カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。ツイッターアカウントは@makimogpfbです。

おにいさまへ…39話(最終回)脚本:命と桜の息吹

アニメ・おにいさまへ…は、池田理代子氏の漫画をアニメ化した作品で、華やかな女学園を舞台に様々な人間模様が描かれる。
監督は出崎統氏で、高屋敷英夫氏はシリーズ構成(金春氏と共同)や脚本を務める。
今回のコンテは出崎統監督で、演出が吉村文宏氏。そして脚本が高屋敷英夫氏。

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当ブログの、おにいさまへ…に関する記事一覧(本記事含む):

http://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E3%81%8A%E3%81%AB%E3%81%84%E3%81%95%E3%81%BE%E3%81%B8%E2%80%A6

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  • 今回の話:

大筋の大筋以外、殆どがアニメオリジナル。
それぞれが、それぞれの気持ちを整理し、夏が終わる。そして武彦(奈々子の文通相手/義兄)と薫(武彦の恋人。体育会系だが病を抱える)の結婚式が行われ、二人はドイツに旅立つ。そして時は巡り、桜咲く頃…

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奈々子は、母や義父と共に祭りを楽しむ。能の舞いの場面は、空手バカ一代(演出)や、あしたのジョー2(脚本)と共通するものがある。どれも、コンテは出崎統氏。

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提灯のアップ・間があるが、こういったランプを使った表現は、高屋敷氏の担当作に実に多い。宝島(演出)、蒼天航路ワンナウツ(脚本)と比較。

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ここで、奈々子達は武彦(奈々子の文通相手/義兄)と薫(武彦の恋人。体育会系だが病を抱える)に偶然会う。改めて、武彦は父(奈々子の義父)に、薫と結婚する事を伝える。

後日、奈々子と智子(奈々子の幼馴染)は、マリ子(奈々子の級友)の新居(両親が離婚したため)を訪ねる。以前の家より小さいマンションの一室だが、海や船が見える。
出崎統監督は船を好み、長年一緒に仕事した高屋敷氏も船を多用する。F-エフ-(脚本)、ルパン三世2nd(演出/コンテ)、アカギ(脚本)と比較。

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マリ子は、家は小さくなったがケーキとお茶はケチらないと言う。「食と心」に並々ならぬこだわりがある高屋敷氏らしい。めぞん一刻(脚本)や元祖天才バカボン(演出/コンテ)にも、ケーキにこだわる場面がある。

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月1回は会いたいと言ってきている父に、どう答えるか考えているマリ子に対し奈々子は、13年間息子(武彦)に会わなかった義父の話や、れい(死亡した、謎めいた上級生)の話をして外を眺める。
鳥が飛ぶが、これは出崎統監督の定番演出で、高屋敷氏もよく使う。宝島(演出)、ルパン三世(演出/コンテ)、F-エフ-(脚本)と比較。

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ここのところ、人の事ばかり気になってしまうと吐露する奈々子に、マリ子は、大人になったからだと言って、優しく抱きつく。スキンシップ多めの友情表現は多い。グラゼニ・F-エフ-(脚本)、家なき子(演出)と比較。

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マリ子は、(奈々子と違って)大人になんかならない、人の事なんか考えてたら損をする…と開き直る。そんな彼女を、智子はからかう。マリ子の意見は、それはそれで一理あり、物事の色々な側面を描写する高屋敷氏のポリシーが出ている。

一方、蕗子(廃止された学園の社交クラブ・ソロリティの会長)は別荘で乗馬を楽しむ。出崎統監督は乗馬を好む傾向があり、高屋敷氏も、それを踏襲している節がある。あしたのジョー2・キャッツアイ(脚本)と比較。

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武彦の親友で、蕗子の兄である貴も、別荘で休養しつつ、武彦の結婚式の準備を手伝う予定を立てる。
執事の五十嵐(アニメオリジナルキャラクター)は、蕗子が少女期に武彦に恋していたことを見抜いており、それとなく蕗子を案ずる。優しい執事は、宝島(演出)やF-エフ-(脚本)でも強調された。

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蕗子は、少女期に武彦と初めて会った、滝のある場所に佇む。出崎統監督・高屋敷氏共に、滝を好む。空手バカ一代エースをねらえ!(演出)、忍者マン一平(監督)と比較。このうち、空手バカ一代エースをねらえ!のコンテは出崎統氏。

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蕗子は、亡き妹・れいが男性と恋をした場合どうだったかに思いを馳せる。
蝶が飛んで行くが(出崎統監督が好む)、蝶の表現も、高屋敷氏の担当作に多い。ワンナウツあんみつ姫あしたのジョー2(脚本)と比較。このうち、あしたのジョー2は出崎統監督のコンテ。

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蕗子は、水をすくう。手による感情表現は、様々な作品に見られる。カイジ・F-エフ-・MASTERキートン(脚本)と比較。

