カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。ツイッターアカウントは@makimogpfbです。

グラゼニ(2期)22話脚本:美しき?愛と友情

アニメ・グラゼニは、原作:森高夕次氏、作画:アダチケイジ氏の漫画をアニメ化した作品。監督は渡辺歩氏で、高屋敷英夫氏はシリーズ構成・全話脚本を務める。
2期は1期最終回12話からの続きで、開始話数は13話。

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  • 本作のあらすじ:

プロ野球投手・凡田夏之介は、年棒にこだわるタイプで、「グラウンドにはゼニが埋まっている(すなわちグラゼニ)」が信条。そんな彼の、悲喜こもごものプロ野球選手生活が描かれる。

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今回は、コンテが藤原良二氏で、演出が飯村正之氏。そして脚本が高屋敷英夫氏。

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本記事を含めた、グラゼニに関する記事一覧:

http://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%82%BC%E3%83%8B

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  • 今回の話:

結婚直前にも関わらず、ラジオ局の予算の都合で、野球解説者の職を失うことになった徳永(夏之介の先輩)。
夏之介は松本(アナウンサー)に、徳永に新しい職を紹介してくれないかと頼み込む。
そこで松本は、独立リーグの福井ダイナマイツのコーチの話を持ってくる。
ショックを受けつつ、思い悩む徳永だったが…

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クビになったことも知らず(前回21話参照)、婚約者の朱美とグアムに婚前旅行に行ってしまった徳永。
その頃オトワラジオでは、松本(アナウンサー)と荻原(ディレクター)が頭を抱えていた。

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このくだりはアニメオリジナルで、状況を把握しやすいものになっている。こういった所は、話をまとめるのが上手い高屋敷氏の手腕を感じる。カイジ2期1話(脚本)でも、アバンで1期のストーリーを上手くまとめていた。

そんな折、夏之介から松本の携帯に電話がかかってきて、二人はラジオ局の近くの喫茶店で会うことに。

夏之介は松本に、新しい就職先を徳永に紹介してくれないかと頼み込む。

それは難しい話だと、松本は業界の事情を説明する。この間、コーヒーのアップ・間がある。こういった「物」のアップ・間はよく出る。めぞん一刻(脚本)、宝島(演出)、空手バカ一代(演出/コンテ)と比較。

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松本は、「凡田くんて、とってもトクちゃん(徳永)思いなんだね」と言う。この台詞はアニメの改変。
原作では「よくトクちゃんの就職先なんてこと気にするよねェ…」であり、アニメでは、夏之介と徳永の繋がりを強めに出している。シリーズを通して、アニメは夏之介まわりの友情描写が強め。

夏之介は、「そりゃ同郷だし、プロに入ってからずっと世話になってるんで、少しでも役に立てればと思って」と返す。これもアニメの改変で、原作だと「そりゃ山梨出身のプロ野球選手って少ないですからね…なんだかんだ連帯感あるんス」である。
こちらも、アニメでは友情を強めに出している。友情描写にこだわる、高屋敷氏の意向が窺える。

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また、この部分の会話は原作だともっと後で、アニメだと、時系列を操作してここに持ってきている。高屋敷氏は時系列操作も巧み。

夏之介の思いを知った松本は、一旦職場に戻って名刺ホルダーを見ながら考えを巡らせ、独立リーグ・福井ダイナマイツのGMの名刺を見つける。そして、このチームのコーチ職を徳永に紹介することを思い付く。
原作では、喫茶店でこれを思い付くのだが、アニメでは、夏之介の思いに松本が突き動かされた形になっている。

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ここで、先の松本と夏之介の台詞の改変および時系列操作の意図がわかる。
整理すると、アニメでは「とってもトクちゃん思い」な夏之介の思いを汲み取って松本が動いた…という流れになっている。

こういった改変やオリジナルを重ねることで、キャラクターの動向、動機がわかりやすくなっている。こういった事も高屋敷氏は上手く、闇雲な尺稼ぎや自己主張でアニメオリジナルを入れているわけではない所が良い。

