カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

らんま1/2 13話脚本:性別問わず発揮される「男の美学」

Togetterのバックアップです。修正や追加などで再構成しています。)

らんま1/2は、高橋留美子原作の格闘ラブコメ。高校生の格闘家・早乙女乱馬は、修行中の事故が原因で、水をかぶると女に、お湯をかぶると男に戻る体質になってしまった。
あらゆる格闘勝負をこなす乱馬は今回、女の姿で九能小太刀と格闘新体操対決をする。

のっけから特徴である、太陽やランプの意味深アップ・間が発生(天やランプは、全てを“見ている”重要キャラ)。
下記画像は今回、ジョー2脚本、元祖天才バカボン演出、ワンナウツ脚本。

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下記画像は今回、RIDEBACKカイジ2期・ジョー2脚本。

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前回、小太刀に隙を突かれて、子ブタのPちゃん(乱馬のライバル・良牙の変身した姿。湯をかけると元に戻る)と鎖で繋がれてしまった女らんまは、苦戦を強いられる。だが、その鎖を回転させ、らんまは様々な攻撃をする。ど根性ガエル演出(出崎哲氏コンテ)と比較。 

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小太刀は男乱馬に惚れているが、目の前にいる女らんまが乱馬と同一人物とは知らない。
更に小太刀は、らんまが男乱馬を好いていると誤解。奇妙な体勢でらんまを煽る。一歩3期脚本・DAYS脚本と比較。 

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小太刀の兄、九能帯刀(女らんまにベタ惚れ)も乱入し、事態はさらにややこしくなる。らんまは「俺と乱馬は一心同体なんだ」と意味深発言をし、誤解は加速。「一心同体」を強調するあたり、ど根性ガエルスタッフだった同氏の思い出が窺える。

互いの実力は拮抗し、試合は白熱する。格闘新体操は、道具を使って攻撃するのがルール。物=魂のあるキャラと捉える高屋敷氏のポリシーとマッチし、道具が生き物のように描写される。
また、実況は、どんな事があっても実況をやめない名実況。ジョー2脚本の実況と比較。 

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そして一旦、試合会場の外の様子が描写される。外からでもマイクで実況の声が聞こえ、これが早口長台詞名調子(特徴)。
驚いたことに、ここで出崎演出的な鳥の描写が出てくる(特徴:長年一緒に仕事した出崎氏の演出持ち込み)。家なき子演出、じゃりん子チエ・カイジ脚本と比較。

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らんまのしぶとさに業を煮やした小太刀は熱湯攻撃をしかける。
らんまは必死に逃げ回るが、ついにお湯をかけられ、一瞬男に戻ってしまう。しかし危機一髪、セコンドのあかね(乱馬の許嫁)がホースで放水し、女の姿を維持。
元祖天才バカボン演出、チエ・カイジ2期脚本と比較。

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らんまの根性により、試合は続行。
同氏の過去作・未来作と画像が似てくる怪現象が多発。脚本は絵を管理できないので毎回不思議。
下記は今回、ジョー2・カイジ脚本。

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下記は今回、カイジ2期脚本。

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下記は今回、ジョー2・一歩3期脚本。

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場面は転じ、リング下で待機する、小太刀の手下達が描写される。ここはアニオリで、モブ達が秀逸(特徴)。
画像は懐中電灯あそび集。今回、カイジ2期脚本、監督作忍者マン一平。 

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モブ達の会話が楽屋ネタ的。あくまで想像だが、下記のように推測(敬称略)。
ひろし:ど根性ガエルから=ど根性ガエル総作監で、らんま監督(途中降板)の芝山努
ミッチ:望月智充(らんま監督)
ジュンコ:アニメーター池田淳子
サチ子:ジョーから=高屋敷英夫
ユッコ:演出家の須田裕美子
松下:松下洋子P

