カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

グラゼニ(2期)24話(最終回)脚本:プロ野球選手である限り!!

アニメ・グラゼニは、原作:森高夕次氏、作画:アダチケイジ氏の漫画をアニメ化した作品。監督は渡辺歩氏で、高屋敷英夫氏はシリーズ構成・全話脚本を務める。
2期は1期最終回12話からの続きで、開始話数は13話。

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  • 本作のあらすじ:

プロ野球投手・凡田夏之介は、年棒にこだわるタイプで、「グラウンドにはゼニが埋まっている(すなわちグラゼニ)」が信条。そんな彼の、悲喜こもごものプロ野球選手生活が描かれる。

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今回は、コンテが齋藤徳明氏で、演出が吉田俊司氏。そして脚本が高屋敷英夫氏。

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本記事を含めた、グラゼニに関する記事一覧:

http://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%82%BC%E3%83%8B

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  • 今回の話:

いよいよ夏之介の契約更改。球団側が提示した年俸は2500万円。だが夏之介は2600万円を希望し、その理由を切り出す。

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契約更改の席で夏之介は、プロ入りした際、神宮スパイダース(夏之介が所属するチーム。ヤクルトスワローズがモデル)のスカウト・安田に言われた言葉、「所詮プロは金だ。契約更改の時はとことん貪欲になれ」を思い出していた。

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この流れはアニメオリジナル。プロの道に入った時の事を思い出させることで、夏之介は「自分で自分の道を選んだ」(高屋敷氏がよく出すテーマ)男であることが強調されている。

また、2500万ではなく2600万を希望する事情も、夏之介のモノローグで語られる。
この調子で行った場合、来年の契約更改で5000万円台に行くか行かないかのラインにかかっているのが、この100万円なのだ(この流れもアニメオリジナル。原作側のアドバイスもありそう)。

それを考え、(この100万円は)「来年、再来年…その次の年の年俸に大きく影響して来る100万円なんだ」と夏之介は燃える(アニメオリジナル)。

決意と連動する火のイメージは、カイジ2期(脚本)でも出ているほか、オリジナルを交えてアニメで蓄積してきた彼の「熱さ」が出ている。

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夏之介は、10月に行われた、球団創設4000勝達成・ベテラン先発投手である川崎の150勝目成立・チーム首位浮上という、めでたい事づくしのホームゲームで、6~9回まで投げて抑え、勝利に大きく貢献したのは自分であり、そこを評価して欲しいと主張する。

ここの夏之介はしっかりしていて饒舌で、カイジ2期(脚本)にて、遠藤を仲間に引き入れるべく見事なプレゼンを展開するカイジを思わせる。

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だが、話を聞いた部長は、それも込みでの評価が2500万円であるとして、少し休憩しようと言い出す。
夏之介は内心、絶妙なタイミングで休憩を入れてきた部長に舌を巻く。

この「休憩」もアニメオリジナルで、後のドラマティックな展開の伏線にもなっている。
このあたりの駆け引きも、カイジ(脚本・シリーズ構成)の経験を活かしている感じがする。

休憩中、夏之介は突然、マスコミに囲まれる(アニメオリジナル)。後に明らかになるが、これも夏之介に有利に働くことになる。

交渉が再開されると、夏之介の粘りに苛立ち始めた職員が、身をわきまえろと語気を強める。
それを受け夏之介は、
「2千万台の選手は黙って言いなりになれってことですか」
「2千万だろうが1億だろうが、選手は個人事業主ですからね。みんな必死なんですよ!」
と言い返す。これもアニメオリジナルで、夏之介の熱さが強調されている。
また、どんな相手にも物怖じせず、言いたい事を言うカイジが重なってくる。

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そこを部長が取りなし、職員も夏之介も、互いに謝る。
話を続けることを許された夏之介は、あの4000勝達成試合は、芸能ゴシップもあって大きくマスコミに取り上げられたと話す。

試合は、俳優の白木雄悟と歌手の篠山千重が、お忍びで観戦しており、それを目ざとく見つけた一般人が、その事を写真つきでSNSに投稿。それが拡散されてマスコミが球場に駆けつけ、二人の交際が公になった。

二人は8回に球場を出た所をマスコミに捕まったのだが、スパイダースファンの二人は(交際もそれが切欠)、9回も夏之介が投げているとマスコミから伝えられて驚く。
そしてそのまま夏之介が見事抑えて勝利し、チームが首位浮上したことを彼等は喜び、白木は「やったぜ凡田ー!」と叫んだのだった。