福井ダイナマイツのGM・武井は、たまたま東京に出張してきており、松本と夏之介は彼に会う。

チームの予算はカツカツで、月給30万円ボーナス無しでよければ、喜んで徳永をコーチとして迎えたいと武井は話す。

中央からは離れることにはなるが、きっとこの職は徳永の経験になると松本は考え、この話を彼に伝えると決断する。

後日、夏之介・渋谷(夏之介の友達で、先発ローテ投手)・大野(夏之介と同郷の後輩)はトレーニングをしながら、福井は遠いな…と徳永の事を話題にする。この場面はアニメオリジナル。おにいさまへ…の脚本やシリーズ構成でも目立っていたが、主人公まわりの友情や絆を強化・強調したいという高屋敷氏の意図が見える。

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そしてグアムから帰国した徳永を、松本と夏之介は待ち構え、事情を説明する。
当然のことながら、話を聞いた徳永は大ショックを受ける。

タクシーで帰る徳永達を見送った松本は、「おれは一実況アナだからね…これくらいのことが精一杯なのよ」と夏之介に言う。この台詞はアニメの改変で、原作では「おれは一実況アナだからこんな心配まではしたくないんだよね~」。
ここも、アニメでは夏之介の思いに精一杯応えた松本の気持ちが強調され、友情や義理人情に重きを置く高屋敷氏のポリシーが出ている。

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タクシーの中で徳永は、福井ダイナマイツの話を受けるかどうか、行くと決めたところで朱美がついてきてくれるのかどうか思い悩む。

自分は、野球以外の仕事は何もできないし、野球から離れた仕事はしたくない…と徳永が思うあたりは、高屋敷氏のテーマ「自分とは何か」「自分の道は自分で決めろ」にマッチしているし、強調が見られる。

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一方、徳永を削ってまでオトワラジオが新規契約した解説者・神野は、元チームメイトの九屈とゴルフをする。
九屈は、来期から文京モップス(巨人がモデル)のヘッドコーチになることが決まっており、その自慢話ばかりする。

神野はそれにウンザリしながらも、モップスのヘッドコーチともなると、妬みで足を引っ張られる事があるので警戒を怠るなと忠告する。

そんな忠告も、九屈の頭には入らず。神野は、九屈が嫌な人間に変わってしまったことを内心嘆くのだった。

ここは、原作もアニメも、徳永や夏之介らの人間関係と、神野と九屈の関係が上手い対比になっている。

徳永の方は、意を決して朱美に事情を打ち明ける。朱美は驚き、自分ではなく、徳永がどうしたいのか聞く。
徳永は、現実問題、選択肢は一つしかないと思っていると答え、朱美は、だったら福井に行くしか無いのでは?と言う。
徳永は、(そうなった場合)朱美はどうするのかと問う。

その頃、神野は九屈に呼び出され喫茶店にいた。九屈は過去に、不動産会社の広告塔をしていたのだが、その会社が暴力団と繋がりがあったことが最近発覚し(九屈本人は知らなかった)、それをマスコミが嗅ぎ付けているのだと言う。
文京モップスはこういう話が出てしまったらどう対応するのかと、九屈は(モップスの守備コーチ経験がある)神野に助言を求める。
神野は驚き、どこの球団でもそれは許されない…とハッキリ言う。
それを聞き、九屈は愕然となる。

ここで、場面は徳永と朱美の方に戻る。
朱美は、福井の仕事を決めたとしても、ついて行くに決まっている、とハッキリ言う。
それに、福井に行くとなれば、六本木のホステスの仕事を辞める踏ん切りがつくとも言い、「あたしはトクちゃんのお嫁さんになるんだよ」と、涙を浮かべながら笑う。
徳永は、現役の時でなく、今、結婚相手に朱美を選んでよかったと感涙。
このあたりの、金に左右されない爽やかな恋愛関係は、色々な苦難を乗り越え主人公が結婚する、めぞん一刻(最終シリーズ構成・脚本)が思い出される。

