カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

カイジおよび福本作品、そのアニメが好きで、シリーズ構成の高屋敷英夫さんが、子供の頃からアニメのクレジットで凄くよく見る名前なので調べてみたものの膨大すぎてまとめきれなくなってきたので、自分のブログよりここに切り離してまとめることにしました。ツイッターアカウントは@makimogpfbです

1980年版鉄腕アトム39話脚本:ロボットにもある「男の背中」

 (Togetterのバックアップです。修正や追加などで再構成しています。) 

1980年版鉄腕アトムは、白黒の初代の後、1980年に制作された第二作目。 監督は、後にマクロス監督となる石黒昇氏。
原作コミック(「人工太陽球の巻」)とも比較していく。

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世界各地で、人工の太陽のような機械(以下、人工太陽球)が周囲を焼き尽くすという事件が発生。人工太陽球のコンセプトは原作通りなのだが、長年、太陽を重要キャラと捉えて来た高屋敷氏が今回の脚本担当なのは興味深い。

高屋敷氏が監督を務めた忍者マン一平では、「偽のサンタ」が「偽の太陽」のような気球に乗ってやって来る。
今回も、まさに「偽の太陽」が出る話。こういった、「偽物」に対する怒りは、同氏作品で多く感じられる。

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イギリスの私立探偵であるシャーロック・ホームスパンは、人工太陽球の開発者がお茶の水博士であることを突き止める。
ホームスパンのキャラクターデザインが原作と異なり、手塚作品の他の主人公・七色いんこになっている。
キャラ性はあくまでホームスパンだが。

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また、オリジナルキャラクターとして、ホームスパンの友人で医者のDr.ワクチンが出てくる。
オリジナルキャラクターが可愛いおじさんというのが、なんとも高屋敷氏らしい。ルパン三世2nd脚本でも、オリジナルキャラクターが可愛いおじさん。
とにかく中高年好きのようだ。

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ホームスパンは、お茶の水博士に人工太陽球についての話を聞くため、日本に行くことに。
一方日本では、怪しい集団が、お茶の水博士の家を見張っていた。
アトムが様子を見に行こうとするが、そこへホームスパンが訪ねて来る。

ホームスパンは単刀直入に、お茶の水博士に人工太陽球について問い詰める。
お茶の水博士は、冥王星開拓計画のために、かつて人工太陽球を作ったことを素直に認める。だが予算オーバーで計画は中止になり、人工太陽球は放置されていたという。

ホームスパンは、お茶の水博士が人工太陽球を操っている組織に狙われているとして、自分が博士に変装し、その間にアトムと博士が逃げる計画を提案。
その際、偶然ホームスパンの服を破ってしまったアトムは、ホームスパンの身体が機械だと知る。

ホームスパンは、過去に大怪我をして、頭部以外を機械化していた。彼は、この機械化がロボット医師によるものだとして、ロボット嫌いになったのだった。

機械の身体を晒すホームスパンの姿に、高屋敷氏特徴の「脱衣演出」が出ている。
剥き出しの自分を見せたり、アイデンティティ喪失の危機を示したり、守るものが無い試練を表したりする表現として、裸や脱衣がよく出る。

下記画像はその「脱衣演出」の例。
今回、チエちゃん奮戦記・カイジ・DAYS脚本。他も、裸や脱衣はよく出て来る。

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ホームスパンは自身の計画通り、お茶の水博士に変装して、わざと組織に捕まる。
その間に脱出したアトムとお茶の水博士だったが、東京を襲う人工太陽球に遭遇。アトムは博士を避難させた後、人工太陽球に立ち向かうが、触手に絡め取られ敗北してしまう。

一方、お茶の水博士に変装したホームスパンは、人工太陽球を操る組織のボス・メイスンと対面する(原作では金三角)。彼の野望は、より強力な人工太陽球を博士に作らせ、地球・宇宙を支配する事だった。
そこへ、壊れたアトムも連れて来られる。

博士の変装をしているホームスパンは、渋々、メイスンの計画に従うふりをする。
その素直さをメイスンは疑い、監視を怠らぬよう部下に命令する。
敵も鋭さを発揮するのは、数々の同氏作品で見られる。ルパン三世2nd脚本の銭形然り。

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ホームスパン(お茶の水博士の姿)は、人工太陽球を成層圏外に飛ばすよう、人工太陽球を操縦するロボットに命令するが、メイスンの部下に見つかり邪魔される。
ホームスパンは、駆けつけたメイスン達に正体を明かす。高屋敷氏特徴の豹変。カイジ2期脚本と比較。

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ホームスパンは隙を見て脱出。
人がいなくなった隙に、アトムは操縦ロボットに手足を交換してくれないかと頼む(原作は、頭以外の全身)。何でも言う事を聞く仕様の操縦ロボットは、それを承諾。

一方ホームスパンは追手に撃たれ、足の機能が破損する。
危機一髪のところで、彼は操縦ロボットと手足を交換したアトムに助けられる。
それでもアトムに素直になれないホームスパンであったが、夜を待って、アジトに再潜入することにする。

そして夜になるが、雨が降ってくる(特徴:自然もキャラの一人として、様々な演出に関与させる)。
ホームスパンは足をひきずり、アジトに行こうとするが、思うように歩けず転倒。
アトムは、そんなホームスパンをおんぶし、一緒にアジトへ向かう。

アトムはホームスパンをおんぶしながら、「今の僕には、空を飛ぶ力も十万馬力も無いけど、悪い奴と戦う勇気だけはあります」と語る。
高屋敷氏特徴の、「少年」から「男」への豹変。家なき子演出、カイジ・DAYS脚本と比較。

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また、「おんぶ」で心を通わせるのは、高屋敷氏の作品を追って行くと、歴史が感じられて面白い。今回はじめ、はだしのゲン2・RIDEBACKマッドハウス版XMEN脚本で出てくる。他にも、まだあるかもしれない。特に、はだしのゲン2脚本の、母をおんぶする場面は重要。

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ホームスパンはアトムに背負われながらアトムの男気を感じ、ゲン2脚本では、ゲンに背負われた母が、ゲンの成長を感じる。
このシンクロも面白い。

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心を通わせたアトムとホームスパンは、アジトの潜入に成功。
そして、アトムのメモリに記録されていた操縦法に則り、ホームスパンは人工太陽球を成層圏外へ飛ばすことに成功、アトムと喜び合う。

毎度不思議な高屋敷氏の特徴だが、喜び方が可愛い。はだしのゲン2・MASTERキートンカイジ2期脚本と比較。他も多数。

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そういったシチュエーション作りが上手く、共通しているのかもしれない。

喜びも束の間、ホームスパンはメイスンに頭を撃たれてしまう。
怒りに燃えるアトムは、メイスンを投げ飛ばすのだった。
その後、ホームスパンは頭部を機械化。だが、アトムのようなロボットもいる事を知った彼は、自身のロボット化を後悔しなかった。しかし、ホームスパン家の血統については少し気になってはいた。

そんな彼に、Dr.ワクチンは「伝統とは血液ではないよ。心の中の誇りこそがそれを支えているんだ」と助言する。

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このオリジナル台詞により、高屋敷氏作品で何故、疑似家族とその愛が描かれることが多いのか、少しわかったような気がする。
また、それは同氏作品の魅力にも繋がっている。

ホームスパンの様子を密かに見守っていたアトムとお茶の水博士は、笑顔で病院を去るのだった。

  • まとめ

とにもかくにも、今回は高屋敷氏の「おんぶ演出」の歴史を知ることができたのと、「伝統とは血液ではないよ」というアニオリ台詞により、同氏ポリシーである「疑似家族と、その愛」についての骨子が見えた事が大きな収穫だった。

