カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

めぞん一刻93話脚本:二人の心をつなぐ「雪」

Togetterのバックアップです。修正や追加などで再構成しています。)

めぞん一刻は、アパート一刻館管理人の未亡人・響子と、一刻館住人・五代のラブストーリー。

前回まで:

様々な誤解・すれ違いが元で、管理人業務を停止し実家にこもった響子だったが、色々なドラマを経て、ようやく一刻館に戻って来た。

冬の朝、響子は惣一郎(犬)と散歩する。

そんな中、響子は五代の真摯な告白を回想する。
並木道や鳥の表現が出崎演出的。脚本でも時々生じる怪現象。エースをねらえ!演出や、

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家なき子演出と比較。この回は吉永監督のコンテ。

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一方五代は、皆に送り出され、大学の卒業試験の結果を見に行く。

結果は合格。五代はその結果を受け、以前バイトしていた保育園を訪ねる。園長は、求人している保育園を紹介してくれる。
また、バイト先のキャバレーの面々は、五代を祝福してくれる(特徴:仲間愛)。

バイト先の面々の祝福と、家なき子演出での皆の祝福との比較。どちらもモブの温かさが印象深い(特徴:優秀モブ)。ちなみにホステス役の一人を、TARAKOさんが演じている。

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色々タイミングが合わず、五代からの連絡を受け取れなかった一刻館の面々は、五代が試験に落ちたのだと思っていたが、帰ってきた五代から直接吉報を聞く。一刻館の面々も祝福の宴を開く(特徴:疑似家族)。そんな中、朱美は、五代と響子の関係がじれったいと言い出す。

朱美は響子に、亡き夫の事が忘れられないのか、と問い詰める。響子は、忘れられないのは事実だと言い、自室に逃げる。

自室にて響子は、震える手で口紅を引き、口紅を取り落とす。物の意味深なアップ・間が同氏特徴的。ルパン演出・ジョー2脚本と比較。

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翌日五代は、紹介された保育園の面接に行く。そこで五代は、同じく面接を受けに来た中本と、その息子に会う。五代は、中本が面接している間、息子の面倒を見てあげる(特徴:義理人情)。
ブランコが出てくるが、同氏担当作品によく出る。エースをねらえ!演出と比較。

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中本は、妻に逃げられて、男手一つで息子を育てていた。それでも中本は、五代が採用されるはずだと言う。

人生の苦渋を舐めた中年と、未来を掴もうとする青年との出会いは、よく同氏作品に出る。カイジ(シリーズ構成・脚本)と比較。 

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五代は複雑な思いで帰路につく。途中、雨が降ってきて、そしてどしゃ降りとなる(特徴:天もキャラクターとして扱う)。
駅に着くと、響子が傘を持って待ってくれていた。
ジョー2脚本の、丈を待つ葉子と比較。葉子の場合、丈に会えないが。 
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五代は響子に、面接で出会った中本の話をする。そんな折、面接結果の電話がかかってくる。結果は、五代が不合格、中本が採用だった。
五代は複雑な心境ながらも、どこかホッとする。五代はそんな思いを、響子に話す。ポットのアップが同氏特徴的。XMEN脚本と比較。 
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五代と響子は話し込み、響子の亡き夫・惣一郎の話をする。響子は、自分の中から惣一郎を消すことはできないかもしれない、惣一郎と過ごした日々は幸せだった…と語る。
五代は、同じ幸せはあげられないけど、自分なりのやり方で、違う幸せを響子にあげたい、と言う。

響子は、そんな五代の手を握り、同じものが欲しいなんて思っていない、と言う。
手から手へ想いを伝える描写も、同氏作品によく出てくる。挙げればキリがないが、ワンナウツ脚本と比較。 

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そこへ、朱美から電話がかかってくる。スナック・茶々丸(皆のたまり場)で一刻館の皆と飲んでいるので来ないか、という要件だった。また、朱美は素直に、昨晩の事を謝った。
外を見ると雪が降っており、五代と響子は感嘆する(特徴:天もキャラ)。家なき子演出と比較。

