カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

飛べ!イサミ14話脚本:化学反応と、妥協しない志

オリジナルテレビアニメ『飛べ!イサミ』は、新撰組の子孫であるイサミが、先祖が遺した、光る剣で悪と戦う活劇。総監督は杉井ギサブロー氏、監督は佐藤竜雄氏、シリーズ構成は高屋敷英夫・金春智子氏。

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本記事を含めた、当ブログの飛べ!イサミに関する記事一覧:

https://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E9%A3%9B%E3%81%B9%E3%82%A4%E3%82%B5%E3%83%9F

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  • 今回の話:

サブタイトル:「迷犬ゲンベェ」

脚本:高屋敷英夫氏、コンテ/演出:横田和氏。

しんせん組(=イサミ達)の正体を探るため、カラス天狗(悪の組織・黒天狗党の下部組織)の烏丸ヒロ子は、イサミの飼い犬・ゲンベェを誘拐する作戦に出る。

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夜中、カラス天狗(悪の組織・黒天狗党の下部組織)の平助・重助は、情報を探るべくイサミ宅に忍び込むが、ゲンベェ(イサミの飼い犬)に撃退される。
家なき子(演出)や、めぞん一刻(脚本)ほか、犬の活躍は多い。

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カラス天狗の烏丸ヒロ子は、黒天狗党会長・黒天狗に、イサミとしんせん組(=イサミ達)に何らかの接点があると報告。一旦向きを間違え、彼女は赤面する。
コミカルな女性の敵役は、らんま1/2怪物王女(脚本)でも目立つ。 

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通信を終えたヒロ子は、映像の向きが逆で恥をかいたと、部下を叱咤する。
敵側の下っ端の苦労は、宝島・家なき子(演出)ほかクローズアップされる。

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翌日、ゲンベェの英雄譚をイサミがトシ・ソウシ(イサミの同級生で、新撰組の子孫)に話していると、観柳斉(イサミの祖父)が、買い物に出かけると話し、熊のぬいぐるみと共に出かける。
ルパン三世2nd(演出/コンテ)にも、熊のぬいぐるみが好きなキャラが出る。

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商店街に来た観柳斉は、スリにあうが、咄嗟に気付き、スリにぬいぐるみを掴ませる。
デキる老人は、じゃりン子チエ(脚本)や空手バカ一代(演出)ほか、色々な作品で印象深い。

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一方、平助・重助は、観柳斉が事故に遭って病院に搬送されたと、嘘の電話をする。
じゃりン子チエルパン三世2nd(脚本)ほか、ちょっとしたものから大がかりなものまで、詐欺やペテンの描写はインパクトがある。

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ヒロ子からゲンベェを誘拐しろと指示されている平助・重助は、イサミが嘘の電話で外出した隙にゲンベェを捕獲しようとするが、逆に追い回されズボンを破かれ、川に転落。
服を破られる場面は、忍者マン一平(監督)や、めぞん一刻(脚本)にもある。

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町で観柳斉と鉢合わせしたイサミは、事故の電話が詐欺だとわかり安堵する。
帰宅した観柳斉は、ハンバーグを作る。
飯テロは実に多い。花田少年史あしたのジョー2(脚本)と比較。

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そこに数馬(イサミの叔父で刑事)が訪ねてきて、夕飯を一緒に食べることに。ここも飯テロ。コボちゃんグラゼニ(脚本)と比較。

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数馬は、稲荷常吉というスリの常習犯を追っていると話す。奇しくも自分が会ったスリだと気付いた観柳斉は、常吉は手練れだと言い、イサミと数馬は感心する。
F-エフ-・じゃりン子チエ(脚本)ほか、高屋敷氏はお年寄りにリスペクトがある。

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夜、散々な目に遭った平助・重助は、ヒロ子から大目玉を食らう。その後、夜食にカップ麺を食べようとした際、平助はある事を閃く。
ここも飯テロというか、食べ物ネタは本当に多い。コボちゃんグラゼニ(脚本)と比較。

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平助・重助は糸と肉を使って、ゲンベェをトラックに誘導し、ゲンベェの捕獲に成功する。二人は、最初からこうすればよかったと溜息をつく。
飯テロも多いし、RIDEBACKガンバの冒険(脚本)ほか、食いしん坊描写も多い。

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翌朝、イサミはゲンベェがいないことに気付き、トシとソウシに相談する。
トシは、エサの時間にいないのはおかしいと言い、ソウシは、恋でもしたのかもと言う。
仲間同士の繋がりは、RIDEBACK・F-エフ-(脚本)でも描写が上手い。