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蕗子の心の中にいる、れいは「あなたは、まだ本当の恋をしていない」と蕗子に告げ、彼女の未来の恋に乾杯する。飲み物の意味深アップも、色々な作品に出てくる。グラゼニ・F-エフ-・MASTERキートン(脚本)と比較。

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少女期の、武彦への恋が唯一無二の恋だと考えていた蕗子は戸惑う。蕗子の恋の象徴であるパラソルのイメージが出るが、魂が宿ったような「物」の表現は数多い。
めぞん一刻・チエちゃん奮戦記・グラゼニ(脚本)と比較。

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蕗子が、(心の中の)れいとの対話を終えた後、夕陽が映る。全てを見守る夕陽は頻出。宝島(演出)、F-エフ-・めぞん一刻蒼天航路(脚本)と比較。

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帰りが遅いので心配し、迎えに来た貴に、蕗子は抱きついて泣く。抱擁場面は結構ある。ど根性ガエル(演出)、ベルサイユのばら(コンテ)、1980年版鉄腕アトム(脚本)と比較。

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その後、ドレスを着込んだ蕗子は、鏡の前に立ち、「れい…これでいい」と胸の中で呟くのだった。真実や現実を映す鏡の表現は、多く見られる。じゃりン子チエめぞん一刻(脚本)、ルパン三世2nd(演出/コンテ)、カイジ2期(脚本)と比較。

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夏休みも終わる頃、奈々子は義父を誘って川辺を散歩する。ボートが横切っていくが(出崎統監督の定番)、同様の表現が、高屋敷氏の担当作にもしばしば見られる。宝島(演出)、あんみつ姫めぞん一刻(脚本)と比較。

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奈々子は思い切って、自分の実の父は、どんな人だったのか義父に尋ねる。高屋敷氏のテーマの一つ「自分とは何か」が出ている。
義父は、その人は奈々子の母と結婚せずに別れた事しか知らないと答える。彼女は「心に鍵をかけた」のではないかと彼は語り、それでも彼女は魅力的だし、奈々子にも、鍵をかけた事の一つや二つあるのではないかと説く。

義父と奈々子の会話の中、太陽と鳥が映る。太陽は、ありとあらゆる事象を見るものとして扱われる。F-エフ-・太陽の使者鉄人28号ワンナウツ(脚本)、元祖天才バカボン(演出/コンテ)と比較。

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色々と吹っ切れた奈々子は、新しい季節を迎える準備が出来る。ここでも、太陽が印象的。

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ここまでで、マリ子・蕗子・奈々子の「心の整理」が丁寧に描かれている。高屋敷氏は、やるとなると非常に密度の濃い脚本を書く。

新学期。(傷害事件を起こした)マリ子の停学が短縮され、彼女は元気な姿を見せる。微笑ましい友情描写は多く出てくる。
エースをねらえ!(演出)、グラゼニあんみつ姫陽だまりの樹(脚本)と比較。

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(マリ子と喧嘩したが和解した)三咲ほか、色々な生徒も、晴れやかな顔で登校してくる。高屋敷氏の、モブに対する愛情は深い。めぞん一刻(脚本)のモブも、原作より目立っていた。

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バスケの地区予選にて、(バスケ部部長である)薫は、亡き親友・れいと同じ背番号で試合に挑む。その姿を見て、奈々子は感極まって泣く。
背番号が「語る」描写も、様々な作品に見られる。DAYS・グラゼニ(脚本)と比較。

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そして、薫と武彦の結婚式の日になる。教会のステンドグラスの「間」があるが、こういった、絵が醸し出す「間」は、しばしばある。
あしたのジョー2・DAYS・カイジ2期(脚本)と比較。

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結婚式が開始される。高屋敷氏は、多くの作品で結婚回を担当している。めぞん一刻あしたのジョー2・陽だまりの樹(脚本)と比較。

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薫は、「この命ある限り」武彦を愛すと誓う。グラゼニ(2期)最終回(脚本)には、「プロ野球選手である限り」というアニメオリジナルモノローグがあり、繋がりが感じられる。また、めぞん一刻最終回(脚本)のサブタイトルは「この愛ある限り!一刻館は永遠に…!!」である。

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武彦と薫は、手を繋ぐ。手から手へ想いを伝える場面は、とにかく沢山ある。グラゼニ・F-エフ-・ワンダービートSワンナウツめぞん一刻(脚本)と比較。

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晴れて夫婦となった武彦と薫を、皆が祝福する。晴れやかな顔で、皆が新郎新婦を祝福する場面もまた、数々の作品にある。あしたのジョー2・めぞん一刻グラゼニ(脚本)と比較。高屋敷氏のポリシー「皆がいるから自分がいる・自分がいるから皆がいる」が感じられる。

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(武彦の研究のため)武彦と薫がドイツへ旅立つ日、武彦は改めて、実の父(=奈々子の義父)に挨拶する。
父と子のドラマは、F-エフ-(脚本)やワンダービートS(脚本)にも見られる。

