カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

ワンナウツ13話脚本:テーマへの伏線

アニメ・ONE OUTS(ワンナウツ)は、甲斐谷忍氏原作の漫画をアニメ化した作品。謎めいたピッチャー・渡久地東亜の活躍を描く。監督は佐藤雄三氏(カイジ監督)で、シリーズ構成が高屋敷英夫氏。
今回の演出/コンテは細田雅弘氏で、脚本が高屋敷氏。

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  • 今回の話:

リカオンズ(謎めいた投手・渡久地が所属する球団)対、知将・城丘率いる球団・バガブーズの3戦目。ジョンソン(バガブーズの超俊足野手)を封じる策を次々と打つ渡久地に、城丘は対抗する。

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1勝1敗で迎えた、対バガブーズ(知将・城丘率いる球団)3戦目。

ジョンソン(バガブーズの超俊足野手)を最大限活かすために左打者を並べてきた事について、リカオンズ(謎めいた投手・渡久地の属する球団)の面々は話し合う。
かなりアニメオリジナルが入っており、アニメでは児島(リカオンズの天才打者)も会話に入っている。また、シリーズ通して今井や藤田(リカオンズの選手)が目立つ。高屋敷氏は、脇役を引き立たせる特徴がある。

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シリーズ全体で、アニメオリジナルで児島をよく登場させるのは、かなり意図的。
シリーズのラストを締め括る児島と渡久地の会話は非常に重要なため、それに深みを持たせるためと思われる。高屋敷氏のシリーズ構成は、こうした仕掛けだらけになっている。

セーフティバントを成功させたジョンソンは、更に盗塁して2塁へ。出口(リカオンズ捕手)は頭の中で理論を組み立て、3塁でジョンソンを刺せると見通しを立てる。ここは原作の詳細な解説を簡潔にまとめている。高屋敷氏はまとめ方が上手く、それはグラゼニ(シリーズ構成・全話脚本)でも発揮されている。

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出口の予想に反し、打席の木ノ内(バガブーズ野手)はバントをするふりをし、その間にジョンソンは3塁を陥れる。ここで渡久地が登板。木ノ内は渡久地を煽るが、自信満々の渡久地に狼狽。テンポや雰囲気が、カイジ2期7話(脚本)と重なる。

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木ノ内はタイムを取って長考し、自分なりの考えをまとめて渡久地に挑む。ここも、カイジ2期7話(脚本)にて、長考の末に(論理的に)自信をつけた大槻と同じようなテンポ。監督(佐藤雄三氏)も共通するので、シンクロ度合いが凄い。

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木ノ内の考えと大きく異なり、渡久地の投げた球は、ど真ん中ストレート。結果ピッチャーフライとなり、渡久地は球を3塁に送ってジョンソンもアウト。相手の予想を上回って主人公が勝つ流れや構成も、カイジ2期7話(脚本)と非常に似てくるのが面白い。

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渡久地を見守る児島の姿がアニメオリジナルで差し挟まれており、これもカイジ2期7話(脚本)と共通するものがある。前述の通り、児島は重要キャラ。シリーズ全体の軸となるキャラを端々で印象づける手法を、高屋敷氏はよく使う。

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負けるべくして負けた木ノ内は、「正真正銘の勝負師」と渡久地を恐れる。ここも、カイジ2期(脚本)で大敗北した大槻と、覚醒したカイジの恐ろしさの対比に似る。

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ここは、原作だと「正真正銘の悪魔」だが、アニメでは「正真正銘の勝負師」に変更されている。これは、アニメのシリーズ構成上「勝負」という言葉が非常に重要であるためと考えられる。
F-エフ-(シリーズ構成・全話脚本)でも、全体の構成を考慮して、重要な台詞が大きく変更されている。

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その後、1塁守備についた(ピンチの時以外は1塁守備)渡久地はエラーを連発。それを見た北野(バガブーズ野手)は呑気に喜ぶ。北野も原作よりキャラが濃い。あんみつ姫(脚本)、宝島(演出)、ルパン三世2nd(脚本)ほか、とにかく脇役が印象深い。

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城丘は、渡久地がジョンソンの盗塁を阻止するために意図的にエラーし、試合をコントロールしていることを見抜く(前に走者がいては、ジョンソンは盗塁できない)。頭が切れる相手と、恐ろしさを秘める主人公の構図は、カイジ(シリーズ構成・脚本)でも強調されている。

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回は進み、城丘は1塁のジョンソンと2塁の深山(バガブーズ野手)にダブルスチールを指示。鈍足の深山だが、ここで深山を刺すとジョンソン有利になる事に気付いた出口は、刺すのを断念。原作では出口による長い解説が入るが、アニメではナレーションで簡潔にまとめられている。ここも、まとめ方が上手い。そして、満を持して渡久地が登板するのだった。

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  • まとめ

アニメオリジナルで、ちょくちょく児島を登場させるのが前々から気になっていたのだが、前述の通り、シリーズ最終回での児島と渡久地の会話を考えると合点が行く。高屋敷氏の、全体を見渡した計算高いシリーズ構成には本当に感服する。

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同様に重要なのが、原作の「正真正銘の悪魔」を「正真正銘の勝負師」に変更した点。先に述べた通り、シリーズ全体で「勝負」が重要なキーワードであるためと考えられ、こちらの構成計算も凄い。

常々思うが、高屋敷氏は原作のどこを拾ってどこを捨てるか、何を追加するかのセンスが抜群。
毎度毎度、原作つきアニメは、のんべんだらりと原作をなぞるだけでは駄目なことに気づかされる。これは重要な事だと思う。

突き詰めれば、各話各話で、ただ原作の通り話を運ぶことに終始していては、アニメのシリーズ全体でのテーマが見えて来ない。そうなってしまっては、味気のないアニメ作品になる恐れがある。ここは、アニメオリジナルを入れてでもテーマやキーワード、キーキャラを明確にする事が必要なのではないだろうか。

F-エフ-・グラゼニ・RAINBOW-二舎六房の七人-(いずれもシリーズ構成・脚本)も、何を軸にするかがしっかりしている構成で、「アニメはアニメで、この終わり方で正解」と感じさせる作りになっており、その手腕に驚かされる。

アニメでのテーマを組み込むといっても、いきなり出しても強引なわけで、高屋敷氏はテーマへの「伏線」を張ることが多い。本作では、児島の存在を引き立たせることだったり、要所要所で出る「勝負」という言葉の重みだったりが、それに当たる。

また、木ノ内と渡久地の対決は、カイジ2期7話(脚本)と比較すると面白い。テンポや雰囲気、盛り上げ方、話運びのリズムなどが同じで、佐藤雄三監督と高屋敷氏の連携の凄さが感じられる(両氏はアカギ・カイジ・本作・カイジ2期でタッグを組んでいる)。

ちなみに、カイジ2期7話は高屋敷氏の脚本作の中でも屈指の出来だと私は思っているのだが、対戦相手が思考の迷路に入ってしまう所をうまく表現するなどの共通点が発見でき、収穫の多い回だった。

あと小ネタだが、解説者の名前が、原作では「金田一」、アニメでは「蟹田」。いずれも、最近亡くなられた球界レジェンド・金田正一(通算400勝投手)氏をもじったものになっている。