アンパンマン544B話脚本:音楽と人情
『それいけ!アンパンマン』は、やなせたかし氏の絵本を原作とした国民的アニメ。
監督は(基本的に)永丘昭典氏。
今回のコンテ/演出は阿部司氏で、脚本が高屋敷英夫氏。
───
本記事を含めた、当ブログのアンパンマンに関する記事一覧:
───
- 今回の話:
津軽三味線の名人・じょんがらくんと、おバチちゃんが町にやってくる。彼らの奏でる、じょんがら節は見事で、聞いた人々が自然に踊り出すほど。ばいきんまん(アンパンマンの宿敵)は、じょんがらくん達の演奏を一人占めしようとする。
───
津軽三味線の名人、じょんがらくんと、おバチちゃんが、ジャムおじさん(パン職人)を訪ねに町にやってくる。エンターテイナーは、怪物くん・ルパン三世2nd(脚本)、空手バカ一代(演出/コンテ)、RAINBOW-二舎六房の七人-(脚本)などでもクローズアップされている。
一方、じょんがらくん達の情報を盗聴で把握していた、ばいきんまん(アンパンマンの宿敵)と、相棒のドキンちゃんは、じょんがらくんを探す。何かが太陽を横切るのは、結構出る(不思議だが脚本作でも出る)。蒼天航路・マッドハウス版XMEN(脚本)、ガイキング(演出)と比較。
じょんがらくんを見つけた、ばいきんまんは演奏を強要し襲おうとするが、じょんがらくん達の演奏につられ踊ってしまう。敵役の愛嬌は、まんが世界昔ばなし(演出/コンテ)、ワンナウツ・ルパン三世2nd(脚本)ほか目立つ。
おバチちゃんは、三味線のバチを武器のように使い、ばいきんまんの円盤を壊して、彼を撤退させる。
意外な物を武器にするといえば、キャッツアイ(脚本)の特殊な名刺カードもインパクトがあり、重なるものがある。
その後、ばいきんまんとドキンちゃんは変装して、じょんがらくん達を偽の演奏会に招き、演奏してもらおうとする。
ルパン三世2nd(演出/コンテ)における凝った作戦や、宝島(演出)での、周りを欺く名演など、頭を使う重要さは前面に出される。
じょんがらくん達の演奏で踊り出した、ばいきんまんとドキンちゃんは、変装がバレる。駆けつけたアンパンマンは、ばいきんまんの左右からの攻撃に気を取られた隙に、真ん中からの攻撃(水鉄砲)を食らい戦闘不能に。はじめの一歩3期・カイジ2期(脚本)ほか、敵役のクレバーさは目立つ。
アンパンマンのピンチをジャムおじさんに知らせるべく、おバチちゃんは、じょんがらくんの弦を使って飛ぶ。
陽だまりの樹(脚本)、ど根性ガエル(演出)、まんが世界昔ばなし(演出/コンテ)、ルパン三世2nd(脚本)ほか、凝ったギミックは色々な作品で印象に残る。
じょんがらくんは、ばいきんまん相手に善戦するが、ばいきんまんは、白旗を上げた隙に、じょんがらくんの弦を弛めて戦闘不能にする。ここも、ばいきんまんが賢い。
まんが世界昔ばなし(演出/コンテ)や宝島(演出)などでも、頭を使った戦略が描かれる。
だが、ジャムおじさん達から新しい顔を供給され復活したアンパンマンに、ばいきんまんは敗北。その後、じょんがらくん達の演奏を聞きに多くの人が集まる。
人々の温かさは、めぞん一刻・カイジ2期(脚本)はじめ、強く描写される。
じょんがらくん達の見事な演奏に、人々は楽しく踊り出すのだった。
音楽を通して温かい空間を作り出すのは、怪物くん(脚本)にもあり、印象深い。
- まとめ
じょんがらくんの声は、二又一成氏が担当している。同氏は、めぞん一刻(高屋敷氏脚本・最終シリーズ構成)の五代役や、カイジ2期(高屋敷氏シリーズ構成・脚本)の坂崎役も務めており、高屋敷氏担当作に縁がある。
音楽の持つ力については、RAINBOW-二舎六房の七人-(脚本)でも、不遇な環境の中で妹のために歌う丈(レギュラーの一人。歌手志望)の場面(アニメオリジナル)でも強く出ている。
先述の通り、怪物くん4A話(脚本)でも、音楽家の怪物(プカドン)との、音楽を通した温かな交流が描かれており、構成の肝となっている。色々な媒体を通し、人情を描きたいという、高屋敷氏の強い意向が感じられる。
怪物くん4A話(高屋敷氏脚本)については、以前書いたこちらを参照:
https://makimogpfb2.hatenablog.com/entry/2020/08/02/135625
高屋敷氏は、多くの仲間や家族、またはモブの愛情を温かく描く。これは同氏キャリア初期の、ど根性ガエル(演出)から出ている特徴であり、こだわりが伝わってくる。「食」の大切さと同じく、長年に渡って重きを置いていることなのかもしれない。
あと、最終的にアンパンマンに敗れるものの、本作の高屋敷氏脚本回の、ばいきんまんは頭が冴えている(多少作戦の回りくどさはあるが)。本作は殆どがアニメオリジナルなわけで、高屋敷氏自身、様々な戦略を考えるのが好きな事が窺える。
思えば、オリジナル作品の高屋敷氏の脚本や演出は、綿密で凝った作戦が多く出てくる。それが敵役のものであっても、感心してしまうほど。カイジやワンナウツ(いずれも同氏シリーズ構成・脚本)でも、凝った戦略を際立たせる構成をしている。
はじめの一歩3期(脚本)では、ヒールそのものな沢村の、クレバーさを前面に出している節がある。沢村は、極悪非道さを中心に描くか、意外にクレバーで繊細な面を中心に描くかで分かれるキャラだが、高屋敷氏は後者を選んでいる。
そう考えていくと、はじめの一歩3期(脚本)の沢村が、色々頭を使うも一歩のデンプシーロール(改良版)で敗れるのと、本作で、ばいきんまんが色々悪知恵を働かせるもアンパンマンのアンパンチに沈むのとが重なってきて面白い。
そもそも高屋敷氏は、善悪のラインを明確に引かない傾向がある。善悪問わず、知恵や戦略が大事であると説く姿勢は、カイジ・アカギ・ワンナウツのシリーズ構成・脚本でも強く出ている。勿論、主人公が(知恵で)勝つカタルシスも押さえてあるが。
本作での高屋敷氏脚本回は、今回が最後となる。短い尺の中に、同氏の主義主張や個性、他作品との繋がりを見ることができ、収穫が大きかった。同氏を探求する上で、本作は重要であると思えた。ソフト化(レンタルDVD)されているのも幸運だった。