カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

チエちゃん奮戦記31話脚本:全てを「見て」いる猫の目

Togetterのバックアップです。修正や追加などで再構成しています。)

3部作の2話目。
直前30話概要:
チエとヒラメが保護した迷い猫は、東京のヤクザ組長の飼い猫だった。テツがその猫をペットショップに売ったのを知った組長は激怒(猫は無事に飼い主の元に戻った)。

いつもヤクザをどついてるテツは、それを聞き大喜び。襲撃に来るであろうヤクザ達を歓迎する準備をする。

  • ここから31話:

テツは、駅から百合根のお好み焼き屋までヤクザを誘導する張り紙を町中に貼り、お好み焼き屋の2階でヤクザを待つ。のっけから同氏特徴の紙&文字ギャグが沢山出てくる。紙ネタは挙げればキリがないが、黎明期の、ど根性ガエル演出と比較。

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貼り紙を見たおバァはん・チエは互いに慌てる。おバァはんと反対方向からチエが来て、二人が合流するのだが、この演出、エースをねらえ!演出や、元祖天才バカボン脚本でも使われている。たまに効果的に使われる。

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おバァはんとチエは、テツが貼った貼り紙を逆順に回収してまわる。貼り紙の始点は、駅だった。貼り紙にて、ヤクザを挑発する文にテツのイメージがオーバーラップする。これもよくある特徴。カイジ2期脚本と比較。 

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一通り貼り紙を回収したチエとおバァはんは、アイスを食べて一休み。キンキンに冷えたアイスをまず味わうチエと、キンキンに冷えたかき氷をまず味わうカイジ(脚本)がシンクロ。奇跡か、あるいは、そういう食べ方が好き?
いずれにせよ、特徴の飯テロ。 

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そこへ百合根がやって来て、今日1日、お好み焼き屋をテツに提供してテツを隔離するつもりだと言う。ヤクザが来なければ、テツは夜くらいには帰るだろうという算段。
その頃、お好み焼き屋で待ちぼうけのテツは長くて早口・名調子(特徴)の独り言を言っていた。

テツは貼り紙がはがされたのではないかと気付き、外に出る。そこでマルタ(ヒラメ兄)と鉢合わせ。迷い猫を保護したせいで、ヒラメ家は結果的にヤクザと電話連絡を取れる場所になってしまっていた。マルタはヤクザから電話があったと怖がり、テツにベタベタする(特徴) 。

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マルタがテツにベタベタすがるのは、1期からの特徴。他の人の演出や脚本回でもそうなのだが、高屋敷氏脚本回では特にそれが出ている。マルタをテツが鍛える回の脚本を、高屋敷氏が1期で担当しているからかもしれない。好きな組み合わせなのかも。

テツはマルタの家でヤクザからの電話を待ち、お好み焼き屋の場所を伝えることに成功。待ちわびるテツは、ふとんカバーに「かんげえ東京ヤクザ様」と書き、お好み焼き屋の2回から垂らす(特徴・文字ギャグ)。それを見たモブ達のコメントが秀逸(特徴・優秀モブ) 。

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テツの書いた垂れ幕を見たミツルは心配してチエ家を訪ねるが、おバァはんとチエは、テツが待ちぼうけをくらうはずだと、気楽に構えており、チエは上機嫌でホルモンを焼いていた。高屋敷氏脚本回では、チエが子供らしく陽気にホルモンを焼く場面が多いのが特徴。 

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そこへジュニアがやってきて、小鉄に、ヤクザがお好み焼き屋に向かっていると報告。 一方小鉄はチエ家で百合根の酒の相手をしていた。

ジュニアは色々呆れて、一人で様子を見に戻る。

ここのチエ・小鉄・ジュニアのやりとりが興味深い。

チエは、ジュニアと小鉄に対し、男のくせにグダグダ喋るなと言う。するとジュニアは、「女のくせに、言うたら怒るくせに」と文句を言う。元祖天才バカボンの高屋敷氏演出回で、妻が夫を虐待する話があり、どちらも男性の受ける被害が描写されていて、時代先取り。

一方、東京ヤクザ一行はテツの待つお好み焼き屋に到着。

テツの垂らした垂れ幕について、組長と手下がボケ・ツッコミのやりとりをするが、高屋敷氏特徴の、連呼が入っている。また、組長はツッコミ時に黄金のパターを振り回すが、カイジ会長の杖とシンクロ。 

