カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

RAINBOW-二舎六房の七人2話脚本:夏の終わりの雨

アニメRAINBOW-二舎六房の七人-は、安部譲二氏原作・柿崎正澄氏作画の漫画のアニメ化作品で、戦後間もない少年院に入所した七人の少年達のドラマ。監督は神志那弘志氏で、高屋敷英夫氏はシリーズ構成・脚本を務める。

今回のコンテは島津裕行氏で、演出は米田和博氏。そして脚本が高屋敷氏。

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当ブログの、RAINBOW-二舎六房の七人-に関する記事一覧:

http://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E4%BA%8C%E8%88%8E%E5%85%AD%E6%88%BF%E3%81%AE%E4%B8%83%E4%BA%BA

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  • 今回の話:

真理雄ら6人が少年院の二舎六房に収監され、房の古株・六郎太と出会ってから約1ヶ月。
孤児院にいる妹・メグが里子に出されると知った丈(二舎六房の1人。混血の美形)は、仲間の協力のもと脱走し、メグと対面するが…

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開幕、真夏を表すセミが映る。季節の移ろいの描写が丁寧なのは、他の高屋敷氏担当作でも目立つ。
チエちゃん奮戦記・めぞん一刻グラゼニ(脚本)と比較。

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二舎六房の面々は、あだ名で呼び合うようになっていた。

六郎太(房の古株でリーダー)は、真理雄(熱血漢)にボクシングを教える。あしたのジョーに似たフレーズが幾つか追加されており、高屋敷氏の、あしたのジョー1・2脚本経験(1は無記名)が活きている。

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忠義(いかつい)は万作(大柄)をサポート役にして腹筋を鍛え、昇(小柄)は丈(混血の美形)と将棋をする。この組み合わせは後々にも見られ(特に今回は丈と昇のドラマがある)、原作もアニメも伏線の張り方が上手い。

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こういったさりげない伏線は、グラゼニ(シリーズ構成・全話脚本)にも多かった。

龍次(眼鏡の頭脳派)は読書をしながら、少しは頭を使えと昇を煽り、昇は龍次に掴みかかる。彼の本のアップ・間があるが、こういった「間」は頻出。ベルサイユのばら(コンテ)、宝島(演出)、あんみつ姫(脚本)と比較。

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真理雄は、昇と龍次の小競り合いを取りなす。そんな彼らを見て、六郎太は苦笑する。この笑顔はアニメの追加。(不思議なことだが、脚本でも)微笑から満面の笑みに至るまで、高屋敷氏は様々な笑顔にこだわりを見せる。グラゼニおにいさまへ…あしたのジョー2(脚本)と比較。どれも複雑な感情をはらむ。

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面会に来た孤児院の園長から、妹・メグが里子に出されると聞いた丈は、食事中に、そのことを仲間に打ち明ける。食事のクローズアップは多く、「食」に重きを置く姿勢が感じられる。カイジ2期・忍者戦士飛影グラゼニ(脚本)と比較。

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妹の事が気になり、危険な作業中も上の空の丈を昇が助ける(あわや事故の事態は、アニメオリジナル)。回転ノコギリのアップがあるが、回転ノコギリは過去作品にもしばしば見られる。元祖天才バカボン(演出/コンテ)、太陽の使者鉄人28号(脚本)と比較。

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夕刻、少年院の少年達は浴場へ入るため並ぶ。カイジ2期(脚本)の、地下強制労働施設でのシャワー場面に重なるものがある。

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そこへ、食料運搬業者が扉を開けて入ってくる。扉の向こうが眩い描写は、グラゼニカイジ(脚本)でも印象的。

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昇は丈に、妹に会わせてやると言って自らの腕を噛み、蛇に噛まれたと一芝居打つ。原作通りだが、高屋敷氏は「噛みつき」に縁がある。カイジ(脚本)、ど根性ガエル(演出)、蒼天航路(脚本)と比較。オリジナルでも出す故、ど根性ガエルの経験を活かしている節がある。

