カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。ツイッターアカウントは@makimogpfbです。

陽だまりの樹13話脚本:鮮やかな変化

アニメ『陽だまりの樹』は、手塚治虫氏の漫画をアニメ化した作品。激動の幕末期を生きた、武士の万二郎と、蘭方医の良庵の物語。監督は杉井ギサブロー氏、シリーズ構成は浦畑達彦氏。

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  • 今回の話:

サブタイトル:「種痘所設立」

コンテ・演出:四分一節子氏、脚本:高屋敷英夫氏。

万二郎は、幕府の政権交代に巻き込まれ、ハリスらアメリ使節の護衛役を解任される。
一方、良庵と、その父・良仙の悲願、種痘所設立が叶う。

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時は安政5年の初夏。春の終わりを告げるナレーションがアニメオリジナルで入る。高屋敷氏は、四季の移ろいや情緒を大切にする。グラゼニMASTERキートンめぞん一刻(脚本)と比較。

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おせき(万二郎の想い人)の父で善福寺の住職・旦海に呼ばれた万二郎は、おせきに会えて、そわそわする。
手での感情表現は頻出。あしたのジョー2・RAINBOW-二舎六房の七人-・カイジグラゼニ(脚本)と比較。

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旦海は、万二郎と二人きりで内密に話がしたいと言う。池の鯉が跳ねる表現はアニメオリジナル。魚を使った描写は、時折見られる。コボちゃん・F-エフ-(脚本)と比較。

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旦海は、ハリスら米国使節の宿泊所として善福寺を使う幕府の計画を止めてもらうよう、ハリスの護衛である万二郎に頼むが、万二郎は、不可能だと断る。
原作では、おせきを取引の材料にされ万二郎が怒るが、そこはカットされている。そのための台詞改変が秀逸。

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寺を出た万二郎は、おせきへの求婚が難しくなったと考え込む。
そこに、知人の幕臣勝麟太郎(勝海舟)が声をかけ、井伊直弼大老になったと話す。原作では、勝は、身を守る手段として金が大事と話すが、そこはカットされ、勝の人物像を若干、清くしている。

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ハリスらの護衛任務に戻るため、万二郎がアメリ使節の宿泊所に戻ると、突如、護衛役の解任を言い渡される。政権交代のあおりを食ったのである。ここも原作を所々カットしながら、コンパクトにまとめている。

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その後、将軍・家定が危篤に陥る中、蘭方医の伊東玄朴のもとに幕府の使者が来て、伊東を奥医師に任命したから登城するよう告げる。
(蘭方医は迫害されてきたので)伊東は歓喜する。
ここは、原作と話の順序が異なるが、うまく繋がっている。

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一方、ハリスの護衛役を解任された万二郎は、佐伯(府中潘江戸詰家老)に叱られ、しばらく出仕しなくてよいと言われる。
ここも原作の台詞量を大幅に削っている。また、万二郎の実直(悪く言えば世渡りが下手)さをよく表すアニメオリジナル台詞もある。

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町の目印の大樹の下で、万二郎は、政権交代のゴタゴタで色々な人が解任されていったのを憂う。原作では自宅で、とね(万二郎の母)に愚痴る形だったが、アニメではこのように変更されている。ここも改変が上手い。 

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そこに、良庵が通りかかり、おせきに振られたのかと軽口をたたく。そして事情を聞いた良庵は、武士達の汚い側面を嘆く。
ここはアニメオリジナル。夕暮れに、友達や仲間が寄り添う場面は数多ある。おにいさまへ…(脚本)、ど根性ガエル(演出)、F-エフ-・RIDEBACK(脚本)と比較。

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そこへ良仙(良庵の父。蘭方医)が来て、(登城する)伊東に種痘所設立の趣意書を渡して欲しいと、良庵に頼む(幕府に種痘所設立を認めさせるチャンス)。
展開は原作通りだが、シチュエーションがアニメオリジナル。より劇的になっている。

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なんとか、登城中の伊東のカゴに追い付いた良庵は、趣意書を伊東に渡す。
伊東は快諾し、これからは蘭方医の時代になるから、共に頑張ろうと言う。この伊東の反応はアニメオリジナルで、原作の伊東は一旦渋る。伊東のキャラが、アニメではきれいになっている。

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伊東は、同じく蘭方医の戸塚静海、竹内玄同と共に、江戸城で井伊を待つが、長時間待たされる。
そこに多紀誠斉(奥医師の一人)が現れ、伊東が奥医師に選ばれたとは聞いていないと言う。
ここも原作をうまく圧縮している。

