カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

飛べ!イサミ2話脚本:唸る豪腕

オリジナルテレビアニメ『飛べ!イサミ』は、新撰組の子孫であるイサミが、先祖が遺した、光る剣で悪と戦う活劇。総監督は杉井ギサブロー氏、監督は佐藤竜雄氏、シリーズ構成は高屋敷英夫・金春智子氏。

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本記事を含めた、当ブログの飛べ!イサミに関する記事一覧:

https://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E9%A3%9B%E3%81%B9%E3%82%A4%E3%82%B5%E3%83%9F

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  • 今回の話:

サブタイトル:「しんせん組と正義の剣」

脚本:高屋敷英夫氏、コンテ:佐藤竜雄監督、演出:大町繁氏。

先祖の新撰組から、悪の組織・黒天狗党討伐を託されたイサミと、同じく新撰組の子孫であるトシ、ソウシはしんせん組を結成。人質事件の現場へと赴く。

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学校から帰宅したイサミは、ご馳走を見て驚く。玲子(イサミの母)と観柳斉(イサミの祖父)は、友人を呼んでパーティーをするという。
飯テロは実に多い。F-エフ-・グラゼニワンダービートS・新ど根性ガエル(脚本)と比較。

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玲子の友人は、トシ・ソウシ(イサミの同級生で新撰組の子孫)の親。その機会に、イサミ・トシ・ソウシは、イサミ宅の秘密地下室に集い、ソウシはパチンコで遊ぶ。高屋敷氏はパチンコに縁がある。あしたのジョー2・ワンナウツカイジ2期・はだしのゲン2(脚本)と比較。

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先祖から託されたこともあり、イサミ達は、しんせん組を結成。決め台詞やポーズの参考に、トシは人気特撮『ガンバマンX』の真似を披露。
ところでこの“ガンバマン”は、高屋敷氏が脚本参加したガンバの冒険から来ていたりするのだろうか?

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トシは、敵に舐められないためにも決め台詞・ポーズは重要だと力説する。
3人の軽妙なかけあいは、じゃりン子チエ(脚本)の、複数キャラによる絶妙な会話劇を彷彿とさせる。

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食事の準備ができたので、ひとまずイサミ達は地下室を出て、パーティーに参加する。
ここも飯テロ。グラゼニコボちゃん(脚本)と比較。

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イサミ達の監視にあたる、カラス天狗(悪の組織・黒天狗党の下部組織)の平助と重助は、イサミ達のご馳走を羨ましがる。
とにかく、おいしそうな描写は多い。RIDEBACKグラゼニ(脚本)と比較。

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パーティーに参加している面子の情報を確認しながら、重助と平助は、トシの家族の仲の良さに、理想的だと涙ぐむ。
悪役の愛嬌は、まんが世界昔ばなし(演出/コンテ)、アンパンマン(脚本)などでもクローズアップされている。

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トシとソウシは、さりげなくビールを飲もうとして、栄助(ソウシの父)に叱られる。
飯テロ同様、ビールテロも頻出。グラゼニカイジ2期(脚本)と比較。

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泰之(トシの父)は、少年時代の栄助が、お屠蘇で酔って木に登ったことを懐かしむ。
酔っ払い描写は、色々な作品にある。ガンバの冒険(脚本)、宝島(演出)と比較。

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玲子は、魁(イサミの父。失踪中)はよく木の上で本を読み、皆を見守るのが好きだったと語る。
RAINBOW-二舎六房の七人-(脚本)では、重要な役割の木が強調され、じゃりン子チエ(脚本)では、意味深な木の描写がある。

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そこへ、人質事件が発生したと連絡があり、ニュースキャスターである玲子は現場に行く。また、刑事である数馬(玲子の弟)は、同じく現場に来たイサミ達に茶々を入れられ翻弄される。数馬のノリは、どことなくルパン三世2nd(演出/コンテ)の銭形に近い。

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数馬に調子を合わせつつも、イサミ達は、しんせん組として、この事件を解決しようと意気込む。
いたずらっぽく顔を見合わせるのは、家なき子(演出)や新ど根性ガエル(脚本)などにも見られる。高屋敷氏は、キャラの子供っぽさを引き出すのが得意。

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幼稚園児を人質にして、ビルの社長室に立て籠った強盗団は、テレビで玲子を見て、美人だと賞賛。ここで強盗団のリーダーは夜型なことが判明(朝ニュースを見てない)。敵役の細かなキャラ付けは、あんみつ姫(脚本)、ルパン三世2nd(演出/コンテ)ほか目立つ。

