カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

RAINBOW-二舎六房の七人シリーズ構成:虹が示す「道」

アニメRAINBOW-二舎六房の七人-は、安部譲二氏原作・柿崎正澄氏作画の漫画のアニメ化作品で、戦後間もない少年院に入所した七人の少年達のドラマ。監督は神志那弘志氏で、高屋敷英夫氏はシリーズ構成・脚本を務める。

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当ブログの、RAINBOW-二舎六房の七人-に関する記事一覧(本記事を含む):

http://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E4%BA%8C%E8%88%8E%E5%85%AD%E6%88%BF%E3%81%AE%E4%B8%83%E4%BA%BA

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今回は、本作における高屋敷氏のシリーズ構成について書いていく。
まず1話アバンが、これから始まる物語の50年後という構成(アニメオリジナル)に驚かされる。時系列を器用に操るのは高屋敷氏の十八番だが、それが存分に発揮されたと言える。

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そして、(皆の夢を刻んだ)木に始まり、木に終わるという、綺麗な構成でもある。
最初と最後を東京タワーでまとめた(アニメオリジナル)アカギや、1話も最終回も、球場に入って行く夏之介で揃えた(アニメオリジナル)グラゼニ(いずれもシリーズ構成・脚本)が思い出される。

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また、タイトルにもある「虹」。これも、要所要所で(アニメオリジナルを交えて)出てくる。アニメでは、六郎太(少年院の二舎六房のリーダー)の死以降、天気雨や虹が、六郎太を現世に連れて来るような描写がある。「天」に重要な役を持たせるのは、高屋敷氏の大きな特徴。

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1話はキャラの顔見せになるが、彼等は少年院に収監された犯罪者。カイジ(シリーズ構成・脚本)では、1期1話でカイジは犯罪を犯し、2期1話では自堕落な生活をしている。グラゼニ(シリーズ構成・全話脚本)1話は、人によっては夏之介が銭ゲバに見える…と、1話序盤におけるキャラの印象は、あまり良くない。

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最初に悪い印象を持たせておいて、好感度を上げていく構成が、高屋敷氏は上手い。
六郎太は、1話後半ですぐにリーダーシップを発揮する。グラゼニ(シリーズ構成・全話脚本)も、1話中盤~後半で、夏之介に悟りや誇りがあることがわかる組み立て(詳しくは: https://togetter.com/li/1331431 )。

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2話では、二舎六房の面々が、仲間である丈(美形)の脱走を助ける。また、昇(小柄)が原爆孤児であることも判明するなど、各キャラの掘り下げに入る。また、六郎太が言う「仲間だからだ」も、シリーズ全体で重く響く。

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3~4話では、火事を通して二舎六房の皆の絆が深まる。カイジ2期(シリーズ構成・脚本)4話にて、仲間を集めて決起するカイジが重なってくる。本作とカイジ2期は、一部スタッフが共通するため、色々とシンクロ度合が高い。

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5話は重要回で、皆で木に夢を刻む。将来への道を考えあぐねる真理雄(熱血漢)が、後にボクシングをやる伏線にもなっており、高屋敷氏のテーマの一つ「自分とは何か」とマッチ。カイジ1期(シリーズ構成・脚本)5話も、「オレがやると決めてやる」など、「自分」に関するカイジの格言が出る重要回。

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5話後半も重要で、ボクサーを夢見る真理雄の右拳が、石原(悪辣な看守)の手の者により粉砕されてしまう。それに激怒した六郎太が、すぐさま攻勢に転じるのは、カタルシスがある。カイジ2期(シリーズ構成・脚本)5話も、いじめに耐えたカイジが、大槻に敢然と立ち向かう。

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7~8話は、石原や佐々木(少年院の医師)に殺されかけている六郎太を救出して脱走させるべく皆が動き、何とか六郎太+3名が脱走に成功。カイジ2期(シリーズ構成・脚本)7~8話では、カイジが大槻を叩きのめすことに成功する。どちらも盛り上げどころ。

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9話では、脱走中の真理雄が初めてボクシングの闇試合に挑み、敗北。
舞台が変わったのは、カイジ2期(シリーズ構成・脚本)9話も同じ(地下から出て、『沼』編へ)。高屋敷氏のシリーズ構成は、9話が大きな節目になっていることが多い。

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10話は、六郎太の指導のもと、真理雄が再び試合に挑むことに。
脱走組は隠れ家で幸せな日々を過ごすも、石原・佐々木の魔の手が迫る。11話では、六郎太と石原の決闘が行われる。このあたりの話の圧縮具合は圧巻。密度の濃い構成も、高屋敷氏は得意とする。

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1クールの節目である12話、遂に六郎太が死んでしまう。ここを12話に持ってくるために、色々な計算をしていたことが窺える。すぐさま後半で、シャバに出た6人が復讐を誓うのも、色々と見る側の心情を配慮したものとなっている。

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13話は総集編。14話にて二舎六房の六人は復讐を完遂する(石原は既に廃人となっていたが、佐々木は、皆の作戦により富と名誉を失う)。
人殺しにならずに済んだ真理雄の上に虹が出現し(アニメオリジナル)、六郎太が見守っているのがわかる構成。

