カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

MASTERキートン18話脚本:善悪を併せ持つ、人間の複雑さ

Togetterのバックアップです。修正や追加などで再構成しています。)

MASTERキートンは、かつて英国特殊部隊SASで活躍したキートンが、ある時は保険調査員として、またある時は考古学者として世界を周り、様々な事件に遭うドラマ。
今回の舞台はイギリス。

大学教授のベニントンは、ある夜、車でトラヴィスという男をはねてしまう。
治療はトラヴィスの友人で医者のギャラードが引き受けることに。だがそれは巧妙な詐欺だった。
画像は騙された人と騙す人。今回、元祖天才バカボン脚本、ベルばらコンテ。

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ラヴィスは一流の当たり屋で、骨折の如何までコントロールして当たる事ができる。
騙すといえば、ルパン三世2nd脚本にて、病弱な老人を演じ、ルパンを(途中まで)騙した役者が思い出される。

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ラヴィス達は、ベニントンが大学の学長選挙に出る事を調査で知っており、それを見越してカモにする事にしたのだった。

祝杯をあげるトラヴィスギャラードが、アカギ脚本の仰木・安岡に被る。どちらも腹黒いが渋い。

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そんな折、キートンがベニントンの勤める大学を訪れる。
ベニントンはキートンの恩師で、一見冴えないが、学者としては一流。そして教育熱心な良い教授。
どこか抜けているが良い先生である、ど根性ガエル演出の町田先生と比較。

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キートンは、ベニントンから学長選挙の事を聞く。ベニントンの対立候補は、学長の娘婿であるステファン教授。ステファンは腹黒く、他の教授に金をばらまいているという。
水に浮かぶ木葉が、同氏特徴的(自然もキャラクター)。めぞん一刻脚本と比較。 

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また、ステファンはキャンパスを売ろうともしていた。
大学や生徒を愛するベニントンは、若い教授達の後押しで出馬を決意したのだった(特徴:建物も大事なキャラクターとして捉える)。
そしてベニントンはキートンに、事故のことを打ち明ける。

キートンはベニントンと共に、トラヴィスの見舞いに行く。
ギャラードは巧妙に怪我について説明し、トラヴィスも嘘話で5万ポンドをベニントンに要求する(特徴:イカサマ)。
だがベニントンは、一度に支払える財力が無い事が判明する。

ベニントン達が帰った後、トラヴィスギャラード、そして情報屋のウェッブは作戦を練り直す。
画像は一攫千金を狙う3人組シリーズ。今回、ルパン三世2nd・キャッツアイ・カイジ2期脚本。

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情報担当のウェッブによれば、ベニントンは最近、超高額だが学術的に価値のある文庫を買ってしまったため、示談金を支払う財力が無くなってしまったという。

それならば、ベニントンを学長選挙に勝たせで学長にしてしまえばいいと、3人は結論づける。

一方、ベニントンの対立候補・ステファンは、あの手この手で味方を増やし、ベニントンを窮地に追いやる。この腹黒さはどこか、ワンナウツ脚本のオーナーに通じるものがある。

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そんな中、キートンはトラヴィスを見舞う。その最中、キートンは紅茶をトラヴィスの手にこぼしてしまう。
ラヴィスは熱さをこらえ、手が麻痺している振りをする。
キートンはそれを見て、何かを察する。
自分の血を見て何かを閃いた、カイジ脚本と比較。

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キートンが去ったあと、今度はステファンがトラヴィスを訪ねてくる。ステファンは、金をやるから事故の事を公表しろとトラヴィスに迫る。
ラヴィスは事故そのものを否定し、金の受け取りを拒否。
ラヴィスは、あくまでベニントンを当選させる事にこだわる。

ラヴィス達3人は大学に行き、密かにベニントンの様子を窺う。
3人は、ベニントンのお人好しさ・ドジさに呆れる。ここも、ど根性ガエル演出の町田先生を思わせる。

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ベニントンに呆れながらも、3人はステファンの悪事を告発する手紙を学長宛に匿名で送る。

