ワンナウツシリーズ構成:「謎めいた男」を探る
アニメ・ONE OUTS(ワンナウツ)は、甲斐谷忍氏原作の漫画をアニメ化した作品。謎めいたピッチャー・渡久地東亜の活躍を描く。監督は佐藤雄三氏(カイジ監督)で、シリーズ構成・脚本が高屋敷英夫氏。
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http://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E3%83%AF%E3%83%B3%E3%83%8A%E3%82%A6%E3%83%84
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今回は、ワンナウツのシリーズ構成について考察し、本作を総括する。
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まず主張したいのは、高屋敷氏の(実際の)野球経験。
同氏は、ど根性ガエル(演出)、ワンダービートS(脚本)で野球回を担当したほか、野球アニメであるグラゼニのシリーズ構成・全話脚本を担当しており、野球愛が強い。
同氏の野球経験については、以前調べた下記を参照:
https://min.togetter.com/iUQxCbe
とにかく野球を愛する高屋敷氏がシリーズ構成・脚本を務めた本作とグラゼニは、同氏の原点が見られる(同性同士の仲睦まじさや以心伝心、喜び方の可愛さなど)。これらの要素は、アカギやカイジなどにも適用されている。
本作・グラゼニとも投手が主人公で、金が絡んでいるのも面白い。金に関しては、どちらも間違いなくアカギやカイジのシリーズ構成・脚本経験が活かされているほか、古くは宝島(演出)や、空手バカ一代(演出/コンテ)にも見られる要素。
本編のシリーズ構成に目を向けてみると、概ね「3話区切り」になっている。これは、あしたのジョー2最終3話(対ホセ戦)の脚本を担当したことが大きいのではないだろうか。つまり、シリーズの最小単位を3話としている可能性がある。
この「3話区切り」、まず、沖縄での児島(天才打者)と渡久地(主人公)の勝負が3話で終わり、プロ野球編へとシフトする話運びを見ても感じられる。そして凄いのが9話。3の倍数であり、対マリナーズ(作中最強球団)戦決着を描いている(サブタイトルも「決着」)。
この、9話に決着回が来る事の何が凄いかというと、カイジ1・2期(シリーズ構成・脚本)も9話が決着回なのである(1期はエスポワール編、2期は地下編が決着)。
このために、相当な計算が成されていると思う。詳しくは、以前書いた下記を参照:
https://makimogpfb2.hatenablog.com/entry/2019/12/15/134856
更に、この9話が凄いのは、渡久地も、カイジ(シリーズ構成・脚本)9話のカイジも、自分の考えや思いを強く主張している点。性格もジャンルも全然違う二人が重なって見えるのは、(いい意味で)非常に恐ろしい。
それだけ、シリーズ構成が巧みと言える。
また、シリーズ全体を通したサブキャラの配置も上手い。本作の場合は及川(渡久地が属する球団・リカオンズの広報部長)、カイジ1・2期(シリーズ構成・脚本)の場合は石田父子を、物語を見守る者として描写しており、シリーズを支えているものの一つになっている。
サブキャラといえば、今井(リカオンズ遊撃手)と藤田(同・三塁手)にもスポットが当たっていたことを挙げたい。もともと高屋敷氏はモブや脇役への愛が深いため、彼等は非常に目立っていたし、最終回のアニメオリジナル場面では成長も見られ、感慨深い。
レギュラー格である出口(リカオンズ捕手)の掘り下げも見事で、渡久地の指示を実行できる手腕があることや、思考やリードの細やかさが描かれた他、敵軍のイカサマに怒り、悔しい心情を吐露するなど、彼が愛すべき人物である事がわかるようになっている。
一方、憎まれ役でもある彩川(リカオンズオーナー)も、魅力たっぷりなキャラとして上手く表現されている。憎まれ役でも憎めないキャラは、忍者戦士飛影・ルパン三世2nd(脚本)などでも印象深い。そもそも高屋敷氏は、善悪のラインを明確にしない作風。
この「善悪のラインを明確にしない」ポリシーを貫くためなのか、渡久地を評した原作の言葉「悪魔」「悪党」を、アニメでは「勝負師」「冷血漢」に差し替えている。また、本作(アニメ)は「勝負」がキーワードなので、「勝負師」は、そのための改変とも考えられる。
本作のキーワード「勝負」は、序盤・中盤・終盤で、児島と渡久地の関係を通してクローズアップされ、本作を支える柱であることがわかる。この構成は実に見事で、本作がビシッとアニメ作品として完結している要因の一つとなっている。
渡久地は、序盤は「勝負をなめてる」、中盤は「本気で勝負ってモンと向かい合ってるのか」、終盤は「勝負の世界の掟(により、リカオンズを優勝させる)」と口にする。どこまでも彼は「勝負」に対し真っ直ぐ向き合っている男であることがわかる。
テーマとなる「勝負」を絡めた児島と渡久地の関係を前面に出すため、序盤(3話)のクライマックスにて児島が渡久地の手を握る場面を大きく強調しているのも唸る。手による感情表現を高屋敷氏は多用するが、その中でもここは屈指の名場面。
その後も渡久地と児島の関係を強調するための工夫が端々に見られ、アニメオリジナルで児島の場面や感情描写を増やしている。だからこそ中盤・終盤の児島と渡久地の会話が活きる。
いきなりテーマを投げつけないよう、綿密な計算が行われている。
レギュラーや脇役、モブに至るまで、高屋敷氏は「キャラの掘り下げ」が上手いわけであるが、それは勿論、主人公・準主人公にも適用される。原作では長い時間をかけて、アニメでは緻密な計算によって、渡久地と児島が如何なる人物なのかが突き詰められている。
高屋敷氏は、「自分とは何か」をテーマの一つにすることが多々あるが、だからこそキャラの掘り下げが上手いのかもしれない。得体が知れず謎めいたキャラである渡久地とは何なのかを、同氏なりに探ったのではないだろうか。
アニメなりの掘り下げの着地点として、渡久地は「勝負というものと、厳粛に向き合っている男」となっている。グラゼニ(シリーズ構成・全話脚本)では、主人公の夏之介を「好きで選んだ道(プロ野球)を、誇りと夢を持って進む男」としている。
このあたり、本作もグラゼニも原作より少し「熱い」。この「熱さ」の塩梅が、高屋敷氏は絶妙。両作とも、一見ドライに見える原作から、ウェットで熱い部分が上手く抽出されており、結果「同じカテゴリの作品を見ている」と、視聴者が両作を見た時感じるようになっている。
最終回の(アニメオリジナルの)締め方が、本作とグラゼニとで殆ど同じなのも感慨深い。今まで登場したキャラが、主人公を見つめる構図は胸が熱くなる。それもこれも、登場人物全員の「掘り下げ」が完了しているからこそだと思える。
カイジ・ワンナウツ・RAINBOW-二舎六房の七人-・グラゼニ(いずれもシリーズ構成・脚本)とも、状況設定は変化球だが、(アニメでの)テーマは直球。そこには、高屋敷氏の個性と主張も強く表れていると言っていい。
とにかく原作つきにしろアニメオリジナルにしろ、高屋敷氏の担当作(特にシリーズ構成作品)は、最終的に同氏の個性が爆発するようにできている。やはりその技術に脱帽しきり。
本作は間違いなく名作だと言えるし、万人におすすめできる。
レンタルや配信サービスで視聴できるので、是非多くの人に見てもらいたい。
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