カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

MASTERキートン14話脚本:孤独を癒し、命を救う「歌」

Togetterのバックアップです。修正や追加などで再構成しています。)

MASTERキートンは、かつて英国特殊部隊SASで活躍したキートンが、ある時は保険調査員として、またある時は考古学者として世界を周り、様々な事件に遭うドラマ。

今回の舞台はドイツ。
冒頭、キートンの依頼人であるシュレイダーの娘・クララと、ベビーシッターのハンナが人形遊びをしており、高屋敷氏特徴である「魂があるような物のアップ」が早速出ている。
今回、ベルばらコンテ、ルパン2期演出、カイジ脚本と比較。

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シュレイダーの依頼は、冷戦時に東ドイツから西ドイツに亡命した際、身重のため置いていかざるを得なかった妻・ルイーゼと、その子供を探して欲しいというもの。
ルイーゼは強制収容所に収容されたが、そこで子供を産んだことが、冷戦後に判明したためである。

ルイーゼは出産を待たずに死亡したという、東ドイツの情報をシュレイダーは真に受けていたため、その知らせを受けた10年後、一緒に亡命した助手・テレサと結婚。娘のクララを授かった。
一見幸せそうだが、テレサは「彼の心の壁は残ったままだ(特徴:心の病)」と言う。

依頼を受けたキートンは、シュレイダーと共に収容所の元看守・コールに話を聞くことに。
コールによれば、残念ながらルイーゼは収容所で亡くなったとの事。だが、出産した娘・ローザは生きているらしい。

ルイーゼは、よくローザのためにオルゴール(特徴:魂のこもる物)を聞かせ、歌っていたという。
愛あふれる母の描写は、同氏作品によく出てくる。ど根性ガエル演出、ベルばらコンテ、はだしのゲン2脚本と比較。

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オルゴールも歌も、かつてシュレイダーがルイーゼに贈ったものだった。歌を覚えていたコールと共に、シュレイダーは歌を口ずさむ。
話を通して「歌」が活躍する所は、元祖天才バカボン演出と、はだしのゲン2脚本の「東京ブギウギ」の替え歌が思い出される。 

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ルイーゼの死後、ローザは笑顔を見せなくなり(特徴:心の病)、やがて収容所から消えたとコールは証言。
その後のローザの消息を追うため、キートン達は収容所の元所長、クラウゼ宅を訪ねる。
だが、キートン達はクラウゼから門前払い同然の扱いを受ける。

そんな折、クラウゼの運転手であるゴットロープは、収容所から強制的に養子に出された子供達のリストをくれる。同氏特徴である、味のあるおじいさんと、魂を持つ紙がまた出た。
エースをねらえ!演出と比較。 

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ゴットロープは、息子を収容所で亡くしており、シュレイダーに同情する。
やさしい運転手といえば、めぞん一刻の、明日菜の運転手が思い出される。どちらの声優も名演。また、高屋敷氏特徴の優秀モブでもある。

リストのお陰で、キートン達はローザの養父母を突き止める。
だが、ローザの引き取り先の家は売りに出されていた。
近所の婦人によれば、ローザはいつも一人ぼっちで、笑顔を見せない子供だったという。
同氏特徴の、ぼっち描写。ど根性ガエル演出と比較。

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婦人の証言は更に続き、それによると、ローザは思春期に養父に怪我を追わせ、養父母の家から出て行ってしまったという。
意気消沈するシュレイダーだが、キートンは調査を続け、ローザが最近まで付き合っていた友人を見つけだす。シュレイダーは早速、キートンと合流。

ローザの友人・ライザは不良っぽいが、割と面倒見がよさそうな性格。めぞん一刻脚本の朱美を彷彿とさせる。

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ライザは、ローザがくれた(母の形見の)オルゴールを見せる。ライザの前から姿を消す前にくれた、との事(特徴:贈り物)。

ライザによれば、シュレイダーが載った新聞を見た際、ローザは珍しく笑みを浮かべたという。

ローザは、シュレイダーが自分達母子を見捨てたと思い込み、シュレイダーを恨んでいた。
邪な笑みということで、カイジ2期脚本の班長と比較。

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ライザはローザの写真をキートン達に見せる。ローザはなんと、クララのベビーシッターであるハンナだった。
キートン達は、シュレイダー宅へ急ぐ。
キートン達が危惧した通り、ローザはクララに殺意を抱いていた。同氏特徴の豹変。カイジ2期脚本と比較。 

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ローザは、クララの首を絞めようと、ままごとに使うネクタイを手にとる。
ここもネクタイのアップになり、ネクタイが、養父に性的に虐待されそうになったローザの記憶を呼び起こす(特徴:意思を持つ物)。意思を持つ物ということで、ルパン3期脚本と比較。

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だが間一髪か、何も知らないクララは、シュレイダーから教わった歌を無邪気に歌い出す。
クララは、この歌は「パパが、一番大切な人に贈ったもの」だとローザに言う(特徴:“人ではないもの”の活躍)。
それを聞いたローザは、母や自分が父から愛されていた事を知り、殺意が消える。

