カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。ツイッターアカウントは@makimogpfbです。

ワンナウツ16話脚本:構成の肝

アニメ・ONE OUTS(ワンナウツ)は、甲斐谷忍氏原作の漫画をアニメ化した作品。謎めいたピッチャー・渡久地東亜の活躍を描く。監督は佐藤雄三氏(カイジ監督)で、シリーズ構成が高屋敷英夫氏。
今回のコンテは坂田純一氏で、演出が矢嶋哲生氏。そして脚本が高屋敷氏。

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  • 今回の話:

渡久地(謎めいた投手)は、今度対戦するブルーマーズ(球団名)がイカサマを巧妙かつ組織的に行っていることを見抜き、対戦を楽しみにする。
そしてリカオンズ(渡久地の属する球団)対ブルーマーズの3連戦が始まる…。

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バガブーズ(知将・城丘率いる球団)に勝利したリカオンズ(謎めいた投手・渡久地の属する球団)の面々は、酒を飲みつつ試合を振り返る。地味に今井(リカオンズ遊撃手)が目立つ。
高屋敷氏は脇役を目立たせる。らんま1/2(脚本)でも強烈だった。

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渡久地は、根本的にジョンソン(バガブーズの超俊足野手)には弱点があったと解説し、世界最速の陸上選手・ケリガンについて調べた事を語る。原作ではケリガン自身の長い解説が入るが、アニメではナレーションで上手くまとめられている。まとめの巧みさは、高屋敷氏の長所の一つ。

ケリガンについての解説が終わると、渡久地はグラスを置く。グラスはじめ、こういった「物」の「間」は数多い。おにいさまへ…グラゼニ・RAINBOW-二舎六房の七人-(脚本)と比較。

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つまり渡久地は、ジョンソンが筋肉を使う度に速度が落ちるのを上手く使ったのだった。

その後、リカオンズの面々は深酒をして眠りこける。原作通りだが、高屋敷氏の担当作には、キャラが無邪気に眠りこける場面が多々ある。ど根性ガエル(演出)、ワンダービートS・F-エフ-(脚本)と比較。

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児島(リカオンズの天才ベテラン打者)は渡久地と話し込む。渡久地は児島に、勝負というものと本気で向き合っているのかと問い、そんな程度ではぬるい、ペナントを獲れないと主張する。この会話は原作から改変され、シリーズ構成上、非常に重要なものになっている。高屋敷氏の構成の緻密さが窺える。

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後日、ホームでのリカオンズ対フィンガース(球団名)との2試合は雨で流れ、その間に三原(リカオンズ監督)は、指示を無視したことで彩川(リカオンズオーナー)から叱咤される。三原は、指をもじもじさせる。こういった仕草は度々見られる。カイジ2期(脚本)、宝島・エースをねらえ!(演出)と比較。

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彩川は三原に、今度のブルーマーズ(球団名)との3連戦では自由に采配していいが、勝ち越しできない場合は年俸を50%カットすると宣言する。
原作では、この場面はずっと後に回想として出てくる(アニメでは時間順)。器用な時系列操作は高屋敷氏の十八番。

一方、ブルーマーズとバガブーズの試合では、ジョンソンが負傷。それをテレビで見ていた渡久地と児島は、ブルーマーズが故意にジョンソンを潰したのだと悟り、気分が高揚した渡久地は缶を握り潰す。
手による感情表現は頻出。グラゼニおにいさまへ…(脚本)と比較。

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彩川は、とある人物と会食し、渡久地潰しを画策する。ここは、原作では大分後で、状況設定も異なる。これも高屋敷氏が得意とする、大胆な時系列操作。
ここでも、意味深にグラスが映る。RAINBOW-二舎六房の七人-・F-エフ-・忍者戦士飛影(脚本)と比較。

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そしてリカオンズの面々は、ブルーマーズとの試合に備えてミーティングをする。
色々と、リカオンズの選手達の無邪気さと幼さが強調されている。高屋敷氏は、キャラの幼さを引き出す。これは初期の、ど根性ガエル(演出)から見られる。

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ミーティングにて、ブルーマーズの天堂監督についての解説があるが、新聞記事を絡めるのは、しばしば見られる。エースをねらえ!(演出)、1980年版鉄腕アトムグラゼニ(脚本)と比較。

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ナックルを得意とするブルーマーズ投手・ウィリアムスの情報を受けて、今井と出口(リカオンズ捕手)はナックルの打ちにくさを渡久地に説明する。ここも幼さの強調が見られる。これは、じゃりン子チエはだしのゲン2(脚本)でも目を引く。つまり年齢問わず子供っぽくなる。

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渡久地は居残り、ブルーマーズの動画を見て研究する。原作通りなのだが、映像やスライドを見て研究や説明を行う場面は、他の担当作にもあり、重なるものがある。エースをねらえ!(演出)、ルパン三世2nd(演出/コンテ)と比較。