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一方、良仙らは、伊東が城から帰るのを、首を長くして待つ。アニメでは、おつね(良庵の妻)がこの場におり、うつらうつらしている(原作では就寝している)。この一瞬の改変で、おつねが原作より若干かいがいしい妻になっているのがわかる。

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江戸城では、ようやく井伊が現れ、伊東が奥医師に選ばれたというのは手違いだった旨を詫びる。
あまりの仕打ちということで、一つ願いを聞いて欲しいと、伊東は涙ながらに訴え、趣意書を取り出す。
ここもアニメは所々台詞を削り、話がスピーディー。

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伊東と幕府の交渉が上手く行くよう神頼みする良仙は、良庵に、外に出て様子を見るよう命じる。愚痴りながら外に出た良庵は、伊東らの乗るカゴを目にして喜ぶ。ここも、会話や展開の圧縮が上手い。

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帰ってきた伊東は、良仙らに、奥医師選出の件は手違いだったことを述べるが、かわりに種痘所設立が認められたと告げる。
ここもだが、伊東が原作より好人物になっている。実在の人物ゆえの配慮だろうか?

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帰宅する伊東らを見送った後、良仙と良庵は、悲願の種痘所設立が叶った喜びを爆発させる。
喜び方がなぜか原作より無邪気で可愛くなる現象は、DAYS・ワンナウツ(脚本)など多く見られる。

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良仙は、家族に感謝を伝える。ナレーションで、種痘所設立が伝えられる。原作では、この種痘所設立に関わった人々が東大医学部のルーツであることも語られるが、アニメではカット。ここも何らかの配慮かもしれないが、展開のテンポがいい。

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一方、謹慎中の万二郎は、とねの心配をよそに、外を出歩く(原作だと飲みに行く)。
原作と、話の順序が大きく変えられている。こうすることで、良庵と万二郎、二人の主役の出番のバランスが取られている。

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万二郎は、種痘所について、良庵と、おつねが話しているのを耳にする(良庵の会話は原作通りだが、万二郎が聞くのはアニメオリジナル)。政権交代という「春の嵐」が、様々な事を巻き起こしたとナレーションが入る(アニメオリジナル)。ここもアニメオリジナルの使いどころが良い。

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  • まとめ

 話の順序が、原作から大幅に変えられている。前も書いたが、これは、万二郎と良庵、どちらの主役も立たせ、話を片寄らせないための配慮だと考えられる。

 それにしても、今回も原作改変が多い(高屋敷氏の原作つき作品の中でも指折り)のに、原作の雰囲気が損なわれていないことに驚かされる。原作者が「漫画の神様」だからといって改変を物怖じしていたら、アニメとして破綻するのをスタッフが重々理解している。

 あと気になるのは、伊東玄朴のキャラ改変だ。高屋敷氏は、F-エフ-(同氏シリーズ構成・全話脚本)でも、原作よりキャラを好人物にする改変をしていたが、それが今回も発揮されている。

 高屋敷氏はキャラを掘り下げ、かつ立たせるのが得意である。なぜ伊東玄朴を「キレイ」にしたのか不明だが、ほんの一瞬、ほんの一言でキャラを原作から「激変」させる手腕は、やはり流石と言う他ない。

 伊東玄朴のほかに、勝海舟も少し「きれいめ」にしているのも気になる。やはり実在人物への配慮なのだろうか?
ただ、高屋敷氏は完全フィクション作品でもキャラを若干キレイにするため、個人的なクセなのかもしれない。

 伊東玄朴や勝海舟のほか、万二郎も、アニメでは、より清廉潔白キャラになっていることも延べておきたい。今回、改変された万二郎の台詞の端々から、それが見て取れる。原作の、政治的野心を一瞬抱く万二郎と差異が出ていて面白い。

 今回も原作から色々な改変があったが、仕事を解任された万二郎に良庵が寄り添うアニメオリジナル場面は、非常に高屋敷氏らしいと思えた。夕暮れの友情場面は、高屋敷氏の定番とも言え、様々な作品で見られるからだ。

 今回印象に残ったのは、ほんの一瞬でもあればキャラを掘り下げ、性格を(原作から)ガラリと変えることもできる、高屋敷氏の手腕。もはや「高屋敷マジック」とも言える鮮やかなもので、あらためて同氏の武器の強力さが窺えた。

 ちなみに今回のコンテ/演出の四分一節子氏はアニメの女性演出家/アニメーターとしてキャリアが非常に長い。また、高屋敷氏は演出、四分一氏は作画スタッフとして、ど根性ガエルに参加しており、この組み合わせは感慨深い。