カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

ガンバの冒険22話脚本:勇気の源

アニメ・ガンバの冒険は、斎藤惇夫氏の児童小説をアニメ化した作品。凶悪なイタチ・ノロイと戦うべく立ち上がったガンバ達(ネズミ)の冒険を描く。監督は出崎統氏。今回の演出は竹内啓雄氏で、脚本が高屋敷英夫氏。

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当ブログの、(本記事を含めた)ガンバの冒険の記事一覧:

http://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E3%82%AC%E3%83%B3%E3%83%90%E3%81%AE%E5%86%92%E9%99%BA

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  • 今回の話:

ノロイ(島を支配する凶悪なイタチ)と戦うべく、ガンバ達は地元ネズミ達と共に火山の火口付近に陣を張る。
そんな折、以前出会った一郎(高倉に住みついているネズミ)が有志15匹と共に、米俵を持って来てくれる。

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ガクシャ(頭脳派)は、対ノロイ(島を支配する凶悪なイタチ)防衛線として、砦を強化する。砦には色々なギミックがあるのだが、高屋敷氏は凝ったギミックが好きなようで、忍者マン一平(監督・脚本・コンテ)やルパン三世2nd(演出/コンテ)にも、その要素は見られる。

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ガンバ・ヨイショ(元船乗り)・イカサマ(博徒)・ボーボ(ガンバの親友)は、食糧と武器を調達すべく人里に行くことに。道中、シオジ(ガンバの仲間・忠太の姉)に会ったガンバはデレデレする。子供っぽいアプローチは、F-エフ-・グラゼニワンダービートS(脚本)にもある。

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色々危険な目に遭いながらも人里に入ったガンバ達は、雑貨屋で食糧と武器を得る。
高屋敷氏は食べ物に並々ならぬ拘りがある。元祖天才バカボン(演出/コンテ)、1980年版鉄腕アトムグラゼニMASTERキートン(脚本)と比較。

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砦に戻る途中、ノロイの手下達に襲われたガンバ達は、せっかくの食糧を失ってしまう。そこへ、以前出会った高倉ネズミの一郎と、有志15匹が米俵を持ってやって来る。
一郎は真の勇気について考えた結果、参戦を決意したと言う。
カイジ(脚本)でも、カイジや仲間達が勇気を振り絞る。

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一郎達と米俵を運んでくれたツブリ(以前ガンバ達に協力した、オオミズナギドリの群れのリーダー)達もまた、対ノロイ戦への参加を表明。頼りになる助っ人キャラは、蒼天航路(脚本)の許チョ忍者戦士飛影(脚本)のダミアンなど、印象に残る。

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砦まで米俵を運ぶため、イカサマは馬車を調達してくる。出崎統監督は相当な馬好きなことが窺えるのだが、高屋敷氏も好きなのでは…と考えられる。おにいさまへ…あしたのジョー2(脚本)と比較(どちらも監督は出崎統氏)。

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馬車を追いかけてくるノロイと手下達を振り切るため、一郎ら高倉ネズミ達は馬車を降りて戦う事を決意する。自己を犠牲にしたり、仲間を助けるために一致団結したりする仲間は、色々な作品で強調される。カイジ2期・RAINBOW-二舎六房の七人-(脚本)でも、それは色濃い。

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一郎と、その仲間達は勇敢にノロイの手下達と戦うが、一郎以外全滅してしまう。仲間の非業の死は、カイジ(脚本)や宝島(演出)ほか、心に残るものが多い。

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いてもたってもいられず自らも馬車を降りたガンバは、負傷した一郎を助け起こす。死屍累々の状況を見ているような太陽が映る。生と死を司るような太陽の描写は頻出。宝島(演出)、F-エフ-(脚本)と比較。

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ノロイ達の襲撃により馬車を失ったガンバ達が難儀していると、仲間を募る目印を見て駆けつけた、島に住む多くのネズミ達が加勢してくれる。物理的・心理的サポートをするモブキャラは、カイジ(脚本)ほか目立つ。

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加勢に入ったネズミ達が米俵を運ぶ間、囮となったガンバ達はノロイを挑発。
高屋敷氏は、命を懸けるのを厭わない仲間達の勇敢さや温かさを前面に出す傾向がある。RAINBOW-二舎六房の七人-・はだしのゲン2(脚本)と比較。