そしてローザも、その歌を口ずさむ。
急いで帰ってきたシュレイダーとキートンに向かって、ローザは振り向く。その目には涙が浮かんでいた。
かくして、親子の再会は果たされたのだった。
指定時まで顔を映さない…は、結構同氏作品で出てくる。カイジ脚本と比較。

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  • まとめ

今回もまた、オルゴールや歌といった、“人ではないもの“が活躍。
オルゴールが人から人へ伝わっていくのは、多くの人間の手に渡りながらも、カイジにより正しく使われた(石田さんを助けた)「星」を彷彿とさせる。
偶然にも、今回の歌も「星」の歌 。

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今回の「キーキャラクター」である「歌」は、なんと人の命を救う程の活躍を見せる。
歌は、人の思いがこもるため、同氏が動かす「人ではないもの」の中でも魂が強い傾向にある。
はだしのゲン2脚本でも、歌が、子供達に元気をつける役割をしていた。

また、手がかりとなる書類をキートン達に渡してくれるゴットロープという老人も、強烈な印象を残している。
めぞん一刻最終回脚本にて感動的だった惣一郎の父もだが、同氏は老人を強く印象づける話作りや演出がうまく、挙げればキリがない。

はだしのゲン2脚本の構成では、「おんぶ」と「子供達を見守る原爆ドーム」が柱となっている。今回の柱は、「オルゴール」と「歌」。なので、クライマックスもラストも、台詞ではなく「歌」で〆る。
ラストにローザが涙声で歌う歌は、非常に胸を打つ。

毎度のことながら、脚本という立場になっても、台詞に頼らない話作りが同氏の強い個性になっている。
しかも演出時代より脚本の方が、それが出来ているのが非常に謎。
そして原作つきでも、同氏が出力するテーマは似通う。

もともと私が高屋敷氏に注目し始めたのも、同氏が多く演出を手がけた「家なき子」の再放送がきっかけ。その時も、「カイジのルーツ的なもの」を強く感じた。
それだけ、同氏が出力したいテーマには共通性がある。

高屋敷氏のテーマの中でも強烈な物の一つが、「ぼっち・ぼっち救済」。
今回も、母に死なれ、父に捨てられたと思い込んだローザの孤独が描かれ、ついには殺人を犯す寸前まで行ってしまっている。
だが、間一髪で彼女の孤独は救済された。

一方で、ぼっち救済失敗の悲劇も多々ある。監督作忍者マン一平の、海辺に住む孤独な怪物は、人間達を砂像にしてしまった罪のため一平達に退治される。
また、XMEN脚本でも、息子のために一人で頑張りすぎた女性科学者が悪者に手を貸してしまう。

カイジ脚本・シリ構でも「孤独」はしっかり描かれており、原作通りだが、全人類の抱える孤独について触れている。そして孤独を救うのは「人と人の通信」であり「人間が希望そのもの」とカイジは悟る。
高屋敷氏が強調したいものと非常に相性がいい。

ただ、相性の良し悪しは、脚本家や演出家が選べる領分ではない(Pや監督が絡む)。
その中で、自分の強調したいテーマを押し出す技に、高屋敷氏は長けているのだと感じてきた。だから、参加作の映像から受ける印象が似通うのだと感じた回だった。

MASTERキートン11話脚本:強い「役割」を持つ食べ物

Togetterのバックアップです。修正や追加などで再構成しています。)

MASTERキートンは、かつて英国特殊部隊SASで活躍したキートンが、ある時は保険調査員として、またある時は考古学者として世界を周り、様々な事件に遭うドラマ。

舞台はロンドン。
不思議だが、演出時代からの特徴である「物」のアップから始まる。監督作(&コンテ疑惑)の忍者マン一平と比較。

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キートンは、相棒・ダニエルを連れ、ロンドン中華街一美味しいとキートンが太鼓判を押す中華料理店・金蓮でランチする。

キートンの言う通り、料理は絶品。

店主の伯修は、今日(11/12)は特別な日だからと、キートン達に豚肉の唐揚げを奢ってくれる(特徴:贈り物)。
これが格別に美味しく、キートン達は感動する。同氏の大きな特徴である飯テロ。カイジ2期脚本と比較。 

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伯修もまた、同氏作品に頻出する、味のある中高年。画像はおっさん集。今回、ど根性ガエル演出・チエちゃん奮戦記・カイジ脚本。

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伯修は、「イギリス人には本物の中華料理は作れない」が持論。伯修の見習いであるイギリス人・ラディは、それを聞き落ち込む。

さらに伯修は、許可なく料理を作ったとして、ラディをクビにする。

キートンとダニエルは、パブにてラディを発見、事情を聞く(特徴:ぼっち救済)。元祖天才バカボン演出と比較。

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下記画像は、パブのシーンのビールテロ。ミラクル☆ガールズカイジ2期脚本と比較。他も多数ある。 

