カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

飛べ!イサミ13話脚本:一分でも一行でも物語を

オリジナルテレビアニメ『飛べ!イサミ』は、新撰組の子孫であるイサミが、先祖が遺した、光る剣で悪と戦う活劇。総監督は杉井ギサブロー氏、監督は佐藤竜雄氏、シリーズ構成は高屋敷英夫・金春智子氏。

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本記事を含めた、当ブログの飛べ!イサミに関する記事一覧:

https://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E9%A3%9B%E3%81%B9%E3%82%A4%E3%82%B5%E3%83%9F

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  • 今回の話:

サブタイトル:「 黒天狗の女スパイ」

脚本:高屋敷英夫氏、コンテ/演出:石崎すすむ氏。

イサミと、その同級生のトシとソウシの先祖・新撰組の宿敵である黒天狗党は、下部組織のカラス天狗を使い、魁(イサミの父。失踪中)の情報を探る。

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悪の組織・黒天狗党は、魁(イサミの父。失踪中)の情報を得るべく、犯罪者の代々木を、魁の同級生の雑誌記者という体で派遣。代々木は設定をおさらいする。
紙ネタは、ど根性ガエル(演出)や忍者マン一平(監督/脚本/コンテ)などでも強烈。

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代々木はイサミに、魁の同級生で記者の伊集院と名乗る。
一応、イサミは玲子(イサミの母)にそれを伝え、代々木を家に通すが、イサミはトシ・ソウシ(イサミの同級生で新撰組の子孫)の父親達にも確認を取る。話がポンポン進むのは、じゃりン子チエ(脚本)ぽい。

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客間の代々木を覗いた泰之(トシの父)と栄助(ソウシの父)は、伊集院という名前も顔も覚えがないと言う。そこに数馬(イサミの叔父で刑事)が来て、コンビニ強盗の捜査で空腹だと言う。
ど根性ガエル(演出)、コボちゃん(脚本)ほか、食いしん坊描写は頻出。

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泰之と栄助は、更に探りを入れるべく、代々木を飲みに連れ出す。
数馬はパンを食べながら、同級生はいいものだと呑気に言う。
飯テロは実に多い。宝島(演出)、F-エフ-(脚本)と比較。

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栄助宅(本屋)で、泰之と栄助は、代々木を質問攻めにする。代々木は狼狽し、苦し紛れに、高校の途中で岩手に引っ越したと嘘を重ねる。
岩手は高屋敷氏の出身地で、コボちゃん(脚本)にも岩手ネタが出る。

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代々木は、なんとかごまかそうと、栄助と泰之に酒を勧め、二人を酔わせて逃げる。
酔って眠りこけるのは、ど根性ガエル(演出)やカイジ2期(脚本)ほか多い。

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様子をずっと覗いていた、イサミ・トシ・ソウシは代々木の後をつけるが、代々木が古井戸に隠れたので見失う。
尾行のワクワク感は、じゃりン子チエ(脚本)でもよく表現されている。

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また、イサミ達は、カラス天狗(黒天狗党下部組織)達を目撃し、訝しむ。
カラス天狗のメンバー・烏丸ヒロ子は割と出番が増えつつあり、なんとなく忍者戦士飛影(脚本)の、くノ一風戦士・シャルムを思わせる。

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ヒロ子は代々木に、犯罪(コンビニ強盗)を揉み消す代わりに、引き続き魁の情報を探れと命じ、ついでにタバコのポイ捨てを諫める。
タバコポイ捨ては、1980年版鉄腕アトム・太陽の使者鉄人28号(脚本)などにもある。

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当の魁は、木の上からヒロ子や代々木の動向を監視する。
陰ながら助けてくれるキャラとしては、宝島(演出)のグレーや、ルパン三世2nd(演出/コンテ)の五ェ門なども印象的。

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翌朝、二日酔いながら仕事する栄助は、しばし休憩する。
木の下で休む場面は、ストロベリーパニックカイジ2期(脚本)でも強調されている。

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二日酔いは代々木のせいだと思っていたところ、代々木を見かけた栄助は、魁の情報を教えるから数時間後に城址公園に来いと持ちかけ、尻尾を掴もうとする。
腹の探り合いが究極的に発展すると、ルパン三世2nd・カイジ2期(脚本)などのようになる。

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一方イサミ達は、イサミ宅の秘密地下室で、黒天狗党やカラス天狗の情報について整理するが、彼等の真の目的はわからず。
チームの会合は、ルパン三世2nd(脚本)や忍者マン一平(監督)でも生き生きと描写される。

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そんな中イサミは、観柳斉(イサミの祖父)から、休日出勤中の数馬に弁当を届けるよう言われる。
警察署に行ったイサミ達は、散々数馬をおちょくる。
大人が子供に翻弄される描写は、新ど根性ガエル(脚本)もインパクトがある。

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イサミ達の毒舌に参りながらも、数馬は弁当を見て喜ぶ。ここも飯テロ。
F-エフ-・おにいさまへ…(脚本)と比較。

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服にコーヒーをこぼしてしまった数馬が退席中、イサミ達は、数馬の机にあった(素顔の)代々木の手配書に気付く。
ソウシが、ありきたりな展開と言うが、F-エフ-・マイメロディ赤ずきん(脚本)に、過去作要素を入れたりと、セルフパロやメタネタは時折ある。

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イサミとソウシは、ことわざを交えて、代々木を最後に見失った城址公園に行こうと決める。トシは的外れなことわざばかり言い、会話に入れず。
おバカキャラは、ど根性ガエル(演出)や元祖天才バカボン(演出/コンテ)ほか結構いる。

