カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

MASTERキートン7話脚本:「もの言わぬもの」の声を聞け

Togetterのバックアップです。修正や追加などで再構成しています。)

MASTERキートンは、かつて英国特殊部隊SASで活躍したキートンが、ある時は保険調査員として、またある時は考古学者として世界を周り、様々な事件に遭うドラマ。

今回の舞台は日本の田舎。
冒頭からして、同氏特徴である自然(今回は入道雲)のアップ・間が出る(自然をキャラと捉える)。
入道雲のアップから始まるのは、チエちゃん奮戦記脚本にもあり、ほぼ同じで驚いた。
画像は今回と、チエちゃん奮戦記・めぞん一刻脚本。

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夏休み、キートンと百合子(娘)は、キートンが幼少期を過ごした田舎の家に遊びに来ていた。また、百合子の誘いで、キートンの父・太平もやって来る。太平は女好きであるが可愛いお爺さん(特徴)で、キートンとのやり取りが幼い(特徴)。ワンナウツ脚本と比較。

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キートンと太平は、ともに離婚した身。百合子は、この機会を利用し、女心がわかっていない事への反省を二人に促す。
そして百合子は、隣家の新庄さんの家を訪ねるが、そこで村田さんというお婆ちゃんと出会う(特徴:味のあるお年寄り)。めぞん一刻脚本と比較。

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百合子は、村田さんと話し込む。
村田さんは昔、太平の妻だったパトリシアが、森の中で寂しそうに佇んでいる所を見たという(特徴:ぼっち)。そしてその後すぐに、パトリシアは故郷に帰ってしまったそうだ。
ちなみにパトリシアは健在で、実業家としてロンドンで活躍している。

一方、キートンと太平は、パトリシアが作ってくれた料理の中で、どれが美味しかったかという話をする(特徴:食いしん坊、飯テロ)。太平の場合は、新鮮なわさびと共に食べる手打ち蕎麦で、キートンはサマープディング。
二人は早速、それらを作り始める。

サマープディングを作ってみたキートンだったが、何かの香りが足りないことに気付く。
そこで、パトリシアが昔書いたメモを探すことに。
捜索の末、キートンは彼女のノートを発見する(特徴:魂のこもった紙)。

魂を持つ紙(ノートや本、手紙)は、同氏作品で多く見られる。
画像は今回と、監督作忍者マン一平エースをねらえ!演出、チエちゃん奮戦記脚本。
特にエースをねらえ!音羽さんのノートは、色々な思いが込められている。 

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ノートを手にしたキートンは、幼少の頃を思い出す。母は、サマープディングの香りを「妖精の香り」と言っていた。
それは、女神プロセルピナが、妖精ミンスを草に変えてしまったという話が元ネタ。
画像は菓子テロ集。今回、怪物くん脚本、元祖天才バカボン演出。 

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神話から、香りの元がミントであることが判明するが、それはただのミントではなかった。
キートンは、ノートに挟まっていた葉から、それがペニロイヤルミントである事を突き止める。
ここでも、葉をキャラとして扱う同氏の特徴が出ている。めぞん一刻脚本と比較。

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ペニロイヤルミントは、パトリシアの故郷・コーンウォールのもの。
キートンは、太平の愛犬・太助の力を借り、パトリシアが植えたペニロイヤルミントの畑を発見する。
犬の描写がめぞん一刻脚本を思わせる。 

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そこに太平も来て、二人でパトリシアのノートを見る。

ノートには、故郷のペニロイヤルミントを植えた、と書かれていた。
ここも、同氏特徴の、「紙に書かれた思い」が出ている。エースをねらえ!演出と比較。

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だが畑は、水が来なくて干上がりかけていた。そこで太平と太助は、寝食を忘れる勢いで、畑に水を引く装置を作り始める(二人とも工作が得意)。
後に装置は完成、起動の日を迎える。
特徴であるランプのアップ・間が出てくる。カイジめぞん一刻脚本と比較。 

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装置は、発動機と風車、ホースなどを組み合わせたもの。まるで生き物のような描写に、同氏特徴が出ている(物もキャラクター)。
また、ピタゴラスイッチ的描写も、同氏作品によく出る。ルパン三世2期演出と比較。 

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装置は見事に水を運び、畑は生き返る。
二人の技術に村人も盛り上がり、百合子は父と祖父を見直す。
風車ということで、カイジ2期脚本と比較。家なき子演出にも、よく出ていた。
これもまた、生きているかのような「間」が発生している。

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生き返った畑を見つめ、キートンは太平に、ミントの神話の別説を紹介する。

別説によれば、プロセルピナは、ミンスが運ぶ故郷の香りが辛くてミンスを草に変えたが、それでも故郷が忘れられず、遂には故郷に帰ってしまったという。
また、ミントには、思い出を保つ働きがあると言われる。
ペニロイヤルミントによって望郷の念にかられたため、パトリシアは故郷に帰ってしまったのではないか…とキートンは説く。
画像は、父子(今回)と疑似父子(カイジ脚本)。どちらも距離を縮める。