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人質である子供達の泣き声を、電話ごしに聞かされ慌てる数馬に、強盗団は、人質を玲子と交換したいと言い出す。
コボちゃん(脚本)、家なき子(演出)ほか、子供の子供らしいギャン泣きは、よく見られる。

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玲子は、人質交換にあっさり応じ、数馬は涙ながらに玲子の優しさを語る。数馬の好物がトンカツの脂身という部分に、食にこだわる高屋敷氏の要素を感じる(アドリブかもしれないが)。
大人の男のガン泣きも多い。あしたのジョー2・カイジ2期(脚本)と比較。

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玲子が人質になるという情報はイサミ達にも伝わり、ソウシはイサミを気遣うが、イサミは冷静。
友達の心の機敏に敏感な場面は、グラゼニあしたのジョー2(脚本)なども印象に残る。

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小柄なケイ(トシの弟)を活用し、強盗団の立て籠るビルのトイレに侵入したイサミ達は、決めポーズして笑うが、ソウシは、女子が大口開けて笑う場所じゃないとツッコむ。
無邪気に笑い合うのは、家なき子(演出)、まんが世界昔ばなし(演出/コンテ)など様々な作品にある。

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一方、強盗団は人質を玲子にするついでに、食事も要求。
ここも飯テロ。じゃりン子チエコボちゃん(脚本)と比較。

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丼物のほか、強盗団リーダーは特上寿司3人前も持って来させる。
寿司といえば、ど根性ガエル(演出)や新ど根性ガエル(脚本)の、梅さん(寿司職人)の寿司もやたら美味しそうである。

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強盗団リーダーが数馬と電話している間、強盗団の下っ端二人は、玲子にサインを書いてもらい喜ぶ。
サインを書く場面は、グラゼニ(脚本)も印象的。

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イサミ達は、手持ちの武器(不思議な光る剣、先祖の新撰組が開発したクラッカー煙幕)の確認をし、誰がどの武器を持つかをジャンケンで決める。
ジャンケンは、家なき子(演出)や、めぞん一刻番外編(脚本)のアニメオリジナル場面など、よく出てくる。

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強盗団リーダーは、せっかくなら写真もと、インスタントカメラで玲子を撮り、写真を色紙に貼る。
強盗団リーダーは元新聞部。
あしたのジョー2・RIDEBACK(脚本)では、ジャーナリストのアニメオリジナルキャラが出ている。高屋敷氏は記者が好きなのかもしれない。

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イサミ達は、作戦行動開始にと、ガンバマンの決めポーズをするが、どこか照れる。
あんみつ姫(脚本)では、水戸黄門がなかなか決め台詞をキメられないギャグがあったりする。

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トシは、自分のポーズ担当が女性隊員になった場合を想像し、やはりガンバマンの真似は止めようと話し合う。
ちなみにスタイリッシュな女性キャラは、キャッツアイ・忍者戦士飛影(脚本)ほか、結構高屋敷氏担当作に出てくる。

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イサミ達は、強盗団の下っ端二人を暗い部屋に誘い込み、お化けの真似をして怖がらせる。
コボちゃん(脚本)の、肝試し回と比較すると面白い。

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白い布を被ったトシとイサミは、強盗団の下っ端二人に突進し、至近距離でクラッカー煙幕を炸裂させる。
知恵やカラクリを使った作戦は、忍者マン一平(監督/脚本/コンテ)やアンパンマン(脚本)ほか、色々な作品に見られる。

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煙幕で混乱し、強盗団下っ端二人は互いを殴りダウンする。
少し、あしたのジョー2(脚本)のクロスカウンターっぽい。画像下段は、トリプルクロスカウンター。

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強盗団リーダーは、部下が戻って来ないので、自身も様子を見に行く。彼は自首を勧める玲子の優しさを称え、もう少し前に会いたかったと話す。
敵側にも様々な感情があることは、陽だまりの樹(脚本)などでも強調されている。

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部屋に入ってきた強盗団リーダーに対し、イサミ達はかっこよく名乗りを上げる。ソウシが小道具に薔薇を使っているが、薔薇をくわえるキャラは、ダンクーガおにいさまへ…(脚本)にも登場している。

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光る剣が発動しないので、イサミ達は身をひっこめて、名乗りがかっこよくないからかもと話し合いを始める。それを見て強盗団リーダーは苛立つ。
ここもイサミ達の掛け合いが、じゃりン子チエ(脚本)の、複数キャラの会話のテンポに似ている。

