カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

ワンナウツ8話脚本:野球経験がルーツの表現

アニメ・ONE OUTS(ワンナウツ)は、甲斐谷忍氏原作の漫画をアニメ化した作品。謎めいたピッチャー・渡久地東亜の活躍を描く。監督は佐藤雄三氏(カイジ監督)で、シリーズ構成が高屋敷英夫氏。
今回の演出・コンテは池田重隆氏で、脚本が高屋敷氏。

───

本記事を含めた、当ブログのワンナウツ関連記事一覧:

http://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E3%83%AF%E3%83%B3%E3%83%8A%E3%82%A6%E3%83%84

───

  • 今回の話:

降りしきる雨を味方につけた渡久地(プロ野球チーム・リカオンズの謎めいた投手)と、降雨コールドにさせまいと焦る相手チーム・マリナーズとの奇妙な攻防の末、リカオンズは遂に同点に追い付く。

───

開幕、雨を降らす空が映る。開幕に太陽を映すのはよく見られるのだが、とにかく高屋敷氏は「お天道様」を重視している。チエちゃん奮戦記(脚本)、元祖天才バカボン(演出/コンテ)、MASTERキートン(脚本)と比較。どれも開幕場面。

f:id:makimogpfb:20191208113744j:image

大量失点した渡久地(プロ野球チーム・リカオンズの謎めいた投手)の狙いが降雨コールドであると気付いた対戦相手・マリナーズは焦燥。
この事態に、高見(マリナーズの強力な打者)は手を握りしめる。手による感情表現は頻出。RAINBOW-二舎六房の七人-・グラゼニおにいさまへ…(脚本)と比較。

f:id:makimogpfb:20191208113815j:image

マリナーズは試合を成立させようと、わざと反則をして早々にアウトを狙い、渡久地も反則をして試合を引き伸ばす。
この「反則合戦」は面白く、コミカルな展開も得意な高屋敷氏のキレがいい。色々な箇所に台詞や展開の細かな改変があり、テンポがリズミカルになっている。

試合不成立・成立に関わらず、大逆転してマリナーズの威厳を粉砕すると渡久地は提言し、そのくらいしないと優勝はできないと言う。背中を見せて語るのはアニメの改変。背中で語る場面は要所要所で出る。
宝島(演出)、はじめの一歩3期・グラゼニ(脚本)と比較。

f:id:makimogpfb:20191208113847j:image

渡久地の言葉で、リカオンズ(万年Bクラス)の皆は「優勝を狙う」という基本的なことを再認識する。
グラゼニ(脚本)やカイジ2期(脚本)も、あらためて大目標に気付かされる場面を強調している。

f:id:makimogpfb:20191208114042j:image

焦るマリナーズは、投球練習もさせずに吉良(投手)をマウンドへ送る。
急いでいるのに吉良はボールを連発。
渡久地は、前の回にマウンドを掘り下げておいたと種明かしし、皆は驚く。皆の反応が幼い。高屋敷氏担当作は、キャラが幼くなる特徴がある。DAYS・ガンバの冒険(脚本)、ど根性ガエル(演出)と比較。

f:id:makimogpfb:20191208114108j:image

渡久地がスパイクで掘った穴により、吉良は難儀する。原作通りだが、落とし穴作戦はダンクーガ(脚本)や、ど根性ガエル(演出)にも見られる。特にダンクーガは、ど根性ガエルが元ネタな気がする。

f:id:makimogpfb:20191208114137j:image

フォアボールで一塁に進んだ西村に、渡久地は盗塁を指示。サインを通した以心伝心は、グラゼニ(脚本)でも強めに表現された。

f:id:makimogpfb:20191208114204j:image

急ぐあまり牽制球も投げられない吉良に対し、西村は鈍足でも3盗。そして隙をついたリカオンズは得点を重ねて追い上げ、更に試合時間は伸びる。

雨が強くなるなか、心情と状況に連動する照明が映る。こういったランプ描写は非常に多い。おにいさまへ…グラゼニ(脚本)、空手バカ一代(演出/コンテ)と比較。

f:id:makimogpfb:20191208114231j:image

そして、急かし続ける皆に辟易した吉良は、わざと牽制球を投げ始める。

皆は自分の気持ちをわかってない…と、吉良は過去を回想。
プレートの意味深な「間」がある。これは、グラゼニ(脚本)でも印象深い(どちらもアニメオリジナル)。

f:id:makimogpfb:20191208114253j:image

吉良は契約更改時に、勝利数が多いのに防御率の悪さを指摘され、年俸を減額された過去があり、こうも(時間ばかり優先して)失点して防御率が滅茶苦茶になったので、試合を捨てる行動に出たのだった。
グラゼニ(脚本)でも、契約更改における投手の苦労が描かれた。

