カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

グラゼニ(2期)19話脚本:「人生」の暗喩たる並木道

アニメ・グラゼニは、原作:森高夕次氏、作画:アダチケイジ氏の漫画をアニメ化した作品。監督は渡辺歩氏で、高屋敷英夫氏はシリーズ構成・全話脚本を務める。
2期は1期最終回12話からの続きで、開始話数は13話。

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  • 本作のあらすじ:

プロ野球投手・凡田夏之介は、年棒にこだわるタイプで、「グラウンドにはゼニが埋まっている(すなわちグラゼニ)」が信条。そんな彼の、悲喜こもごものプロ野球選手生活が描かれる。

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今回は、コンテが齋藤徳明氏、演出が門田英彦氏で、脚本が高屋敷英夫氏。

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本記事を含めた、グラゼニに関する記事一覧:
http://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%82%BC%E3%83%8B

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  • 今回の話:

夏之介属する神宮スパイダース(ヤクルトがモデル)の控え捕手・東光(1期7話初登場)が戦力外に。球団は彼をフロントに迎える意向だったが、当人はトライアウトを受けることにする。東光の親友でスポーツ記者の北村は、そんな彼を案じながらも見守る。
一方、スパイダース監督・田辺がかつて目をかけた、札幌パープルシャドウズ(日本ハムファイターズがモデル)の投手・西河内が自由契約となり、こちらもトライアウトを受けることに。
様々な思いが交錯する中、トライアウトが始まる。

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開幕、夏之介の部屋の絵が映るが、絵のアップは高屋敷氏の担当作にしばしば見られる。エースをねらえ!(演出)、カイジ2期(脚本)と比較。

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控え捕手・東光(1期7話初登場)が戦力外となり、球団からフロント入りを打診されていると渋谷(夏之介の友人で、先発ローテ投手)から電話で聞いた夏之介は、まだ彼は現役でやれそうだが、フロント入りするならするで、いい話なのではないか…と思う。

当の東光は、大学野球部の同期で親友の北村(1期7話初登場。スポーツ記者)と飲んでおり、フロント入りを辞退してトライアウト(自由契約選手のための、12球団合同のテスト)を受けることにしたと語る。

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北村はその決断に呆れるが、東光は、今年の自分のデータ(7話ではサイクルヒットも決め、最終的に1軍登録1ヶ月間で打率3割)を考えると現役を続けられる身体だと判断。

東光がそれを話している場面で、お猪口のアップがある。物の意味深なアップ・間は多い。F-エフ-・めぞん一刻ワンナウツ(脚本)と比較。

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現実主義の北村は、トライアウトは形骸化されているし、若い選手が優先される(東光は32歳)と忠告するが、それがわかっている上でやる…と東光の決意は固い。

一方、神宮スパイダース(夏之介が所属するチーム。ヤクルトがモデル)監督の田辺は、札幌パープルシャドウズ(日本ハムファイターズがモデル)の115勝左腕投手・西河内(38歳)が自由契約になった報を受け、彼を獲得したいと言い出す。もともと西河内は、田辺が神戸オックス(オリックスバファローズがモデル)の監督だった頃に手塩にかけた投手だったからだ。

だがしかし、現在スパイダースは米国人左腕投手と交渉中であるため、タイミングの問題となる(米国人投手との交渉がまとまったら、西河内の話はご破算)。

その頃西河内は、自分はまだまだやれると妻に話し、妻もそれを応援。

その一方で、東光はバッティング練習に励む。
話しかけてきた夏之介に、東光は「一軍のボール」を久しく見ていないから…と、投球を頼む。

夏之介は「一軍のボール」という言葉に反応する。「自分とは何か」は高屋敷氏の投げる大きなテーマの一つだが、ここは「他者から見た自分」を夏之介が知る場面として強調されている。

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夏之介の投球を体感した東光は、「さすが一軍」と言い、もっと投げるよう頼む。

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その様子を、北村が密かに見守る。

スパイダースと米国人投手の交渉が難航する中、西河内は(神宮球場で行われる)1回目のトライアウトに向け、札幌から東京に向け出発する。

現実的には、自分を取ってくれる所は無いことは承知している…と、彼は窓を見つめる。真実を映す鏡演出は多い。めぞん一刻(脚本)、カイジ(シリーズ構成)、カイジ2期(脚本)と比較。いずれも真実/現実を見ることができている。