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響子は惣一郎(犬)のことを口走る。単にご飯がまだだった事を思い出しただけだが、一瞬五代は、響子の亡き夫の方の惣一郎と勘違い。響子は「犬の事ですよ」と言い、二人は可笑しくなって笑い合う。ジョー2脚本で、丈と葉子が無邪気に笑い合う場面を彷彿とさせる。

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五代は素直に、惣一郎と響子の事を考えると不安になると吐露する。
五代の不安な心を、窓が映す。特徴の、真実や状況を映す鏡演出。ジョー2脚本と比較。ジョー2では、金竜飛の不安な心を、鏡が映し出している。五代も金竜飛も、映し出された真実に目線が行っていない。 

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響子も響子で、「どうしていいかわからない」と不安を吐露する。五代は響子を優しく抱擁し、響子も、応えるようにその手に触れる。二人は自然にキスし、部屋の灯りはいつしか消える。
ベルばらコンテと比較。どちらも天(雪や風)がキャラクターとして二人をアシスト。 

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窓の灯りでの情感の表現を、家なき子演出(下記画像中段)と比較。家なき子では、家の中の温かさを表現。
今回(下記画像上段)は、家の中での二人の恋愛を表現。
原作では事後シーンがあるがカットされている。
ベルばらコンテ(下記画像最下段)では、恋愛描写をイメージとして処理している。

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翌朝、上機嫌な響子を見て、朱美は五代と響子の仲の進展を察する。原作では、より直接的な台詞があるがカット。

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一方五代は、以前バイトしていた保育園の園長が、ぎっくり腰で入院したと聞き、お見舞いに行く。園長は、保育園の男手が不足しているため、五代を本採用したいと告げる。 

ここでも、花のアップ・間があり、同氏特徴が出ている(物もキャラとして扱う)。ルパン三世2nd演出と比較。

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五代の就職が決まったことを電話で聞いた響子や一刻館の皆は喜ぶ。五代はそのままプロポーズしようとするが、公衆電話の硬貨が切れてしまうのだった。

  • まとめ

今回印象深いのは、ゲストキャラであるシングルファーザー、中本の存在。声も大塚芳忠氏で、個性的。モブや地味キャラに個性を持たせる所に、高屋敷氏の個性が出ている。
また、天候や電話など「人ではないもの」が重要な役割を担っている所にも特徴が出ている。

特に天候の移り変わりは重要で、冬晴れの早朝、曇天、雨、雪、冬の快晴、と心情や状況と連動する作りになっている。

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天候を味方につけるといえば、蒼天航路1話脚本や、ワンナウツ脚本が思い出される。
台詞よりも視覚情報優先なのも、同氏特徴。

脚本なのに演出時代とやっていることが一緒・または過去・未来作と映像が似てくる怪現象についてだが、脚本段階で、映像であるところの「アニメ」をよく意識した脚本だからかもしれない…と推測している。
それくらい、同氏作品は視覚情報に訴えることが多い。

これは、同氏の師匠かつ長年一緒に仕事した出崎統氏による所が大きいかもしれない。出崎統氏は、コンテ段階で脚本を大幅に変えたり削除したりする事で有名だが、それは、「映像でわかること」に余計な情報を付加しない、というこだわりの表れでもある。

そんな出崎統氏と長年一緒に仕事した高屋敷氏なので、演出でも脚本でも、視覚情報に大きく比重を置いているのかもしれない。
今回「雪」は五代と響子が結ばれる場を盛り上げる大きな役割を担っている。
ただ、視覚的情緒に拘ったため、響子の告白はカットされた。

