カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。ツイッターアカウントは@makimogpfbです。

怪物くん(第2作)22A話脚本:尺の有効利用

アニメ・怪物くん(第2作・1980年放送開始)は、藤子不二雄A氏の漫画をアニメ化した作品(白黒版第1作アニメもある)。人間界に来た怪物ランドの王子・怪物くんらによる騒動を描く。監督は福富博氏。今回のコンテは野田作樹氏で、脚本が高屋敷英夫氏。

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当ブログの、怪物くん(第2作)に関する記事一覧(本記事含む):

https://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E6%80%AA%E7%89%A9%E3%81%8F%E3%82%93

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  • 今回の話:

悪魔団デモーニッシュ幹部・ミスター・シャドウは、影を立体化して操る能力を使い、人間界で様々ないたずらをしたり、怪物くん(怪物ランドの王子)に嫌がらせをする。

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開幕、太陽が映る。原作も1コマ目が太陽だが、アニメは、より強調されている。
高屋敷氏担当作では、開幕に太陽は定番。
まんが世界昔ばなし(演出/コンテ)、F-エフ-・ワンナウツ(脚本)と比較。

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ヒロシ(怪物ランド王子・怪物くんの親友)は、草野球で全く打てなかったことを嘆く(アニメオリジナル)。
高屋敷氏は元球児で、高校野球部監督も務めた程の野球好き。野球アニメのワンナウツグラゼニのシリーズ構成・脚本を担当し、ど根性ガエル(演出)やワンダービートS(脚本)にも野球場面がある。

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人間界に来た悪魔団幹部、ミスター・シャドウは自身の能力で、ヒロシの影を立体化しヒロシを驚かせる。ヒロシの影は「バッティングフォーム教えてやろうか」と言うが(アニメオリジナル)、ここもワンナウツ(シリーズ構成・脚本)やど根性ガエル(演出)同様、野球好きが出ている。

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ミスター・シャドウは引き続き、キザオ(キザで嫌味な少年)にも能力を使ったイタズラを仕掛ける。キザオが被害に遭うのはアニメオリジナル。キザキャラが酷い目に遭うということで、なんとなくカイジ2期(脚本)と並べると面白い。

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ミスター・シャドウはイタズラを楽しむが、怪物くんへのイタズラは不運にも(?)失敗する(立体化した影は水に弱い)。
ミスター・シャドウは原作より所作や言動が可愛い。ワンナウツ・チエちゃん奮戦記(脚本)ほか、高屋敷氏は可愛いおじさんを表現するのが上手い。

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ミスター・シャドウは、今度は狼男(怪物くんの家来。料理上手)にイタズラする(アニメオリジナル)。狼男の影が大根を食べるが、RAINBOW-二舎六房の七人-・あんみつ姫(脚本)などなど、食いしん坊描写は多い。

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立体化した狼男の影を使い、ミスター・シャドウはサッカーに興じる怪物くんをローラー車で襲う(アニメオリジナル)。
高屋敷氏はサッカーも好むのか、あんみつ姫(脚本)にサッカー場面が出たり、サッカーアニメであるDAYSに脚本参加したりしている(他にも色々ある)。

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ローラー車が怪物くんを襲うくだりは、スピルバーグ監督作品『激突!』を思わせる。スタッフの誰かがスピルバーグ好きなのだろうか。ちなみにF-エフ-(シリーズ構成・全話脚本)に『第三の男』のパロディが出たりと、高屋敷氏も映画好きのようだ(他にも映画ネタ多数)。

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双眼鏡で事の次第を見るミスター・シャドウは、逃げ惑う怪物くんを見て喜ぶが、バランスを崩して慌てる。ここも可愛い。宝島(演出)やグラゼニ(脚本)などなど、おじさんを可愛く見せるのが高屋敷氏は本当に上手い。

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怪物くんは、足を長く伸ばす能力を使ってローラー車をやりすごす。F-エフ-(脚本)では、トラクターが家屋に突っ込むアニメオリジナル場面があり、もしかしたら、今回のアニメオリジナル展開を活かしたかもしれない。

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その後、怪物くんは「あいつ」が来そうだと言って逃げ去る。直後に猫を見かけたミスター・シャドウは、怪物くんは猫が苦手だと勘違いし、ほくそ笑む。
イタズラを楽しむのは、じゃりン子チエ(脚本)や元祖天才バカボン(演出/コンテ)と重なるものがある。

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空が曇ってきて(影が出ないので)ミスター・シャドウは能力を発揮できず難儀するが、雷が光って影ができた所を見計らい、猫の影を立体化する。今回は原作通りだが、花田少年史・アカギ(脚本)では雷をアニメオリジナルで上手く使っている。

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怪物くんが恐れる「あいつ」とは雷のことであった。空が晴れ、ヒロシの住むアパートに避難していた怪物くんは安堵。毛布を被っているのはアニメオリジナルで、コボちゃん(脚本)と重なる。