あと、アトムの「勇気だけはあります」の台詞だが、原作ではアトムの独白。
それを、「雨の中、ホームスパンをおんぶしながら(男の顔で)宣言する」ように改変しているのが、長年「男の世界」を描いてきた高屋敷氏らしい。

また、アトムの「無邪気な心」と「成長しない身体」について、高屋敷氏なりに問題提起しているようにも、うまく改変しているようにも感じる。
同作品の13話における高屋敷氏脚本「電光人間」では、アトムに「悪い心」(悪賢さ)が無い事を指摘する構成になっている。

そして今回では、(身体的には)成長しないアトムが、精神的には「少年から男へ」成長する可能性があることを見せている。
女性作家作品である「めぞん一刻」の脚本・構成で「男の成長」を乗算したのにも驚いたが、アトムにも、それを適用するとは驚き。

この、「男の成長」「男の世界」を、どんな原作にも盛り込む姿勢は、やはり長年、出崎兄弟と一緒に仕事してきたこともルーツと考えられるわけだが、その中でも、同氏は「無邪気な少年が“男”に成長する」様を描くのを得意としている。

そういった意味では、主人公が(身体的に)成長しない「鉄腕アトム」という作品は同氏と相性が悪いのではないか?とも思えるわけだが、今回、アトムの身体的不具合、雨、おんぶ等の状況を作ることで、アトムの心が「男」になる可能性を見せている。

これは、なかなか大胆な行動で、やるとなったら我が強い、高屋敷氏の個性が炸裂している。
めぞん一刻脚本・構成にしろ、ジョー2脚本にしろ、曲げたくないものは曲げないポリシーがあると感じる。

もう1つの高屋敷氏のポリシー、「疑似家族と、その愛」についても、今回、オリジナル台詞により明確になっているわけだが、これも、あらゆる作品で色濃く出ている。カイジでも、カイジと石田さん・おっちゃんとの関係がクローズアップされている。

カイジ2期では、石田息子とカイジの繋がりにも焦点が当たっていて、地下シーンでは必ず石田息子が映るよう設定されている。これも、カイジが石田息子の母・父の代わりとなる疑似親子関係を描いており、だからこそラストが胸を打つ。

原作を大クラッシュする出崎統氏と長年仕事した割に、高屋敷氏は、原作に忠実な時は凄く忠実。そんな時でも、自分の出したいテーマはさりげなく入れている。
これは、高畑監督下の、じゃりん子チエの脚本経験が大きいと、私は考えている。

今回は、さりげなくはないが、自分の出したいテーマを原作から上手く抽出し、自身のオリジナルと混ぜている。
また、「伝統とは血液ではないよ」に、同氏の直球のメッセージを感じた回だった。

ルパン三世2nd40話脚本:挫折あればこそ輝く「成功」

Togetterのバックアップです。修正や追加などで再構成しています。)

サブタイトルは「ミサイル・ジャック作戦」。原作コミックの「コン・ジャック」をベースにしている。今回は原作コミックとも比較していく。

今回、高屋敷氏は「毛利蘭」というPNを使っている(wikiにも明記されている変名)。

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冒頭、ルパン達がクルーザーで打ち合わせをしているが、波止場の風景が、高屋敷氏が長年仕事した出崎統氏の演出的(特徴:出崎演出もちこみ)。エースをねらえ!高屋敷氏演出回と比較。出崎統氏は、とにかく波止場好き(兄の哲氏も同様)。 

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ルパン達は、サン・ホセからプエルトリコまで大量のダイヤがミサイルに積まれて運ばれるという情報をキャッチし、ミサイルに積まれる前にダイヤを盗む計画を立てる。
成功を祈り、ルパン達は乾杯。カイジ2期脚本と比較。

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一方、地元警察の警備局長・トロンボの元に、銭形がICPOから派遣されてくる。
トロンボは、銭形を「ジョニガタ」と何回も良い間違えるなど、結構可愛い(特徴:可愛いおじさん)。1980年版鉄腕アトム脚本と比較。ちなみにトロンボはオリジナルキャラクター。 

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トロンボと銭形は、とある仕掛けを用意する。
その一方でルパン達は、鮮やかな手口で、輸送中のダイヤを盗む。
しかし、ケースを開けると銭形が入っていた。ダイヤは銭形そっくりの人形に入れられ、ミサイルのある研究所へ送られたという(特徴:知略合戦)。

今度こそルパンを逮捕すると息巻く銭形だったが、ルパンはそれを軽くいなし逃走。
ルパン達は、諦める手は無いとして、クルーザーにて作戦を練り直す(特徴:不屈の精神)。
この第一次作戦や、打ち合わせ場面はアニメのオリジナルで、チームワークの良さ(特徴:仲間愛)が強調されている。

ルパンは、研究所の所長のペットの虎に変装して研究所に潜入。そして更に所長に変装。
着替え途中に秘書が入って来るが、なんとかやりすごす。秘書がなかなか味があり、特徴の優秀モブ。めぞん一刻脚本ではモブに名前を付け、最終回にまで出演させている。

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一方で不二子は盗聴機やマイクロテレビで、ミサイルの情報を次元・五右衛門・ルパンに送る。次元と五右衛門は、ミサイルが通過するK地点にてミサイル攻撃の準備をする。
だが銭形は不二子の胸の谷間に隠された盗聴機を見つけ、不二子を牢に入れる。 

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原作では、盗聴機が隠されていたのは不二子のお尻。本作では胸の谷間に変更されている。ちなみに銭形に剥かれて不二子の胸が丸出しになるが、結構珍しい事らしく、ファンの間では邪な理由で人気が高い回らしい。

話を戻すと、盗聴機は銭形により壊されたものの、不二子のイヤリングに隠されていたマイクロテレビカメラは無事。
不二子は銭形を誘惑し、銭形の帽子の上にマイクロテレビカメラをセットする。セットした後不二子は誘惑を停止し豹変(特徴)。カイジと比較。

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ルパンはミサイルのコンピュータ分析を進め、さらに不二子を牢から救出する。
また、銭形に仕掛けたカメラからの映像で、ルパン達はミサイルの発射時刻を知る。マイクロテレビカメラのアップにより、物が無言で語る、という高屋敷氏の特徴が出ている。1980年版鉄腕アトム脚本と比較。

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第六感で、銭形は発射時間を変えるよう進言するが、トロンボは拒否。駄々をこねる姿が可愛い(特徴)。1980年版鉄腕アトム脚本と比較。

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高屋敷氏は、脚本作でも演出作でも、おじさんの可愛さを出すのが上手い。特に「脚本」でもそうなのが不思議。

ルパンは発射時間をコンピューターにインプットし、次元達がいる地点に、いつミサイルが通過するかを計算、次元達にそれを伝える。
一方ミサイル発射を見届けた銭形は、不二子に言われた事を気にして鏡を見る(特徴:真実を映す鏡)。忍者戦士飛影脚本と比較。

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銭形は、「女にもてる顔かどうか鏡を見てみたら」と不二子に言われたのを気にして鏡を見る。
忍者戦士飛影の場合、「見苦しい顔だ」と言われたのを気にして、ハザードがグラスに映った顔を見る。
作品を越えてシンクロしているのが面白い。

さて、鏡を見た銭形は、自分の帽子にセットされたカメラを漸く見つけて驚く。
だが時すでに遅し、設定時刻を迎えた五右衛門と次元は、ミサイルを攻撃する仕掛けを発動。
仕掛けは、先の尖った丸太を巨大バネで発射し、ミサイルの中のダイヤだけを貫くもの。

