カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。ツイッターアカウントは@makimogpfbです。

グラゼニ(2期)20話脚本:「プロ」の人達

アニメ・グラゼニは、原作:森高夕次氏、作画:アダチケイジ氏の漫画をアニメ化した作品。監督は渡辺歩氏で、高屋敷英夫氏はシリーズ構成・全話脚本を務める。
2期は1期最終回12話からの続きで、開始話数は13話。

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  • 本作のあらすじ:

プロ野球投手・凡田夏之介は、年棒にこだわるタイプで、「グラウンドにはゼニが埋まっている(すなわちグラゼニ)」が信条。そんな彼の、悲喜こもごものプロ野球選手生活が描かれる。

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今回は、コンテが藤原良二氏、演出が渡辺正彦・又野弘道氏で、脚本が高屋敷英夫氏。

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本記事を含めた、グラゼニに関する記事一覧:

http://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%82%BC%E3%83%8B

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  • 今回の話:

定食屋・キッチン味平で働くユキ(夏之介の想い人)は、店の常連客3人に誘われてアイススケートに行き、ついでに神宮スパイダース(夏之介が所属するチーム。ヤクルトスワローズがモデル)のファン感謝祭に寄る。そのイベントにて、渋谷(夏之介の友達で、先発ローテ投手)と共にコスプレして客席に入った夏之介は、偶然ユキ達の隣に座り…

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キッチン味平(夏之介お気に入りの定食屋)の常連客である若いサラリーマン3人組は、以前(1期12話)、ユキを誘って神宮で野球観戦をしたことがある(夏之介はその試合に登板)。
彼らは、再びユキを誘いたい…と話し合う。ビールを飲んでいるのが原作より少し強調されている。ビールテロは高屋敷氏の担当作に多い。めぞん一刻カイジ2期・ミラクルガールズ(脚本)と比較。

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彼らがユキをアイススケートに誘ってみると、彼女は快諾。
言ってみるもんだ、と彼らは喜ぶ。奇跡的な偶然だが、らんま(脚本)の1シーンとシンクロを起こしている。

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どちらもモブが生き生きしており、この面では偶然ではなく、高屋敷氏の特徴。らんまの方は、わざわざアニメオリジナルでモブの会話を沢山追加している。

約束の日、ユキとサラリーマン3人組はアイススケートを楽しむ…が、ユキだけが滑れて、3人組は全く滑れず恥をかいてしまう。

なんという巡り合わせか、高屋敷氏は、ど根性ガエルアイススケート回を演出しており、今回とシンクロを起こしている。女性側が滑れて、男性側が滑れない状況も同じ。

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かたや演出、かたや脚本で、このように画が重なってくるのが毎度不思議だが、奇跡で片付けずに考えると、状況が共通しており、脚本の場合、どういった映像になるかを、高屋敷氏がきっちり思い描いて書いているからだと思う。

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その後ユキは、近くの神宮球場で行われている、神宮スパイダース(夏之介が所属するチーム。ヤクルトスワローズがモデル)のファン感謝祭に興味を持ち、寄ってみることに。

ユキは以前、神宮で行われたクライマックスシリーズ終戦を友達と見に行っており、その興奮が甦る…とサラリーマン3人組に語る。

球場内では、指定エリアの客席に選手が紛れ込んで隠れんぼするイベントをやっており、夏之介と渋谷(夏之介の友達で、先発ローテ投手)はコスプレをして客席に紛れ込むことに(ちなみに原作では妖怪人間ベムのコスプレだが、アニメでは古代エジプト風衣装に変更されている)。

夏之介達が座った席は、偶然にもユキの隣だった。

ユキは、夏之介が出してしまった押し出しフォアボールのおかげで、ユキの推しである大阪テンプターズ(阪神タイガースがモデル)がクライマックスシリーズに勝利したことを覚えており、そういった意味で夏之介に感謝していた。

ユキは夏之介に握手を求めるが、ユキの直隣にいる渋谷が勘違いして応対。夏之介は内心動揺する。
手と手のコミュニケーションは頻出。おにいさまへ…(脚本)、宝島(演出)、MASTERキートン(脚本)と比較。

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しばらくして、ユキは夏之介にあらためて握手を求め、夏之介は舞い上がる。一方ユキは、(球場以外の)どこかで夏之介を見たような気がする…と思う。
ここも、手と手のコミュニケーション。恋愛表現としても、よく強調される。F-エフ-・ワンダービートS(脚本)と比較。

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ユキは、テンプターズファンであることをぶっちゃけ、クライマックスシリーズで押し出しフォアボールをしてしまった投手である夏之介に感謝している…と天然で言ってしまう。