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この模様は大きく報道され、メモリアル試合は多くの人々に知られることになった。

球団職員は、それはグラウンド外の出来事だと反論する。
夏之介は、8回の自分の粘りのピッチングがあったからこそ、マスコミが球場に間に合ったわけで、白木と篠山の交際が報道されるのと、されないのとでは大きな違いが出たと主張する。

部長は、「メモリアルゲームを華やかなものにした演出代」としての100万円なのか…と夏之介の話をまとめ、その理屈もわかったような、わからないような…と折れ始め、2550万円でどうだと提案する。

夏之介は、この話にはまだ続きがあるので、ネットニュースを見て欲しいと言う。
部長と職員がPCでネットニュースを見てみると、件の白木と篠山が結婚することとなり、篠山は妊娠2ヶ月であるとのニュースが大々的に報じられていた。

テレビをつけてみると、ワイドショーは二人の結婚のニュースで持ちきりであり、それに絡んでスパイダースのメモリアルゲームも報じられていた。
更に、先ほどの休憩時間に、マスコミから取材を受け、二人にお祝いの言葉を述べる夏之介もテレビに映っており、部長達は驚愕。

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先に述べたように、休憩中に夏之介がマスコミの取材を受けるのは、アニメオリジナル。話を盛り立てる役目をしっかり果たしており、意義のあるアニメオリジナルを差し挟むのが上手い高屋敷氏の本領が発揮されている。

このニュースは、あと2、3日は流れるだろう…と述べる夏之介を見ながら、職員は彼の強運(ニュースのタイミングなど)に驚く。
部長はすっかり感心し、遂に2600万円にすることを了承する。

夏之介は、喜んで判を押す。
彼は最後に、色々不躾な事を言った事を詫びて去る。
それを見送った部長は、金にこだわるのもプロ根性だし、来シーズンは中継ぎのエースと期待される男なのだから、気持ちよく判を押してもらえてよかったと言う。

職員も、球団としては、実は2500万も2600万も、あまり変わらないのだと思い苦笑する。

このあたりは、善悪・良い悪いの境界を明確に引かず、人間の色々な側面を描くポリシーを持つ高屋敷氏の姿勢も出ている。

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ビルを出た夏之介は、怪我をした事を考えれば、800万円アップは上出来だと、喜びを爆発させる。喜ぶ姿に愛嬌があるのは、多くの作品で見られる。陽だまりの樹・怪物くん(脚本)と比較。

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その夜夏之介は、渋谷(夏之介の友達で、先発投手)や大野(夏之介と同郷の後輩で、外野手)と焼き肉屋で飲み、全員無事に契約更改したことを喜び合う。

全員年俸がアップしたわけだが、この場合誰が奢るのか?という話になり、年齢が一番上の夏之介か、年俸が一番高い大野だということになる。
大野は、今日だけだと言いながら、快く奢る。

それを見ながら夏之介は、大野がプロ野球選手としていい感じに階段を上がっていることを喜ぶ。

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原作通りだが、他者を見ることが、あらためて自分を見つめる事にもなる…という意味合いもあるのではないだろうか。事実、いい感じで階段を上がっているのは夏之介も同じ。

何にせよ皆と祝杯を上げられてよかったと思う夏之介であったが、一人になると、球団に強気に出てしまったことを思い出して悶絶する。ここも、全てが終わるとダメな部分が出てしまう、カイジ2期最終回(高屋敷氏脚本)のカイジが重なる。

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そして、新しいシーズンが始まる。

ここからの流れは、アニメオリジナル。
「ここが僕の仕事場です」と夏之介が球場の扉を開けるのが、1期1話とリンクしている。

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「僕、凡田夏之介は、プロ入り9年目の27歳。年俸1800…2600万!」というモノローグも、1期1話とリンクしており、感慨深いものがある。1話と最終回をリンクさせるのは、F-エフ-*1(シリーズ構成・全話脚本)でも見られた。

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8回のピンチに、夏之介がマウンドに上がる。
「さあ、仕事のしどころですよ。この打者の年俸は2200万。2600万の僕が負けるわけには行きません」と彼が思うのも、自分より年俸が低い相手には、やたら強気になるという習性(1期2話)を思い出させて良い。

