カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

元祖天才バカボン19話B演出コンテ:知略を上回る知略でリベンジを

(Togetterのバックアップです。修正や追加などで再構成しています。)

脚本は山崎晴哉氏。
パパの大学時代の後輩、七百太郎がハワイからやってきた。パパに貸した700円を返してもらうためである。
パラシュート降下する場面がやけに凝っている。同氏演出コンテ、まんが世界昔ばなしの「ジャックと豆の木」(下段)に似ている。

f:id:makimogpfb:20170417222935j:image
今回は原画に川尻善昭氏がクレジットされている。高屋敷氏演出コンテ「ジャックと豆の木」は川尻善昭氏の一人原画。もしかして先のパラシュート降下場面は川尻善昭氏が描いたかもしれない?いずれにせよ高屋敷氏のコンテ癖が2作とも反映されているのは確か。

パパから700円返してもらえるかどうか自信が無い七百は、居合わせた大工さんに、パパとの会話の予行演習をお願いする。
七百が話しかける前、大工さんは、逆立ちをして自分の作品を見て自画自賛していた。同氏特徴の、あらゆる視点から物事を見る姿勢。監督作忍者マン一平にも、何でも逆さまにする忍者が出てくる。

f:id:makimogpfb:20170417223045j:image

ちなみに七百の予行演習は、大工さんの癖のせいで、七百がトンカチで殴られてばかりの結果に終わる。
だが七百は、太陽を背に決意を新たにする。キャラとしての太陽が、背中を押す特徴が出ている。ゲン2脚本と比較。

f:id:makimogpfb:20170417223119j:image

七百と対面したパパは、700円借りたことを忘れたと言う。そこから七百の回想に入り、二人とも青春時代に思いを馳せ、ハグして(特徴)踊る(特徴:幼い)。ちなみに借金の理由は(将来の)ママとのデート代。

f:id:makimogpfb:20170417223205j:image

パパは逆に、七百がシャックリ病で死に直面した時、ショック療法(偶然だが)で治してやったことを蒸し返し、恩を着せる。
この回想で、七百が最期の晩餐としてラーメンを食べている。特徴の、飯テロかつ食=精神の安定。画像は今回とチエ2期・ジョー2脚本。

f:id:makimogpfb:20170417223256j:image

パパは、命の恩人から金を取るのか、と七百を言いくるめる。言い返せず、七百は退散する。落ち込む七百だが、飛行機を見て(特徴:無機物もキャラ)、ハワイでの母との誓いを思い出す。ジョー2脚本のハワイと色々被り、ここでも太陽が誓いを見届けるキャラとなっている。

f:id:makimogpfb:20170417223356j:image

奮起した七百は、再度パパを訪ねる。だが今度のパパは、金をばらまいた部屋に七百を通し、わざと席を外す。七百は誘惑に負け金を拾うが、パパは金の配置を記録した地図を持っており、金を拾ったことはすぐにバレる。特徴の知略。あと地図も頻出。

f:id:makimogpfb:20170417223444j:image

さらにパパは、もう一部屋、金をばらまいた部屋に七百を通し、本官も動員してのトラップをしかける(特徴:知略)。結局、七百は拾った金を返す。
ところで畳のローアングルが奇跡的にカイジ2期脚本と似ている。カイジ2期は川尻善昭氏コンテが多いせいかも。

f:id:makimogpfb:20170417223546j:image

パパは、今度は集金に来た果物屋を利用し、更に700円を七百からガメる。
知略で金を引き出して行く展開と、レジのイメージがワンナウツ脚本と被っていく。

f:id:makimogpfb:20170417223634j:image

失意の七百はハワイに帰るが、全ては七百とまた遊びたい故の、パパの悪知恵だったオチ。 

  • まとめ

パパの、知略を使った意地悪が相当酷い話だが、善悪問わず、知略を使った者が勝者…という話は、同氏作品によく出てくる。顕著なのが、まんが世界昔ばなしの脚本「きつねのさいばん」で、悪虐非道だが知略に長けた狐が天下を取る話を書いている。

「きつねのさいばん」脚本ではラストに「本当にこれでいいの?」というナレが入り、今回もラストにパパが「これでいいの…か?」と言う。つまり大義名分を通し勝ちたいなら、相手を上回る知略を使えということ。これはカイジやアカギ脚本に通じていく。

今回のパパのように、相手が可哀想になるくらい意地悪な知略を使い勝つのが、アカギやワンナウツ(ともに脚本・シリーズ構成)、一旦意地悪な知略に泣かされるも諦めず、相手を上回る知略を閃くのがカイジ(脚本・シリーズ構成)とも取れる。

善悪を問わず知略に長けた者が勝者…は、忍者戦士飛影の脚本にも出ており、悪徳長官ハザードが悪知恵を巡らせ実質勝つ話がある。
こういった特徴は、勝つ、ということが全てであるギャンブルものであるカイジやアカギなどに存分に生きている。

今回にしろ「狐の裁判」脚本にしろ、「これでいいの?」という問いかけがあり、善側が悪側を上回る知略を持ってリベンジをするよう促している。
カイジ2期テーマの一つは「勝つ」こと。知略で立ち向かうカイジは、待たれたヒーローの姿かもしれない。