これには流石に夏之介と渋谷は「しらー…」とした気分になり、サラリーマン3人組はユキをたしなめる。

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ユキは自分の失言に気が付いて平謝りし、夏之介は「いいんですよ」と取りなす。

渋谷は、凄く可愛い子の隣に座った、と夏之介に耳打ちする。
原作通りだが、男の(どこか幼い)友情を、高屋敷氏は数々の作品でクローズアップする。ど根性ガエル(演出)、F-エフ-・陽だまりの樹(脚本)と比較。

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ユキを口説きたいと渋谷は言い出し、積極的にユキに話しかける。
渋谷の女性遍歴をよく知る夏之介は焦り、結婚ともなれば、渋谷より年俸の低い自分は弱い…と気に病む。

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ここも原作通りだが、高屋敷氏的テーマ「自分とは何か」によくマッチしている。

そんな折、渋谷と夏之介は探し役の選手に見つかり、グラウンドに戻ることに。

夏之介は渋谷に、ユキと何を話していたのか問い詰める。
渋谷は、何にもコナかけられなかったし、世間話をしただけだと答える。
そして、今年の成績を振り返ると、今は自分に自信が持てないと言う(防御率は良いものの3勝4敗、勝ち星に恵まれなかった)。

そこへ行くと夏之介は、怪我はしたものの優勝争いに貢献したのだから、給料は上がるだろう…と渋谷は続ける。
ここは高屋敷氏的テーマ「自分とは何か」に連なる重要ポイントで、「渋谷から見た今シーズンの夏之介」というものが出ている。

来年の自分は正念場だから、女どころじゃないかも…と渋谷は言い、「頑張るぞ」と奮起する。

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そんな彼を見て夏之介は微笑み、「そうだ章(あきら)、グラゼニだよグラゼニ!グラウンドには銭が埋まっている!」と内心思う(原作では「ア…アキラ…」「グ…グラゼニ…」と思う)。

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ここは、アニメで(オリジナルを交えてでも)積み上げた夏之介の「熱さ」が出ている良改変。また、微笑むのもアニメオリジナルで、自分と同じく野球に情熱がある人を見ると、自然に笑みがこぼれるようなキャラクターに、アニメではなっているのではないだろうか。

それはそれとして、ユキが恵比寿の「キッチン味平」という店で働いているのを知ることができた、と渋谷は言い出し(原作ではモノローグ)、夏之介は慌てて「よ、代々木じゃなかったっけ?」と言うのだった(アニメオリジナル)。

  • まとめ

舞台があまり動かなくても盛り上がりや緊張感(コメディだが)を出すポイントを押さえており、やはり巧みな脚本技術が光る。

また、終盤では高屋敷氏のテーマの一つ「自分とは何か」が強く表れている。
夏之介だけでなく、渋谷もまた「自分とは何か」に向き合っており、そんな渋谷を見て夏之介は微笑む。

この「微笑み」の追加および「そうだ章、グラゼニだよグラゼニ!」というモノローグ改変は、前述の通り見事で、厳しい世界の中においても「自分」というものを見つめ、根底に野球に対する情熱がある夏之介を描けている(シリーズ全体に言える)。

そんな夏之介の「友達」である渋谷(2話でクローズアップされている)もまた、自分を見つめることができ、熱い心を持つ男。だからこそ二人は友達なのだということも表現できている。これも含め、高屋敷氏は友情を描くのが本当に上手い。

夏之介も渋谷も、「自分とは何か」に関して「悟り」のようなものを持っている。思えば「プロ」とは、普通より「自分とは何か」がわかっている人達なのかもしれない。

夏之介の魅力の一つに、「逃げ出すわけにはいきません」「これが僕の仕事です」「超厳しい世界だけど、好きで選んだ道」(どれもアニメオリジナルのモノローグ)といった、プロとしての誇りと熱さがある。

そして、「自分で自分の道を選べ」は、高屋敷氏がよく発するメッセージ。
夏之介は、それができている。だからこそ彼は「プロ」であり、ここも大きな魅力。
一般的にも、「プロスポーツ選手」は魅力的に映るもの(だからファンがいる)。

今回、夏之介はファンから「凡田さん」と親しげに声をかけられており、スパイダースファンには認識されているのがわかる。
そしてユキからも、少し認識される。

そして今シーズン、怪我はあったものの頑張ったことを、友達である渋谷が夏之介に直接言う。
19話でも、(アニメオリジナルで)小里ピッチングコーチが夏之介を労う。

このように、夏之介の奮闘は色々な人々に伝わっている。
シリーズ終盤に入り、「凡田夏之介とは何か」のまとめに入りつつあるのを感じる。これからも、どういった構成になっていて、どう結ばれていくのかを、じっくり見届けたい。