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囮作戦の最中、ガンバはノロイの手下にやられて負傷してしまう。討死した15匹のためにも、やられるわけには行かない…とガンバは立ち上がる。
カイジ(脚本)にて、殺された9人の仲間達を想い、利根川に立ち向かうカイジが重なる。

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「やられてたまるか、やられてたまるか…」と何度も言いながら、ガンバはノロイに向かって行く。こういった台詞の連呼は、高屋敷氏の脚本作によくある。カイジ2期(脚本)でも、「一条一条一条…」という強烈な連呼モノローグがある。

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イカサマの機転によりガンバは助かり、他の面々も命からがら砦に辿り着く。また、米俵も砦に運び込めた。
夜、15匹を弔う皆を月が見守る。意味深な月は頻出。F-エフ-・RAINBOW-二舎六房の七人-・おにいさまへ…(脚本)、空手バカ一代(演出)と比較。

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討死した15匹のためにも、ガンバは打倒ノロイを誓うのだった。
死者の無念や思いを受け止める主人公を強く表現するのは、カイジ・F-エフ-(脚本)やベルサイユのばら(コンテ)など、様々な作品で確認できる。

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  • まとめ

本作18話(高屋敷氏脚本)に引き続き、高倉ネズミ達について考えさせられる。彼らは長い間、ノロイを恐れて高倉に引きこもっていたわけだが、ガンバ達に諭され外に出る(18話)。そして今回、15匹が討死。それの是非は視聴者に任されている。

一郎は、真の勇気とは何かを考えて参戦を決意した。この「勇気」、劇場版スーパーマリオ(脚本)にも、「勇気とは真の愛から生まれるもの」という台詞があり、実に興味深い。真の愛と勇気については、RAINBOW-二舎六房の七人-(シリーズ構成・脚本)*1でも強烈に描かれていた。

高倉ネズミ達は、劇場版スーパーマリオ(脚本)で言うところの「真の愛から生まれた勇気」が芽生えた結果、ガンバ達に協力して散った。高倉に引きこもり、有り余る食糧で太っていた彼ら(18話)は、ガンバ達と会ったことで意識を改革し「真に生きた」とも言える。

18話についての特集でも書いたが、「真に生きること」は高屋敷氏がよく提示するテーマの一つ。
カイジ(シリーズ構成・脚本)では、今まで真に生きていないとして、利根川カイジ達に説教する。それを受けデスゲームに参加したカイジ達だったが、9名が死んでしまう。

カイジ(シリーズ構成・脚本)では、鉄骨渡りの最中にカイジと石田・佐原の間に「真の愛」が芽生え、三者がそれぞれの「勇気」を出す。一方高倉ネズミ達は、真に生きるため、そして友情や信念のために勇気を振り絞る。

結果、カイジ(シリーズ構成・脚本)では石田・佐原ほか9名が死ぬが、彼等の無念や勇気は、カイジの心に強く刻まれた。
今回は、15匹の高倉ネズミの死がガンバ達の心を揺さぶった。つまり死したとしても、高倉ネズミや鉄骨渡り犠牲者は、ガンバ達やカイジに「愛された」。

つまり高倉ネズミ達は、臆病で醜い生き方をするより、勇気を持って「真に生き」、死しても「愛される」生き方を選んだのかもしれない。この問題はカイジ(特に1期)のシリーズ構成・脚本でも大いに活かされたと言っていい。

どう「生き」、どう「死ぬ」か。これは本作やカイジだけでなく、多くの高屋敷氏担当作で見受けられるもの(特にシリーズ構成作)。劇場版スーパーマリオ(脚本)での「勇気」と「真の愛」の関係といい、これといい、「愛される生き方/死に方」について考えさせられた。

今回で、ガンバの冒険における高屋敷氏の脚本回は最後。ガンバ達とノロイ達の戦いは苛烈で、その決着は是非見て欲しい(配信やレンタル、セルDVD等で見られる)。スタッフも豪華で、アニメ史を考える上でも面白いし、広くオススメできる作品と言える。

*1:当ブログの、RAINBOW-二舎六房の七人-についての記事一覧: http://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E4%BA%8C%E8%88%8E%E5%85%AD%E6%88%BF%E3%81%AE%E4%B8%83%E4%BA%BA