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丸太は見事に命中、ミサイルからダイヤだけを取り出すことに成功。
喜ぶルパンと不二子が可愛い。怪物くん脚本と比較。

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これも、演出ならわかるが「脚本」からでも画に表れる、高屋敷氏の不思議な特徴。

そして、仕掛けを命中させた次元と五右衛門もまた、握手をして喜び合う。MASTERキートン脚本と比較。

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とにかく手と手を握りあって親愛を表す表現は、あらゆる作品で出てくる。
監督作忍者マン一平では、「手を握れば友達」という直球台詞がある。

研究所から脱出したと見られるルパンと不二子は、笑い合いながら車で疾走するのだった。ここも、喜び方が可愛い。1980アトム脚本と比較。

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ラストはダイヤを映して締め。チエちゃん奮戦記脚本と比較。

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締めに静物を映すのもよくある。

  • まとめ

原作コミックを読んで驚いたのだが、原作はかなりスピーディで短い。どの話も、原作はスピーディなので、このまま30分(実質22分弱)にするのは難しい。
1980年版鉄腕アトムでは、長い原作を超圧縮していたが、ルパン三世は空いている尺を埋める技量が必要。

そこで、今回の場合はAパートまるまる(打ち合わせや第一次作戦)オリジナル。第二次作戦も、原作では描かれなかった各キャラの動向が描かれている。特に、不二子がいつ銭形にカメラを仕込んだかが丁寧に描かれている。

また、トロンボに、かなりのスポットが当たっている。オリジナルキャラクターが可愛いおじさんという辺り、もろに高屋敷氏の好みが出ている。
Aパートでは、トロンボと銭形でルパンを出し抜くなど、意外にトロンボは知略もはたらく。

太陽の使者鉄人28号の脚本もそうだが、挫折しても諦めず、リベンジを図る展開は高屋敷氏の作品には多い。今回も、第一次作戦が失敗するのはアニメのオリジナル。
原作より間抜けと言われるアニメ版銭形だが、今回は第一次作戦にて見事にルパンを出し抜く。

ところで、もう一人のオリジナルキャラクター(というかモブ)に、所長の秘書がいる。原作にも秘書が出るが、そちらは美人設定で、ルパンともヤってしまう(当然カット)。アニメの秘書は味のある顔をしており、ど根性ガエル演出を見るに、こちらは演出の三家本氏の好みと思われる。三家本氏演出のど根性ガエルでも、味のある顔の女性キャラがよく出ていた。

第一次作戦のトロンボや銭形の知略っぷりを見るに、「銭形は間抜けではない」という原作要素を大切にしている感じがする。表現が原作より若干コミカルなだけで、アニメは原作完全無視なわけではないと思う(回によるが)。
アニメ版ルパン三世の意外な一面を見た気がする。

原作にて銭形が鋭さを発揮するのは、不二子の盗聴機を見つける所あたりだが、オリジナルで追加された前半にて、銭形達がルパンを出し抜くあたり、銭形の底上げが行われている。
高屋敷氏の作品では、敵側も知略を使う展開が多い。

高屋敷氏のポリシーに、「善悪の区別は単純ではない」というものがある(道徳的にはルパンが悪なのだが)。
今回もそうで、原作では分が少し悪かった銭形側のパワーバランスを調整してまで、互角の知略合戦をさせ、双方に視聴者が感心できる作りになっている。

今回は、不二子の胸が丸出しになる回という不純な動機で人気の回ではあるが、ルパン一味のチームワークの良さも評価されている。
カイジ(特に2期の沼編)におけるチームワークの良さにも、それが生かされている感じがする。

また、ルパン達が一度失敗したことにより、ミサイル攻撃作戦成功のカタルシスを、より味わえるようになっている。
思えば、カイジ2期・沼編の脚本・構成でも、第一次作戦の失敗から、カイジがリベンジを成功させるまでのカタルシスの組み上げ方が上手い。

今回は、原作の補完や、カタルシスを高める構成など、脚本技量の高さが見られた回だった。
原作と比べることにより、アニメのルパンに求められる脚本技量が高い事がわかったのも収穫だった。ルパン三世2ndのシリーズ構成・大和屋竺氏の影響も大きいと思われる。

太陽の使者鉄人28号23話脚本:大地が「選んだ」者

Togetterのバックアップです。修正や追加などで再構成しています。)

「太陽の使者鉄人28号」は、鉄人28号のアニメ第2作。

少年・金田正太郎は、父が遺した鉄人28号と共に、インターポールの一員として悪と戦う。監督はゴッドマーズ監督の今沢哲男氏。

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九州の地熱エネルギー基地が、天馬に乗った武者のような巨大ロボット(ヒュウマロボ)に襲われ壊滅するという事件が発生。
大塚警部と正太郎は早速現場に向かう。大塚警部と正太郎は名コンビで、なんとなくカイジ脚本の、カイジとおっちゃんの関係にも生かしている感じ。

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エネルギー基地を襲った者達はヒュウマ一族と名乗っており、正太郎達は彼等の拠点を探すべく、九州一帯を飛行機で調べる。
地図を見ながら航空機で飛ぶシチュエーションが、ルパン三世2nd演出と似てくる。他作品の演出や脚本にもよくあるので、好きなシチュエーションなのかもしれない。

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正太郎達の動向はヒュウマ一族に察知されており、族長・ハヤテはヒュウマロボで正太郎達の飛行機を襲う。間一髪、正太郎が鉄人に飛行機を受けとめさせ、正太郎達は助かる。鉄人の優しい手つきが、まんが世界昔ばなしの、ガリバー旅行記脚本を思わせる。

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だが正太郎達はヒュウマ一族に包囲され、鉄人を操作するコントローラーとも分断されてしまう。為す術がない鉄人は谷底に落下。
ハヤテは更にムチで正太郎の手を痛め付け、一時的に操縦できなくさせる。男くさい対決姿勢がカイジ脚本の一条とカイジを思わせる。 

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ハヤテは、2000年前に九州を支配していたヒュウマ一族の再興が目的だと言い、この地から立ち去れと正太郎に警告し去る。
岩石に埋もれた鉄人の腕のアップ・間が同氏特徴を感じさせる。めぞん一刻脚本と比較。どちらも物をキャラとして捉えている。

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正太郎達は一旦撤退し、敷島博士(正太郎の父の友人)から、ヒュウマ一族の伝説を聞く。
伝説によれば、太古の昔にヒュウマ一族は巨神を使い九州を支配していたらしい。説明映像が太陽のアップから始まるのが高屋敷氏的。元祖天才バカボン演出と比較。 

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高屋敷氏は今回「脚本」なのに、不思議なことだが、説明映像の影絵調が、まんが世界昔ばなしの高屋敷氏演出作「11わの白鳥」の雰囲気に似ている。

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話を伝説の方に戻すと、ヒュウマ一族の行いは火や空の神の怒りを買い、火山が爆発。巨神は岩に封印されたという。
これも自然をキャラクターとして捉えている高屋敷氏のポリシーが出ている。忍者戦士飛影でも、怒りを表すように火山が噴火する展開がある。

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正太郎達は、伝説をもとにヒュウマ一族の拠点を発見する。だがハヤテに見つかり、命までは取らないから去れと、奇妙な術で叩き出される。
そこへ救援のヘリが到着。太陽を背にした画は同氏作品に多い。元祖天才バカボンルパン三世2nd演出、忍者戦士飛影脚本と比較。 