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戻ってきた数馬は、イサミ達がいなくなったことと、イサミ達が置いていった、変装分を描き足した代々木の手配書に気づき、早速パトカーで代々木の捜索にあたる。
リアクションがルパン三世2nd(脚本)の銭形に似ている。

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一方栄助は、泰之とともに城址公園で代々木を待つが、なかなか来ない。
泰之は、栄助のせっかちさを十分承知しており、馴染みの深さを感じさせる。
F-エフ-・めぞん一刻じゃりン子チエ(脚本)ほか、高屋敷氏は友情描写が上手い。

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栄助と泰之は、代々木を探して公園内の森に入るが、カラス天狗達と代々木を見てしまい、カラス天狗に気絶させられる。ヒロ子から、栄助と泰之を銃で殺せと言われた代々木は躊躇する。
悪人の人間臭さは、家なき子・宝島(演出)などでも強調されている。

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そこへ、イサミ達が駆けつける。上から様子を見ていたヒロ子は、魁に失神させられるが、倒れ際に魁の服のボタンを引きちぎる。
手による描写は頻出。ストロベリーパニックワンナウツ(脚本)と比較。

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イサミは、新撰組の遺した光る剣で代々木を痺れさせて倒す。トシとケイ、ソウシはそれぞれの父を助け起こし安堵する。
父子愛は、ワンダービートSMASTERキートン(脚本)など、時折クローズアップされる。

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しばらくして気がついたヒロ子は、自身が引きちぎった、魁の服のボタンを握りしめる。
ここも、手による感情表現。あしたのジョー2・怪物王女(脚本)と比較。

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逮捕された代々木は、カラス天狗に操られていたと、数馬はイサミ達に話す。
また、観柳斉は、黒天狗という存在を祖父から聞いたと言う。
ラスボスの描写は、忍者戦士飛影カイジ(脚本)でも丁寧。

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その後、星空を玲子と眺めながら、どんな事件が来ようと、皆と魁がいるから大丈夫なのだとイサミは思う。
皆がいるから自分がいる…という思いは、ど根性ガエル(演出)やグラゼニ(脚本)など、強く描写される。

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そして、イサミ宅の木の上で魁もまた、星を眺めるのだった。
情緒ある夜空の描写は、家なき子エースをねらえ!(演出)ほか結構ある。 

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  • まとめ

 細かく散りばめられた要素が、どんどん繋がってまとまっていく話運びが、やはり上手い。高屋敷氏の脚本担当作で毎回思うが、一話内(22分前後)に話がみっちり詰まっていて驚かされる。

 今回は特に、ご飯をたかりに来た数馬がさりげなく口にしたコンビニ強盗の話が、「伊集院」の正体(=代々木)に繋がる伏線が見事だ。ついでに数馬の食いしん坊さも出ており、複数の要素をきっちり捌いている。

 便宜上、ここでは最初から代々木と表記したが、視聴者は、見え見えの偽名「伊集院」の本名が代々木とはわかっていないので、話が進むにつれて、彼の正体がわかっていく仕組みになっている。その流れが非常にスムーズだ。

 また、小ネタとして、泰之と栄助が代々木を問い詰める際、「杉井」(総監督の杉井ギサブロー氏)と「佐藤」(監督の佐藤竜雄氏)という名字が飛び出す。らんま1/2の高屋敷氏脚本回にも、こういった遊びがある。

 そういったメタネタとしては、ソウシの「ありきたりな展開」という台詞もある。時々、高屋敷氏はこういった「照れ」を仕込むことがある。

 「照れ」といえば、高屋敷氏は「かっこよさ」に全振りしない。かっこよさを前面に出す出崎統氏と長年一緒に仕事しながら、同氏は、どんなかっこいいキャラにもコミカルさや弱さを付与し、一見出崎統氏と対極の傾向を見せる。

 出崎統監督作では、そういった高屋敷氏の「異色さ」が、キャラや作品に多面的な深みを与える効果を及ぼしていて、いい意味で、「出崎統監督作品らしくない」所を出している。

 この「多面的な深み」、高屋敷氏が「キャラの掘り下げ」が上手いことにも繋がってくる。レギュラー、ゲスト、モブに至るまで、同氏がキャラに付与する個性は強烈だ。このことは、同氏の武器であると思う。

 特にグラゼニ(高屋敷氏シリーズ構成・全話脚本)では、主人公・夏之介の先輩、友達、後輩がどういう人物であるか、あっという間に視聴者にわかる構成と話運びになっており、その技術は驚異的だ。

 あと、オヨネコぶ~にゃん(高屋敷氏脚本陣)は、30分内3話構成で、1話7分弱しかないのに、1話内で色々なことが起こり、キャラを立たせたうえ、多段オチまでこなしており、同氏の手腕が凝縮されている。

 高屋敷氏は、ものの5分でも、ほんの台詞一言でも、「キャラを立たせる」ことが可能なのではないかと思える。
同氏のこういったスパスパとした切り口は、膨大な経験と、才覚とセンスの賜物なのだろう。

 本作のような4クール作品では、各話の面白さを維持しながら、全体の流れも見失わないようにしなければならない。
それは大変な作業ではあるが、非常にシステマチックな構成力を持つ高屋敷氏は、そこにぬかりがない。

 昨今だと(特に深夜アニメで)1クール、2クール作品が多い印象だが、高屋敷氏はそのスタイルでも見事なシリーズ構成をしており、作品時間内に「積み重ね」をもたらしている。

 思うに、高屋敷氏は時間の使い方が神がかっているのかもしれない。一分でも、一行でも、「物語」は紡げるのだという気概と気合いが感じられ、圧倒されるものがある。