f:id:makimogpfb:20191208114315j:image

牽制球を連発→遅延行為と取られボークに…を繰り返す吉良に対し、遂にマリナーズ監督の忌野はピッチャー交代を指示。吉良はリリーフの田代に、こんな試合は捨てた方がいいと耳打ちする。
手から手への意思伝達は、多く見られる。グラゼニ(脚本)、宝島(演出)と比較。

f:id:makimogpfb:20191208114340j:image

やさぐれた吉良が深くした穴のせいで、田代はコントロールが乱れに乱れる。
一方渡久地は、このところ打撃不振の胡桃沢に、投球コースの予測を告げて送り出す。背番号のアップ・間はよく見られる。DAYS・グラゼニ(脚本)と比較。

f:id:makimogpfb:20191208114403j:image

相手の心理を読みきった渡久地の予測はズバリ当たり、胡桃沢は初球を叩いて満塁同点HRを放つ。リカオンズベンチは大歓喜。ここも喜び方が幼い。演出作も、不思議だが脚本作もこうなる。カイジ(脚本)、宝島(演出)と比較。

f:id:makimogpfb:20191208114424j:image

マリナーズマリナーズで、忌野のリアクションに愛嬌がある。かわいい中高年キャラの描写は、高屋敷氏の得意とするところ。ど根性ガエル(演出)と比較。こちらも野球回であり、ルーツ的なものを感じさせる。

f:id:makimogpfb:20191208114446j:image

雨が激しくなって試合は一旦中断するも、裏で動く彩川(リカオンズオーナー)の意向で試合再開となるのだった。
閉幕に空が映る。意味深な空模様描写は様々な作品にある。グラゼニ・RAINBOW-二舎六房の七人-(脚本)と比較。

f:id:makimogpfb:20191208114519j:image

  • まとめ

開幕と閉幕の、雨を降らす空の描写が綺麗にまとまっている。閉幕ナレーションの「雨は更に激しさを増した」(アニメオリジナル)でも、意図は明らか。こういった、天候を絡めた情緒は色々な作品で出てくる。アニメオリジナルも多い。

純粋に、反則合戦は見ていて楽しく(?)、原作の面白さを崩さないための、テンポや台詞の細かい調整が見られる。
単純に原作をなぞっても原作通りにはならないわけで、アニメ用の調整が必要。その調整の塩梅の良さは、じゃりン子チエの脚本で大いに発揮されている。

高屋敷氏の担当作によく見られる、背中で語るようにする原作改変が最近気になってきたのだが、これは同氏の野球経験(元高校球児で、高校野球部の監督も務めた)から来ているのではないだろうか。守備時には、野手の背中がよく見えるものだからだ。

野手は、チームメイト(特に投手)の背中で調子の良し悪しを感じると考えられ、それをキャラの細かい感情を表すものとして応用しているのかもしれない。
あくまで推測なのだが、そう考えると色々と合点が行く。

高屋敷氏の野球経験がルーツとなっていると考えられる特徴は数々あり、私がよく挙げる「キャラの幼さ・仲睦まじさ」、「喜び方の可愛さ」もそれに含まれる(チームワークや、勝利の喜びから来ている?)。そう考えると、意外な経験がアニメに使われているわけで面白い。

話の密度の濃さも相変わらずで、尺に収めるために原作のどこをピックアップして、どこを捨てるかの選択が上手い。
カットするだけでなく、追加や改変も見られるのが、技量の高さと才能を感じさせる。

本作は(色々と変化球だが)野球アニメであり、それ故に高屋敷氏の「野球経験から来る表現」が剥き出しになっている。これは、同じく野球アニメであるグラゼニ(同氏シリーズ構成・全話脚本)にも見られる現象。本作もグラゼニも本当に面白い作品であり、同氏のルーツを探る意味でも実に興味深いと感じた。

ワンナウツ5話脚本:我の強さが生む共通性

アニメ・ONE OUTS(ワンナウツ)は、甲斐谷忍氏原作の漫画をアニメ化した作品。謎めいたピッチャー・渡久地東亜の活躍を描く。監督は佐藤雄三氏(カイジ監督)で、シリーズ構成が高屋敷英夫氏。
今回の演出・コンテは佐々木奈々子氏で、脚本が高屋敷氏。

