分をプロ野球選手と気付かなかったことで、自分はこのままじゃダメだと痛感したと是川は続け、その意味では夏之介もまだまだだと指摘。夏之介は痛い所を突かれる。
このあたりもズバリ、「自分とは何か」という高屋敷氏のテーマとマッチする。

携帯のニュース通知で、大阪テンプターズが逆転し、日本一に輝いたことを知った是川は、ユキが喜んでいるだろうと夏之介に告げ、神戸の地から、恋が実ることを祈っている…と歩き出す。

その背中を見つめ、こみ上げるものがあった夏之介は是川を呼び止め、もう一件飲みに行こう…と笑顔を見せる。

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去る是川を見る夏之介の「間」、呼び止めるイントネーション、そして笑顔は、アニメでの追加要素。

高屋敷氏のポリシーの一つに「孤独救済」があるが、それがよく現れている。また、不思議なことだが、同氏担当作は、キャラクターの「いい笑顔」が印象に残る。陽だまりの樹蒼天航路カイジ2期・あしたのジョー2(脚本)、宝島(演出)と比較。

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そして夏之介のナレーション(原作では客観的ナレーション)により、翌年是川は1試合も登板せず、引退したことが語られるのだった…。

  • まとめ

17話と同じく、ラストパートで泣かせに来る構成が見事。また、ちょっとした改変・追加で感動をブーストさせる手腕が相変わらず凄まじい。

また、再三述べているが、高屋敷氏の大きなテーマの一つ「自分とは何か」が直球で出ている事にも注目したい。1期最終回の12話や、(2期の)14話でもそうだったが、この定食屋・キッチン味平は、「一般の人々にとって、凡田夏之介とは何か」を測るバロメーターになっている。

つまり、好きな人を含めた多くの人に、自分の存在を認められることも、(年俸アップの他に)夏之介の目標となっている。
12話(1期最終回)ラストで、自分には野球しかない、(プロ野球は)厳しくても好きで選んだ道だと悟った夏之介の姿を見た後なので、彼の奮起や、内に秘めた情熱が、より一層感じられる。

141516話で、夏之介は樹を通して自分を見つめていたことが描かれたが、今回もまた、是川がズバリと、ユキにプロ野球選手だと認識されない自分達を語る。

そして是川もまた、夏之介と同じように、チームや野球を愛する情熱があった。だから夏之介もシンパシーを感じ、去っていく是川を呼び止める。

そうなるとやはり、夏之介が笑顔を見せる追加シーンは、「一人じゃないよ」という、高屋敷氏の「孤独救済」ポリシーも絡んでいると思える。

あと、是川が引退してしまうことが夏之介のナレーションで語られるのが、ラストのほろ苦さを倍増させている。シリーズを通して言える事だが、ナレーションを夏之介にしたのは非常に大きな(良い方向の)改変だと思う。ナレーションに大きなウェイトを置くのは高屋敷氏の特徴の一つであるが、本作でも、その本領が発揮されている。

話を夏之介の「笑顔」に戻すが、多くの作品で、高屋敷氏は「孤独は万病のもと」であると主張している。その対処として、「笑顔は万能薬」と捉えているのではないだろうか…と最近思い始めている。一人ではなく、仲間や家族の笑顔があるのが大事であることも、同氏が「食」にこだわるのも、突き詰めれば「生きる」ための要素なのかもしれない。

高屋敷氏と長年一緒に仕事した出崎統氏は、「死」に関する独特の観点を持っていた。それに対し高屋敷氏は、「生」を突き詰めていると思え、やはり興味深い。また、そういった(数十年に及ぶ)積み重ねの上に本作が成り立っているのも感慨深い。