おにいさまへ…22話脚本:キャラクターを掘り下げる熱意
アニメ・おにいさまへ…は、池田理代子氏の漫画をアニメ化した作品で、華やかな女学園を舞台に様々な人間模様が描かれる。
監督は出崎統氏で、高屋敷英夫氏はシリーズ構成(金春氏と共同)や脚本を務める。
今回のコンテは出崎統監督で、演出が松見真一氏。そして脚本が高屋敷英夫氏。
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- 今回の話:
アニメオリジナルエピソード。蕗子(社交クラブ・ソロリティの会長)の誕生日パーティーの準備を手伝って欲しいとして、ソロリティメンバーの奈々子とマリ子(奈々子の級友)は蕗子の別荘に呼ばれる。
そこで奈々子は、蕗子の謎めいた面を目撃するのだった。
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蕗子(学園の社交クラブ・ソロリティの会長)は、自身の誕生日パーティーの準備を手伝って欲しいと、ソロリティメンバーである奈々子とマリ子(奈々子の級友)を別荘に誘う。
花が映るが、意味深な花の描写はよくある。めぞん一刻・F-エフ-(脚本)と比較。
智子(奈々子の幼馴染)と遊びに行く予定があったのに、マリ子は蕗子の誘いを二つ返事でOKしてしまい、奈々子は閉口する。ここのやり取りは幼く、子供っぽい友情描写に長ける高屋敷氏らしさが出ている。
ど根性ガエル(演出)、陽だまりの樹(脚本)と比較。
奈々子は智子に電話し、約束が流れてしまったことを詫びる。智子は怒り、「(遊びに行く準備を)あたしゃ一心不乱にやっとったんじゃー」と嘆く。どことなく口調がはだしのゲン的で、はだしのゲン2の脚本経験が生きている感じがする。
そして智子は、お土産次第で許すと奈々子に言う。
蕗子の別荘に行く道中でも、奈々子の機嫌は直らず、マリ子は彼女をなだめる。このあたりも、コミカルで幼いやりとりが得意な高屋敷氏の腕が振るわれている。グラゼニ・F-エフ-(脚本)と比較。
また、ここまでで時系列が色々凝っている。器用な時系列操作も、高屋敷氏の特徴。
別荘にて蕗子は、自分の特別な部屋の鍵を持ってくるよう、メイドの峰子(オリジナルキャラクター)に命じる。
高屋敷氏はモブに個性を持たせる。あんみつ姫(脚本)でも、モブが目立っていた。
また、「峰子」という名前は、脚本や演出で参加したルパン三世(2・3期)の「峰不二子」のもじりではないだろうか。
特別な部屋に入った蕗子は、自分の世界に浸る。「物」の意味深アップ・間が続くが、こういった描写も多くの作品で見られる。F-エフ-・グラゼニ(脚本)と比較。
蕗子の後ろ姿を、鏡が映す。真実や現実を映すものとして、鏡描写は頻出。あしたのジョー2(脚本)、ベルサイユのばら(コンテ)、めぞん一刻(脚本)と比較。どれも鏡に映った真実/現実が見えていない状態。
蕗子の誕生日パーティーの招待状を大量に(約300通)書くことになった奈々子とマリ子は四苦八苦。
奈々子は、気晴らしに散歩しようとマリ子を誘うが、疲労困憊のマリ子は乗らず。ここのやりとりも幼い。陽だまりの樹(脚本)、ルパン三世2nd(演出/コンテ)と比較。
一人で散策する奈々子は、自然を満喫する。役割を持たされた「自然」が「活躍」する描写は多い。めぞん一刻・カイジ2期(脚本)と比較。
滝もよく出る(出崎統監督も好む)。空手バカ一代・エースをねらえ!(演出)、忍者マン一平(監督)、宝島(演出)、カイジ2期(シリーズ構成)と比較。
奈々子は、森の中で一人バイオリンを弾く蕗子を目撃。まるで苦しい恋をしているような音色だと、奈々子は思う。
風が吹き、木葉が舞う。こういった描写も数々の作品で見られる。めぞん一刻・グラゼニ(脚本)、ベルサイユのばら(コンテ)と比較。
夜、街灯に虫が集まる。ランプ演出は、実に高屋敷氏の担当作に多い。空手バカ一代(演出)、ワンナウツ・アカギ(脚本)と比較。
眠れなくなった奈々子は、一人トランプをする。カードゲームは、色々な作品で出る。ベルサイユのばら(コンテ)、ワンダービートS・忍者戦士飛影・カイジ(脚本)と比較。アニメオリジナルも多いので、基本的に好きなのかもしれない。
