じゃりン子チエ59話脚本:情報のコントロール
アニメ『じゃりン子チエ』は、はるき悦巳氏の漫画をアニメ化した作品。小学生ながらホルモン屋を切り盛りするチエを中心に、大阪下町の人間模様を描く。監督は高畑勲氏。
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- 今回の話:
演出:三家本泰美氏、脚本:高屋敷英夫氏。
近々行われる、警官チームと西萩(チエの地元町)チームのラグビーの試合にて、テツ(チエの父)は、自分を狙う敵が多い事に気付く。
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ミツル(チエの父・テツの幼馴染で警官)は、今度行われる警察チームと西萩(チエの地元町)チームとのラグビー試合が大変なことになりそうだと、おバァはん(チエの祖母)に話すも、おバァはんはそれを面白がる。ここは会話がポンポンと弾み、テンポがいい。
チエは、ヒラメ(チエの親友)、丸太(ヒラメの兄)と共にラグビーの練習をする。それを見たジュニア(お好み焼き屋・百合根の飼い猫)は、自分も参加したくていじける。木によりかかって思い悩む場面は、ベルサイユのばら(コンテ)、めぞん一刻(脚本)などにもある。
小鉄(チエの飼い猫)はジュニアに、警官はシャレが通じないと話す。警官ということで、ミツルの話題になるが、テニス女子に見とれるミツルのイメージが出る(アニメオリジナル)。テニスといえば、高屋敷氏はエースをねらえ!の演出陣。
ミツルはともかく、ふつうの警察はシャレが通じないから、猫のラグビー参加は認めないだろうと、小鉄は語る。ここは小鉄とジュニアが可愛い。宝島(演出)、らんま1/2(脚本)ほか、動物の可愛さはクローズアップされる。
一方チエ達は、渉(テツの恩師・拳骨の息子で、チエのクラスの担任)に言われた通り「とにかくボールから逃げる」練習をするが、ちっとも面白くないと嘆く。あんみつ姫・1980年版鉄腕アトム(脚本)ほか、子供の子供らしさは強調される。
そこに、カルメラ兄弟(テツの弟分)が、レイモンド飛田(元ヤクザ・地獄組組長)と、その秘書を、ラグビー追加要員として連れてくる。レイモンド飛田は、この機にテツに仕返ししたいと意気込み、演説する。まんが世界昔ばなし(演出/コンテ)、宝島(演出)ほか、おじさんの愛嬌は目立つ。
一方テツは、いつもの着物姿の百合根に、(ラグビーを)やる気はあるのかとつっこみ、百合根は、やる気は無いと返す。男同士のイチャイチャは、F-エフ-(脚本)やルパン三世2nd(演出/コンテ)など数多い。
カルメラ(兄)とミツルは、練習に使っていたボール(もともとミツルのもので、ジュニアが拾い、チエが没収した)を巡り、言い争いに(チエは既に離脱)。そこへテツが駆けつけ、事態は更にこじれる。家なき子(演出)、ガンバの冒険(脚本)などと同様、子供っぽい描写が上手い。
ミツルはテツにこっそり、今度のラグビー試合で、警察が対テツ用精鋭部隊を集めていると打ち明ける。また、テツは、レイモンド飛田らの、自分に対する殺気を感じ取る。ここの会話や展開のテンポもよく、うまくまとまっている。
後日チエは、ミツルら警察ラグビーチームが店に来るということで、小鉄と共に店の準備を張り切る。ここも可愛い。また、宝島(演出)の、店の準備を張り切るジム(主人公)が重なってくる。
マサル(チエのクラスメート)とタカシ(マサルの腰巾着)は、大量にホルモンを焼くチエを見て、ラグビー試合で自分達をボコるためにスタミナをつける気なのではと危惧する。アンパンマン・RAINBOW-二舎六房の七人-(脚本)などと同じく、コンビの微笑ましさが引き立っている。
チエの店の常連客は、友人を連れて来店するも、今日は予約でいっぱいだから外で飲めとチエに言われる。常連客の友人は怒って小鉄に八つ当たりしようとするが、小鉄に返り討ちにされる。あんみつ姫・アンパンマン(脚本)ほか、ペットの活躍は目立つ。
さらに小鉄は、常連客らに大量のホルモンを無理矢理食べさせる。それを見たチエは慌てる(小鉄は予約客のホルモンだと知らなかった)。ここは小鉄が可愛い。ガンバの冒険(脚本)、まんが世界昔ばなし(演出/コンテ)ほか、やはり動物の愛嬌ある描写が上手い。
警察ラグビーチームが来店してしまったので、小鉄は、常連客らの会計を手早く済ませ、彼等を帰らせる。常連客の友人は、猫が会計していることに驚く。ここも、宝島(演出)、めぞん一刻(脚本)同様、動物が可愛い。
警察ラグビーチームは、ヨシ江(チエの母)が美人だと持て囃して盛り上がるが、そこに、おバァはんが来て脱力。また、おバァはんは、気に食わない客にさりげなく暴力をふるう。F-エフ-・めぞん一刻(脚本)ほか、元気なおばあさんは多い。
ミツルはチエに、今ここ(店)にいるメンバー以外が、対テツ精鋭部隊だと耳打ちする。このあたりも、色々な会話(原作だとページ大1コマに色々な吹き出しがある)がうまく整理されており、展開がスムーズ。
一方テツは、数少ない味方だとして、ヒラメと丸太に、試合中自分をガードするよう頼むが、彼等のどんくささに頭を抱えるのだった。ここも、原作を上手くまとめている。また、原作はヒラメの母が出るがカットされている。そのカットの仕方も上手い。
- まとめ
相変わらず、動物、子供、おじさん、など様々なキャラの「可愛さ」を引き出すのが見事。高屋敷氏が何らかの形で携わる作品は、キャラが一際可愛くなるのが本当に不思議。
また、尺の都合など、必要に駆られた場合の、原作改変(キャラの登場をオミットするなど)の仕方が上手く、不自然さを感じさせないのが流石。やはり、媒体(漫画とアニメ)の違いを、高屋敷氏含めたスタッフ全員がしっかり意識していると思う。
原作改変だけでなく、原作からの台詞の取捨選択も上手い。本作は結構、台詞の情報量が多いのだが、その情報が、すんなり視聴者の頭に入るよう工夫されている。この技術も、相当なものがある。
こういった技術は、アカギ・カイジ・ワンナウツ(高屋敷氏シリーズ構成・脚本)といった、頭脳戦・心理戦の多い作品にも活かされている。どれも、膨大な情報がうまく捌かれ、テンポよく話が展開されている。
そう思うと、やはり原作つきアニメは、右から左へ原作を書き(描き)写せばいいだけではないのがわかる。本作やカイジを見ていても、原作より、わかりやすく情報が頭に入ってくると感じることが多々ある。
そう感じるのは、やはり、アニメの作り手による、情報のコントロールがしっかりできているからだと思う。ここの匙加減を誤ると、情報過多になったり、逆に意味不明になったりしてしまう。かなり重要なことなのではないだろうか。
つくづく感じることだが、本作に高屋敷氏が関わることが無ければ、同氏が、カイジのような情報量の多い作品のシリーズ構成・脚本を勤めることも無かったように思う。つまり、本作が無ければカイジ(アニメ)も無い。その意味でも、本作は非常に重要なのである。