───

本記事を含めた、当ブログのワンナウツ関連記事一覧:

http://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E3%83%AF%E3%83%B3%E3%83%8A%E3%82%A6%E3%83%84

───

  • 今回の話:

渡久地(謎めいた投手)の活躍・暗躍や、色々な選手の奮起により、リカオンズ(渡久地が属する球団)はイーグルス(楽天がモデル?)に大逆転勝利する。そして、最強のマリナーズ(ロッテがモデル?)との三連戦が始まる。

───

渡久地(謎めいた投手)の足を引っ張るよう、彩川(渡久地が属するチーム・リカオンズのオーナー)が命じたはずの吉田(リカオンズ遊撃手)のファインプレーもあり、遂にリカオンズは逆転。
それを見た及川(広報部長)は、こっそり喜ぶ。
カイジ2期(脚本)の石田広光など、影で主人公を観察するキャラは、しばしば設定される。

f:id:makimogpfb:20191201122619j:image

ベンチ裏にて渡久地は吉田に声をかけ、吉田と彩川の関係に気付いていると告げる。
吉田は素直にそれを認め、先程のファインプレーは、渡久地の言葉が堪えたからだと語る。
背中を見せて話すのは、グラゼニ(脚本)にもあり(どちらも原作改変)、気になる所(他の作品にも見られる)。

f:id:makimogpfb:20191201122831j:image

かつて将来を嘱望される投手だったが早々に挫折し、そんな折に八百長を持ちかけられ、それが彩川にバレてからは彼の犬になったと吉田は語る。
回想場面でグラスの「間」がある。こういう「間」は多い。グラゼニ・RAINBOW-二舎六房の七人-・めぞん一刻(脚本)と比較。

f:id:makimogpfb:20191201122900j:image

球数が限界を超え疲労した渡久地は、わざと危険球を投げて退場。他の投手がいない状況なのだが、投手ならいる…と渡久地は三原監督と冴島コーチに告げ、彼等は唖然。
高屋敷氏は、中高年キャラの愛嬌を表すのに長ける。グラゼニ・太陽の使者鉄人28号(脚本)と比較。 

f:id:makimogpfb:20191201122945j:image

それを受け、ショートについていた吉田がマウンドに上がる。
9回裏一死満塁で、スリーボールノーストライクと苦しむ吉田に対し、野手達は心の中で応援する。「頑張るんだ」という今井(三塁手)のモノローグがアニメオリジナルで追加されている。グラゼニ(脚本)でも、「頑張れ」という後輩のモノローグが追加されている。

f:id:makimogpfb:20191201123022j:image

勝手にマウンドを降りたペナルティとして、吉田が失点する毎に2億円貰う約束を渡久地と交わした彩川は、一球一球に一喜一憂。特大ファールを見て悔しがる彼の姿はアニメオリジナル。ここも、中高年キャラの愛嬌。宝島(演出)、ルパン三世2nd(演出/コンテ)と比較。

f:id:makimogpfb:20191201123059j:image

いつの間にか客席に移動した渡久地から、自分の為にだけ投げろと言われた吉田は奮起する。グラゼニ(脚本)でも、野球は自分の為にやるものだ…と夏之介がチームメイトの樹に熱く語る。どちらも原作通りだが、「自分とは何か」がテーマの一つである高屋敷氏とマッチしている。

f:id:makimogpfb:20191201123125j:image

吹っ切れた吉田の球は、打者のバットをへし折る。本塁フォースアウト、一塁アウトによって試合は終了し、リカオンズは勝利。
その後吉田は退団し、渡米してやり直す事を決意。
グラゼニ(脚本)でも、以前説教したチームメイト・樹の同点HRで夏之介が救われる話があり、原作通りだが共通するものがある。

f:id:makimogpfb:20191201123201j:image

後に彩川は、契約に追加条件をつけたいと渡久地に持ちかける。
ベンチの指示に従う事、重要試合ではレートを変更可能、違約金5億円…等だが、渡久地は快諾。
「心配する及川をよそに」というアニメオリジナルのナレーションがあり、見守りキャラの強調がある。カイジ2期(脚本)、ベルサイユのばら(コンテ)、グラゼニ(脚本)にも同様の立場のキャラがいる。