学長は、ステファンの悪い噂も前から聞いていたため、ベニントンを推すことにする。
ラヴィス達は、ベニントンの当選を確信するが、そこへ、学長が心臓発作で倒れたとの報が入る。
ラヴィスは、ステファンを怪しむ。

キートンとベニントンは、学長宅へ駆け付ける。
キートンは、学長が飲んでいた薬を発見。匂いから、誰かが薬をすり替えたことを見抜く(特徴:物が“語る”)。

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ベニントンは逆上してステファンに食ってかかり、選挙に不利な状況を作ってしまう。

勝利を確信したステファンは、高笑いしながら帰路につく。だがその最中、車椅子に乗った男を車ではねてしまう。その正体はトラヴィスだった。逃げようとするステファンを、ウェッブがカメラで激写。それを見て狼狽したステファンは、車を街灯の支柱に激突させてしまう。

ラヴィスは、今度は本当に怪我する。
ど根性ガエル演出にて、町田先生が子供を助けるために名誉の負傷をするが、トラヴィスの怪我も、ある意味ベニントンを助けた、名誉の負傷。同氏特徴である義理人情も、じわりと描写される。

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そんなトラヴィスを、キートンが見舞う。キートンは、彼が詐欺師であることを、紅茶をこぼした時に察していた。手が麻痺していても、付随筋が反応するはずだからだ(トラヴィスは無反応を装ってしまった)。
キートンは、ベニントンが学長になった事をトラヴィスに伝える。
彼はそれを聞き満足し、ターゲットをステファンに変える事にすると宣言。キートンは苦笑するのだった。 

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  • まとめ

同氏特徴である、イカサマ、義理人情、知略による痛快な逆転劇が描かれる。
また、色々な作品で出てくる、「善悪の区別は単純ではない」というテーマも表れている。
最初はお人好しを騙す悪党だったトラヴィス達が、逆にお人好しになってしまう。

カイジ(シリ構・脚本)においても、カイジ達は違法な事を色々やったが、2期最後は義理人情を強く打ち出している。
また、ルパン三世の脚本や演出でも、義理人情が光る回がある。
まんが世界昔ばなしの演出や脚本でも、狼の苦労等が描かれる。

知略を使った痛快な逆転劇についてだが、ど根性ガエル19話B演出においても強く描かれている。
また、今回トラヴィスが文字通り体を張るが、義理人情のために体を張るキャラは同氏作品に多い。カイジでも様々な自己犠牲が描かれている。

同氏特徴の義理人情や自己犠牲のルーツを辿ると、デビュー作であるジョー1脚本(無記名)に行き着くが、それとは別に、山田洋次監督の「男はつらいよ」からも来ているのではないだろうか。同氏の山田洋次監督好きは、色々な箇所に見受けられる。

男はつらいよ」の寅さんは、義理人情に厚い人間であり、また、惚れた女性の幸せを考えて身を引くことを繰り返す、自己犠牲精神も持っている。
そして旅好き。
高屋敷氏の作品にも、旅が好きなキャラは沢山出てくる。

あと、同氏特徴「善悪の区別は単純にはつかない」について話を戻すが、カイジもまた、1期1話(同氏脚本)にて、車にイタズラをする、どうしようもない一面が描かれる。
だが、色々な経験を繰り返すうち、カイジは天使レベルの優しさを出すようになる。

また、悪党は悪党なりの、しっかりしたポリシーがあることも描かれる。カイジの会長然り。今回も、結果的にステファンが悪役を一手に引き受ける体になっているが、トラヴィスはステファンを「企業の社長の器」と評価している。

こうした、善悪の区別の複雑さを、子供向けである元祖天才バカボン演出・脚本や、まんが世界昔ばなし演出・脚本においても、同氏はしっかり描いている。特に、今回同様、詐欺師が出てくる元祖天才バカボン35話B脚本は、大人でも唸るテーマが沢山出る。

そう思うと、同氏作風は、深夜の大人向けアニメと相性がいいのかもしれない。
あと今回は全体的に、ほっこりとするイイ話。悪意が複雑に絡み合いながらも、じわり義理人情が押し出される話運びが胸を打つ回だった。

MASTERキートン14話脚本:孤独を癒し、命を救う「歌」

Togetterのバックアップです。修正や追加などで再構成しています。)