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正太郎達がハヤテの術で眠らされていた間に、ハヤテ達は第2のエネルギー基地を襲撃。次のエネルギー基地への襲撃を止めるべく、正太郎は鉄人を直ちに再起動。
これは、警官の一人がコントローラーを持ってきてくれていたおかげ。同氏特徴の優秀モブ。らんま脚本のモブも優秀。

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鉄人との戦闘に突入したハヤテは、阿蘇山へ鉄人を誘い出す。マグマに鉄人を落とす作戦だったが、もみ合った双方がマグマに転落。ヒュウマロボはマグマに耐えられず爆発。
散り際にハヤテと悪鬼の顔が重なるが、沼に一条の顔が重なる、カイジ2期脚本と比較。

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一方、鉄人は無事にマグマから生還。
正太郎は、もっと話し合えたらこんな事態は避けられたかもしれない、と憂う。善悪の区別は簡単ではない…という高屋敷氏のポリシーの表れ。1980年版鉄腕アトム脚本の、善悪の判断がつかないロボットの死と比較。

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大塚警部は、正太郎の言動に、「それは思わん方がいい」と言う。
二人と鉄人は崖に佇むのだった。このビターな余韻も、1980年版鉄腕アトム脚本13話のラストに通じるものがある。

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  • まとめ

今回、同作18話脚本の海底火山、忍者戦士飛影の活火山、ルパン三世3期の火山湖、と同氏作品に火山がよく出てくるのは興味深い。
自然をキャラクターと捉え、様々な活躍をさせるのは高屋敷氏の特徴だが、火山も重要キャラなのかもしれない。

また、ヒュウマ一族の伝説にて、「空や火の神」が「怒って」、巨神を岩に封印したとある。
やはりこれも、自然をキャラクターと捉える高屋敷氏のポリシーが出ている。
また、ヒュウマロボと鉄人の決戦の場も、活動が活発になった阿蘇山

いわば、阿蘇山が今回の戦いに「怒って」いる。
そして、それを戦術に生かそうとしたハヤテはそこそこ頭が切れる。カイジ2期脚本でも、地盤をカイジが味方につけた事が強調されている。
蒼天航路ワンナウツ脚本も、自然を味方につける。

本シリーズは正太郎が鉄人によく無茶をさせるが、今回もそうで、鉄人とヒュウマロボは双方マグマに落ちる。
それでもヒュウマロボが爆発し、鉄人が生き残るのは、大地がどちらを生かすか、キャラクターとして「選択した」とも取れる。

そもそもヒュウマ一族は太古の昔にも「空や火の神」(=自然)を怒らせており、今回も鉄人というより自然の前に敗れたともいえる。
思えば本作のタイトルは「太陽の使者」鉄人28号。もともと鉄人は「自然」に愛されているということかもしれない。

それとは別に、ヒュウマ一族の長・ハヤテは、正太郎達の命までは取らないなど、中々男気のある武人として描かれており、ここにも「善悪は単純ではない」という高屋敷氏のテーマが表れている。
そのため、正太郎もハヤテの最期を少し悼む。

ただ、子供向けなので、大塚警部に「それは思わん方がいい」と言わせている。だが、それを受けた正太郎が複雑な笑顔を見せる所に、やはりビターな雰囲気が漂っている。
後年、深夜の大人向けの作品を手がける事が多くなる兆しが出ている。

カイジ2期最終回脚本では、地下に行く一条に対し、カイジが「這い上がって来い」と発破をかける様が強調されている。
これは一条がまだ生きているからこそ、かける事ができた言葉であり、今回のハヤテに正太郎が言えなかった事とも言える。

カイジ2期脚本・シリーズ構成の沼編では大地が味方し、今回は、大地が鉄人を「選んだ」わけで、やはり自然という「もの言わぬもの」の活躍が大きいわけだが、興味深いところである。演出だけでなく、「脚本」でもこれを出せる所が面白い。

今回は、高屋敷氏の「自然をキャラクターとして扱う」ポリシーが色濃く出ているわけだが、「火山」はその「感情」を表現しやすい。
だから、同氏作品には火山がよく出るのかもしれない。
とにかく今回は、火山が重要な役回りをする回だった。

1980年版鉄腕アトム31話脚本:「魂」が宿る機械の「愛」

Togetterのバックアップです。修正や追加などで再構成しています。)

1980年版鉄腕アトムは、白黒の初代の後、1980年に制作された第二作目。 監督は、後にマクロス監督となる石黒昇氏。

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今回のエピソードはアニメのオリジナルで、演出・コンテが出崎哲氏(出崎統氏の兄)。高屋敷氏とは、統氏同様に関わりが深い。

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とある山間部に、老人と、孫のさくらが経営するロッジがあった。
ロッジの主人である老人は、展示してある蒸気機関車を眺めるのが日課。
高屋敷氏の作品は、味のある老人が多いが、彼もその一人。監督作忍者マン一平や、MASTERキートン花田少年史脚本と比較。

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アトム、クラスメイト、担任のヒゲオヤジは、遠足として老人のロッジに向かう。
道中の列車内で、シブガキ達は自分の大切な物を賭けてゲームをする。高屋敷氏の作品に頻出の博打。元祖天才バカボン演出、チエちゃん奮戦記・カイジ2期脚本と比較。

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ロッジに到着したアトム達だったが、あいにく天候は悪く、嵐になる。これも、天を重要キャラと捉える高屋敷氏の特徴が出ている。
めぞん一刻花田少年史・アカギ脚本と比較。他も多数で、展開や演出に大きく関わる。

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クラスメイト達は嵐や雷を怖がるが、リアクションが可愛い。これも高屋敷氏の特徴で、抱きついたりもよくある。演出だけでなく、脚本でもそうなるのが毎回不思議。
DAYS・怪物くん脚本と比較。ちなみに怪物くんも、雷を怖がる。

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嵐はどんどん酷くなり、ロッジは土砂崩れなどで孤立してしまう。
古いダムの様子を見に行っていたアトムだったが、足のジェットが不調で、腕のジェットで飛ぶしかなくなる。鉄人28号太陽の使者の脚本もだが、同氏のロボットアニメ脚本は、ロボットが満足に動けなかったり、思い通りにならなかったりする展開が多い。

アトム達は、ロッジに飾ってある蒸気機関車に乗り脱出する計画を立てる。老人は最終的に承諾。
実は老人は、蒸気機関車のAIをベースにしたロボットだった。同氏特徴の、ありのままの自分を示す脱衣演出。ど根性ガエルルパン三世2nd演出、カイジ脚本と比較。

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また、老人が機関車のAIであるという設定は、同氏の特徴である「物に魂」を、もろに体現していて興味深い。
老人のAIユニットを機関車にはめこむと、命が灯って生きているような描写になり、特徴が出ている。MASTERキートンめぞん一刻脚本と比較。

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アトムが障害物を除去したり、レールを支えたりしながら、機関車は走行。目的地は、建設中の新規ダムを越えた地点。
機関車AIは全ての力を出しきり目的地に着くも、オーバーヒートでブレーキが利かなくなる。
一方アトムは足のジェットの不調の原因を突き止め(序盤に伏線あり)、それを除去。足のジェットが使えるようになる。

止まらなくなってしまった機関車を正面から止めようとするアトムだったが、エネルギー不足で失敗。しかも、先の線路が分断されておりピンチに。ここでヒゲオヤジが十字を切るのだが、元祖天才バカボンルパン三世2ndの高屋敷氏演出回でも十字を切る場面がある。

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アトムは、先が無くなった線路を上方向に曲げて、列車をジャンプさせる。
この、列車をジャンプさせるネタも、高屋敷氏のルパン三世2nd演出コンテ回に出ており、脚本でも演出でも同じ事ができる高屋敷氏の不思議さが出ている。