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ヒロシの姉は、怪物くんとヒロシに、ケーキと紅茶を出してくれる(原作は食事)。飯テロは、高屋敷氏担当作の定番中の定番。
おにいさまへ…ストロベリーパニックマイメロディ赤ずきん(脚本)と比較。

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そこをミスター・シャドウが、立体化した猫の影を使い襲う。更に彼はヒロシの影を立体化してヒロシを襲い、怪物くんに自己紹介する。ここも台詞が、少し可愛くなるよう改変されている。あしたのジョー2・F-エフ-(脚本)でも、おじさんの可愛さが目立つ。

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怪物くんの弱点が猫だと思い込んでいるミスター・シャドウは、猫の影を怪物くんに仕向けるが、怪物くんは全く動じず、それを返り討ちにする。予想外の反撃に動じる敵役がユーモラスなのは、カイジ2期(脚本)でも感じられた。

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ミスター・シャドウは一時撤退し、怪物くんは、(力が同じなので)自身の影と取っ組み合い続けるヒロシを救う。原作通りだが、高屋敷氏は、F-エフ-(シリーズ構成・全話脚本)ほか、「自分とは何か」「自分を超える」をテーマによく掲げるので、なんとなく意味深。

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その後、屋敷に帰った怪物くんのもとに、再びミスター・シャドウが、(博物館で)立体化した恐竜の骨の影を従えて襲ってくるが、念力で拳を鋼鉄に変えた怪物くんの前に敗れる。敵役がちょっと可哀想で可愛げがあるのは、カイジ2期(脚本)と重なる。

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ミスター・シャドウは能力を使い、恐竜の骨の影の破片に紛れて身を隠すが、念力で手を掃除機に変えた怪物くんは、それを使いミスター・シャドウを捕獲(アニメオリジナル)。高屋敷氏は頭を使うギミックを好み、ルパン三世2nd(演出/コンテ)や忍者マン一平(監督)もギミック多め。

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怪物くんは、ヒロシの持ってきた風船にミスター・シャドウを繋げて空に飛ばす(アニメオリジナル)。赤い風船はF-エフ-(脚本)や元祖天才バカボン(演出/コンテ)にも出ており、何らかの思い入れが感じられる。

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最後は夕暮れの空を映して終わるが(アニメオリジナル)、同じ終り方がMASTERキートン(脚本)にも出てくる。
また、夕暮れのシーンは数多の作品で印象深い。

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  • まとめ

とにかくミスター・シャドウが、どこか憎めず可愛い。こういった、敵役の愛嬌はカイジ1・2期(シリーズ構成・脚本)はじめ多数見られる。そのように視聴者に感じさせる技術に秀でるのだと思う。

そもそも高屋敷氏は、人間の色々な側面を描きたい意向があり(宝島ロマンアルバムのコメントより)、それもあってか、善悪のラインを明確にしない。それに持ち前の、キャラを可愛くする技術も合わさり、シンパシーを覚える敵役が形成されるのだと考えられる。

ミスター・シャドウの雰囲気は、じゃりン子チエ・チエちゃん奮戦記(脚本)のレイモンド飛田を彷彿とさせる。
愛嬌があり、主人公側に酷い目に遭わされるのが可哀想な所が共通している。
どちらも、愛嬌を強化している効果が出ている。

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中盤で出るアニメオリジナルの、映画『激突!』っぽい描写は気になるところ。高屋敷氏含め、古くからアニメに携わる人達には映画好きが多いと感じる。映画が娯楽の中心だった世代だからだろうか。また、映画(特にハリウッド)に追い付きたいという気概もありそうだ。

全体の構成としては、原作からどこを削って何を追加するのかという工夫が色々と凝っている。とにかく高屋敷氏の脚本作は技巧的で、色々と細かく計算されているのを感じる。これは本作とほぼ同年代の、じゃりン子チエ(脚本)で特に花開いた長所で、本作と、じゃりン子チエの接点は興味深い。

時代的な話をすれば、1980~81年に高屋敷氏が手掛けた脚本の量はかなり多く、放映は本作が1980年、じゃりン子チエが1981年である。なので、じゃりン子チエ的な巧みさ(複雑で緻密な構成など)が共通するのは不思議ではない。

高屋敷氏にとってのシリーズの最小単位は3話、エピソードの最小単位は、今回のような(約)10分ものと考えられる。この「最小単位」の使い方も、同氏は上手い。これをうまく積み重ねれば、上手いシリーズ構成になるのも理にかなっている。

とにかく高屋敷氏は、時間の使い方が非常にキッチリしている。近年のグラゼニ(シリーズ構成・全話脚本)でも、今回のような「エピソードの最小単位である10分」を実に上手く使っている。グラゼニは本当に、同氏の経験と才能が密集している。

本作における高屋敷氏の脚本回は、今回で最後となる。後に同氏は、本作のオマージュが多数出る『怪物王女』に脚本参加するので、その繋がりを見ていくのも面白い。