MASTERキートンは、かつて英国特殊部隊SASで活躍したキートンが、ある時は保険調査員として、またある時は考古学者として世界を周り、様々な事件に遭うドラマ。

今回の舞台はドイツ。
冒頭、キートンの依頼人であるシュレイダーの娘・クララと、ベビーシッターのハンナが人形遊びをしており、高屋敷氏特徴である「魂があるような物のアップ」が早速出ている。
今回、ベルばらコンテ、ルパン2期演出、カイジ脚本と比較。

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シュレイダーの依頼は、冷戦時に東ドイツから西ドイツに亡命した際、身重のため置いていかざるを得なかった妻・ルイーゼと、その子供を探して欲しいというもの。
ルイーゼは強制収容所に収容されたが、そこで子供を産んだことが、冷戦後に判明したためである。

ルイーゼは出産を待たずに死亡したという、東ドイツの情報をシュレイダーは真に受けていたため、その知らせを受けた10年後、一緒に亡命した助手・テレサと結婚。娘のクララを授かった。
一見幸せそうだが、テレサは「彼の心の壁は残ったままだ(特徴:心の病)」と言う。

依頼を受けたキートンは、シュレイダーと共に収容所の元看守・コールに話を聞くことに。
コールによれば、残念ながらルイーゼは収容所で亡くなったとの事。だが、出産した娘・ローザは生きているらしい。

ルイーゼは、よくローザのためにオルゴール(特徴:魂のこもる物)を聞かせ、歌っていたという。
愛あふれる母の描写は、同氏作品によく出てくる。ど根性ガエル演出、ベルばらコンテ、はだしのゲン2脚本と比較。

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オルゴールも歌も、かつてシュレイダーがルイーゼに贈ったものだった。歌を覚えていたコールと共に、シュレイダーは歌を口ずさむ。
話を通して「歌」が活躍する所は、元祖天才バカボン演出と、はだしのゲン2脚本の「東京ブギウギ」の替え歌が思い出される。 

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ルイーゼの死後、ローザは笑顔を見せなくなり(特徴:心の病)、やがて収容所から消えたとコールは証言。
その後のローザの消息を追うため、キートン達は収容所の元所長、クラウゼ宅を訪ねる。
だが、キートン達はクラウゼから門前払い同然の扱いを受ける。

そんな折、クラウゼの運転手であるゴットロープは、収容所から強制的に養子に出された子供達のリストをくれる。同氏特徴である、味のあるおじいさんと、魂を持つ紙がまた出た。
エースをねらえ!演出と比較。 

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ゴットロープは、息子を収容所で亡くしており、シュレイダーに同情する。
やさしい運転手といえば、めぞん一刻の、明日菜の運転手が思い出される。どちらの声優も名演。また、高屋敷氏特徴の優秀モブでもある。

リストのお陰で、キートン達はローザの養父母を突き止める。
だが、ローザの引き取り先の家は売りに出されていた。
近所の婦人によれば、ローザはいつも一人ぼっちで、笑顔を見せない子供だったという。
同氏特徴の、ぼっち描写。ど根性ガエル演出と比較。

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婦人の証言は更に続き、それによると、ローザは思春期に養父に怪我を追わせ、養父母の家から出て行ってしまったという。
意気消沈するシュレイダーだが、キートンは調査を続け、ローザが最近まで付き合っていた友人を見つけだす。シュレイダーは早速、キートンと合流。

ローザの友人・ライザは不良っぽいが、割と面倒見がよさそうな性格。めぞん一刻脚本の朱美を彷彿とさせる。

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ライザは、ローザがくれた(母の形見の)オルゴールを見せる。ライザの前から姿を消す前にくれた、との事(特徴:贈り物)。

ライザによれば、シュレイダーが載った新聞を見た際、ローザは珍しく笑みを浮かべたという。

ローザは、シュレイダーが自分達母子を見捨てたと思い込み、シュレイダーを恨んでいた。
邪な笑みということで、カイジ2期脚本の班長と比較。

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ライザはローザの写真をキートン達に見せる。ローザはなんと、クララのベビーシッターであるハンナだった。
キートン達は、シュレイダー宅へ急ぐ。
キートン達が危惧した通り、ローザはクララに殺意を抱いていた。同氏特徴の豹変。カイジ2期脚本と比較。 

