ストロベリー・パニック16話脚本:技巧の特盛
アニメ・Strawberry Panic(ストロベリー・パニック)は、公野櫻子氏を原作者とした電撃G's magazine読者参加企画のアニメ版(ここでは、アニメ版を扱う)。
女学園でのドラマが展開される。
監督は迫井政行氏で、シリーズ構成は浦畑達彦氏。
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今回のコンテは高橋丈夫氏で、演出がまつもとよしひさ氏。そして脚本が高屋敷英夫氏。
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- 今回の話:
色々なトラブルを乗り越え、ミアトル、スピカ、ル・リムの3校合同文化祭の劇・カルメンが上演される。
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冒頭は、ミアトル、スピカ、ル・リムの3校合同文化祭の劇の主演および衣装係で奮闘する千華留(ル・リム女学校生徒会長)のナレーション。グラゼニ(脚本)も、主人公である夏之介のナレーションが活用されている。
文化祭の劇・カルメンの準備は着々と進む。普段、静馬(しずま。3校の代表“エトワール”を務める)のサポートをしている薫と水穂も大道具・小道具係として頑張る。脇役にスポットを当てる姿勢はよく見られ、らんま1/2(脚本)にも、それは表れていた。
劇の演出をする深雪(ミアトル女学園生徒会長)は色々なチェックに奔走しており、通し稽古の時間に遅れてしまう。要(スピカ女学院副会長)と桃実(同・書記)は、その事を意地悪く咎める。なんとなく、カイジ2期(脚本)の沼川・石和(カイジ達をいじめる一味)と並べると面白い。
小道具係の水穂や、音響・照明係の千早と紀子(渚砂の隣室)も、要と桃実に振り回されて困惑する。ここも脇役がクローズアップされている。こういった脇役への愛情は、ワンナウツ(脚本)でもありありと感じられる。
さらに要と桃実のワガママは続き、深雪も困惑。中間管理職的な苦労人の描写は、カイジ・忍者戦士飛影(脚本)でも印象に残る。
勝手に場を去ろうとする要と桃実を、渚砂(なぎさ。主人公)は懸命に止める。
主人公が仲間の重要性を説くのは、カイジ2期(脚本)でも強調された。
渚砂は、感情的になった桃実に突き飛ばされ、その拍子に背景セットが倒れる。その下敷きになりそうだった渚砂を、静馬が咄嗟に助ける。体を張って主人公を助ける気概は、忍者戦士飛影(脚本)のダミアンを彷彿とさせる。
静馬は、要と桃実の台詞を削ってもいいから、やる気のある者だけで立て直すと宣言。カイジ2期(脚本)で、意地悪な大槻達に、リーダーとして毅然と歯向かうカイジと重なる部分がある。
皆は静馬に賛同し、壊れたセットを協力して直すことに。「皆がいるから自分がいる」的な仲間愛の描写は多くの作品に見受けられる。元祖天才バカボン(演出/コンテ)でも、それは色濃い。
詩遠(スピカ女学院生徒会長)は、要と桃実にも、セットの修繕への協力を命令し、二人はそれに素直に従う。対立する側の矜持は、ワンナウツ・おにいさまへ…(脚本)でも強く描かれた。
皆が懸命に協力する流れになり、渚砂を見る静馬の表情が柔らかくなる。
影のあるキャラが、心を許している者に対し笑顔になるのは、おにいさまへ…(脚本)でも心に残る。
皆は徹夜し、ついにセットの修繕を完了させる。ここも温かい仲間愛が描かれている。ど根性ガエル(演出)や、チエちゃん奮戦記(脚本)などなど、こういった温かい雰囲気は色々な作品にある。
喜びも束の間、リハーサルをあらためて行うことになり、皆は悲鳴を上げる。
深雪は笑顔を見せる。キャラが(意外な)満面の笑みを見せる場面は結構あり、高屋敷氏が笑顔を重視しているのがわかる。
あしたのジョー2・ダンクーガ・蒼天航路(脚本)と比較。
そして文化祭が始まる。高屋敷氏は、原作通りにしろアニメオリジナルにしろ、祭り描写に縁がある(特に夏祭りが多い)。F-エフ-・あしたのジョー2(脚本)と比較。
赤い風船が飛んで行く場面があるが、赤い風船はF-エフ-(脚本)、元祖天才バカボン(演出/コンテ)、怪物くん(脚本)にもあり、気になるところ。
特にF-エフ-とのシンクロは興味深い。
中等部は、15話( https://makimogpfb2.hatenablog.com/entry/2020/04/05/135059 )で決定した通りの配役で、ロミオとジュリエットを上演。コメディ調なのは、おにいさまへ…(脚本)の劇中劇が悲劇なのと対比すると面白い。
いよいよ渚砂達の劇・カルメンが始まり、照明・音響係の千早と紀子は、緊張してスタンバイする。この二人は地味ながらも目立ち、立ち位置的には、原作より目立つこともあったワンナウツ(脚本)の名脇役・今井と藤田に通じるものがある。
照明のタイミングも成功し、千華留演じるカルメンが登場。その麗しさに観客は魅了される。
今までの、彼女の朗らかなイメージとは一変しており、こういった豹変はカイジ2期(脚本)の覚醒カイジにも適用されている感じがする。
カルメン(千華留)に出会い恋に落ちたホセ(静馬)は、バラを拾う。意味深な花の描写は多々ある。おにいさまへ…(脚本)と比較。
一方、音響のタイミングがバッチリ合って、千早と紀子が喜び合う。
やはりこの二人は地味ながらも目を引き、ワンナウツ(脚本)で地味ながらもファインプレーを決める今井・藤田と重なってくる。
