カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

ワンナウツ17話脚本:キャラの人間味

アニメ・ONE OUTS(ワンナウツ)は、甲斐谷忍氏原作の漫画をアニメ化した作品。謎めいたピッチャー・渡久地東亜の活躍を描く。監督は佐藤雄三氏(カイジ監督)で、シリーズ構成が高屋敷英夫氏。
今回のコンテは横山彰利氏で、演出が佐々木奈々子氏。そして脚本が高屋敷氏。

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  • 今回の話:

巨砲・ロドリゴや、強力なリリーフ投手のウィリアムスを擁する球団・ブルーマーズに大逆転され、リカオンズ(謎めいた投手・渡久地が属する球団)は3連戦の初戦を落とす。渡久地は、ブルーマーズが行っているイカサマを見抜いていき、リカオンズの皆に発破をかける。

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ブルーマーズ(球団名)に追い付かれたリカオンズ(謎めいた投手・渡久地の属する球団)は、敵軍の抑えの切り札・ウィリアムスのナックルに翻弄され、今井(リカオンズ遊撃手)も三振。今井は原作より目立ち、モノローグがアニメオリジナルで追加されている。高屋敷氏は脇役やモブを引き立たせる傾向があり、それはF-エフ-・ガンバの冒険(脚本)にも見られる。

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児島(リカオンズのベテラン天才打者)は、次に来るウィリアムスの球種を読むが、それでもナックルがえぐく、打てずに終わる。それを見て、出口(リカオンズ捕手)や今井は戦慄する。ここでも、アニメオリジナルで今井(下記画像の奥側)の台詞が追加されており、原作より少し目立っている。

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試合は同点のまま9回裏に。三原(リカオンズ監督)は、延長戦になれば、渡久地を温存している自軍が有利だと考える。三原のモノローグはアレンジされており、愛嬌が付加されている。可愛い中高年キャラは、宝島(演出)やルパン三世2nd(脚本)ほか、多くの作品で目立つ。

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出口の熟考虚しく、ブルーマーズはヒットを重ねて無死1・2塁とする。この3連戦を負け越したら年俸50%カットだと彩川(リカオンズオーナー)から言われている三原は、「下位だぞ?抑えろよ~抑えてくれ~頼む!」と焦る(アニメオリジナル)。似たような、連呼を絡めた言い回しは他作品にも見られるので、高屋敷氏の癖かもしれない。

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そしてブルーマーズは、まるで出口のサインを読んだかのようなヒットでサヨナラ勝ちする。三原はショックで「あっちょんぶりけ」(手塚治虫氏漫画のリアクション)と叫ぶ(アニメオリジナル)。同じようなリアクションはグラゼニ(脚本)にもアニメオリジナルで入っており、気になるところ。

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試合後、リカオンズの面々は意気消沈する。渡久地が使っている灰皿が映るが、状況と連動する煙草の「間」はよく使われる。F-エフ-・めぞん一刻・アカギ(脚本)と比較。

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渡久地は、ウィリアムスのナックルはインチキなので誰でも投げられると言い、今井と藤田(三塁手)は驚く。二人の台詞がアニメオリジナルで追加されており、愛嬌がある。おにいさまへ…グラゼニ(脚本)でも、色々と脇役に味がある。

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渡久地は、インチキナックルの実践をするから外に出るよう、皆を促す。
ここでも、煙草を握りつぶす手と、灰皿の「間」がある。とにかく煙草を使う表現は多い。あしたのジョー2・カイジ2期・めぞん一刻(脚本)と比較。

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「俺が見せてやる。奴の魔球の正体をよ」と渡久地は宣言。この台詞は、原作ではもう少し後。アニメでは、Aパートを綺麗に終わらせるために、前倒しでこれを持ってきた上、少しアレンジしている。高屋敷氏は、パート区切りや次回へのヒキが上手い。

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外に出た皆の前で、渡久地は「インチキナックル」を投げてみせ、そしてウィリアムスの投球の不自然さを解説する。
それを聞く児島は悔しさを滲ませながら拳を握り、渡久地はそれを見る(アニメオリジナル)。児島と渡久地の関係は、アニメのシリーズ構成上、非常に重視されている。

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渡久地は、釘が刺しこまれた球を見せ、重心がずれた球なら揺れると話す。今井と藤田は、こんな球は試合に使えないだろうと呑気に反論するが、児島に一喝される。
今井と藤田の台詞はアニメオリジナルで、ここでも二人が目立つ。おにいさまへ…(脚本)でも、脇キャラが目立っていた。