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ようやく列車は止まり、アトム達は窮地を脱する。しかし、機関車AIは力尽きてしまっていた。高屋敷氏特徴の、体を張る年上男性(ロボットだが)。ルパン三世3期・忍者戦士飛影キートン脚本と比較。特にルパン三世3期のキャラは、死んでしまっている。

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さくらは祖父を探しに機関室へやって来るが、祖父がロボットだったとは信じがたく、祖父を探しまわる。高屋敷氏特徴の、ぼっち描写。ど根性ガエル演出、MASTERキートン脚本と比較。

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また、さくらと老人の、疑似家族の愛を描いているのも同氏特徴が出ている。

さくらの姿を見て、アトムとヒゲオヤジは、お茶の水博士に、機関車AIを元の老人の姿に直してもらえるよう頼むことにするのだった。
雲の隙間から射す光が、一応の希望を感じさせる(特徴:天は重要キャラ)。家なき子演出、二舎六房の7人脚本と比較。

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  • まとめ

アニメのオリジナル話である事もあり、高屋敷氏の特徴というか、何が好みなのかが非常によく出ている。
可愛かったり優しかったりする老人は、高屋敷氏の作品に数多く登場するわけだが、オリジナル話にまで出るあたり、相当に中高年キャラが好きなようだ。

今回の演出コンテである出崎哲氏は、本作の自身の脚本・演出回にて、家族がロボットだったという回を手がけている。その回では、ゲストキャラの妹がロボットだったのだが、今回は、祖父がロボット。いかに高屋敷氏が中高年キャラが好きかわかる。

高屋敷氏と出崎哲氏のタッグ関連作は多く、
ど根性ガエルでは、高屋敷氏が演出・出崎哲氏がコンテ。
ベルばらでは、高屋敷氏がコンテ・出崎哲氏が演出。
他も、役職が色々違えど、色々な作品で連携している。今回も、互いの好みを熟知している感。

あと、高屋敷氏の過去作ネタも結構出てくる。前述の、十字を切る動作や列車ジャンプもだが、雌牛や蒸気機関車ネタは、家なき子演出から来ていると思われる。また、老人(ロボット)が命を張って、血の繋がっていない子を守るのも、家なき子のビタリス的。

そして、高屋敷氏の大きな特徴である、「自然や物に魂」。
機関車の魂が意思を持って活躍するというコンセプトが、なんとも高屋敷氏らしい。
しかも、最初は老人の姿で喋るが、中盤から機関車AIになると喋らなくなる。

ここが正に高屋敷氏的で、「もの言わぬものが意思を持つ」という同氏のポリシーに則っている。
数々の作品で描かれてきた要素だが、ロボットが喋るのが当たり前のアトム世界でも、それが出て来た事に驚かされる。

また、人間(またはロボット)の本質を問う「脱衣演出」としての脱衣や裸を出す要素も入っている。老人がAIユニットを見せる場面はじめ、冒頭でも、ゲームに負けたアトムが剥かれて胸の中身を友達に見られる場面がある。なんとなく、賭けに(あえてだが)負けて裸にさせられたカイジと比較。

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今回、蒸気機関車が活躍するわけだが、1980年代は、実際に蒸気機関車がどんどん退役していった時代でもある。
また、今回活躍した機関車・D51(デゴイチ)は沢山のファンがいる名機。
そういった時事ネタも絡んでいると思われる。

ところで、手を握って親愛の情を示す同氏特徴もよく出てきた。ど根性ガエル演出、キートン脚本と比較。

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とにかくアニメオリジナル回なのも手伝い、高屋敷氏の特徴の宝庫になっている。同氏の好みを熟知しているっぽい出崎哲氏が演出なのもドラマチック。

高屋敷氏は、出崎哲氏の弟である出崎統氏とも長年一緒に仕事しているが、出崎統氏との仕事の場合も、互いの好みを熟知している様子が作品に出ている。
高屋敷氏と出崎兄弟の繋がりとしても、興味深い回だった。

花田少年史12話脚本:人生は己で決めろ

Togetterのバックアップです。修正や追加などで再構成しています。)

花田少年史概要: 舞台は、カラーテレビが憧れだった時代の日本の田舎。 事故を切欠に幽霊が見えるようになってしまった少年・花田一路が遭遇する様々なドラマが描かれる。

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前回11話も高屋敷氏脚本。前回についての記事:

http://makimogpfb2.hatenablog.com/entry/2017/11/06/125540

前回まで:
交通事故に遇い、生死をさまよう青年・春彦は、一路の体を借り、かつての恋人・加奈に会いに行く。加奈は春彦との娘・夏を産んでおり、春彦は現世への未練が強まってしまう。一方、魂を瀕死の春彦の体に入れた一路は苦しむ。

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春彦が大金持ちの息子ということで、看護婦達は、もし彼に見初められたら玉の輿だと色めきたつ。モブの存在感の強さに、高屋敷氏の特徴が出ている。めぞん一刻脚本では、名無しキャラに名前をつけるほど。

今回は、看護婦の一人・町子の存在感が強く出ている。

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一方、瀕死の春彦の体に入っている一路は苦しむ。
また、姿は春彦、中身が一路のため、見方によってはワイルドな男に見え、看護婦の町子は惚れ込む。

その頃春彦(体は一路)は、娘・夏と遊び、生きたいと強く願う。そんな彼を、天が「見ている」(特徴)。めぞん一刻脚本と比較。

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その一方で、一路(体は春彦)は何か食わせろと暴れる(特徴:食いしん坊)。この辺り、時系列が原作と異なり、高屋敷氏特徴の時系列操作が出ている。じゃりん子チエやカイジ脚本にもよく出ている妙技。
場面は転じ、加奈と、親代わりの小料理屋・たぬきやを経営する夫婦の会話になる。

加奈と、たぬきや夫婦は疑似家族的な関係。あらゆる高屋敷氏の作品にて、疑似家族関係と、その愛情が前面に出ている。
めぞん一刻脚本の住人達や、カイジ脚本における、カイジとおっちゃんの関係などが挙げられる。

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たぬきや夫婦との会話で、加奈は過去を回想。
同棲していた春彦と加奈の仲は、金持ちである彼の親によって引き裂かれ、その際春彦は、生まれ変わったら今度こそ一緒に…と加奈に言うが、人生は一度きりだと加奈は反論(特徴:人生の価値の如何)。

だが、レールのある人生を強いられてきた春彦は、生まれ変わりを信じなければ生きていけない…と話す。
そして今、公園で遊ぶ夏と春彦(体は一路)は、誰かが置き忘れたオモチャを見つけ、それが大事にされていない事に気づく(特徴:物に魂)。元祖天才バカボン演出と比較。

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元祖天才バカボン演出では、手荒に扱われ壊れたノコギリがパパを呪う。

今回のオモチャは、今ある人生を大事にしない春彦を表しているとも取れる。
その後、オモチャの本当の持ち主が現れ、春彦(体は一路)は殴られる。

これも、体の貸し借りをしている一路と春彦が重なり、意味深。その証拠に、夏が持っていた砂遊び用のバケツとスコップが意味深に映る(特徴:物が「見ている」)。このような物のアップ・間は、高屋敷氏の演出・脚本問わず出てくる。めぞん一刻脚本と比較。

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オモチャを大切にする…という夏とのやりとりで、春彦(体は一路)は、加奈との別れを回想する。加奈は、「一番大切なもの」は何かと春彦に問いかける。家が自分より大切なのか、とも(特徴:アイデンティティの如何)。
その時、春彦はその問いに答えられなかった。