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15~16話では、真理雄の恋や、暴力事件で警察に捕まった真理雄を皆で助ける様が描かれる。「俺達は、二舎六房の七人」と昇が誇らしげに言うのも、高屋敷氏的テーマ「自分とは何か」「仲間がいるから自分がいる、自分がいるから仲間がいる」に絡まって行く。

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17話では、真理雄・龍次(二舎六房の一人。頭脳派)・丈の、それぞれの「生と性」が描かれる。この話の密度の濃さも凄く、これが22分前後に収まっているのが驚異的。詳しくは当ブログの、17話についての記事を参照してほしい:

http://makimogpfb2.hatenablog.com/entry/2019/08/11/140022

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18~19話では、歌手となった丈のピンチを皆が救う。
芸能プロの社長から見放された丈だったが、彼は妹と奇跡の再会を果たし、再び歌手を目指す事を誓う。
こうして、丈は「自分の道」を決める(高屋敷氏的テーマ)。

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20話では万作(二舎六房の一人。巨漢)が、自分は何をすべきか思い悩む。これもまた、高屋敷氏的テーマ「自分とは何か」にはまっている。色々あって、彼はプロレスラーの「道」を行くことになり、皆は笑顔になる。「笑顔」も、高屋敷氏は重視する。

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2122話では、法律家を目指している龍次が恋に溺れて「道」に迷うも、仲間の「真の愛」に救われる。また、朽ちていたはずの木が芽吹いているのを見て、生きる気力を取り戻す。龍次が恋した相手は、他の男と心中しており、生と死が対比される。

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23~25話では、昇が原爆の後遺症に翻弄される(幸い、大事には至らず)も、杉という老人に導かれて良心的低金利の金貸し業を始め、米軍将校に見捨てられたリリィ(元パンパン)を救う。彼もまた、「道」を見つけたと言える。

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26話(最終回)、右拳を大手術で治した真理雄はプロボクサーとなってデビュー戦を制す。彼もまた、「六郎太の夢を引き継ぐ」という「道」に入る。
天気雨(アニメオリジナル)と虹が六郎太を連れてくる。ここでも、高屋敷氏が得意とする、「天」の活躍が見られる。

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  • まとめ

どん底からのスタートであった二舎六房の面々は、六郎太の導きもあり「自己」を確立していき、後半になると「二舎六房の一人」である事に誇りを持つようになるわけで、高屋敷氏的テーマ「自分とは何か」が表れている。

年代が近く、スタッフが一部共通することもあり、どうしてもカイジ2期(シリーズ構成・脚本)と重なる(本作のすぐ後がカイジ2期)。それにしても、話数単位でシンクロしてくるのは不思議。どちらも高屋敷氏シリーズ構成である事も、影響しているのかもしれない。

1クールの節目・12話に六郎太の死を持ってくる手腕も流石。こういった技術は、F-エフ-(シリーズ構成・全話脚本)やアカギ・カイジ(シリーズ構成・脚本)、グラゼニ(シリーズ構成・全話脚本)でもフルに使われており、とにかく感心しきり。

復讐を果たした後、二舎六房の面々は「自分の道」に入っていく。これもまた、数々の作品で高屋敷氏が入れてきたテーマ「自分で決めた道を行け」が出ている。
F-エフ-(シリーズ構成・全話脚本)では、「自分の思う通りに生きろ」という直球のアニメオリジナル台詞がある。

最終回、満を持して真理雄が「自分の道」を行く。最終回冒頭のアニメオリジナルシーンで、真理雄の行く先を太陽が照らすのは意味深。

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ここ含め、太陽と月は全知全能の存在として、全ての事象を見守る(高屋敷氏の大きな特徴)。

F-エフ-*1の軍馬はレース、カイジは勝負の世界、グラゼニ*2の夏之介はプロ野球、本作の真理雄は六郎太の夢を継ぐ道を行く(いずれも高屋敷氏シリーズ構成・脚本)。こういった、確固たる「道」を行く者のかっこよさも、高屋敷氏は描く。

そして本作の持ち味は、何といってもラストシーンの美しさ。原作第二章完結シーンの美しさを、良アレンジを交えて見事に表現した。

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ラストも、原作通りだが「道」に関する言葉が出る。(真に)生きるとはどういう事かを、見る者の心に訴えかけてくる。

六郎太の言葉「幸せにならずに、なんの人生だ」と、最後に出現する虹のために全てのストーリーがあるかのような構成も見事。これはワンダービートS最終回(脚本)やグラゼニ(シリーズ構成・全話脚本)の最終回でも見られる要素( 詳しくは: https://min.togetter.com/H1sN5uJ )。こういった所も計算高い

高屋敷氏は、キャラクターの掘り下げ、テーマの提示、どこをどう盛り上げるか、最後にどう締め括るか…などの「計算」が巧み。本作でも存分にそれが見られるほか、カイジ2期(シリーズ構成・脚本)に繋がる要素も多い。心に響く名作だったので、広く知られてほしい(レンタルや、色々な配信サービスで視聴可能)。