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その後、九屈が巻き込まれたスキャンダルは大々的に報じられ、モップスは九屈のヘッドコーチ就任を取り止める(神野の警告通り、誰かに足を引っ張られた)。その代わりに、神野がヘッドコーチに任命され、彼はオトワラジオのオファーを断ることにする。そういう事情なら…とオトワラジオ首脳陣は納得するが、嬉しさが顔に出ている神野にドン引きするのだった。
ここは、人間の業を描いてきたカイジ(シリーズ構成・脚本)に通じるものがある。画像は、カイジ2期(脚本)との比較。

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欠員が出たオトワラジオは、徳永に再オファーを出す。
それを伝える役を、松本は荻原から頼まれる。ここの松本と荻原の会話はアニメオリジナルで、あらためて徳永に事の次第を謝りたい、オトワラジオの意向などの補完が成されている。

すっかり福井に行く気になっていた徳永だったが、事情を聞いた福井ダイナマイツが、あっさり身を引いたこともあり(つまり、どうしても必要というわけではなかった)、割りきれないものを抱えつつもオトワラジオの解説者に再就任する。

夏之介は、徳永が解説者を続けることになったことを喜ぶ。

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その席には渋谷・大野も居て、4人は祝杯を上げる(アニメオリジナル)。ビールテロは高屋敷氏の定番。めぞん一刻MASTERキートンカイジ2期(脚本)と比較。

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そして、もうすぐ行われる契約更改の話になる(アニメオリジナル)。夏之介は、「年に一度の球団との戦い」だとして張り切る(次回への伏線)。ここも、「自分とは何か」という高屋敷氏のテーマの片鱗が見える。

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徳永は、東京に残ることになって、朱美がホステスを辞めないと言い出すのでは…と少し心配になるのだった(ここは原作通り)。

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  • まとめ

以前も書いたが、1期1-B話から出ていて、アニメオリジナルを交えてでもシリーズを通して出番があった徳永は、常に人生の先のステップを踏む存在である先輩として、シリーズ構成上、重視されている。

夏之介が「自分とは何か」を見つめることができているように、徳永もまた、自分の事をよくわかっており、先輩らしいと言える。そして彼は、(結果的に流れたとはいえ)福井に行く決断をし、そのことを朱美に話せている。

そして、年収が現役時から大幅に下がっても、色々と不安定でも、付いてきてくれる伴侶を見つけた徳永は、ある意味幸せ者。恋愛については、てんで奥手で悲観的な夏之介の大分先を行っているとも言える。

夏之介は夏之介で、松本を突き動かしたりと、徳永との絆を見せる。これは今回に限ったことではなく、今まで(アニメオリジナルを交えてでも)積み重ねてきた友情があってこその結果。この「友情の積み重ね」が、本当に高屋敷氏は上手い。
松本の言うアニメ改変台詞、「とってもトクちゃん思い」は言い得て妙だった。

あと、原作もアニメも、神野や九屈の取り回しが上手い。アニメでは、高屋敷氏のポリシー「人間には色々な側面がある」を描けており、善悪や良い/悪いを明確にしない、同氏の姿勢が出ている。
九屈が嫌な人間になってしまったことを嘆いていた神野が、九屈の失脚を喜ぶようになってしまう顛末は、先に述べたように、非常にカイジっぽくて面白い。

また、美しい(?)夏之介らの友情が、将来、神野と九屈のような関係にならないという保証はどこにもないというビターさもある。
今のところは、夏之介らと神野・九屈は対照的であり、夏之介らの友情が際立っている。

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前回・今回と、徳永の結婚話が展開されたわけだが、結婚が人生の節目であるのは間違いなく、シリーズ構成において重要なのも明確。次回、いよいよ夏之介の契約更改が始まり、彼の想い人・ユキとも少し進展があるようである。これと絡んでくる配置であるのは推察できる。

契約更改は、「年に一度の球団との戦い」(アニメオリジナル台詞)と夏之介は言うが、「自分」との戦いでもあるのではないだろうか。「今年の凡田夏之介」を、夏之介のナレーションと共に見てきた視聴者も、そこは気になるところ。というか、気にならざるを得ない構成になっているところが凄い。適当に「ここからここまでをアニメ化すればいい」というものではない姿勢や、緻密な計算に、やはり敬服する。