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その後、旧友と会うため、太平は先に東京に帰る。
キートンと百合子は親子水入らずで、ペニロイヤルミント入りのサマープディングを作るのだった。ラストも、二人を見守るかのようなペニロイヤルミントのアップ・間がある(特徴)。チエちゃん奮戦記脚本と比較。

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  • まとめ

自然が豊かな田舎が舞台になっているため、同氏の「自然をキャラとして扱う」ポリシーが、ふんだんに発揮されている。
おまけに機械も出て来て、こちらも「生きているような物」の描写が強く出ている。
更に飯テロ。
同氏特徴の宝庫になっている。

「ぼっち」が悲劇を招いたり、果ては世界の危機に発展する話は、同氏作品によく出る。
パトリシアは孤独ではなかったが、ふるさとを離れた寂しさには勝てなかった。
そういう寂しさは本人にしかわからず、孤独な悩みとも言える。

また、ミントが元は妖精だったという神話は、自然をキャラと捉える同氏にうってつけ。植物であるミントに「魂」があることの裏付けになっている。
神話のプロセルピナも、今回のパトリシアも、ミントによって「故郷へ誘われた」とも取れる。

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そしてキートンと太平は、故郷を想うパトリシアの寂しさを、料理やノートといった「物」に「導かれて」知ることとなる。

これも、同氏特徴である「意思を持つ物の活躍」が出ている。

こういった、「意思を持つ自然・物の活躍」が、あらゆる同氏作品に出て来るのが毎度不思議(特に脚本)。
思えば、めぞん一刻(脚本・最終シリ構)でも、自然の描写がアニオリでよく出ていた。画像は今回と、めぞん一刻脚本との比較。 

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枯れかかったミント畑に関しても、まるでキートンに助けを求めていたかのようにも取れる。
アカギ1話脚本でも、南郷に切られようとした牌を助けるように、アカギが南郷を止める。その結果、南郷は生き残る。

アカギもカイジも、ワンナウツの渡久地も(いずれも脚本・シリ構)、物の声を聞き、自然の助けを借りる術を知っている。特に渡久地が雨を利用したり、カイジが地盤を利用したりする場面によく出ている。
今回のキートン然り。

元祖天才バカボン演出では、物を粗末にしたパパに恐ろしい罰が下される回がある。
そこから考えるに、アカギ・カイジ・渡久地らには、自然や物の声を聞ける主人公であってほしい…という願いが込められているのかもしれない。

ちなみにサマープディングの作り方は、ネットで検索すると出てくる。食パンを容器に敷き詰めて、そこへ果汁と果肉を煮詰めたものを流し込み、冷やし固めたものらしい。今回のは、焼く工程があるので、ちょっと普通と異なり、難しそう。

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MASTERキートン5話脚本:学問にも適用される「不屈の精神」

Togetterのバックアップです。修正や追加などで再構成しています。)

MASTERキートンは、かつて英国特殊部隊SASで活躍したキートンが、ある時は保険会社調査員として、またある時は考古学者として世界を周り、様々な事件に遭うドラマ。

今回の舞台はフランス・パリ。キートンはシモンズ社会人学校にて考古学の講師をしていた。
授業内容は、ヨーロッパ文明の起源について。
授業は活気があり、ど根性ガエル演出の町田先生の授業風景と重なる。 

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生徒もキートンも、ヨーロッパ文明の起源はエジプトだけではないのではないか…という論で盛り上がる。
優秀モブは、高屋敷氏の作品で頻出。
授業風景ということで、ど根性ガエル演出・はだしのゲン2脚本と比較。

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キートンは生徒達に人気があり、理事長も満足している。
だが、学校は廃校が決まっており、著名な画家の壁画以外は取り壊される運命。
めぞん一刻脚本の一刻館や、はだしのゲン2脚本の原爆ドームはじめ、建物=キャラと捉える高屋敷氏のポリシーに合った話と言える。

様々な思いを抱えてキートンが自宅に帰ると、そこには娘の百合子が来ていた(妻とは離婚)。
お転婆な百合子は、アパートの屋根に上る。
風景が綺麗ということで、キートンも上り、二人は屋根の上でランチ。特徴の飯テロ。ロックフォールチーズ等美味しそう。

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キートンは今の勤め先が廃校になることを嘆くが、「弱気なお父さんなんて大きらい」と百合子に叱られる。
めぞん一刻脚本で、自分の将来を真面目に考えろ、と五代を叱った響子が思い出される。