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その夜田辺は、米国人投手との交渉が長引いていることに苛立ち、1回目のトライアウト中に交渉がまとまらなければ、西河内に決めると宣言する。

西河内は西河内で、恩師である田辺の前でアピールするしかないと考えていた。
ここでグローブを握る動きがあるのだが、「手が語る」場面は多い。F-エフ-・蒼天航路(脚本)と比較。

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そしてトライアウト1回目の日を迎える。シートバッティングにて、マウンドには西河内が、バッターボックスには東光が立つ。

スタンドでは夏之介が、「東光さん…あなたなら西河内さんのボールはきっと打てるっすよ!あれだけやったんすから!」と見守る。原作よりイントネーションが熱い上、「あれだけやったんすから!」はアニメオリジナル。やはりアニメでは、(1期1話からずっと)彼の「熱さ」を前面に出している。

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田辺は西河内を見ながら、ルーキー時代の彼は、身体も球もヒョロヒョロだった…と述懐する。ただしコントロールは抜群だったので、身体を作らせ、より速く投げられるフォームを考え、大事に育てたからこそ、115勝もする投手に成長したのだと語る。

田辺の回想の中で、夕暮れの中の練習風景が映るが、情感ある夕暮れは色々な作品で描写される。宝島(演出)、アカギ・蒼天航路(脚本)と比較。

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ここで東光のバットが西河内の球を当てるがファールとなり、ファールボールが田辺や北村の方に飛ぶ。ファールボールが、この二人の方に飛ぶのはアニメオリジナルで、F-エフ-(脚本)にて、飛ぶボールに合わせてキャラクターが次々映る場面(アニメオリジナル)が思い出される。

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田辺は、チーム事情で一軍と二軍を行ったり来たりする東光は、不遇ではあるがチームを俯瞰で見られる力があるので、フロント入りさせたい球団の意向もわかるし、現場にいて、チャンスさえあればまだまだやれると感じる東光の気持ちもわかると話す。

小里(スパイダースのピッチングコーチ)は、東光の同期で、大学ではずっと二軍だったが、今やスポーツ紙のエース記者である北村の話をし、迫田(スパイダースのブルペンコーチ)は、学生時代は二軍だったぐらいの方が、社会に出たら使い物になるという典型が北村…と相槌を打つ。
田辺は、今度は東光がそういう目で見られるとは…と口にする。

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その北村は、「ここまで来たら打ってみろ」と東光を見つめていた。

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マウンドでは西河内が、傾いた実家の工場の援助や、高級マンションの購入(今年でローン完済)で貯えが殆ど無い上、今年の年俸1億5千万円にかかる税金が来年重くのしかかることを考えると、何としてもプロを継続したい…と思いを巡らせていた。

ここまで、ありとあらゆるキャラクターの事情や思いが描写され、その密度の濃さに圧倒される。
「人間には色々な側面がある」ことを描きたいというポリシーが高屋敷氏にはあるわけだが(演出参加した「宝島」のロマンアルバムより)、その熱い意向が感じられる。
また、この密度を1話内に収める脚本技術も見事(原作は2話構成)。

次はカーブが来るという読みが当たり、東光は打つ…が、当たりは大きかったもののセンターフライとなる(犠打にはなってランナーを進めることはできた)。

その日、東光は4打席ノーヒット、西河内は打者5人をノーヒットに抑え無失点。
西河内は手応えを感じ、東光は、福岡で行われる2回目のトライアウトに賭けることにする。

そこへ、米国人投手との交渉がまとまったという一報が、田辺の携帯に入る。これにて西河内のスパイダース入りの話はなくなった。
「諦めるしかない。そういう約束や…」と田辺は球場を後にする。背中を見せるのはアニメオリジナルで、哀愁が増している。

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そしてトライアウト2回目。東光は4打席4安打の大爆発、西河内は1回目に引き続き快投を見せる。
だが、この二人を獲得したいという球団は現れなかった。

札幌に戻った西河内も、神宮外苑の銀杏並木を夏之介と歩く東光も、職探しを決意する。そんな折、東光の携帯に、台湾の球団が交渉したいと言っているという連絡が入る。
ここで注目したいのは並木道。家なき子(演出)、蒼天航路めぞん一刻・F-エフ-・はだしのゲン2(脚本)と比較。