だが今、春彦は何が大切かを痛感。加奈と夏を守り、生きたいと強く願う。

その頃、壮太(一路の親友)は一路宅を訪ね、行方知れずの一路を心配していた。ここはアニメのオリジナルで、一路自身の「生」の危機が強調されている。犬を使った間が、やはりめぞん一刻脚本と重なる。

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そして一路(体は春彦)は危篤状態に陥っていた。そこへ、一路の知り合いの幽霊・カトリーヌが現れ、春彦の体と共に死ぬか、生きる気力を強く持ち、峠を越えるしか無いと、現状を解説する。

春彦(体は一路)の方はというと、夏と一緒にいたいと加奈に頼み込む。

だが、真面目に取り合ってもらえず、春彦(体は一路)は夏を抱えて走り出す。
しかしながら、体は子供のため、すぐにバテる(特徴:幼さの強調)。
追い付いた加奈は、今度生まれ変わったら夏の兄として産んであげる、と春彦(体は一路)を慰める。

そんな加奈に、春彦(体は一路)は「一生は、やはり一度きりだ」と言う。彼は、死に直面したことで、何が大切かわかったのだ。自分で決めた加奈との時間や、自分が自分であることが肝心であると。自分で決めた人生を生きよ…は高屋敷氏の作品にて多く強調されるメッセージ。

春彦(体は一路)は、「僕は自分を取り戻してくる」と言い、「生きるために」自分の体に戻るべく走り出す。
家なき子演出にて、自分の生き方を自分自身で選んだレミが、夕陽に向かい走り出すシーンを彷彿とさせる。
現に、夕暮れの中走る場面が原作より強調されている。

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そして、走る春彦(体は一路)の前にカトリーヌが現れ、彼を病院にテレポートさせる。
こうして一路と春彦はそれぞれの体に戻る。

帰宅が遅くなった一路は、母から拳骨を食らう。
玄関のランプが強調されている(特徴)。ジョー2・めぞん一刻カイジ2期脚本と比較。

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結局、テストや予防注射を春彦(体は一路)に受けさせるという一路の企みは水泡に帰す。
翌朝、登校を渋る一路の前にカトリーヌが現れ、春彦が快方に向かっていると報告。この辺りのカトリーヌ・一路・一路の友人である壮太・桂とのやりとりはアニメオリジナル。

カトリーヌは、テストや予防注射で死ぬわけではない、と一路に登校を促す。カイジ2期最終回脚本にて、仲間の所へ行け、とカイジを促す、やさしいおじさんと比較。

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また、カトリーヌは、そんなに嫌ならテストも注射もない死後の世界に来るか?とも言う。

一路は「ごめんだね」と言い、友達のもとへ駆け出す。仲間の元へ走るカイジ2期脚本と比較。

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このオリジナルのやり取りにて、春彦だけでなく、一路もまた、本能的に、何が自分にとって大切かがわかったことが表現されている。

その後、加奈と夏の元へ、春彦が訪れる。
松葉杖を落とす動作(アニメオリジナル)などに、高屋敷氏の特徴が出ている(物をキャラクターとして捉え、演技させる)。めぞん一刻脚本と比較。

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春彦は、一度きりの人生を精一杯生きることを、自分で決めたのだった。

  • まとめ

前回11話に引き続き、「生きるとは、人生とは何か」の問いかけ。
終盤の、カトリーヌと一路とのオリジナルのやり取りにて、それが何なのかの補完が成されている。
また、自分で決めた道を行け…は、高屋敷氏が何度も投げかけるメッセージの一つで、カイジも然り。

カイジ脚本・シリーズ構成においても、今まで自分の道を自分で決めてこなかった事にカイジが気付き悔やむが、色々な経験を経て、自分で決断するようになって行くのがシリーズを通して描かれる。
めぞん一刻脚本・最終シリーズ構成においても、人生の岐路に立った五代の決断が描かれる。

カイジ1期(高屋敷氏シリ構・脚本)にて、カイジは様々な死のギャンブルで「死」に直面し、己の「生」とは何かを問われる。
今回の春彦と一路も、死に直面したことで己の「生」を見つめ直す機会を得る。

今回の春彦は「自分が自分であること」が大切だと気付く。
カイジも「オレがやると決めてやる。ただそれだけだ」「オレは(人を)押さない、押さないんだ」と、自己を強く保つ決意を、色々な経験を経て持つようになる。

原作つきでもオリジナルでも、「己を強く保て」「自分の決めた道を行け」は、高屋敷氏の作品で強く押し出されるメッセージ。
また、既に死んでいる、今回のカトリーヌや、カイジにおける、石田さんや佐原達といった死者には、「生」は二度と戻らない。

そういった、死者の示したメッセージも汲み取りつつ、人は生きていかねばならない。その意味で、オリジナルで挿入された、カトリーヌと一路の会話はなかなかウィットに富んでいる。
また、クライマックスで覚醒した春彦(体は一路)は男らしく描かれている。

カイジめぞん一刻のシリーズ構成・脚本にも言えることだが、高屋敷氏は原作に男の世界・男の生き様を加味することが多い。
特に、めぞん一刻にこれが適用されていたのには驚く。
これはやはり、男の世界を描く出崎統監督作品に長く関わって来たのが一因だろうか。

高屋敷氏の作品に滲み出る「生きるとは…」というテーマ、あしたのジョー2最終回脚本が代表的だが、元祖天才バカボンの演出や脚本でも多く描かれており、興味深い。
生きるとは…の答えがなんであれ、それが「自分で決めたこと」なら上等…ということかもしれない。

前回の11話・今回の12話は、カイジ1期の人間競馬・死の鉄骨渡りのエピソードや、カイジ2期最終回と見比べると面白い。
どれも「一度きりの人生をどう生きるか、どう決めるか」の深みが描かれている。
今回は、そういった高屋敷氏の一貫したテーマやメッセージを感じる回だった。

花田少年史11話脚本:一度きりの人生、一つだけの魂

Togetterのバックアップです。修正や追加などで再構成しています。)

花田少年史概要:
舞台は、カラーテレビが憧れだった時代の日本の田舎。 事故を切欠に幽霊が見えるようになってしまった少年・花田一路が遭遇する様々なドラマが描かれる。

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夜更けの嵐の中、一路の知り合いの幽霊であり、元インチキ占い師であるカトリーヌが、一路の枕元にやって来て不吉を告げる。
嵐・雨・雪・晴天など、「天」を重要キャラとして扱い、不吉を予告したり情感を表したりするのは高屋敷氏の特徴。アカギ脚本と比較。予想通り、この嵐の描写はアニメのオリジナル。

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なかなか起きない一路の頭の中をカトリーヌが覗くと、食べ物の事でいっぱいだった。特徴の飯テロ・食いしん坊。カイジ脚本と比較。

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イラついたカトリーヌは、化粧を落としかけた怖い顔面を見せて一路を脅かす。

ようやく起きた一路に対し、カトリーヌは「明日恐ろしいことが起きる」と予言する。カトリーヌは、生前はインチキ占い師だったが、死後の予知は百発百中。

だが、流石の彼女も、詳細は予知できない模様。
ちなみにカトリーヌと一路が出会う回も高屋敷氏脚本。

朝、カトリーヌの予言が気になった一路は、家族や友人に対し疑心暗鬼になるが、いずれも杞憂に終わる。

一路の友人である壮太・桂と、大路郎(一路の父)が話し込んでいる際、犬のジロのアップ・間があるが、めぞん一刻で頻出していた、惣一郎(犬)の間が思い出される。 

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学校にて、一路は壮太にだけ、カトリーヌの予言の話をする。こういった、男の子同士の可愛い友情は、同氏の特徴の一つ。コボちゃん脚本と比較。