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ブルーマーズは、実際は注射器などで球に細工し、非常に巧妙にイカサマをしているのだろう…という渡久地の話を聞き、出口達はウィリアムスをぶん殴ってでもイカサマを吐かせる…と怒りをあらわにする。ここも今井・藤田(画像下段)が原作より目立つ。

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暴力に訴えても、こちらが不利になるだけだと渡久地は出口達を制す。今井は怯み、藤田は、お前だって腹立つだろう…と渡久地に言う。やはりここでも、今井と藤田が原作より目立つ。

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どちらかといえば、いいように騙されたリカオンズ側に腹が立つ…と渡久地は冷ややかに言い放ち、イカサマだろうがなんだろうが、一旦通ってしまえば正義なのだと説く。原作通りだが、このあたりは長年、善悪は明確に区別できない事を強調してきた高屋敷氏のポリシーとマッチ。

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「いい加減目を覚まさねーか」と、渡久地は皆を一喝する。背中を見せるのはアニメオリジナル(原作は表情を見せている)。意味深に背中を見せる描写は、要所要所にある。グラゼニ(脚本)、宝島(演出)、おにいさまへ…(脚本)と比較。

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舐められているから、イカサマをやられるのだ…と渡久地は皆に発破をかける(その証拠に、優れた動体視力を持つマリナーズの高見には、このイカサマは敢行されない)。飛行機が飛ぶ描写があるが、出崎統氏がよく使った演出で、高屋敷氏担当作にも見られる。ガンバの冒険おにいさまへ…あしたのジョー2(脚本)と比較。比較対象は、いずれも出崎統監督作品。

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出口は、自分達もブルーマーズに(騙し合いで)一泡ふかせたいと心情を吐露し、渡久地は煙草に火をつける。原作通りだが、ここも煙草表現の強調。RAINBOW-二舎六房の七人-・F-エフ-・めぞん一刻(脚本)と比較。

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騙し合いとは、相手の心に剣を突き立てることであり、勝つには気を緩めないこと、隙を作らないことが肝心だと渡久地は説く。それができれば自分がブルーマーズに「剣を突き立てる」と宣言するのだった。
集団が決起する瞬間は、カイジ・RAINBOW-二舎六房の七人-(脚本)など、色々な作品で印象に残る。

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  • まとめ

まず重要なのは、悔しさをにじませる児島を見る渡久地…というアニメオリジナル場面。
前回16話の、バーでの児島と渡久地の会話に引き続き、シリーズ全体の軸となる二人の関係を引き立たせている。

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児島は、渡久地をプロ野球に引き込んだ張本人である。一方渡久地は、児島との勝負の結果を厳粛に受け止め、一貫して(児島が渡久地に頼んだ)リカオンズ優勝を現実にするべく動いている。
アニメでは、ここを視聴者が忘れないように構成されている。

こういった主軸キャラをしっかり立たせた上で、今井や藤田といった脇キャラを原作より目立たせている。高屋敷氏の、モブや脇役に対する愛は相当深いのではないか?と、同氏担当作を見る度に思う。

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何故脇キャラを引き立たせるのかといえば、やはり高屋敷氏の野球経験(野球経験者であり、高校野球部の監督も務めた)に依るところが大きいと考えられる。野球は一人ではできないし、各々の役目がはっきりしているからである。

そう考えると、ガンバの冒険(脚本)やRAINBOW-二舎六房の七人-(シリーズ構成・脚本)で見せた、集団の中での個性を捌ききる能力も、野球経験に起因するものなのかもしれないと思えてきた。

野球アニメである本作やグラゼニ(シリーズ構成・全話脚本)は、高屋敷氏の才能の要である「キャラの掘り下げ」を大いに活かせる作品であると言える。実際、本作は直接脚本数が多く、グラゼニに至っては全話脚本である。同氏の意気込みが感じられる。

また、今井や藤田といった脇役だけでなく、レギュラーキャラである出口の掘り下げもぬかりがない。怒ったり、悔しがったり、心情を吐露したりと、色々な面を目立たせ、強調することで、人間としての彼に深みを持たせている。

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キャラの色々な側面を効果的に見せていく技術は、グラゼニ(シリーズ構成・全話脚本)でも使われていて、主人公である夏之介が怒ったり泣いたりする場面を非常に効果的に使っている。今回の場合は、渡久地が(珍しく)皆に熱く発破をかける場面を強調している。

グラゼニ(シリーズ構成・全話脚本)にしろ、本作にしろ、キャラの意外かつ多様な面を見せて「人間味」を持たせていく構成が、高屋敷氏は非常に巧み。感情を爆発させるキャラが多い(渡久地含む)今回は、それが強く表れていた。

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