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東京ヤクザ組長(以下・菊蔵)は、お好み焼き屋2階にてテツと対峙。対峙画面がカイジ2期脚本とシンクロ気味。

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テツは菊蔵達を煽りに煽り、花札(カブ)勝負に持ち込む。先に疲れて寝たら、勝ちが帳消しになるルール。ジュニアはその様子を見て呆れる。 

夜、百合根は自宅(お好み焼き屋)の様子を見に行くと言う。チエはもしもの時のために、小鉄に酒を持たせる(百合根は酒を1升以上飲むと最強になる)。思いを伝える物=酒瓶が同氏特徴。

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だが百合根と小鉄はその晩、帰ってこなかった。ここで今回は〆られ次回へ。

ちなみに次の32話では、菊蔵の親戚が出てきて、菊蔵の代わりにテツと勝負。死闘になるもダブルKOとなり、勝負の間、お好み焼きを焼きまくった百合根が儲かるオチとなり完結。

  • まとめ

特徴である紙&文字ギャグが山ほど出てくる。

あと気になるのは、一旦キンキンに冷えた状態を楽しむアイスの食べ方。これがカイジに引き継がれているのが奇跡。チエちゃん奮戦記1話脚本でも、うなぎ弁当の食べ方が出て来たり、かなり食べるのが好きそう。

興味深いのは、ジュニアのジェンダー?論。「男or女のくせに」という言葉の暴力に抗議している所を強調している。

男性も「男のくせに」という言葉に傷つくというのが今でこそよく論じられているが、時代先取り。元祖天才バカボン演出の逆DV描写然り。

また、ジュニアのもう一つの台詞も強調されている。「ちょっと(店が)繁盛したら、もうテツを放し飼いにしてること忘れてるやんけ」。

物語上、テツが成長したり変わったりする事は許されておらず、高屋敷氏脚本回だと、1期含め、それを憂う描写が多い。

今回にしても、シリーズ全体にしても、テツの放し飼い&飼い殺しが行われている。だから話が動く、というのもあるが…

高屋敷氏脚本回は、それを憂う描写が多い気がする。1期のボクサー編や、2期の、関取を倒した話など、テツの可能性を提示する話が多い。

今回、ジュニアの台詞の強調具合に、同氏の作家性が出ている。また、話全体をジュニアが客観的に見ており、そして呆れている。高屋敷氏の演出や脚本は、もの言わぬ自然や物が「見て」いる描写が多いが、今回は猫であるジュニアが「見て」いる回だった。

チエちゃん奮戦記26話脚本:年下に背中を押される、無邪気な中高年

Togetterのバックアップです。修正や追加などで再構成しています。モバイルだと、クリックしても画像が大きくならないのですが、urlをクリックするとtwitterの大きい画面で見えます。)

2部作の前半。興業師となった地獄組ボス(1期で活躍。名はレイモンド飛田)が再登場。
今度はコケザル(テツの鑑別所時代の友人の息子)の誘いで、お化け屋敷を企画。
冒頭、入道雲のアップ・間がある(特徴:自然=キャラ)。
年の差コンビが夢を語るのが、カイジ2期脚本とシンクロ。 https://t.co/Iwpg46g0aZ

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地獄組ボスが夢を語る場面が、何か情緒ある。散々夢をテツや西萩連中に潰された地獄組ボスだが、コケザルのお化け屋敷企画で元気を取り戻す。
カイジの沼攻略企画で再び中高年が奮起する、カイジ2期脚本と通じるものがある。
石を池に投げる場面がベルばらコンテとシンクロ。 https://t.co/DmCeHoYfuA

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コケザルはマサルを誘い、表向きの、お化け屋敷企画者にする。
マサル主催という事で張り切るマサル母の強引な誘いを断れず、チエやヒラメも、お化け屋敷に参加することに。二人は、かき氷を食べながら、その事を愚痴る。特徴の飯テロ。カイジ2期脚本と比較。 https://t.co/mXnQtV3Xn5

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猛暑ということで、おバァはんが、チエ家に扇風機やスイカを持って来る(特徴:贈り物)。
特徴である、物のアップ・間が出て来る。
また、スイカを落としてしまっても、おいしく食べる食いしん坊なのも特徴。 https://t.co/SD1efrhhx3

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一方、地獄組ボス達とコケザルは、喫茶店で、お化け屋敷の計画を語りあう。ここも、カイジ2期脚本13話とシンクロ気味。