カットされたのは、

「ずっと前から五代さんの事好きだったの」

「ずっと前っていつから?」

「忘れちゃった!」

という、響子と五代のやりとり。事後という事情もあるだろうが、じゃあどこに入れるか?というと難しい。それくらい、「雪の情緒」を優先している。

朱美の「下半身に張りがある」もカットされたが、朱美の表情一つで、五代と響子に何があったかわかる作りになっている。これもアニメならではの表現。

脚本といえば、台詞や構成に目が行きがちだが、高屋敷氏の脚本は、映像に個性が出る。これが毎回面白い。

あと、同氏の最終シリーズ構成としての方針も最終段階に入っている。いつもは幼く無邪気な五代だが、「違う幸せをあげたい」と響子に語る場面では、大人の顔になっている(特徴:豹変)。青年の成長を、人・天・物が見守っているという、同氏の方針を感じさせる回だった。

めぞん一刻92話脚本:素直な心でぶつかれ

Togetterのバックアップです。修正や追加などで再構成しています。)

 めぞん一刻は、アパート一刻館管理人の未亡人・響子と、一刻館住人・五代のラブストーリー。

前回まで:
五代がこずえ(五代の女友達)にプロポーズしたと誤解した響子は実家にこもるが、後に誤解は解ける。響子は一刻館に戻ることにするが、そんな折、こずえと偶然会い…

こずえから、五代と朱美(一刻館住人)がホテルから出て来た所を見たと聞いた響子はショックを受ける(実際は、朱美とその彼氏とのホテル代を立て替えてくれと呼び出されただけ)。

真偽を確かめるため、響子は朱美の勤務先のスナックを訪ねる。

朱美は、五代とホテルから出てきたのは本当だ、と紛らわしい答え方をする。それを聞いた響子は固まってしまう。
朱美と響子の会話の間、高屋敷氏特徴である、無機物のアップ・間が続く(物や自然をキャラとして捉える)。画像は今回と、ジョー2・カイジ2期脚本。

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そこへ、朱美から電話で呼び出された五代と一ノ瀬(一刻館住人)がやって来る。朱美から事態を聞いた五代は、朱美とは何も無かったと必死に弁明する。だが響子は五代を激しく罵倒。五代は堪らず手を上げそうになるが、ポンと頬に手を置く程度に留める。

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五代はいつになく真剣な表情で(特徴:豹変)、「話くらい聞いてください」と言う。

響子は涙を流しながら「嫌いよ」と言い、出ていこうとする。
状況は全然違うが、頬をさするなど一連の場面がカイジ2期脚本とオーバーラップ。

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出て行こうとする響子を、朱美が制止する。朱美曰く「ろくに手も握らせない男のことで、泣くわ喚くわどうなってんの」「あんたみたいな面倒くさい女から男取るほど、あたし物好きじゃないわよ。バカ」。

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ここは原作もアニメも名場面・名台詞。

それでも響子は出ていく。

朱美は五代に、(響子が忘れていった)コートを届けてやれ、と言って背中を押す。一連の煽りも、朱美なりの世話の焼き方だった(特徴:義理人情)。
そして、やけくそで走る響子を制止するように風が吹く(特徴:自然もキャラクター)。画像は今回と、ベルばらコンテ。 

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五代は響子に追い付き、コートをかけてやる(特徴:優しい手つき)。ゲン2脚本と比較。

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五代は、二人で話をしようと、響子を公園に連れ出す。ここも、特徴であるランプのアップ・間が発生。ワンナウツ脚本と比較。

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五代は響子に、好きだと真摯に言う。そして「僕の目の中にはあなたしかいないんです」と訴えかける。“「目」の中に”を強調し、目を別個の生命体と捉える所に高屋敷氏らしさが出ている。実際、監督作の忍者マン一平は、目玉が別個の生命体。

五代の真摯な告白を受けた後、響子は一人、一刻館の自室(管理人室)に帰る。響子は、「もっと素直になりたいのに」と呟き、暗い部屋に佇む。鏡が響子を映す(特徴)。画像は、真実や状況を映す鏡演出集。今回、ジョー2脚本、元祖天才バカボン演出、じゃりん子チエ脚本。 

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一方こずえは、偶然会った四谷(一刻館住人)から、ホテルの件は完全な誤解だと知らされる。

