カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

じゃりン子チエ50話脚本:作家性を出す塩梅

アニメ『じゃりン子チエ』は、はるき悦巳氏の漫画をアニメ化した作品。小学生ながらホルモン屋を切り盛りするチエを中心に、大阪下町の人間模様を描く。監督は高畑勲氏。

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本記事を含めた、じゃりン子チエに関する当ブログの記事一覧:

https://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E3%81%98%E3%82%83%E3%82%8A%E3%82%93%E5%AD%90%E3%83%81%E3%82%A8

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  • 今回の話:

演出:三家本泰美氏、脚本:高屋敷英夫氏。

レイモンド飛田(元ヤクザ・地獄組組長)は、テツ(チエの父)をボクサーにすべく奔走するが、チエ達周囲の人間は、それに非協力的な態度を取る。

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いつものようにマサル(チエのクラスメート)がチエにちょっかいを出すが、肝心の、ボクシング東洋チャンピオンの顔がテツ(チエの父)そっくりだということはチエに伝えられずに終わる。
ここの会話はテンポがよく、うまくまとまっている。

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当のテツは、チエや親から小遣いを貰えず、回転焼も買えないとボヤく。
RIDEBACKガンバの冒険(脚本)ほか、食いしん坊描写は強調される。

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回転焼屋には、おバァはん・おジィはん(チエの祖母・祖父)がいたのだが、テツのことはスルーし、回転焼をチエにあげる。
飯テロは頻出。アンパンマンマイメロディ赤ずきん(脚本)と比較。

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おバァはんは、何かとテツに甘い、おジィはんをチクチク批判し、チエもそれに便乗する。ここも、台詞運びや展開が流れるような感じで上手い。

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そこへ、レイモンド飛田(元ヤクザ・地獄組組長)と、その秘書が訪ねてきて、テツをボクサーにするからには、テツの家族ともよろしくやりたいと話す。ここはレイモンド飛田が可愛い。ワンナウツ(脚本)、宝島(演出)ほか、中高年キャラの愛嬌は目立つ。

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夜、何とか金を得たいテツは、ヤクザに刺されたと芝居を打ち、隙を見て店(ホルモン焼き屋)の金をくすねる作戦を思い付く。そのシミュレーションを見た通行人は呆れる。あしたのジョー2・ワンナウツ(脚本)ほか、味のあるモブは多い。

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家に着くと、早速テツは倒れる演技をするが、チエはヨシ江(チエの母)と、神社の夜店に行き不在。そこへ、夕飯を携えた、おバァはんとおジィはんが来て、テツはおバァはんに踏まれる。ここも展開がスムーズで上手い。

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テツは久々に、両親と夕食をとることに。テツ・おバァはん・おジィはんの履き物が映るが、意味深な“物”の“間”は色々な作品に見られる。おにいさまへ…グラゼニ・F-エフ-(脚本)と比較。

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素直になれないテツは、両親に背を向けて食事する。今回は変則的だが、皆で食事をする大切さは、ワンダービートS(脚本)、元祖天才バカボン(演出/コンテ)ほか、数々の作品で前面に出る。

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おジィはんは、テツの子供時代を懐かしそうに語るが、その隙に、おかずをテツに取られる。ここも、食いしん坊描写の強調がある。元祖天才バカボン(演出/コンテ)、アンパンマン(脚本)と比較。

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テツは、ヨシ江と一緒に夜店になんか行きたくないと口にする。素直になれない男女の恋愛模様は、めぞん一刻おにいさまへ…(脚本)でも印象深い。

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一方、ヨシ江とチエは、マサルの母につかまり、彼女の長話に付き合わされて困惑する。ここは、チエとマサルが可愛い。子供の子供らしい所作は、宝島(演出)、あんみつ姫(脚本)ほか多くの作品で目を引く。

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テツのリングネームが記された、レイモンド飛田のメモを、おジィはんから受け取ったテツは、その意味を渉(テツの恩師・拳骨の息子で、チエのクラスの担任)に聞く。スキンシップ多めの描写は、F-エフ-(脚本)や、ど根性ガエル(演出)ほか結構ある。

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そこへ拳骨が現れ、“狂犬みたいに騒ぐな”と一喝する。直後に渉は、テツのリングネーム“マッドドッグ”は狂犬という意味だとテツに教える。ここも渉とテツが可愛い。味のある関係は、カイジ2期・ワンナウツ(脚本)などでも強く描かれる。