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奈々子は、手紙を書くと言って、彼らを見送る。奈々子は武彦に、れいと同じ香り(煙草)を感じる。彼女は、飛行機を見上げ物思いにふける。ここも、真実を映す鏡描写がある。F-エフ-・蒼天航路(脚本)、ベルサイユのばら(コンテ)と比較。

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月日は流れ、奈々子は高校三年生となる。そしてドイツから、武彦と薫の間に子どもが生まれたという手紙が届く。
原作では薫の訃報であり、大きく異なる。
赤ちゃんを絡めた名場面は、グラゼニめぞん一刻・F-エフ-(脚本)にもある。

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大分大人びてきた奈々子には、気になる男性ができたが、その人は武彦に似ていない(暗褐色の瞳ではない)と、彼女は思うのだった。
高屋敷氏は、主人公の劇的な成長を組み立てるのが非常に上手い。
宝島(演出)、F-エフ-・めぞん一刻カイジ(脚本)の、最終回と序盤を比較。

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ラストシーンを、あしたのジョー2(脚本)、宝島(演出)、めぞん一刻カイジ2期(脚本)と比較。並べてみると感慨深い。
本作は、桜が重要な役割を担う、めぞん一刻に近いものがある。

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  • まとめ

原作に沿っているのは、

  • 薫と武彦の結婚、ドイツ行き
  • れいの香り(煙草)を、奈々子が思い出す

あたりで、それすら大幅にアレンジされている。特に、薫の訃報(原作)を、出産報告(アニメ)に変えたのには、驚くばかり。アニメも、薫の命は長くない事が示唆されてはいるが、大分救済されている。

キャラクターの救済といえば、F-エフ-(シリーズ構成・全話脚本)*1のユキが挙げられる。原作では悲惨な運命の彼女は、アニメ最終回では別ルートに行っており、原作の悲惨さを和らげている。

グラゼニ(シリーズ構成・全話脚本)*2でも、原作のネガティブな事象を、一気にポジティブなものに変えるという技術が使われていた(23話)。
高屋敷氏は、やるとなったら原作を大胆に変えられる(本作は、原作クラッシャーな出崎統監督の意向も大きい)事がわかり、やはり驚かされる。

先に述べたが、話の密度の濃さが凄い。マリ子・蕗子・奈々子・薫それぞれのエピソードが丁寧に描かれており、これが1話内に収まっているのが信じられない。この感覚は、グラゼニ(2期)最終回でも感じられた。

グラゼニ(2期)最終回(脚本)とのシンクロといえば、これも前述の通り、本作の「この命ある限り(愛する)」と、グラゼニの「プロ野球選手である限り(グラウンドに埋まる銭=グラゼニを掘り続ける)」がある(どちらもアニメオリジナル)。
本作もグラゼニも、全身全霊をもって「自分で決めた道を行く」姿が描かれている。

「命ある限り」愛に生きた結果、薫は子どもを産む。原作には、この描写がない。
この大幅な改変は興味深い。
F-エフ-15話(脚本)では、(他人の)赤ちゃんを見た軍馬が、原作と正反対の行動を取っている。高屋敷氏は、赤ちゃんに尊さを感じているのではないだろうか。

薫と武彦の結婚式もまた、原作には無い描写。こちらは、あしたのジョー2・めぞん一刻(脚本)の経験が存分に活かされている。結婚式もまた、高屋敷氏のテーマの一つ「自分で自分の道を決めろ」に大きく関わるイベントだから、重視しているのかもしれない。

主人公の成長にも注目したい。
あらゆる作品で、高屋敷氏は「成長」を劇的に描く。毎度、この手腕は見事。
シリーズ構成(本作は金春氏と共同)が計算しつくされているのが感じられ、こちらも毎度の事ながら脱帽。

生と死、人生などの暗喩として活躍する「桜」の強調も見られた。
下記画像は、めぞん一刻はだしのゲン2・RIDEBACK(脚本)との比較。本作の場合、桜に始まり、桜に終わる。高屋敷氏は、「自然」に大きな「役割」を課す傾向がある。

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そして、キャラクターの掘り下げは最初から最後まで、ぬかりがなかった。このあたりも、流石の一言。グラゼニ(シリーズ構成・全話脚本)も同様。
シリーズが長くても短くても、これができる手腕が驚異的。

ベルサイユのばらに高屋敷氏が最後まで参加していた場合、キャラクターの成長(例えばロザリーあたり)を軸に入れた、前向きなラストになったのではないか…と考えた事がある。
本作は、それが実現したような感覚を受けた(特に奈々子の成長や、薫の出産)。

高屋敷氏担当作の多くは、最後にキャラクターが「前」を向き、自分で決めた道を行く。その姿は感動的であり、かつまた、そのための緻密な計算が感じられる。本作もまた、同氏の技術と才能が十二分に見られて圧巻だった。

  • 追記

薫のストーリーが大幅に変わったのは、原作者の池田理代子氏の指示があったかららしい(ツイッターで頂いた情報)。