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このモブ達が何故リング下にいるかというと、リングを動かして、小太刀をリングアウトさせないようにするため(特徴:仲間愛)。
リングアウトしそうになった小太刀はこの大技を使うが、らんまにばれて、マットが破壊される。モブ達は退散。ここもモブ描写が秀逸(特徴)。

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足場がなくなって、どちらかがコーナーポストから落ちれば負けの状態に。
熱くなったらんまは、小太刀を蹴落とそうとするが、これは道具を使っていないためルール違反。
画像は、錯乱して反則をしてしまう人達。今回、ジョー2・一歩3期・カイジ2期脚本。 

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そこでらんまは知略(特徴)を使い、小太刀の立っているポストを折る。道具を使ったと認められ、小太刀のリングアウト負けとなる。
死闘を制したらんまは満身創痍に。ジョー2脚本と比較。

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試合に負けたら、男乱馬への想いを絶つ約束だった小太刀は、約束を履行すると言うも、涙を流す。それを見たらんまは、女の子を泣かせてしまった…というような気まずい表情に(特徴:男の美学にこだわる)。 

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試合後、夕陽の間が発生する(特徴)。
下記は今回、家なき子演出、ベルばらコンテ、元祖天才バカボン演出。

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帰宅後、らんまとPちゃんは風呂に入り、男に戻る(特徴:脱衣演出としての裸)。DAYS脚本と比較 。

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夜、池の側に佇む乱馬は、男状態の時に九能帯刀から赤バラを、女状態の時に小太刀から黒バラを託される(特徴:贈り物)。それぞれの異性にあたる乱馬に花を渡してほしいとのこと。迷惑な贈り物ということで、監督作忍者マン一平と比較。 

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小太刀は、今までの乱馬への想いを諦め、新しい乱馬への想いに燃えることにしたのだった(特徴:不屈の精神)。
九能兄弟の想いを乗せ、赤バラ・黒バラの花びらが風に舞うのだった(特徴:自然もキャラと捉える)。めぞん一刻脚本、監督作忍者マン一平と比較。 

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  • まとめ

高屋敷氏のらんま脚本は、これ1回きりなのだが、特徴が満載の上、過去作・未来作とのシンクロ現象が起こりまくる。大分前に視聴済みだったのだが、見る度に戦慄。

特に冒頭の太陽やランプのアップ・間が、演出時代から変わらない特徴で驚く。

この、絵を管理できない「脚本」からでも、過去作・未来作と映像がシンクロしてくる怪現象について自分なりに推測すると、画を想像しやすい脚本なので、シチュエーションが合えば、完成映像が似てくる…ということなのかもしれない。

また、コンテや演出が同氏と縁が深い人達だと、更にシンクロ怪現象が多発する。切っても切れない縁の出崎兄弟や、今回の演出コンテの望月智充監督(もう一人の監督の芝山努氏は多忙のため降板)などは、同氏の好きな表現を熟知している感がある。

ちなみに高屋敷氏監督作の忍者マン一平にて、望月智充氏は演出を1回だけ務めている。
そして、ときめきトゥナイトの望月氏の演出回を見るに、結構出崎演出に影響を受けているように思えた。
そうなると、高屋敷氏と望月氏の想像する画はかなり共通したかもしれない。

あと今回、名演を披露した実況役の井上遥さんは、高屋敷氏監督作の忍者マン一平にて、主役の一平の声を務めている。なんというか、この1話内に色々と高屋敷氏の縁のある人達が集まっているのも奇跡。

話の内容では、高屋敷氏がこだわる「男の美学」が見えてくる。これは性別・容姿・年齢問わず発揮され、めぞん一刻脚本でも、女子高生の八神などが時折男らしさを発揮していた。
演出参加したエースをねらえ!も、出崎統監督のポリシーで、男メンタルの女子が多い。

らんまは女の姿ながら、小太刀を傷つけずに勝利したし、女の子を泣かせてしまった事を申し訳なく思うなど男らしく、それが強調されている。
エースをねらえ!では、男らしい女子キャラに当惑することが多かったが、らんまの体質なら自然に男らしさを発揮できる。