元祖天才バカボン16話A演出コンテ:童心の大切さ

Togetterのバックアップです。修正や追加などで再構成しています。)

冒頭、バカボンとパパが鼠小僧ごっこをしているのだが、動きや絵面が幼い(特徴)。これは脚本でも出る特徴で、大人も子供も「幼さ」が強調される。

f:id:makimogpfb:20170408163415j:image

パパとバカボンがドタバタするので勉強できない天才児・はじめちゃんは外に出る。外に出た所で、はじめちゃんは近隣のター坊の母に会い、彼女からター坊の家庭教師を依頼される。はじめちゃんは早速ター坊の勉強を見ることにするが、これまたター坊は幼く(特徴)、バカのレベル。

ここで、問題文に楽屋ネタ。「こういちくん(原画:槌田幸一氏?)とひでおくん(高屋敷英夫氏)は7lのお水を30分で飲むことにしましたが、とても水では2lぐらいしか飲めません。そこで2人は…」とある。楽屋ネタは演出でも脚本でも、よく出てくる。 

f:id:makimogpfb:20170408163846j:image

その後もター坊は勉強する気が全く無く、はじめちゃんを呆れさせる。あと、ター坊はよく歌う(特徴)。ところで脚本は城山昇氏なのだが、城山氏の脚本だと、奇行を行うキャラがよく出てくる。

様々な奇行をするター坊に、流石のはじめちゃんも匙を投げて帰る。

そうは言っても、謝礼はちゃんと出て、はじめちゃんは、ター坊の母からケーキを貰う(特徴:飯テロ)。他作品でもケーキはよく出るが、家庭教師ということで、めぞん一刻脚本で出たケーキと比較。めぞん一刻も、勉強を教えた事への謝礼。

f:id:makimogpfb:20170408164012j:image
ケーキを見たパパは、家庭教師をすれば、いい物を貰えると思い込み、ター坊宅に家庭教師をしに行く。だが、ター坊のペースに巻き込まれ、結局一緒に遊ぶことに。ここでパパとター坊が踊るのだが、幼い(特徴)。家なき子演出でもよく踊っていた気がする。

f:id:makimogpfb:20170408164103j:image

二人は、紐でつないだ相手をぶん回す「飛行機ごっこ」をやる。特徴である、出崎哲氏ゆずりの回転演出。画像は今回と、ど根性ガエル演出(コンテは出崎哲氏)、じゃりん子チエ脚本。脚本でもよく出てくるのが怪。

f:id:makimogpfb:20170408164202j:image

だが勢いあまって、パパはツボの中に落下してしまう。ここがまさにツボで、他作品によくある、「まるで1キャラクターのような無機物のアップ」という特徴の種明かし。まるで人が入っているような存在感があるということ。脚本でもこれが発揮される。

f:id:makimogpfb:20170408164302j:image

パパは結局、ター坊の父に、ツボに入ったことを叱られ、外に投げ飛ばされる。という訳で、パパは何も貰えなかった。
画像は先に述べた、存在感のある無機物たち。挙げればキリがないが、めぞん一刻脚本と比較。

f:id:makimogpfb:20170408164355j:image

ところで、ター坊と大違いで真面目だと評判のター坊の父は、実は会社ではター坊そっくりで幼く遊び好きだった。同じく遊び好きの社長と一緒になって、飛行機ごっこをする。
幼く可愛いおっさんが出るのも特徴。画像は今回とワンナウツ脚本。

f:id:makimogpfb:20170408164440j:image

その頃パパも、飛行機ごっこをバカボンやはじめちゃんとやっていた。結局パパは、ター坊に新しい遊びを教えてもらった形になったのだった。遊ぶ3人が可愛い(特徴)。

f:id:makimogpfb:20170408164525j:image

  • まとめ

今回の肝は「童心」と「魂のある無機物」。
あと、教育や親子関係についても考えさせられる。ター坊の母は決して教育ママではなく、お調子者で明るいター坊の性格は尊重している。

f:id:makimogpfb:20170408164632j:image

 また、実はター坊そっくりな、ター坊の父についても考えさせられる。

親が子供の人格を否定すると、互いに不幸になる。それを考えると、ター坊母子の関係は、ある程度うまく行っている。バカには変わりないが…。また、ター坊の父と、その上司は、童心に帰って遊ぶことで、ストレスを解消している。これも心理的に大切。

思えば同氏シリーズ構成・脚本のアカギでも、アカギは童心を持っている(特に札束を平坦な顔で見つめる場面)。博打はある程度バカにならなきゃできないし、童心に近い純粋な心も必要になってくる。これはカイジも同じ。カイジは純粋さを逆手に取り、勝ちを得たりしている。

同氏の作品に年齢問わず「幼さ・可愛さ」が出てくる理由は謎ではあるが、それにより、シリーズ物だと緩急がつく効果がある。特にエースをねらえ・家なき子演出だと、演出ローテ相手の竹内啓雄氏と極端な違いが出てくる。どうやら班も違うっぽい?

ともかく今回は、同氏の特徴である可愛さ・幼さ・童心の大切さ、が剥き出しになっている話とも言える。色々見てきたが、城山昇氏の脚本は、監督や演出の本質を捉えるのが上手い。それもあり、同氏の意向を探る上で重要な回だった。