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ヒロ子は、ゲンベェ捕獲の特別手当として平助・重助に千円出す。更に、百円追加するから、脅迫状をイサミ宅に届けろと命じる。経費を考えると大赤字だと、平助・重助は嘆く。
かかった労力に見合わない話は、じゃりン子チエルパン三世2nd(脚本)も印象的。

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一方イサミ・トシ・ソウシやケイ(トシの弟)は、ゲンベェを探し回る。一旦休憩で、トシは水を飲み、イサミとソウシは、おいしそうに飲むものだと感心する。
飯テロ同様、おいしそうに飲み物を飲む場面も多い。おにいさまへ…カイジ2期(脚本)と比較。

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ゲンベェを心配するイサミを察し、ソウシは、一旦イサミ宅に戻ろうと提案。その際トシは、ハンカチを取る時に、しんせん組の札を落とす。
友達の細やかな気遣いは、家なき子(演出)や、おにいさまへ…(脚本)ほか、クローズアップされる。

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トシの落とした札は、魁(イサミの父。失踪扱いになっている)が拾う。
ソウシは、トシがハンカチを持っているのが意外だとからかう。
ストロベリーパニックおにいさまへ…(脚本)ほか、高屋敷氏は友達同士の軽妙な会話が上手い。

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家に戻ったイサミは、ゲンベェを誘拐したとする脅迫状を読み驚く。
脅迫状は、割とファンシーな文面と絵。
紙を使ったギャグは、コボちゃんじゃりン子チエ(脚本)ほか結構ある。

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イサミ・トシ・ソウシは、脅迫状が指定した場所に急行。トシに留守番するよう、きつく言われたケイを、観柳斉は熊のぬいぐるみで慰める。
ストロベリーパニック(脚本)にも、先輩が動物の人形で主人公を慰める場面がある。

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ゲンベェが捕われている倉庫にて、ヒロ子は平助・重助に、イサミ達が来たらビデオカメラで撮影を開始しろと命じ、成功したら5万円やると言う。
平助は豪華な食べ物、重助は玩具にそれを使おうと夢想。
ここも飯テロ。カイジ2期・グラゼニ(脚本)と比較。

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イサミ達に追いつこうと町に出た観柳斉とケイだったが、スリの常吉と鉢合わせし、観柳斉は常吉を追う。
キャラとキャラ、点と点がどんどん繋がる話運びは、じゃりン子チエ(脚本)でも見事な手腕が見られる。

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脅迫状の指定した倉庫に着いたイサミ達は、ごちそうを与えられてご満悦なゲンベェを見て安堵する。
ここも飯テロ。コボちゃん(脚本)、元祖天才バカボン(演出/コンテ)と比較。

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倉庫には、ヒロ子が追加派遣した「軍曹」と呼ばれる傭兵が待ち構えていたが、軍曹はイサミ達が子供なことに驚く。
瞳に何か映る表現は、F-エフ-・蒼天航路(脚本)にもある。

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軍曹は、子供は天使だから攻撃できないとヒロ子に連絡を取るが、ヒロ子は報酬の話をして、イサミ達を攻撃しろとわめく。
電話ごしのプレッシャーの描写は、カイジ2期・あしたのジョー2(脚本)も強烈。

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金の話には弱い軍曹は、マシンガンを乱射し始めるが、その際に檻が壊れ、解き放たれたゲンベェは平助・重助を追い回し、犬嫌いのヒロ子も、それを見て逃げ出す。
めぞん一刻番外編(脚本)でも、犬嫌いの三鷹(主人公・五代の恋敵)が災難に遭う。

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暴走する軍曹から隠れながら、イサミ達は、先祖が遺した光る剣を発動させようとするが、軍曹は横から不思議そうにイサミ達に話しかける。
ルパン三世3期(脚本)に、次元の師匠的な傭兵・ギャランコがいるが、軍曹はそのパロディ的存在かもしれない。

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驚くイサミ達だったが、あらためて、しんせん組の名乗りを上げ、光る剣を発動。イサミに天使の姿を見た軍曹は恍惚としながら敗北する。
やられ方がコミカルだったり、心が壊れたりする敵やライバルは、アンパンマンじゃりン子チエ(脚本)ほか強く描写される。 