こずえは五代のバイト先を訪ね、誤解が解けた事を告げる。だが五代は、好きな人(響子)がいるから、あらためて、こずえとの曖昧な関係を絶とうと決心する。

話をしに外に出た五代とこずえは、月がきれいだという話をする。月や太陽=重要キャラであり、全事象を見ているという、高屋敷氏の特徴が出ている。ジョー2脚本と比較。ジョー2の場合は強烈で、自分はパンチドランカーではないと嘘をつく丈を、太陽がじっと見ている。 

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五代は意を決して、好きな人がいるから、これ以上付き合えないことを告げる。一方こずえは、それを聞いて「ホッとしちゃった」と意外な返答をする。こずえはこずえで、別の男性と結婚することを、五代に告げに来たのだった。こずえと五代は「おあいこ」だと言い別れる。

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こずえは、「好きな人ってどんな人?」と五代に尋ねるが、「やっぱり、いい」と笑顔で去る。

帰りの電車の中で五代は、「俺の好きな人は、ヤキモチ焼きで、早とちりで、泣いたり怒ったりだけど…その人が笑うと、俺、最高に幸せなんだ」と響子の事を想うのだった。

本当に響子が好きだと言う五代の想いを、電車の窓が映す。ここも、特徴の「真実や状況を映す鏡演出」。
画像は今回、カイジ1・2期シリ構・脚本、ど根性ガエル演出。どれも「己や現実と向き合う」場面。

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  • まとめ

原作では五代と響子のベッドシーン(そして失敗)があった回。アニメではベッドシーンが無くなり、五代の真っ直ぐな告白を受けた響子が、自分も素直にならなければ、と一人呟く場面が強調された。これは賛否あれど非常に高屋敷氏らしい展開と感じた。男の純粋さ(特徴)を描いている。

響子が呟く「もっと素直になりたいのに。もっと素直に…」は、以前、ゆかり婆ちゃん(五代の祖母)が五代に助言した「人間、素直が一番」を受けたものと思われる。この言葉が出た回も、高屋敷氏脚本回。婆ちゃんの出番が原作より多いのも、高屋敷氏的(特徴:お年寄りに優しい)。

また、原作の「あなたしか抱きたくないんです」がカットされ、「僕の目の中にはあなたしかいないんです」が強調された。
放映時間を考慮したのだろうが、前述の通り、「目」を別の生命体と捉えている、非常に高屋敷氏らしいものになっている。

このように、最終シリーズ構成として、高屋敷氏が「男の純粋さや成長」を描くことにこだわっている姿勢が見えてくる。
前にも書いたが、深夜帯だったとしても、ベッドシーンがあったかどうか怪しい(特徴:男の純潔を守る)。それくらいのこだわりが感じられる。

特徴である「真実や状況を映す鏡演出」も活躍している。演出を多数担当したエースをねらえ!でも、ひろみが鏡に映った自分によく語りかけていた。そこらへんや、デビューまわりのジョー1脚本がルーツと思われる。
ベッドシーンの替わりに鏡が活躍したのも面白い。

一方で朱美の格好よさや、四谷の心遣いが染みる話にもなっていて、同氏が押し出したい義理人情や疑似家族愛なども見える。
そして、「人を信じられるかどうか」という問題にも切り込んでいる。その回答が、「純粋で、素直でいるべき」なのかもしれない。

思えば、カイジ1期で「俺はお前らを信じる。お前らも俺を信じろ」とカイジが言う回も高屋敷氏直接脚本であり、その直前の場面も鏡が活躍している。
その後カイジは、どんなに裏切られても信じることは止めない傾向にあり、それを有効利用して利根川を討っている。

そう思うと、恋愛でも、その他でも、真っ直ぐ素直な気持ちで当たれ、というメッセージが感じられる。鏡は、それを手助けするキャラクターとも取れる。
今回は原作と大きく異なる要素があり、最終シリーズ構成としての、同氏のテーマが一層濃くなった回だった。