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壮太と話している最中、先生が通りかかり、明日はテストと予防注射があると言う。

一路は、テスト・予防注射が、カトリーヌの言う「人生最大の危機」であると思い込む(特徴・幼い)。
その頃、交通事故で重体になった青年・春彦は、死ぬ前に加奈という女性に会いたいと強く願っていた。
すると春彦は幽体離脱し、一路のもとにやってくる。

春彦は、死ぬ前にどうしても会いたい人がいるから、一路の体を、それまで貸して欲しいと頼み込む。
カイジ(シリーズ構成・脚本)にて、1千万チケットをカイジに託し、死の鉄骨を渡り切ったなら妻に獲得金を渡して欲しいと頼み込んだ石田さんと重なっていく。

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カイジの石田さんも、今回の春彦も、虫のいい話ではあるが、命を賭けたお願い。
カイジは人の好さから、一路は無邪気さから、そのお願いを承諾してしまう。
もっとも、一路には、春彦の魂が入った一路の体にテストや予防注射を受けさせたいという打算もあったが。

一路と春彦が話している間にも、春彦の容態はどんどん悪化。
計器のアップ・間に、同氏特徴が出ている(もの言わぬものが“語る”)。カイジジョー2脚本と比較。

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一路と春彦の会話と、実際の春彦の様子が頻繁に入れ替わるのにも、同氏特徴が出ている。

事は急を要するので、さっそく一路と春彦は魂を交換する。交換のやりとりの画が、やはりシリーズ構成のカイジと重なっていく。

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春彦の体へ急ぐ一路の魂が巻き起こす風を察知したカトリーヌは、不吉を感じる。自然(この場合は風)=キャラが強調されている。めぞん一刻脚本と比較。

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魂を春彦の体に入れた一路は、春彦の感じていた痛みを一気に浴び悶絶。おまけに注射器を取り出した医者を見て恐怖する。
元祖天才バカボンの高屋敷氏演出回では、パパが大怪我をして、医者に恐怖する場面があるが、それを彷彿とさせる。

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春彦の体に入った一路のもとに、カトリーヌが現れ、魂と体が馴染み始めていると指摘。これこそアイデンティティ喪失の危機で、色々な高屋敷氏の作品で扱われているテーマ。
一方で一路の体を借りた春彦は、どうしても会いたい女性・加奈の元へ急ぐ。

春彦(体は一路)は道中、一路の近所のおばあさんから、学校をサボっていると勘違いされ、拳骨を食らう。
だが慇懃無礼に謝る春彦(体は一路)を見て、おばあさんは、強くぶちすぎたのでは、と心配する。特徴である、やさしい老人の描写。MASTERキートン脚本と比較。 

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その頃、春彦の体に入った一路は、治療を嫌がり、ぶーたれる。特徴の豹変描写。
また、元祖天才バカボン演出でも、バカボンに変装した犯罪者(中年)の、豹変演出が冴えていた。

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春彦(体は一路)が無一文で困っていると、カトリーヌが現れ、「あんたって、やる気も生きる気も無い」と指摘する(特徴:甲斐のある生き方とは何か)。

だがこのままでは一路が危ないとして、カトリーヌは春彦(体は一路)を目的地までテレポートさせる。

春彦(体は一路)はついに、会いたがっていた加奈の姿を見ることに成功。加奈は、かつての春彦の同棲相手だった。
カイジ(シリーズ構成)にて、妻の苦境を見つめる石田さんと比較。

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どちらも、現状を見るだけで、どうすることもできない状況。

すると、加奈に娘がいることが発覚。春彦(体は一路)は、それが自分と加奈の子供であると、すぐに察する。
彼は、しばらくは娘と共にいたいと強く願ってしまう。そして次回へ(次回も高屋敷氏脚本)。
物のアップ・間に同氏特徴が出ている(物をキャラクターと捉える)。めぞん一刻脚本と比較。

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  • まとめ

一路の特殊能力や一路の無邪気さによって、一見軽めに描かれているが、魂を交換するということ、死の直前に何かを託すこと、未練を晴らすこと、生きるということ、など、とんでもなく重い要素が入っている。カイジ(高屋敷氏シリーズ構成・脚本)と比較すると面白い。

カイジ」の石田さんは、カイジに家族の事を託して死んでしまう。本作の一路のように、魂の交換はできないが、石田さんは、若くて芯の強い人間であるカイジを心から信じて死ぬ。
その願いはカイジに通じ、色々な局面でカイジを奮い立たせる。

対して春彦は、知り合ったばかりの一路に、とんでもなく重いお願いをしている。一路は一路で、テストや予防注射が、この世の終わりだと思うくらいに幼い。
求めるものが違いすぎる二人は、互いに、そのねじれに苦しむことになる。

魂を交換するということができてしまう本作だが、それにより、人生も魂も、一度きり、ただ一つのものであることが痛感できる作りになっている。
高屋敷氏の演出・脚本ともに、「甲斐のある人生とは何か」の問いかけは何度となくされている。

これについては、真っ白になり、燃え尽きたジョー2最終回脚本にて大きく描かれているし、アカギ(脚本・シリーズ構成)の「まだだ、限度いっぱいまで行く。地獄の淵が見えるまで」に代表される、アカギが問う「生死の意味」においても強調されている。

一度しかない人生を、どう生きるか決めるのは自分しかいないし、それを甲斐のあるものにするかどうかも、自分次第。
そう思うと、子供の一路に頼る春彦は少々ヘタレに見え、カトリーヌにも「やる気も生きる気もない」と指摘される。

ただ、そんな春彦も、死に直面したからこそ、加奈(とその娘)に会いたいと、行動を起こした所は、ガッツがある。
一方で、子供の姿でしか娘に会えず、どうすることもできない苦しみを春彦は味わうことになり、それは天罰とも代償とも取れる。

一路は一路で、子供らしい生き方を謳歌していたのに、予防注射やテストが嫌だからと、魂の交換に応じてしまう、無邪気さ故の愚かさが出ている。
元祖天才バカボン演出・脚本においてのパパ、鉄腕アトム(1980)脚本の電光(善悪の区別がつかないロボット)の話などでも、無邪気故の惨劇が描かれている。

高屋敷氏が時々投げかける、「生きるということ」。表現・状況は様々であるが、根底に流れるものは共通している気がする。
甲斐のある事や、スリルがある事、義理人情を重んじる事、などが代表的なものだが、今回も、一度きりの生をどう使うかを投げかけている。

また、高屋敷氏がよく描く「アイデンティティ喪失の危機」も、違う体に魂が馴染みかかるという状況をもって、今回は特に強調されている。
自分とは何か、自分の人生とは何か、生きるとは何か…
そんな重いテーマが隠されている回だった。

続きの12話についてはこちら:

http://makimogpfb2.hatenablog.com/entry/2017/11/13/124211

1980年版鉄腕アトム21話脚本:人の業を「見ている」ロボット達

Togetterのバックアップです。修正や追加などで再構成しています。)

1980年版鉄腕アトムは、白黒の初代の後、1980年に制作された第二作目。 監督は、後にマクロス監督となる石黒昇氏。

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豪華宇宙客船タイタン号は、月一周旅行に向けて順調に航行していた。
船内パーティーにて、取材のため乗り込んでいるアナウンサーがベラベラ名実況なのが、高屋敷氏特徴。下記画像は名実況達。ジョー2脚本・監督作忍者マン一平・らんま脚本。