高屋敷氏の持つ「男の世界」「男の美学」はどんな作品に対しても適用されており、めぞん一刻脚本・最終シリーズ構成でも如何なく発揮されていた。
アカギやワンナウツカイジ(シリーズ構成・脚本)は男ばかりの世界なので、さらに相性が良いのかもしれない。

今回はリング上の勝負ということで、ジョー2脚本経験者の高屋敷氏が得意分野を生かせている。
そして今回も、台詞ではなく映像で魅せる脚本になっている。
多発するシンクロ怪現象も、同氏が常に映像を意識した脚本を心がけているからだと、あらためて思えた。

めぞん一刻96話(最終回)脚本:愛ある限り「生きている」一刻館

Togetterのバックアップです。修正や追加などで再構成しています。)

めぞん一刻は、アパート一刻館管理人の未亡人・響子と、一刻館住人・五代のラブストーリー。

前回まで:

才能を生かし保育士となった五代は、響子にプロポーズ。少しでもいいから自分より長生きしてほしい、という条件で響子はプロポーズを受ける。

結婚後しばらくは、一刻館の管理人室に住むことにした五代と響子は、荷物の整理をする。その最中、響子は亡き夫・総一郎の遺品を見つめる。ここも高屋敷氏特徴の、意思を持つような物のアップがある。遺品つながりで、ルパン三世3期脚本と比較。  

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響子は、けじめをつけるために遺品を惣一郎の実家(音無家)に返すことにする。その報告をしに、響子は惣一郎の墓に行く。
だがそこには、墓に線香をあげる五代の姿があった。響子はこっそり様子を窺う。

五代は、惣一郎の墓に語りかける。心の中に惣一郎がいる響子を好きになったのだから、「あなたもひっくるめて、響子さんをもらいます」と。
その言葉に胸を打たれた響子は、「この人に出会えたこと、喜んでくれるわよね」と、惣一郎に心で語りかける。

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すると響子に応えるように、惣一郎の墓のアップになり、線香の煙が立ち昇る。高屋敷氏特徴の、「魂をもつもの」の真骨頂。監督作・忍者マン一平でも墓石が生き物のように動く場面がある。風に舞う桜も、特徴が出ている(自然もキャラクター)。

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響子は五代の前に姿を現して五代の手を握り、「あなたに会えて、本当によかった」と言う。
画像は、同氏の大きな特徴である、手から手に想いを伝える場面集。今回、あしたのジョー2脚本、ルパン三世3期脚本、カイジ脚本・シリ構、ワンナウツ脚本。

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桜の花びらが舞い、天に昇っていく。ここも、同氏特徴で、桜や風をキャラクターとして捉えている。
画像は今回、ベルばらコンテ、らんま脚本。 

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結婚式当日、美しい花嫁衣装に身を包んだ響子は、惣一郎の父から「うんと幸せになりなさい」と祝福を受ける。同氏特徴の、優しいおじいさん。
味のあるおじいさんは、同氏作品によく出る。画像は今回、はだしのゲン2脚本、DAYS脚本。

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そして結婚式が始まる。あしたのジョー2にて、高屋敷氏は西と紀ちゃんの結婚回の脚本を担当しているが、それを彷彿とさせる。

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結婚式後、スナック・茶々丸(皆のたまり場)にて二次会が催され、二人に関わった人達が一同に会する。ここも、祝福する人達の温かさに、同氏特徴が出ている(仲間愛・優秀モブ)。画像は今回、あしたのジョー2脚本、カイジ2期脚本。 

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五代は皆に感謝し、「響子と二人で一生懸命生きて行きます」とスピーチする。
ここも同氏テーマの一つである「みんながいるから自分がいる」が出ている。
あしたのジョー2脚本でも、泪橋の皆が自分の心にしっかりといる、と丈が語る場面がある。

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二次会後、響子と五代は、ホテルではなく一刻館に泊まることに。住人達は歓迎。