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イサミ達は、平助・重助が落として行ったビデオカメラにあるマークから、全てが黒天狗党の仕業だと察し、正体を知られないようにしようと話し合う。
じゃりン子チエ・新ど根性ガエル(脚本)ほか、しっかりした子供の描写は多い。 

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一方、観柳斉から逃げる常吉は、背後から魁に攻撃され気絶。魁は常吉に、トシが落とした、しんせん組の札を貼る。
ここも話の点と点が繋がり鮮やか。カイジワンナウツ(シリーズ構成・脚本)といった、複雑な伏線だらけの作品でもこの技術は活かされている。

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夜、いつの間にか家に戻っていたゲンベェを見て、イサミと観柳斉は安堵し、ゲンベェは大物かもしれないと言う。
眠たそうな犬の描写は、めぞん一刻番外編・コボちゃん(脚本)ほか結構ある。

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結局、しんせん組はイサミ達の所ではなく別の所(常吉)の所に現れたとされ(魁による撹乱)、ビデオカメラにはイサミ達のふざけた様子が上書きされており、ヒロ子はしんせん組の正体が掴めず。
悔しがり方に愛嬌がある敵役は、怪物王女ルパン三世2nd(脚本)にも見られる。

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また、軍曹は天使を見たとして信仰心に目覚め、全く会話にならず、ヒロ子は呆れ果てるのだった。
やはり軍曹は、宝島(演出)の海賊・シルバーや、ルパン三世3期(脚本)の傭兵・ギャランコといったハードボイルド系キャラのパロディ的側面が見られる。

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  • まとめ

 とにかく毎度毎度、話が凝っていて唸らされる。今回は、常吉、トシの落とした札、魁といった一見バラバラな要素がどんどん繋がっていくのが凄い。
オリジナル作品でこの凝りようは、なかなか思い切っている。

 原作つきの場合でも、高屋敷氏は複雑なプロットやトリック、伏線が散りばめられた作品のシリーズ構成・脚本を見事にこなすが、オリジナルである本作でも、話の凝りようが尋常ではないのを見るに、これはもう同氏の好みと言っていいのではないだろうか。

 凝った話は、それだけ場面数や作画枚数といった労力もかかってくるので、オリジナル作品の場合は、それを回避しようと思えばできるはずだが、本作ではそうしない。本当に妥協をしない姿勢が見えてくる。

 また、キャラの掘り下げも、回を追うごとにどんどん深くなっていく。
ヒロ子や平助・重助といった敵サイドの面々や、観柳斉の趣味や性格、能力といった面もだし、トシのスパッとした性格や、ソウシの細やかな気遣いなど、隅々まで目が配られている。

 あと、軍曹のキャラについては、先述した通り、高屋敷氏が長年一緒に仕事した出崎統氏が得意とするようなハードボイルドキャラをギャグ化したような印象を受け、興味深い。高屋敷氏は、出崎統監督作品でも、「かっこよさ」を一旦「はずす」。

 それが、出崎統監督作品においては異彩を放ち、異様に目立つ。その根底には、高屋敷氏の「照れ」や、山田洋次監督作品好きと推察できる「コメディや人情ものが好き」があるような気がしている。

 その高屋敷氏の「異彩」は、(一般的な印象として)苦み走ったシリアスなハードボイルド世界である出崎統氏の世界に、ホッとできるオアシス空間を作り出しており、視聴者が親しみやすい所がある。

 そして、本作含め、出崎統氏から離れた作品で高屋敷氏がどうなるかというと、同氏の持つコメディ性や、技巧的な構成術、人情好き、食べ物好きなどが合わさって、より濃い「高屋敷成分」が抽出される。

 勿論、高屋敷氏が出崎統氏から学んだ「かっこよさ・ハードボイルドさ・シビアさ」も存分に活かされている。
F-エフ-(高屋敷氏シリーズ構成・全話脚本)では、高屋敷氏独自の個性と、出崎統氏から持ち込んだものとが合わさり、大変な化学反応が起こっている。

 高屋敷氏と、その時代その時代に組んだスタッフとの化学反応を追っていくのも面白い。同氏は、時代に合わせた柔軟な姿勢を持ちながら、絶対に妥協しない所は妥協しない。それが作品に重みを与え、何年も心に残るものにしていると思うのである。

 

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以前書いた、宝島に関する記事一覧:

https://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E5%AE%9D%E5%B3%B6

 

以前書いた、F-エフ-に関する記事一覧:

https://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23F-%E3%82%A8%E3%83%95-