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タイタン号は、お茶の水博士の友人・神田博士の設計。それを祝いに、お茶の水博士とアトムも乗船していた。この状況設定はアニメのオリジナル。
だがタイタン号は、コンピューターの故障もあり、小惑星に激突。船は爆発の危険があるとして、皆は救命艇で避難するが、アトム含め逃げ遅れた乗客がおり、彼らは予備の救命艇で脱出。だが救命艇は故障し、月に不時着する。

救命艇に乗っていたのは、アトム・神田博士・少年のヨシオ・新婚夫婦のノリコとケンジ・成金社長の西山・会社重役の樽井・アナウンサー。

このキャラ名・キャラデは全てアニメのオリジナル。
この中で、ヨシオという名は高屋敷氏と長年仕事した、竹内啓雄(よしお)氏からとったのではないだろうか。
また、ノリコという名。リコというオリジナルキャラクターはXMENやらんま脚本で登場しており、気になる所である。あくまで推測だが、ど根性ガエル演出などで関連性がある演出家・棚橋一徳(かずのり)氏の“のり”から来ているのではないか?とも考えている。

アトム達が不時着した地は、夜は-200℃だが、日照時間中は人が生きられる温度になり、空気も存在。
一行はそれを知り喜ぶ。
いつも不思議だが、同氏作品は、演出も脚本も、喜ぶ姿が可愛い。家なき子演出、監督作忍者マン一平カイジ脚本と比較。

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外に出た一行は、月の不思議な自然に圧倒される。
植物も一気に成長したりするのだが(原作通り)、高屋敷氏演出の、まんが世界昔ばなし「ジャックと豆の木」が思い出される。

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一方、神田博士は救難信号を出せるように、救命艇の修理に励む。

その一方で西山と樽井は、でかい怪物を森で見たと、アトムに知らせる。

それを聞き、調査に向かったアトムは、朽ち果てた古い宇宙船を見つける。
船内には旧式のテープレコーダーがあり、女性宇宙飛行士・ミーニャの声が吹き込まれていた。

ミーニャによれば、事故でここに不時着し、イワンというロボットと共に何とか暮らしていたらしい。
また、ダイヤを見つけ、それをイワンに耳飾りとして与えた話も吹き込まれていた。
高屋敷氏特徴の、ぼっち・ぼっち救済描写が冴える。

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ミーニャは病に倒れ、テープレコーダーに話を遺して死亡。
アトムが話を聞き終えた直後、イワンが現れる。イワンはミーニャを看病するプログラムを実行し続けており(特徴:ぼっち)、アトムも看病しようとする。アトムは困り、なんとか脱出する。

その頃、アナウンサー達は原生する果物を見つける。果物は美味で、彼らは食べまくる。
高屋敷氏特徴の飯テロ。しかも、このくだりはアニオリ。
相変わらず描写が食欲をそそる。チエ2期・キートンカイジ2期脚本と比較。

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アトムからミーニャの話を聞いたヨシオは、アナウンサー達を鼓舞しようとし、ダイヤの話もするが、彼らはダラダラし続ける。
だが神田博士が救難信号システムを直した途端、西山達はダイヤを欲しがる。カイジ脚本でも描かれている、人の浅ましさ。 

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西山はダイヤを独り占めすべく銃を取り出し、ヨシオを人質に取って、アトムをダイヤの在処へ案内させる。
やむを得ずアトムがイワンにダイヤの在処を聞くと、ミーニャの墓に埋めたとのこと。

西山はヨシオに墓をあばくよう命令するが、ヨシオは拒否。
このヨシオ、少年ながら不屈の精神を持ち、勇敢で誇り高い好漢。カイジ1期9話脚本の、不屈の精神を持ち、汚い心を嫌悪するカイジに共通するものがある。同氏の好きなタイプなのかもしれない。 

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そうこうするうち、雪が降ってくる。夜が来ると凍死は必至。アトムは、やって来る救出艇に乗るよう西山を促すが、西山は墓あばきを止めない。アトムは怒りとも呆れとも取れる表情をし、ヨシオだけを連れて艇へ向かう。人の業に怒るカイジ脚本と比較。

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そして、西山はダイヤを掘り当てる。カイジ脚本と比較。

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また、雪などの「天」を重要キャラと捉えるのは高屋敷氏の特徴。下記は情感溢れる雪特集。今回、家なき子演出、めぞん一刻脚本。

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ダイヤを手にした喜びも束の間、西山はイワンに捕まり、介護プログラムを実行されて身動きが取れなくなる。そして、そのまま夜を迎えることに…。
救出艇は西山を残し発進。窓から外を眺めるアトムは虚しさを覚えるのだった。
人間の浅ましさに悔し涙を浮かべるカイジ脚本と比較。

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  • まとめ

冒頭からして、アナウンサーがベラベラ名調子で喋る所に、高屋敷氏の特徴が出ている。台詞もほぼアニオリ。
これは、あしたのジョー脚本にて実況アナの台詞を書いてきた所から培われたと思うが、同氏が好きな、「男はつらいよ」の寅さんの口上からも来ているかもしれない。

ミーニャとイワンの過去話や、ひとりぼっちで過ごして来たイワンの描写についても、多くのぼっち・ぼっち救済を描いてきた高屋敷氏の特色が出ている。
監督作忍者マン一平でも、海岸でぼっちで過ごし、人を砂像に変えてしまう怪物の話がある。

忍者マン一平の方の怪物は、人に危害を加えすぎたとして一平達に退治されるが、怪物の寂しさも印象に残る話になっている。
一方今回のイワンは、自覚はなくとも、介護プログラムが人を殺める方向に働いてしまう。
それは、イワンを益々孤独にする。

「孤独は万病の源」は高屋敷氏が強く打ち出すメッセージの一つだが、今回もそれが強く出ている。
原作もアニメもミーニャの病名は明かされていないが、高屋敷氏的に考えると、アニメでは孤独が彼女を蝕んでいたとも取れる。

イワンとミーニャは互いの孤独を癒し合う関係にあったと思われ、ミーニャの死により、イワンは果てしない孤独に陥っている。それが何とも悲しい。
西山にしても、じきに死んでしまうだろうし、イワンの孤独はさらに強まることが予想される。

高屋敷氏の作品では、死を招きかねない孤独が、仲間や家族の愛により救済される例と、死を招く孤独にはまったまま狂ったり、死んだり、果ては世界の危機を招くまでに至る例とがある。今回は後者。

原作ではラストにナレーションが入り、強欲な者にバチが当たったことが強調されるが、アニメの場合は、イワンの孤独と悲しさが強調されている。

高屋敷氏の特徴として、「意思を持つ、もの言わぬもの」の活躍があるが、イワンもその好例と言える。

クライマックスで描かれる、ダイヤに目がくらんだ人間達の浅ましさは、カイジ1期9話脚本と比べると面白い。
命の危機にあっても、墓あばきを断るヨシオと、金に翻弄される人間の浅ましさを見てきたカイジの激昂は、重なるものがある。

そしてアトムやイワンは、人間の浅ましさを、ロボットとして客観的に「見ている」。
高屋敷氏の作品では、月や太陽などの自然や、ものいわぬ物たちが全てを「見ている」かのように描写される特徴があるが、今作でも、それが出ている。

そしてアトムには感情があるので、人の業を見て怒ったり悲しんだりする。
高屋敷氏が描写してきた、「もの言わぬもの」達も、アトムのようになれたなら、様々な表情を浮かべたかもしれない。その証拠に、同氏の児童向け作品では月や太陽に表情がつく。

このように、高屋敷氏のロボット描写は、「魂がある、無言のもの」の延長戦上にあり、相性はいいのではないだろうか(ロボットものは少ないが)。
とにかく今回は、孤独や、人間の業を見つめるロボット達が印象に残る回だった。