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ローザは、クララの首を絞めようと、ままごとに使うネクタイを手にとる。
ここもネクタイのアップになり、ネクタイが、養父に性的に虐待されそうになったローザの記憶を呼び起こす(特徴:意思を持つ物)。意思を持つ物ということで、ルパン3期脚本と比較。

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だが間一髪か、何も知らないクララは、シュレイダーから教わった歌を無邪気に歌い出す。
クララは、この歌は「パパが、一番大切な人に贈ったもの」だとローザに言う(特徴:“人ではないもの”の活躍)。
それを聞いたローザは、母や自分が父から愛されていた事を知り、殺意が消える。

そしてローザも、その歌を口ずさむ。
急いで帰ってきたシュレイダーとキートンに向かって、ローザは振り向く。その目には涙が浮かんでいた。
かくして、親子の再会は果たされたのだった。
指定時まで顔を映さない…は、結構同氏作品で出てくる。カイジ脚本と比較。

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  • まとめ

今回もまた、オルゴールや歌といった、“人ではないもの“が活躍。
オルゴールが人から人へ伝わっていくのは、多くの人間の手に渡りながらも、カイジにより正しく使われた(石田さんを助けた)「星」を彷彿とさせる。
偶然にも、今回の歌も「星」の歌 。

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今回の「キーキャラクター」である「歌」は、なんと人の命を救う程の活躍を見せる。
歌は、人の思いがこもるため、同氏が動かす「人ではないもの」の中でも魂が強い傾向にある。
はだしのゲン2脚本でも、歌が、子供達に元気をつける役割をしていた。

また、手がかりとなる書類をキートン達に渡してくれるゴットロープという老人も、強烈な印象を残している。
めぞん一刻最終回脚本にて感動的だった惣一郎の父もだが、同氏は老人を強く印象づける話作りや演出がうまく、挙げればキリがない。

はだしのゲン2脚本の構成では、「おんぶ」と「子供達を見守る原爆ドーム」が柱となっている。今回の柱は、「オルゴール」と「歌」。なので、クライマックスもラストも、台詞ではなく「歌」で〆る。
ラストにローザが涙声で歌う歌は、非常に胸を打つ。

毎度のことながら、脚本という立場になっても、台詞に頼らない話作りが同氏の強い個性になっている。
しかも演出時代より脚本の方が、それが出来ているのが非常に謎。
そして原作つきでも、同氏が出力するテーマは似通う。

もともと私が高屋敷氏に注目し始めたのも、同氏が多く演出を手がけた「家なき子」の再放送がきっかけ。その時も、「カイジのルーツ的なもの」を強く感じた。
それだけ、同氏が出力したいテーマには共通性がある。

高屋敷氏のテーマの中でも強烈な物の一つが、「ぼっち・ぼっち救済」。
今回も、母に死なれ、父に捨てられたと思い込んだローザの孤独が描かれ、ついには殺人を犯す寸前まで行ってしまっている。
だが、間一髪で彼女の孤独は救済された。

一方で、ぼっち救済失敗の悲劇も多々ある。監督作忍者マン一平の、海辺に住む孤独な怪物は、人間達を砂像にしてしまった罪のため一平達に退治される。
また、XMEN脚本でも、息子のために一人で頑張りすぎた女性科学者が悪者に手を貸してしまう。

カイジ脚本・シリ構でも「孤独」はしっかり描かれており、原作通りだが、全人類の抱える孤独について触れている。そして孤独を救うのは「人と人の通信」であり「人間が希望そのもの」とカイジは悟る。
高屋敷氏が強調したいものと非常に相性がいい。

ただ、相性の良し悪しは、脚本家や演出家が選べる領分ではない(Pや監督が絡む)。
その中で、自分の強調したいテーマを押し出す技に、高屋敷氏は長けているのだと感じてきた。だから、参加作の映像から受ける印象が似通うのだと感じた回だった。