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六郎太は状況を察し、「戻ってくるんじゃねえぞ」と丈の背中を優しく押す。こちらも原作通りだが(優しさの)強調が見られる。
「手」による感情伝達表現は数多い。
おにいさまへ…(脚本)、宝島(演出)、グラゼニめぞん一刻(脚本)と比較。

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昇と六郎太を皮切りに、他の二舎六房の面々も、蛇が出たと芝居し、看守達を煙に巻いて丈を逃がす。仲間愛は、様々な作品で前面に出される。カイジ2期・はじめの一歩3期・あんみつ姫(脚本)、ど根性ガエル(演出)と比較。

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丈は脱走(原作では昇も追随)し、身を隠しながら過去を回想する。
回想の中で、丈は妹に歌を歌う(歌うのはアニメオリジナル)。ランプが映る。ランプ表現は定番。宝島(演出)、カイジ2期・グラゼニおにいさまへ…(脚本)、空手バカ一代(演出)と比較。

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一方、他の二舎六房の皆は散々肉体的に絞られた上、独房に入れられる。
文句をたれる龍次に対し六郎太は、何故皆が丈の逃亡を咄嗟に助けたか問い、「仲間だからだ」と結ぶ。
ここも、仲間愛の強調が見られる。それは、カイジ(シリーズ構成・脚本)でも同様。

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昇は、月を見上げる。原作もアニメも、月がクローズアップされる。高屋敷氏は、あらゆる事象を見守るものとして、月を重要視する。はじめの一歩3期・F-エフ-(脚本)、空手バカ一代元祖天才バカボン(演出/コンテ)、めぞん一刻(脚本)と比較。

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昇は、自分の過去を語る。飲んだくれの父と、それにオロオロするばかりの母を避けて、昇は妹を連れ、よく外に出ていたという(原作では、妹について言及されない)。昇が妹をおんぶするのはアニメオリジナルで、はだしのゲン2(脚本)にて母をおんぶするゲンが重なる。

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たまたま、昇が妹を連れずに外に出た日は、広島に原爆が投下された日だった。運命の日、太陽が映る。生と死を司るものとしての太陽は、実によく出る。
宝島(演出)、F-エフ-・MASTERキートン(脚本)と比較。どれも、生と死の境目の場面。

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自分は、原爆で家族を失い孤児となったので、丈がほっておけなかったと昇は言う。
はだしのゲン2(脚本)のゲンも、原爆で父・姉・弟・妹・母を失っている。
原爆絡みは、はだしのゲン2を思い出さずにはいられない。

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孤児院では、メグが里親と対面していた。里親は、あからさまにメグを性的な目で見ており、彼女の手を握る。
敵意や悪意を「手」で伝えるパターンは、他作品でも見られる。F-エフ-(脚本)、宝島(演出)と比較。

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丈は孤児院に辿り着くが、待ち伏せていた追手に取り押さえられる。丈は園長に、何度(性的に)悦ばせれば妹に会わせてくれるのかと、園長が自分を常日頃犯していた事実を言い、園長は怒る。
カイジ2期(脚本)にて、大槻に堂々と立ち向かうカイジと重なる。

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なおも園長の性犯罪を匂わせる発言を続ける丈を、園長は花瓶で殴り、花鋏を掴む(原作ではナイフ)。感情と連動する花鋏は、おにいさまへ…(脚本)にも見られた。

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その頃、二舎六房の他の皆は、石原(悪辣な看守)から、丈が確保されたことを告げられる。皆をクズ扱いする石原に、真理雄は憤る。
強者が弱者を見下し、虐げる構図は、カイジ(脚本)にもある。

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孤児院では、園長と丈が対峙しているところにメグが現れ、丈を(わざと)邪険に扱う。身寄りの無い者は、人に利用されて生きていくしかない…と彼女は言い放ち、丈は涙を流す。身動きできない状態での悲しみは、カイジ(脚本)や宝島(演出)にも見られる。