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百合子と話すうち、キートンは大学時代を思い出していく。

ヨーロッパ文明の起源は、エジプトだけでなく、ドナウ川周辺にもあるのではないか…という論は、キートンが大学時代から考えていたもので、今でもライフワーク。

キートンは、その説を授業で発表する。
ここで、同氏作品頻出の地図が出る。ジョー2脚本と比較。

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授業は盛り上がるが、壁画の調査のために来た役人のせいで邪魔されてしまう。残り時間が僅かなこともあり、キートンは渋々授業を終えるが、百合子は憤慨。
キートンは、考古学に対する思いを、百合子に話す。ベルばらコンテと比較。どちらも夕暮れのパリ。

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キートンは、一生考古学を続けたいと言う。そのきっかけの一つが、大学の恩師・ユーリー先生だった。
先生は、新婚で忙しかったキートンが卒論で赤点を取った時も、「夜学べばいい」と書庫の鍵を渡してくれたりした。
これも、同氏特徴の、心のこもった贈り物。

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キートンはユーリー先生を尊敬し、百合子の名前も先生の名前から取った。
だがしかし、キートンより前に、ヨーロッパ文明の起源=ドナウ説を唱えていた先生は、説を発表した後辞職してしまう。この論が異端であるためだ。
置き手紙がカイジ2期脚本とシンクロ。

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先生の置き手紙には、学ぶことを続けなさい、立派な学者になったならまた会おう、と綴られていた(特徴:主人公に人生の何たるかを教える中高年)。
百合子は、会いに行けばいい、とキートンに提案するが、年齢を考えればもう亡くなっている筈との事だった。

だが、先生との思い出を話すうち、キートンは、最後の授業で先生の話をしようと思い立つ。
そして最後の授業の日。キートンが先生の話をしようとした時、再び役人達が邪魔しに来る。キートンは、今回は「静かにしなさい」と彼等を一喝する(特徴:豹変)。

キートンは、ユーリー先生の過去の話を紹介する。先生は、第二次大戦中にドイツ軍の爆撃を受け瓦礫と化した校舎でも、授業を続けたという。向上心を削がれたら、それこそ敵の思う壺だ、と。
はだしのゲン2脚本にて、穴だらけのボロ校舎で授業をしていた先生と比較。 

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ユーリー先生は、人間の愚かな性を学び、またそれを克服することこそ人間の使命だと説いた。
キートンは生徒達にそれを伝え、学ぶことを止めないように伝える。
生徒達は拍手し、かつてヨーロッパ文明=ドナウ起源説を説いた講師がもう一人いたことを伝える。

キートンはすぐに、それがユーリー先生だと悟った。
後日、生徒達は、キートンにお礼がしたいと、パーティーに誘う。そこには、年老いた(90代)ユーリー先生がいた。
味のある中高年ということで、ど根性ガエル演出・めぞん一刻脚本と比較。

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ユーリー先生は、キートンを「立派になったな」と褒める。キートンは目を潤ませるのだった。
温かく見守るモブ達が、めぞん一刻脚本と重なる。

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  • まとめ

まず、今回も「キャラとしての建物」が出てきた。はだしのゲン2脚本の原爆ドームは、子供達や次世代の動物達(鳥)を育て見守り、めぞん一刻脚本(+最終シリ構)では、一刻館は「皆が帰ってくる場所」として存在している。 
だが今回の校舎は取り壊される。

めぞん一刻脚本・最終回のサブタイは「この愛ある限り!一刻館は永遠に…!!」。 
愛ある限り永遠に一刻館は「生きる」わけだが、今回の校舎も、取り壊されはしたが「皆の学ぶ心がある限り」、皆の胸で「生きている」。

一刻館の「愛」も今回の校舎の「学」も、人間の営みという点では同じ。
また、第二次大戦中のユーリー先生は、校舎どころか街そのものが死にかけた状態でも「学ぶ心」を忘れなかった。

今回はユーリー先生という、学問でも人生でも師と言える年上男性が出て来るわけだが、高屋敷氏の演出・脚本作とも、こういった存在が非常に多く出る。また、そういった存在を「強調する」同氏の手腕が見えてくる。

また、戦時下でも学ぶ事を忘れないユーリー先生は、不屈の精神の持ち主でもある。
こういった「不屈の精神」も同氏の作品にはよく出て、カイジでも出てくる。カイジ9話脚本では、「絶対に諦めねえ…!最後まで…!」という台詞を、かなり強調している。

こういった「不屈の精神」ポリシーのルーツも、あしたのジョー1、2脚本(1は無記名)にある気がする。
丈も、倒れても倒れても起き上がる。
今回の「学問」でも、それが適用されている。

今回のラストでは、ユーリー先生とキートンは再会を果たす。
ど根性ガエル演出では、見舞いに来てくれたひろしを抱きしめて「教師生活25年、町田は報われた」と泣く町田先生の話があり、それが思い出された。ユーリー先生も多いに報われている。

MASTERキートンは1998年制作なので、高屋敷氏の引き出しも大分豊富な状態。
あしたのジョーど根性ガエルはだしのゲン2、ベルばら、めぞん一刻など、担当して来た作品の要素がどんどん出てくる。その引き出しの豊富さにも驚かされた回だった。