住人達は口々に「ただいま」と言って一刻館に入り、一刻館に明かりが灯る。ここも、一刻館が魂を持つかのように描写され、特徴が出ている。はだしのゲン2脚本の、子供達を見守る原爆ドームと比較。 

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それから月日は流れ、皆の近況が五代のナレーションで語られる(特徴:ナレも重要キャラ)。
こずえは名古屋で新婚生活。
三鷹夫婦は双子を授かる。
八神は女子大生に。
朱美は茶々丸のマスターから求婚され、同居中。

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そしてまた、桜の季節がやって来て… 

五代と響子の間に娘(春香)が生まれる。生まれたばかりの春香を連れ、五代と響子は「ただいま」と一刻館に帰ってくる。住人達は歓迎し、祝福する。
試練を乗り越えて仲間に歓迎されるカイジ2期最終回と比較。 

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響子は春香に、「お家に帰ってきたのよ。ここはね…パパとママが初めて会った場所なの」と語りかける。
そしてタイトル「めぞん一刻」が真っ白な画面に浮かびあがり、桜の花びらが一枚、舞い降りてくる。花びらが着地したところで「完」。

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  • まとめ

まずサブタイトルの「この愛ある限り!一刻館は永遠に…!!」だが、あしたのジョー2サブタイ法則、「必ず“…”を入れる」を適用している。
これはカイジ2期でも適用されていて、カイジ2期最終回サブタイは「未来は僕らの…」である。

この最終回では全編にわたり「桜」が大活躍しており、ラストシーンまで活躍。自然や物をキャラクターとして扱う高屋敷氏らしさが非常に強く出ている。はだしのゲン2脚本やRIDEBACK脚本と比較。あらゆる事象を「見守っている」迫力がある。 

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また、驚いたのは、まるで生きているような一刻館の描写。
はだしのゲン2脚本の、「子供達を育て、見守る」原爆ドームや、他作品から見るに、この最終シリーズ構成では「一刻館」をキーキャラクターとしているのでは?と私は推察していたが、大当たりだった。

「生き物のような建物」といえば、一刻館のほかに、前述はだしのゲン2脚本の原爆ドームワンナウツ脚本の、イカサマだらけの「トリックスタジアム」、カイジ脚本の「スターサイドホテル」、「カジノビル」などがあり、どれも迫真。

あと、最終シリーズ構成方針として、「男としての五代の成長」も強く描写されていた。
「無邪気で幼い“男の子”から、大人の“男”への豹変」を描写していくのは、高屋敷氏の大きな特徴。画像は豹変集。本作、カイジ脚本・シリ構、DAYS脚本、家なき子演出。

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家なき子最終回演出や、ジョー2最終回、カイジ2期最終回については、「未来に向けての男の旅立ち」が示唆されているが、五代は一刻館に留まる。(子供が生まれたら引っ越す予定だったが、四谷曰く“居着いた”)。
だが五代は、次世代を作るという偉業を成す。

あしたのジョー2脚本にて、丈は“旅に出ても必ず泪橋に帰ってくる”と言っているが、今回脚本では、各キャラが一刻館に「ただいま」と言って帰ってくる。
あしたのジョー2の西夫妻も、本作の五代夫妻も、「皆が帰ってくる場所を作る人達」なのではないだろうか。

そしてサブタイ通り、一刻館は「この愛ある限り永遠に」、生き続ける。
本作のタイトルが、何故「めぞん一刻」なのか…と考えた時、アニメスタッフは「一刻館は生きている」という答えに到ったのではないだろうか。そしてそれは高屋敷氏の得意分野である。

まるで生きているように一刻館に明かりが灯るシーンは、アニメ版めぞん一刻の名場面だと思ったし、非常に高屋敷氏らしさが出ていて戦慄した。 そして今回も「脚本」なのに、桜や建物など「物いわぬもの」の活躍が目立ち、同氏特徴が炸裂していた最終回だった。