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雨の中、心身ボロボロの丈は少年院へと運ばれる。
部屋の中でメグは、熊のぬいぐるみ(親に捨てられた時に持っていたもの)を抱きしめる。ぬいぐるみはアニメオリジナルで、おにいさまへ…(脚本)やルパン三世2nd(演出/コンテ)を彷彿とさせる。

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雨が窓を打ち付け、メグは号泣する。本当は、丈が来てくれて嬉しかったと、彼女は思う。
雨の中のドラマは強調される。はだしのゲン2(脚本)、エースをねらえ!(演出)、ベルサイユのばら(コンテ)、空手バカ一代(演出)と比較。

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メグは里親のもとへ行き、部屋の灯りが消える。こういった灯りの描写も多々ある。めぞん一刻(脚本)と比較。

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少年院に戻った丈は暴行されて全身傷だらけになった上、手錠で拘束されたまま独房に入れられる。

ラスト、「降りしきる雨は、夏の終わりを告げていた」というナレーションが入る(アニメオリジナル)。高屋敷氏が、雨や季節の移ろいを重視しているのが直球で出ている。

  • まとめ

全体を覆う仲間愛が印象に残る。
高屋敷氏が、多くの作品で強く押し出す「一人は皆のために、皆は一人のために」という精神は、同氏が愛する野球(元野球部で、高校の野球部経験あり)のチームワークから来ているのかもしれない。

また、兄妹愛についても描かれる。原作では言及されない、昇の妹についてアニメオリジナルで描かれているのは、丈・メグ兄妹との対比であり、昇が丈に肩入れする理由を明確にしている。

原作では、脱走する丈に昇が追随し、一緒に鯛焼きを食べたり、丈を追手から逃がすために、わざと捕まったりする下りがあるが、アニメではカット。丈の掘り下げに集中する為かもしれない。
時折、高屋敷氏は大胆な改変をする。こういった大胆さは、おにいさまへ…グラゼニの脚本にも見られた。

昇の原爆体験について、アニメで色々追加されているのは、はだしのゲン2脚本経験が活きているのが窺える。
プロデューサーの丸山正雄氏も、『はだしのゲン』から『この世界の片隅に』に至るまで、原爆についての強いこだわりが感じられる。

作監督の神志那氏は、マッドハウスHUNTER×HUNTERの監督でもあるわけだが、後半の非常に過激な展開を、殆どぼかさず表現しており、本作でも過激な描写から逃げない。高屋敷氏も、それに伴って過激描写に取り組んでいる。

過激といえば、F-エフ-(シリーズ構成・全話脚本)では、原作の性的描写があまりできなかったものの、代替として過激な暴力描写が出ていた。
深夜放送で、過激描写を辞さない神志那監督の尽力もあり、本作では性的描写もハッキリ出ており、時代が味方している。

月明かりの中、六郎太が「仲間」について説くあたりは、高屋敷氏の強調が見られる。仲間愛については、構成の要になって来そうな気配があるので、今後も、そこに注目しながら見て行きたい。

高屋敷氏は、「仲間だ」「友達だ」「好きだ」など、愛情をダイレクトに伝えるポリシーがあるようで、六郎太の言う「仲間だからだ」も前面に押し出されている。カイジ2期(脚本)でも、カイジが「仲間だろ!」と言う場面を強調している。この辺りも興味深い。

ラストのナレーション、「夏の終わりを告げる雨」は、色々な作品にある意味深な季節描写を直球で表しているわけであるが、おにいさまへ…グラゼニ(脚本)のナレーションでも季節に関して触れており(アニメオリジナル)、高屋敷氏のセンスが感じられる。

季節への意識にしろ、頻出する「物言わぬもの」の「間」にしろ、演出経験に裏打ちされた、「空間」を構築する「脚本」を、高屋敷氏は書けるのではないか…と思うことがある。何にせよ脚本は、台詞の羅列だけでは済まないのではないだろうかと、同氏の脚本作を見る度、考えさせられる。