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以前から、高屋敷氏が出す並木道は「人生」の暗喩ではないだろうか…とうっすら思っていたのだが、これだけ色々な作品で印象深いあたり、その可能性は高そうだ。

西河内にも同じく、台湾の球団から連絡が入る。
こうして、西河内も東光も、台湾に単身赴任となる。

「それは、とにもかくにも、この二人がトライアウトで活躍したからだった」という夏之介のナレーションと共にボールが映る。「物」の意味深アップは頻出。
おにいさまへ…めぞん一刻・F-エフ-(脚本)と比較。

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お祝いにと、夏之介と渋谷は東光と飲む。「現役にこだわってよかった!」という東光の言葉と共に、居酒屋のお品書きが映る(アニメオリジナル)。

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これは、人生を選んだということではないだろうか。「自分の道は自分で決めろ」は、高屋敷氏のテーマの一つ。

夏之介と渋谷は東光を祝福し、東光は二人に礼を言う(アニメでは会話に追加・改変が見られる)。
3人は乾杯。ランプが映るが(アニメオリジナル)、ランプ演出は高屋敷氏の担当作に非常に多い。空手バカ一代(演出/コンテ)、カイジ2期・カイジ・アカギ(脚本)と比較。

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また、ビールテロも定番。MASTERキートンカイジ2期(脚本)と比較。

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海外から声がかかったのは、東光と西河内のみ。やはりトライアウトは厳しいことが夏之介のナレーションで語られる。

台湾に向かう飛行機を見つめながら、北村は「頑張れよ」と東光にエールを送るのだった。

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  • まとめ

人間の複雑さを描いてきた高屋敷氏の腕が、存分に振るわれている。息もつかせぬ密度で、多くのキャラクターの心情・事情が出てきており、それを上手く見せている。

17話のラジオスタジオ、18話の定食屋に続き、今回も舞台が然程動かないのに、緊張感が持続する構成も見事。

カイジ2期(シリーズ構成・脚本)の「沼」編では、パチンコ台「沼」にカイジが座ったままでも緊張・緊迫感が半端無い構成になっていたのが思い出されるほか、アカギ(同じくシリーズ構成・脚本)でも、麻雀卓を囲む場面が殆どなのに、圧倒的スペクタクルを感じさせていたことも彷彿とさせる。

原作もアニメも、プロ野球世界のシビアさを描いているわけだが、アニメは、その中でも光る「熱さ」や「友情」といったものを前面に出しているのが、今回も窺える。
それらの蓄積の結果、アニメでは夏之介が「あれだけやったんすから」と東光を思い、東光は「現役にこだわってよかった」と口にする。
そういう事を思える/言えるキャラクターとして、アニメの中で丁寧に「育てた」と言える。

高屋敷氏は、自身の主張をかなり作品に反映させる方だが、その手段は練りに練られており、一人よがりなものや、唐突なものでは決して無いのがまた、同氏の技術力の高さが感じられて良い。

あと、複数のエピソードを捌いて最後に合流させるという、じゃりン子チエ(脚本)で磨かれた技術が遺憾なく発揮されている。ざっと書き出してみても、

  • 東光
  • 西河内
  • 田辺
  • 北村
  • 夏之介
  • 渋谷
  • 迫田
  • 小里

と、多くのキャラクターの心情やエピソードを捌かなくてはならないわけだが、それが見事に出来ていて、1話内に収まっているのが凄まじい。

そういった技術力に加え、テーマの根底にある熱さ/温かさにも目を向けたい。今回の場合も、友情や人生、情熱がクローズアップされており、高屋敷氏の強い意志が感じられる。

特に、人生の暗喩たる「並木道」の強調は収穫で、高屋敷氏の担当作を見る上で、今後も頭に入れておきたい。

並木道にしろ、終盤のお品書きにしろ、東光は(あらゆる選択肢の中から)「自分で自分の道を決めた」ことが表されている。

その場に居合わせた夏之介もまた、自分で自分の道を決めてきた男であるが、彼はこれからも、人生の重大な決断をしなければならないだろう。そう思うと今回は、夏之介にとっても大事な話だったのではないだろうか。これからも、シリーズ全体(1期含む)を通した観点も忘れずに見て行きたい。