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後日。ヒラメ(チエの親友)は、マサルが、東洋チャンピオンの写真を使い、テツを揶揄するビラを作ったので、マサルの顔をつねったとチエに報告する。マサルは、チエ達が授業中にお喋りしているとチクる。ここも展開や台詞運びが上手い。

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その後、帰りに百合根(お好み焼き屋)の店に寄ったチエとヒラメは、リングネームの件でテツにどつかれてヤケ酒を飲むレイモンド飛田に絡まれる。
泥酔してやらかすのは、ガンバの冒険(脚本)、ど根性ガエル(演出)ほか結構ある。

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レイモンド飛田は、テツをボクサーにすることに皆が非協力的だと、不満をぶちまける。自分の主張を強く通す長台詞は、ワンナウツカイジ(脚本)でも印象深い。

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その頃テツは、ミツル(テツの幼馴染で、警官)がいる派出所でクダを巻いていた。
F-エフ-・ガンバの冒険(脚本)ほか、男同士の微笑ましい友情は、数多の作品で確認できる。

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「テツは家庭環境に問題がある」というレイモンド飛田の言葉に、チエは苛立つ。
掃除を手伝う小鉄(チエの飼い猫)とジュニア(百合根の飼い猫)が可愛い。まんが世界昔ばなし(演出/コンテ)、ガンバの冒険(脚本)ほか、動物の可愛さを引き出すのも、高屋敷氏は上手い。

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チエはヤケクソな気分になり、一心不乱に働こうと決意する。
ここも、マイメロディ赤ずきん(脚本)、宝島(演出)などと同じく、子供らしい所作が強調されている。

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ヤケクソ気味のチエを見て、マサルは退散し、常連客は困惑する。ここも、おにいさまへ…ストロベリーパニック(脚本)ほか同様、モブ描写に味がある。

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その頃レイモンド飛田は、東洋チャンピオンのスパーリングパートナーにテツをあてがうことになり、喜んでいた。ここも、喜ぶ姿に愛嬌がある。宝島(演出)、グラゼニ(脚本)と比較。

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当のテツはマンホールにうっかり落ち、小鉄とジュニアは、それを放置するのだった。月が映るが、全てを見守るような月の描写は多い。ガンバの冒険・F-エフ-(脚本)と比較。

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  • まとめ

 相変わらず、話の密度が濃い。また、会話のみで進行する場面も多いのに、飽きさせない工夫が、そこかしこに施されていて唸らされる。

 見所は沢山あるのだが、視聴者の思いを代弁してくれるような、レイモンド飛田の長台詞は印象深い。主張は全然違うが、ワンナウツカイジ(脚本)の演説めいた長台詞場面が重なってきて面白い。

 演説調の長台詞に限らず、高屋敷氏は自身の主張を前面に押し出すのが上手い。時にさりげなく、時にダイレクトに、それは行われ、その匙加減は絶妙。

 キッズ向け作品であれば直球、青少年~大人向け作品であれば、練りに練った変化球…といった使い分けを行い、高屋敷氏は自身の主張を通す。キャリア初期から、その傾向はあるので、相当に主張が強いのだと思う。

 演出時代は演出で、脚本一筋になってからは話運びや台詞・比喩などで、高屋敷氏は相当に、自身の個性や主張を出している。ほぼ半世紀に渡って同氏が活躍している背景には、世に自分の主張を通したいという強い意思があるのではないだろうか。

 高屋敷氏の(いい意味で)恐ろしいところは、原作通りだと視聴者に思わせつつ、同氏の主張をうまく通すところである。
下手をすれば、原作者すら、それに気付かないことも有り得るのではないかと思う。

 このテクニックは、やはり、本作(じゃりン子チエ)の脚本を手掛けたことにより益々ブラッシュアップされたと思う。
これは、本作の監督である高畑勲氏も得意としていることなので、かなり相乗効果があると考えられる。

 高屋敷氏と長年一緒に仕事した出崎統氏は、原作を大胆に改変することで自身の主張を通すが、高畑勲氏は、原作に添いつつ、自身の主張を潜伏させる。
高屋敷氏は、両方の技術を使い分けているのが面白い。

 人間が携わっている限り、原作つきアニメはまるまる原作通りにはならない。原作者をメインスタッフに迎えても同様。
それを踏まえて、私としては、色々な人の個性を見るのが好きだし、高屋敷氏の個性には惹き付けられるのである。