f:id:makimogpfb:20191201123340j:image

次の対戦相手は、リーグ最強のマリナーズ(ロッテがモデル?)。
マリナーズ選手についての説明がナレーションでまとめられている(アニメオリジナル)。高屋敷氏は、ナレーションを上手く活用する。監督作の忍者マン一平でも、神出鬼没で実況やナレーションを行うキャラ・学校仮面が活躍する。

f:id:makimogpfb:20191201123413j:image

試合前練習にて、先発の渡久地は寝転がる。原作通りだが、ど根性ガエル(演出)の野球回で、試合中に選手達がグラウンドに寝転がる場面と重なる。

f:id:makimogpfb:20191201123450j:image

マリナーズの強打者・ブルックリンはリカオンズの皆を煽る。原作では児島(リカオンズの強打者)を煽る。高屋敷氏は、煽り文句を考えるのが好きかもしれない。

f:id:makimogpfb:20191201123508j:image

出口(リカオンズ捕手)はマリナーズのデータを渡久地に渡すが、彼はそれを破り捨てる。原作通り/アニメオリジナルともに、紙を破る場面は多く、興味深いところ。カイジ2期(シリーズ構成)、エースをねらえ!(演出)、じゃりン子チエ・チエちゃん奮戦記・F-エフ-(脚本)と比較。

f:id:makimogpfb:20191201123532j:image

渡久地はマリナーズをつぶさに観察しており、今までのマリナーズではなく、今現在のマリナーズを見る事が大事だと言い、児島はそれに賛同。児島の台詞はアニメオリジナル。彼はどことなく父性があり、他の皆は子供っぽい。アニメならではの肉付けが感じられる。

f:id:makimogpfb:20191201123604j:image

渡久地は1番・2番を敬遠し、クリンナップとの勝負を選択。この奇策に彩川は驚愕するのだった。彩川のリアクションはアニメの追加。
グラゼニ(脚本)でも、夏之介の意外な行動・言動に驚く球団側が強調されており、通じるものがある。

f:id:makimogpfb:20191201123633j:image

  • まとめ

話の圧縮技術が光る。この技術は、1980年版鉄腕アトムやF-エフ-、おにいさまへ…などの脚本でも大いに発揮されており、何十年もの経験が感じられる。毎度毎度、22分前後に収まっていることが信じられない構成。

あと、渡久地を見守る及川の存在がクローズアップされている。カイジ2期(シリーズ構成・脚本)における石田広光と同じく、主人公の一挙手一投足への反応と物語の進行が連動しているシリーズ構成は見事で、これはグラゼニ(シリーズ構成・全話脚本)でも見られる。

吉田についてだが、前回4話からの蓄積もあり、キャラ立てがしっかりしている。
しかも、それが短い尺の中で行われているのが凄い。これは、おにいさまへ…最終回で4人のエピソードを捌ききった手腕を考えれば不思議ではない。

また、引き続き中高年キャラの愛嬌が見られる。今回は特に、彩川に可愛げがある。一方で彼の腹黒さも描かれており、この二面性はカイジ(シリーズ構成・脚本)のラスボスである兵藤会長にも適用されている。
人間の色々な側面を描きたいという高屋敷氏のポリシーが出ている。

渡久地の言葉で吉田が奮起するくだりは、原作に沿いつつ「自分とは何か」という、高屋敷氏がよく提示するテーマも乗っている。原作つき作品でも、アニメオリジナル作品でも、ここは確かに強いメッセージ性が見られ、同氏の担当作を追う上で面白いところ。

吉田が渡米を表明するところも、「自分で決めた道を行け」という長年の高屋敷氏のテーマを、原作に沿いつつ上乗せしている感じがする。奇しくも、あんみつ姫(脚本)には渡米する青年を描いたエピソード(27話)*1があり、そちらにもこのテーマが出ている。

原作のどこをピックアップするかで、アニメではスタッフの個性が出てくる。高屋敷氏の場合、時代もジャンルも全然違うのに、あらゆる作品に自分のテーマを乗せる「我の強さ」がある。

原作に忠実にしろ、そうでないにしろ、高屋敷氏の「我の強さ」は、多くの作品に「共通性」を生む。これは、ワンナウツグラゼニカイジ(いずれもシリーズ構成・脚本)などを「同じカテゴリ」にしてしまう力があり、普通に見ている視聴者でも感づくようにできている。

そういった「我を通す力」は、打ち切り作品のワンダービートS*2最終3本の脚本(シリーズ構成不在のなか突如登板)で大いに発揮されているというか、あっという間に自分色に染めている。賛否両論あると思うが、この「力」は、同氏担当作を追う上で興味が尽きないと、改めて思った。