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イサミ達はピンチになるものの、冷凍庫に隠れていたケイが、冷えた体で強盗団リーダーの背中に取り付いたため、隙が生まれる。
敵であるが同情してしまう作りは、まんが世界昔ばなし(演出/コンテ)や、はじめの一歩3期(脚本)ほか、数々の作品に仕込まれている。

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すると、イサミの光る剣が発動。正々堂々、銃を持っているのにチャンバラで応じる強盗団リーダーだったが、剣の力で体が痺れ敗北する。
ちなみに忍者戦士飛影で高屋敷氏は、光るナイフで飛影(主役ロボ)を呼べるようになる回の脚本を担当している。

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強盗団を拘束した後、トシは紙にメッセージを書き残す。
漢字が間違っているギャグがあるのだが、紙を使ったギャグは、ど根性ガエル(演出)や、チエちゃん奮戦記(脚本)などもインパクトがある。

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トシが書いた「新せん組 三上」は、テレビで「三上(みかみ)」と読まれてしまい、帰宅したイサミ達は脱力。トシは素で「参上」を「三上」と書くと思い込んでいた。
おバカネタは、ストロベリーパニック(脚本)や、ど根性ガエル(演出)など多数ある。

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一方、黒天狗党の党首や幹部達も、「三上(みかみ)」とは誰なのか困惑する。
ラスボスでも少し愛嬌が感じられるコンセプトは、忍者戦士飛影カイジ(脚本)などにも見られる。

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その後帰宅した玲子は、パーティーの続きをしようと、皆に歓迎される。
皆が集まり、盛り上がる温かい様子は、家なき子(演出)や、ど根性ガエル(演出)など、強く描写される。

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イサミは玲子に抱きつき、大変な一日を過ごしたことを労う。
母子のハグは、ど根性ガエル(演出)や、ベルサイユのばら(コンテ)など、要所要所で印象深い。

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楽しく盛り上がるイサミ達だったが、それを木の上から見る謎の人物が登場するのだった。
月や太陽をバックにする表現は、F-エフ-(脚本)や宝島(演出)などでも効果的に使われている。

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  • まとめ

 ついに今年(2022)、本作を簡単に視聴できる環境になり、ありがたい(アマゾンプライム有料チャンネル)。オリジナル作品だけあり、いきなり、高屋敷氏が好む飯テロ全開なのが面白い。

 まず本作で目を引くのは、イサミ、トシ、ソウシの軽妙でリズミカルな掛け合いだ。
じゃりン子チエ(高屋敷氏脚本陣)は、複数キャラが延々喋るだけでもう面白い作りになっているが、高屋敷氏は、その経験を存分に活かしていると思う。

 じゃりン子チエの脚本で高屋敷氏が培ったものは、それだけではなく、絡み合った複数のプロットを器用に操作することも挙げられる。
本作も、一話の密度や濃く、情報量が多い。

 今回でいえば、前半のパーティーでイサミ達の親世代のキャラ付けや情報をあっという間に出し、更に平助や重助の愛嬌も出している。
後半は、数馬や強盗団のキャラ付けが完了している。高屋敷氏はキャラの掘り下げが上手いが、本作でもそれが発揮されている。

 特に数馬についてのキャラ付けの完了具合は異常で、今回初登場なのに、「少し抜けていて姉思いな刑事」として、まだ2話にして、前からずっといたかのような馴染み具合である。

 また、強盗団はゲストキャラなのに、無駄に彼らの情報量は多い(リーダーは朝が苦手で、元新聞部であることなど)。
高屋敷氏はモブに名前をつけることもあるほど、モブへの愛が深いわけだが、彼らにもそれが注がれている。

 あと、高屋敷氏は、知らず知らずのうちに、視聴者が敵にも同情してしまう「仕掛け」を仕込むのが上手い。今回も、一見無駄な強盗団に関するキャラ付け・情報を入れ込むことにより、それを実現している。

 更に、メインキャラの掘り下げも徐々に、丁寧に成されている。
「木の上にいるのが好きだった」魁の話を出し、ラストの「木の上にいる謎の人物」の正体のヒントを出していたりするのも細かい。

 また、トシがバカだが熱血直情、ソウシがキザで冷静だが気遣いができる、イサミが母親思いであることなど、レギュラー陣の性格をグッと深め、2話目にして定着させる手腕も見事。

 本作が放映された90年代ともなれば、それまでの膨大な経験の蓄積もあり、高屋敷氏の豪腕はかなりのもの。
また、本作のような全編オリジナルアニメは同氏の仕事の中でも珍しいが、同氏持ち前の才能と経験と技術が遺憾なく発揮されている。今後も視聴が楽しみだ。