今回のコケザルの計画は、お化け屋敷を通り抜け出来たら賞金を出すという条件でヤクザを集め、テツを使って絶対にヤクザを通り抜けさせず、参加費だけをせしめるというもの。カイジの沼も、スケールが違うが今回と同じく大金獲得計画。 https://t.co/8gwZSNpYsQ

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お化け屋敷でヤクザから大金を巻き上げる陰謀を語る場面、カイジ2期脚本で班長達が陰謀を語る場面とシンクロ。

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コケザルの後を追ったチエは、裏に地獄組ボスがいることを把握する。また、お化け屋敷をテツが嫌がるので、チエは怪しむ。過去に何かあるようだ(これは次回に持ち越し)。

コケザル達の計画にはテツの協力が必要なので、コケザルがミルク金時を持って、テツとの交渉にあたる。

またしても飯テロ。カイジ2期脚本と比較。ちなみにチエ1期でも、高屋敷氏脚本にて、かき氷を美味しそうに食べる場面がある。 https://t.co/fU9SO4pFe2

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何としてもお化け屋敷に行きたくないテツは、ヤクザを脅かす役を引き受ける。かき氷屋の間(特徴)が、カイジ2期脚本とシンクロ。

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テツはお化け屋敷のバイトの事を伏せ、就職したと嘘をつき家を出るが、拳骨は、テツが手の込んだ嘘をついたことに感心する。ここで次回へ。 https://t.co/6Pfu6zSM59

 

  • まとめ

今回はカイジ2期13話脚本とのシンクロが多く、比べると面白い。
地獄組ボスも、カイジのおっちゃん(坂崎)も、何度も夢破れているが、親子ほど年の離れた少年・青年から、具体的な勝算のある野望を聞き、再び奮起する。
真夏の入道雲が見守るのも同じ。冒頭、地獄組ボスが夢を語るが、コケザルが「まだ便所の豆電球一つ買うてない」とつっこむ。これも、具体的な勝算がある野望を持つコケザルと、漠然とした野望を持つ地獄組ボスの差。具体的な野望を持つカイジと、ヤケクソ競馬でオカルトに頼ったおっちゃんに通じる。

地獄組ボスは、フランク・シナトラのディナーショーをプロデュースしたいなどとも夢を語るが、コケザルに、「目の前の金儲けの事を考えんと」と言われる。そんなコケザルを、地獄組ボスは「クールなミラクルボーイ」と評する。この場面も、何か渋い。

年下が年上に生きる気力を与える話も、高屋敷氏の作品には多い。ルパン3期・はだしのゲン2・カイジ脚本など。
監督作忍者マン一平でも、一平の優しさに触れた魔法使いの老人が、一年生から再出発する話がある。また、こういった所に、生きる=生き甲斐を描く同氏の特徴が出ている。

高屋敷氏は、少年や青年の成長を描く一方で、少年・青年から背中を押される中高年の再起も、よく描いている。これもデビューまわりの、ジョー1脚本の段平・丈がルーツなのかもしれない。ジョー1脚本は無記名だが、記名のジョー2脚本でも、それは色濃い。

地獄組ボスは、チエ1期の高屋敷氏脚本でも大活躍した。特に、竹本家や西萩の人々の異様さを説いた大演説は名場面。
ジョー2脚本の経験からか、テツをボクサーにしようとした地獄組ボスに愛着があるのかも。今回も、地獄組ボスの不屈の精神が描かれている。

中高年の奮起といえば、ワンナウツ脚本でも、オーナーの犬であることを捨て、奮起する監督の話がある(結局、渡久地の犬になるが)。
高屋敷氏の作品には、演出・脚本とも可愛いおっさんがよく出る。夢を諦めない姿が無邪気だから可愛いのかもしれない。とにかく地獄組ボスが可愛い回だった。

  • 追記

この続きの27話について。以下ネタバレ

小鉄・ジュニア、拳骨の妨害によりテツが参ったため、地獄組ボス・コケザルの野望は潰える。
テツは過去に、ヨシエとのお化け屋敷デートでヨシエにプロポーズしていたので、お化け屋敷を嫌がっていたのだった。
拳骨は、テツのプロポーズ話をチエに伝える。
照れ臭くていたたまれないヨシエとテツは偶然街で鉢合わせし、思い出の喫茶店でお茶する。ヨシエが財布を忘れたため、テツが奢るハメになる事が予想できるオチ。