一方蕗子はプールで泳ぎ、物思いにふける。ルパン三世2nd(演出/コンテ)や、あしたのジョー2(脚本)のプール描写が思い出される。また、出崎統監督もプール描写が得意。
水音に気付いた奈々子は、濡れた足跡を追ってみる。すると、「特別な部屋」で哀しげに詩を朗読する蕗子の声を耳にする。
蕗子は、幼い頃の恋を思い出していた。意味深なパラソル描写があるが、これも「物」の「活躍」。チエちゃん奮戦記・めぞん一刻(脚本)と比較。
その後、奈々子が蕗子の「特別な部屋」を覗いたことを、蕗子は察する。
翌日、ソロリティの上級生メンバーはバドミントンを楽しむ。
F-エフ-(脚本)では、アニメオリジナルでキャッチボールをする場面があり、高屋敷氏は体を動かす事が好きなことが窺える(元野球部)。
奈々子は峰子に、蕗子の特別な部屋について聞いてみるが、それを見かけた蕗子は怒り、峰子をクビにする。
奈々子は峰子に謝るが、峰子は、もともと辞めるつもりだったと話す。
ここも、モブを目立たせる高屋敷氏の特徴が出ている。グラゼニ・めぞん一刻・らんま(脚本)と比較。
峰子は、蕗子の特別な部屋は、何もかも蕗子が12歳の時のままにしてあるのだと奈々子に教える。
峰子を見送った後、湖畔に佇む奈々子は、ボートに乗る蕗子を見かける。
出崎統監督も高屋敷氏も、船を好む。あしたのジョー2(脚本)、宝島(演出)、ルパン三世2nd(演出/コンテ)と比較。
蕗子は、この湖が大好きなのだと奈々子に告げ、いきなり湖に飛び込む。
パラソルが舞うが、ここも「物」の意味深描写。F-エフ-・グラゼニ(脚本)と比較。
蕗子は奈々子を湖の中へと誘い、彼女の足を引っ張る。「手」が語る表現も、よく出る。ど根性ガエル・宝島(演出)、F-エフ-(脚本)と比較。
木の枝が足にかかって溺れた奈々子を、蕗子は時間を置いて助け、謝るのだった。
帰路、マリ子から、残ってしまった招待状書きを手伝って欲しいと頼まれた奈々子は、それを断固拒否。ここも、子供っぽい友情描写。宝島(演出)、チエちゃん奮戦記・めぞん一刻(脚本)、エースをねらえ!(演出)と比較。
奈々子は、蕗子にまつわる謎めいた出来事は、誰にも話せない…と月を見ながら思うのだった。
全てを見ているような月は、実に多く登場。
蒼天航路・あしたのジョー2(脚本)、宝島(演出)、MASTERキートン・はじめの一歩(脚本)と比較。
- まとめ
アニメオリジナルで、蕗子の掘り下げを開始した回。22~24話は、シリーズ構成(金春氏と共同)の高屋敷氏による「蕗子三部作」とも呼べる直接脚本で、同氏の熱意が感じられる。
この「蕗子三部作」では、原作であまり詳細が語られなかった、蕗子の初恋について真正面から取り組んでいる。アニメオリジナル回の数々がシリーズの根底に関わっているのは、F-エフ-(シリーズ構成/全話脚本)のシリーズ構成を思わせる*1。
完全オリジナルエピソードのためか、奈々子・マリ子コンビの子供っぽいやりとりが多い。高屋敷氏は、老若男女問わず、まるで男の子同士のような友情を描写するが、その腕が存分に発揮されている。
あと、高屋敷氏は「物」に重要な役割を与えるが、「あらゆる物が12歳時のままになっている部屋」という設定が、なんとも同氏らしい。
また、森の中で奏でられるバイオリンという状況も、相変わらずの「自然」の「活躍」が見られ面白い。
そして、モブ(峰子)の活躍が印象的。こういったモブの究極の形として、カイジ2期最終回(脚本)の「やさしいおじさん」があるのかもしれない。
ちなみに、原作で名前の無いキャラにも名前を与える程、高屋敷氏のモブへの愛情は厚い。
22~24話を見ると、「蕗子にはこんな一面があったのか」と驚嘆する仕組みになっており、原作を読んでいても全く先が読めない楽しみが出てくる。ここも、F-エフ-のシリーズ構成と共通する。
近年は原作に忠実な脚本が多い高屋敷氏だが、(本作含め)原作クラッシャーな出崎統氏と長年仕事しただけあり、改変するとなると大胆で驚く。
グラゼニのシリーズ構成*2では、大胆な改変を行う場合と、原作に忠実な場合があり、上手く使い分けている。
原作に忠実な場合にしろ、大改変を行う場合にしろ、原作に対する愛情というか、原作の魅力を十二分に引き出そうという熱意が感じられる。かつ、そのための技術が凄まじい。今回は、そういった「熱意」と「技術」が炸裂している回だった。