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渡久地は児島に、ブルーマーズは組織的かつ巧妙なイカサマを行っていると語り、それを面白がる。児島のショットが色々あり、児島がシリーズ全体のキーキャラの一人で、渡久地との関係が強い事を印象づけている。このあたりも、高屋敷氏のシリーズ構成の妙を感じる。

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現在、渡久地とのワンナウツ契約(1アウト毎に渡久地に+500万円、1失点毎に渡久地が-5000万円)で42億円負け込んでいる彩川は、負けを消す方法のヒントが契約書にある…と及川(リカオンズ広報部長)に語る。ここも原作と場面配置が異なり、それが上手い。

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試合が始まり、進行のナレーションが入る。ボールを取るグローブのアップがあるのだが、グラゼニでも似たような場面がある。その他にも、グラゼニではグローブとボールを効果的に使っているのが目を引く。

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リカオンズは、3回の時点で9対2と大量リードし、リカオンズの面々は大喜び。
演出作のみならず、不思議だが(絵に関与できない)脚本作でも喜び方が幼く可愛くなる。怪物くん・1980年版鉄腕アトム(脚本)と比較。

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敵はイカサマをしてくるかもしれないから油断するなと児島は言うが、皆はそれが信じられず。児島は頭を抱える。原作通りだが強調されており、そして頭を抱える仕草は色々な作品に見られる。ワンダービートSあしたのジョー2・カイジ2期(脚本)と比較。

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児島の危惧が的中したのか、ブルーマーズは猛追撃を開始。
ロドリゴ(ブルーマーズ主砲)にHRを打たれて茫然とする出口の背中が映る。背中を印象付けるのは、要所要所に見られる。DAYS・グラゼニカイジ(脚本)と比較。

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そして8回裏、再びロドリゴの打席。序盤、出口はロドリゴを歩かせる方針だったが、B3-S1の時点で作戦変更し、内角高めでストライクを取ることにする。捕手の思考は、グラゼニ(脚本)でもじっくり描写された。

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だが、出口のサインを読んだかのように、ロドリゴは同点HRを放つ。
それを見た彩川は面白がり、三原は「やばい…やばい…やばいよ~」と動揺するのだった。この三原のモノローグはアニメオリジナル。
癖なのか、リズムを取るような連呼は、高屋敷氏担当作で多々確認できる。

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  • まとめ

今回、最も重要なのは渡久地と児島の会話。原作を大幅にアレンジして、アニメ版ラストへの伏線にしている。
本作は、序盤・中盤・終盤…と、「勝負」という言葉がキーになっており、シリーズ構成における、高屋敷氏の非常に緻密な計算が感じられる。

また、驚かされたのは時系列アレンジ。前述の通り、彩川と謎の人物の会話は、原作では大分後。こういった、原作では大分後に出る場面を前倒しで持ってくる技術は、RAINBOW-二舎六房の七人-やグラゼニのシリーズ構成でも炸裂していた。

この事から考えても、原作を単純に順序通りアニメ化すればいいわけではない事が見えてくる。高屋敷氏は、原作をアニメの尺に落とし込む事に長けるが、それは回ごとだけでなく、シリーズ全体にも言える。

つまり、アニメ全体で何を描いていくかの軸がしっかりしている。
児島の出番を原作より増やしたり、印象づけたりしているのは、その一環。このような「テーマに関する伏線」の設置も、実に上手い。

ワンナウツ」という作品は、原作もアニメも、金銭的・心理的駆け引きが楽しめるが、それだけではないウェットな部分がある。それが、原作ではじっくりと、アニメではしっかりとした計算に基づいて描かれている。決して「野球とカネ」だけの話ではない。

これはカイジグラゼニのシリーズ構成・脚本にも言えることで、カイジの場合は「カネとデスゲーム」だけの作品ではないし、グラゼニも「野球とカネ」だけを描いているわけではない。どちらも胸の奥底に響く、熱くウェットなものが根幹にある。

勿論、本作・カイジグラゼニの、テクニカルな側面は絶賛されるべきものだが、「それだけではない何か」があるからこそ名作たりえている。そこをアニメのシリーズ全体で引き出せるかどうかも肝なのではないだろうか。

恐ろしいことに、高屋敷氏はこういった「根幹にあるもの」を引き出すだけでなく、アニメのシリーズに収めるために「作り出す」ことがある。これはF-エフ-やグラゼニ(いずれもシリーズ構成・全話脚本)で顕著で、アニメ独自の最終回・テーマを出せている。

高屋敷氏は、原作の一番の肝をピックアップし(アニメ独自の追加や創出もある)、そのための構成を練ることに秀でていると言える。今回は、そういった「肝」の一部を見せている、非常に重要な回と言える。