カルメン(千華留)とホセ(静馬)のラブシーンでは、二人が手を握り合う。また、舞台裏では(実際に恋愛関係の)要と桃実も手を握り合う。
手と手による感情伝達は頻出。おにいさまへ…・ワンナウツ(脚本)と比較。
照明が大事な場面も、千早と紀子はドンピシャで成功させ、舞台裏は盛り上がる。やはり彼女達は、そのファインプレーぶりも含めてワンナウツ(脚本)の今井・藤田を思わせる。
舞台では、天音(スピカ女学院の王子様的スター)演じるエスカミーリョが、客席に登場したカルメン(千華留)に向かってリボンを投げる。
おにいさまへ…(脚本)にも、学園の憧れの存在(れい)がバラを投げる場面がある。
舞台は順調に進むかのように見えたが、天音が次期エトワール選に出ないよう画策している要・桃実の策略によって、天音の靴の踵が折れ、天音と千華留は転倒。
カイジ2期(脚本)にて、陰湿な嫌がらせをする大槻達と比較すると面白い。
なんとか天音と千華留はアドリブでその場をしのぐが、千華留は負傷。
時間稼ぎのため、静馬と天音は決闘を即興で演じる。殺陣はベルサイユのばら(コンテ)にもあり、脚本作といえど、その経験も活きている気がする。
脚本担当の玉青(渚砂のルームメイト)は、渚砂が静馬の練習相手をしていたのを思い出し、渚砂に千華留の代役を頼む。
これは前回15話( https://makimogpfb2.hatenablog.com/entry/2020/04/05/135059 )に伏線がある。丁寧な伏線設置・回収は、カイジ2期(脚本)でも巧み。
そして代役として、渚砂が舞台に上がる。
実際に心を通わせつつある静馬と渚砂は、迫真の演技を見せる。
劇中劇が本編とリンクしている描写は、おにいさまへ…(脚本)にも見られる。
そして劇はフィナーレを迎え、観客は拍手喝采。力をくれる温かいモブは、ワンナウツ・はじめの一歩3期(脚本)でも強調された。
舞台裏でも、皆が舞台の成功を喜ぶ。ワンナウツ・あんみつ姫(脚本)はじめ、皆で何かを達成することは喜ばしいことなのだというメッセージは、数々の作品に込められている。
夜、文化祭の終わりを告げる焚き火を、皆それぞれに眺める。やはりここも、仲間愛が感じられる。こういった温かな人情は、めぞん一刻・おにいさまへ…(脚本)など、色々な作品で目を引く。
そんな中、渚砂の姿が無い事を、玉青は密かに憂う(どこにいるのかは察しがついている)。失恋していく者を静かにクローズアップする描写は、おにいさまへ…(脚本)にもあった。
静馬と渚砂は、温室にいた。二人を見守るような月が映る。全知全能のような存在としての月は頻出。F-エフ-・はじめの一歩3期・マイメロディの赤ずきん(脚本)と比較。
静馬と渚砂は、劇の興奮冷めやらぬまま、手を握り合う。ここも、手と手による感情表現。恋愛感情に使われることも多い。F-エフ-・めぞん一刻(脚本)と比較。
様々な者の感情を乗せ、焚き火が燃え上がるのだった。火の意味深な描写は、高屋敷氏の初期担当作から見られるもの。
まんが世界昔ばなし(演出/コンテ)、あしたのジョー2(脚本)、ベルサイユのばら(コンテ)と比較。
- まとめ
文化祭というビッグイベントだけあり、高屋敷氏の持てる(当時の)技術をふんだんに盛り込んでいる感がある。
サブタイトル『舞台裏』の通り、まさに舞台裏のドラマを描いており、皆で作品を作り上げる楽しさや興奮が伝わってくるコンセプトになっている。高屋敷氏自身の演出・監督・脚本経験も活かされているのではないだろうか。
長所である、キャラの掘り下げもぬかりがない。特に千早・紀子コンビの活躍が印象深い。また、普段目立たない水穂と瞳にもスポットが当たっているのも特筆に値する。
サブキャラに目を配りながら、メインキャラの動向や感情も、ありったけ詰め込んでいる。静馬や渚砂はもちろんのこと、深雪や玉青の感情も、しっかり拾っている。
もともと高屋敷氏は、複数の複雑なプロットを捌くのに長ける。それをフル活用し、劇中劇と本編を巧みにリンクさせていく技術には目を見張るものがある。
こういった凄まじい技術は、ラジオスタジオで喋っているだけなのに面白い、グラゼニ17話( https://makimogpfb2.hatenablog.com/entry/2019/04/10/095344 )にも繋がっている。どちらも軸はシンプルなのに、使われている技巧が半端ない。
また、「火」の描写も興味深い。高屋敷氏は、まんが世界昔ばなしの『動物たちと火』(演出/コンテ)にて、人類がいかにして火を使うようになったかの話を扱っている。これを含め、色々な作品に火の表現があるわけで、同氏が火に拘っているのは確か。
あらゆる作品に見られる「皆がいるから自分がいる、自分がいるから皆がいる」といった仲間愛・博愛も、今回強めに出ている。シリーズの都合上、未解決な案件はあるものの、皆で劇を成功させていく展開は感慨深いものがある。
そして、どこか八方美人なところがある渚砂と、意外に嫉妬深い面もある静馬を、カルメンとホセに被せていく展開も上手い。複雑に絡む要素を解きほぐしながら、渚砂と静馬のドラマに収束させていく手腕も見事。
今回は、サブキャラ・メインキャラともに掘り下げが行われ、複雑かつ複数のプロットが捌かれ、劇中劇と本編がリンクされ、博愛・恋愛のメッセージが発せられており、高屋敷氏の器用で巧みな技術が堪能できる回だった。