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それを、徳永(夏之介の先輩で、解説者)が、渋谷が、大野が、コーチが、監督が、テレビごしではユキ(夏之介の想い人)が見守る。

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グラゼニ…グラウンドには銭が埋まっている…僕が作った造語です」(原作序盤に出た言葉)
「僕は掘り続けます。プロ野球選手である限り!!」(アニメオリジナル)
と、夏之介は第1球を投げる。

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だが、球場に快音が響き…
「グッ…グラゼニ~!!」

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  • まとめ

流石最終回だけあり、内容が盛り沢山。これが1話に収まっているのが信じられない。やるとなると、非常に密度の濃い脚本を書く高屋敷氏の腕が存分に振るわれている。

前回23話に引き続き、アニメオリジナルの混ぜ方も秀逸。特に休憩時間を入れたのと、そのオチについてはストーリーを大いに盛り上げていた。

また、殆ど場面が動かない(交渉しているだけ)のに飽きさせない構成が、やはり見事。

誘拐犯と電話で交渉するだけなのに、話に引き込まれるMASTERキートン8話(脚本)、班長が3回サイコロを振るだけなのに緊張感が半端ないカイジ2期7話(脚本)、ラジオスタジオで話しているだけなのに面白い、本作17話(脚本)に引き続き、高屋敷氏の描く密室劇の傑作が拝めた事が嬉しい。

MASTERキートン8話(脚本)では、誘拐犯が提示する身代金を、何とか値下げしようとする交渉が描かれた。
今回の場合は、年俸の値上げ交渉。
どちらも「人間の値段」であり、考えさせられる。カイジ(脚本・シリーズ構成)でも、人間の身体・命に値段が設定されており、どこか共通するものがある。これもまた、高屋敷氏のテーマの一つ「自分とは何か」に関わってくるものなのかもしれない。

ラストの夏之介の自己紹介が、1期1話からアップグレードされているのも上手い。
これも、明らかに「自分とは何か」を表すものであり、かつまた、最終回で「自分を超え」た結果として年俸が上がったことが示されている(「自分超え」もまた、高屋敷氏の提示するテーマ)。

そして、「僕は(グラゼニを)掘り続けます。プロ野球選手である限り!!」も、自分で自分の道を選んだ「大人」であり「プロ」であるが故に「自分とは何か」がよくわかっている「凡田夏之介」という「男」を、よく表している。

この「“プロ野球選手である”限り!!」という言葉のために全てを積み上げたようなシリーズ構成も、流石の一言。
高屋敷氏のシリーズ構成作は、とにかく最後に畳みかけるようにテーマが放出され、そして熱い。今までアニメオリジナルを交えて積み上げた夏之介の熱さが、最後の最後でも炸裂しているのが感無量。

めぞん一刻(脚本・最終シリーズ構成)、F-エフ-・アカギ・カイジワンナウツ(脚本・シリーズ構成)、そして本作と、いずれも主人公は最終回にて「自分で自分の(生きる)道」を決めており、それを進んで行く。これも、とことん一貫しており唸らされる。高屋敷氏は、どんな作品にも、自身のテーマを乗せられるのが凄まじい。

あらゆるシリーズ構成作品にて、まとめ方が上手いのは、エースをねらえ!家なき子、宝島といった名作の最終回を演出した経験が存分に活かされているからと言える。それにしても、その上手さに毎度感嘆しきり。今回も期待を裏切らなかった。

最後に打たれて「グ、グラゼニ~ッ」となるのも、本作らしい終わり方。
先に述べたように、夏之介は大人だし、自分とは何かを普通よりわかっている男だが、若くて伸び代はあるし、完璧というわけでもない。だから失敗もするし、それを糧に成長もする。そういった、未来への期待も込められた被弾だと思う。

それにしても、決して衰えず、益々冴え渡る高屋敷氏の技術と才能には、本当に敬服する。

本作では、2本も密室劇の傑作が見れたし、相変わらずの熱いテーマも感じられた。

何より、グラゼニという作品と、夏之介という主人公が大好きになった。
F-エフ-の時もそうだったが、高屋敷氏は作品と主人公の魅力を十二分に引き出す力がある。

その腕の確かさを、期待以上に確認できたのが本作。最後まで見れて、本当に良かった。

次回は、本作のシリーズ構成(1期・2期)について書いていきたい。

*1:本ブログの、F-エフ-に関する記事一覧: http://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23F-%E3%82%A8%E3%83%95-