カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

じゃりン子チエ34話脚本:話の管理と芯

アニメ『じゃりン子チエ』は、はるき悦巳氏の漫画をアニメ化した作品。小学生ながらホルモン屋を切り盛りするチエを中心に、大阪下町の人間模様を描く。監督は高畑勲氏。

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本記事を含めた、じゃりン子チエに関する当ブログの記事一覧:

https://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E3%81%98%E3%82%83%E3%82%8A%E3%82%93%E5%AD%90%E3%83%81%E3%82%A8

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  • 今回の話:

演出:御厨恭輔氏、脚本:高屋敷英夫氏。

荷物持ちとして拳骨(チエの父であるテツの恩師)の東京出張に同行するはずだったテツは逃げ出し、渉(拳骨の息子)に厄介になる。

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開幕、小鉄(チエの飼い猫)とジュニア(お好み焼き屋・百合根の飼い猫)は蝶を眺める(アニメオリジナル)。蝶は結構出る。あしたのジョー2(脚本)、ガイキング(演出)、まんが世界昔ばなし(演出/コンテ)、おにいさまへ…(脚本)と比較。

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春になるとノイローゼ気味になるジュニアは、憂鬱な気分を口に出し、小鉄はそれを適当にあしらう(アニメオリジナル)。木によりかかる絵面はしばしば見られる。ベルサイユのばら(コンテ)、めぞん一刻(脚本)と比較。

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一方、チエはダラダラするテツ(チエの父)を一喝(アニメオリジナル)。そこへ拳骨(テツの恩師)が来て、東京へ出張するので、荷物持ちにテツを借りたいと言ってくる。チエとヨシ江(チエの母)は、それを快諾。ここの流れは、アニメオリジナルと原作が上手く混じっていてテンポがいい。

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お好み焼き屋では、違法賭場を開いた罪で逮捕されていたが釈放された、レイモンド飛田(ヤクザ・地獄組のボス)が、今までの行いを反省する。
ここの会話もスムーズ。この技術は、喋るだけで動きが殆ど無いのに面白い、グラゼニ17話(脚本)でも光る。

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テツは拳骨から逃げ、東京にいることになっている間、拳骨の家に泊まることにする。渉(拳骨の息子で、チエのクラスの担任)はそれを承諾。そこで、テツは服を賭けるカブで遊ぶ。拳骨に人生相談しに来たレイモンド飛田もそれに巻き込まれる。この流れもテンポが見事。

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その後、脱衣カブで負けて裸になったせいで渉は風邪をひき、仕事を休む。チエとヒラメ(チエの親友)は、渉のお見舞いに行くことにする。ここは二人が可愛い。ストロベリーパニックガンバの冒険(脚本)など、高屋敷氏は幼く可愛い描写に長ける。

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チエは拳骨からのハガキで、テツが逃げたことを知る。そこに、脱衣カブに負けて風邪気味のカルメラ兄弟(テツの弟分)が来て、チエとヒラメに、拳骨の家に行くのはやめた方がいいと言うが、チエ達は忠告を無視する。ここもやりとりが小気味よくできている。

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拳骨の家にすっかり馴染んだテツは、風呂を沸かしたり出前を取ったりする。ここも、渉とテツが可愛い。宝島(演出)やカイジ2期(脚本)など、年齢や立ち位置の差が大きい人間同士の関係も、高屋敷氏は印象深く描写する。

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テツが風呂に入っている間に、チエとヒラメが渉のお見舞いに来る。お菓子を出され、ヒラメは喜ぶ。飯テロは頻出。マイメロディ赤ずきんおにいさまへ…・怪物くん(脚本)と比較。

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結局、テツはチエに見つかる。出前の天ぷらうどんを、テツは気まずそうに食べる。ここも頻出の飯テロ。グラゼニおにいさまへ…カイジ2期(脚本)、ルパン三世2nd(演出/コンテ)と比較。

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その後、チエ・ヒラメ・テツは拳骨の家を出る。すると、彼らは丸太(ヒラメの兄)が不良達に絡まれているのを発見。激怒したヒラメは不良達に突進。テツはチエに、ヒラメの加勢をするよう促す。ここも流れるように展開され、色々と上手い。

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不良達の一人は、ヤクザをしている兄を呼びに行くと息巻くが、テツはそれを喜ぶ(ヤクザをどつくのが趣味)。どっちが悪だかわからなくなるくらい強いキャラづけは、ワンナウツ・アカギ(脚本)などにも見られる。

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結局、チエ達は大乱闘を繰り広げる。皆で何かをやる高揚感は、あんみつ姫(脚本)でも描かれている。また高屋敷氏は、子供が子供らしさを発揮するのを描写するのが巧み。

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チエ達は、ボロボロになりながらも勝利する(テツは無傷)。ヒラメと丸太は、母に勝利の報告をするのだった。RAINBOW-二舎六房の七人-(脚本)、ど根性ガエル(演出)ほか、母子愛は強調される。

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  • まとめ

とにかく流れるようにスムーズな話運びが見事。また、おそらく季節のずれで原作から変更されたくだりも、うまくはまっていて驚く。スタッフが、原作のリズムをよく把握しているのが窺える。

あと、複数のキャラの動向が本当に上手く捌かれていて唸る。一見バラバラなキャラの動向が最後に合流するのは、高屋敷氏の得意とするところだが、その技術は本作で大いに磨かれた感がある。

そして、キャラの掘り下げもよくできている。なんだかんだ滅茶苦茶だが愛嬌があり、ケンカの強さが光り輝くテツ、いざとなると兄思いで勇敢なヒラメ、結構達観しているレイモンド飛田など、色々なキャラの魅力が引き出されているのが良い。

本作は、チエをはじめとして、しっかりした子供が多いが、高屋敷氏は、そんな中でも、子供が子供らしくいられる時を切り取るのに秀でていると思う。もともと同氏は幼さや無邪気さの表現が上手いが、本作でもそれが炸裂している。

今回終盤の、チエ達の乱闘は、そういった子供の無邪気さ・幼さがよく表れていた。それ(ケンカ)を促したテツもまた、本能的に「子供らしさとは何か」を知っている大人として魅力的に映る。こういった所も流石。

善悪のラインを明確にしない、高屋敷氏のポリシーも強く表れている。もともと原作からしてカオスであるが、アニメも自重することなく、それをそのまま、または更に強調して出しており、そこも見ていて楽しい。

それでいて、最後は母にケンカ勝利報告をする丸太・ヒラメ兄妹が印象的に描写され、人情味がある作りになっている。色々と入り組んだ構成を管理しながらキャラの掘り下げをし、強調したい所を押さえる技術が、やはり凄い回だった。