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伯修の娘であり、ラディの恋人でもある宋麗は、キートン達に、ラディの料理を食べてみてくれと頼み込む。

ラディの料理は美味しく、キートン達は感心する。ここでも特徴の飯テロ。挙げればキリがないが、チエちゃん奮戦記・カイジ2期脚本と比較。 

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ラディは、香港に住んでいた幼少期に、友達の家で食べた本場の中華料理に衝撃を受け、中華料理人を目指していると言う。
だが、フレンチのコックである父は反対し、家を出た事情があった。
下記画像はビンタシリーズ。今回、ベルばらコンテ、カイジ2期脚本。 

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ラディが金蓮にこだわるのは、子供の頃食べた本物の中華料理の味を、伯修が正しく伝え、広めているからだった。
そんな話を聞き、キートン達は、ラディと伯修の仲を修復しようと動く(特徴:義理人情)。

キートンは、伯修が出した豚肉の唐揚げの味に覚えがあったことを思い出し、日本にいる父・太助に電話をかける。
太助によれば、それは横浜中華街の大嘗閣という店の唐揚げだという。だが店主は亡くなり、店もなくなったとの事だった。

太助は、キートンの電話のせいで、無性に豚肉の唐揚げが食べたくなり、百合子(キートンの娘)を連れて横浜中華街に行くことにする(特徴:食いしん坊)。
一方キートン達は、ロンドン中華街の生き字引・趙老人に、金蓮の歴史を聞くことにする。

趙老人もまた、同氏作品によく出る、味のある老人。画像は今回、監督作忍者マン一平めぞん一刻カイジ脚本。

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趙老人によれば、かつて金蓮には、孫文が滞在しており、よく料理をしていたという。キートンはそれをヒントに、作戦を練る。

そんな折、百合子から電話がかかって来る。横浜の中華街からだった。幸運にも大嘗閣の店主の息子の店を見つけ、唐揚げの隠し味も教えてもらえたという。

更に、面白い話も仕入れたらしい。
電話を聞こうとするダニエルが可愛い(特徴)。ジョー2脚本と比較。

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後日キートン達は、日本料理を振る舞うと偽り、日本料理店に伯修を招く。
そして、キートンはラディの作った豚肉の唐揚げを伯修に食べさせる。
疑心暗鬼の伯修だったが、唐揚げの再現度に驚く(特徴:飯テロ)。
隠し味は、ウイスキーだった。

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更にキートンは、月餅を出す。これも、伯修の祖父や父が作った月餅の味が再現されていた。
月餅の隠し味は干し柿
ここでも特徴である菓子テロ。元祖天才バカボン演出と比較。

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キートンは、この特殊な唐揚げも月餅も、孫文が日本と英国に伝えたものだ、と説明する。

伯修は、キートン達に唐揚げを奢った「特別な日」である11/12は、孫文の誕生日であることを告げる。
そしてキートンは、ヒントは与えたものの、唐揚げも月餅もラディが作った、と念押し。
伯修は、素直ではないものの、ラディのクビを取り消す。

ラディと宋麗は、キートン達に深々と礼をし、伯修と共に店の仕込みに行く。
画像は、温かい義理人情に、お礼をする人達。
今回、元祖天才バカボン演出、めぞん一刻カイジ脚本。

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キートンとダニエルは、パブにて、金蓮の人々と孫文に捧げる乾杯をする。
特徴のビールテロ。
今回、めぞん一刻カイジ2期脚本。

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ラストに、月餅のアップが映る(特徴:意思を持つ物)。チエ2期脚本も、食べ物のアップで〆る回があり、それと被る。 

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  • まとめ

とにかく飯・ビール・菓子テロの嵐。高屋敷氏に非常に合ったエピソード。
高屋敷氏の作品で出る飲食物は、美味しそうなだけでなく、何らかの「役割」を持っている。
これもまた、「自然や物=キャラクター」という高屋敷氏のポリシーが感じられる。

ジョー2脚本では、無茶な減量をしようとする丈を止めるため、段平が、あの手この手の飯テロを行う回がある。これも、食べ物が丈を誘惑する役割を担っている。
カイジ2期脚本のビールと焼き鳥も、禁欲生活を送っていたカイジを激しく誘惑するもの。

一方で、ど根性ガエル演出や、元祖天才バカボン演出では、「皆で食べるご飯は美味しい」というメッセージを発している。つまり、食べ物が皆をつなげる「役割」をしている。
今回も、孫文と日英、伯修とラディをつなぐ役を、食べ物が担っている。

また今回、お人好し・義理人情も光っている。そして今回も、キートンがグルメであること、博識であることなどが問題解決のキーとなっており、人助けの為の具体的手段が描かれる。
カイジでも、人助けをする具体的手段が描かれる(特に石田さん関連)。

そして、そんな主人公の為に、天が少しだけアシストする展開も強調される。
今回の場合は、大嘗閣の主人の息子が見つかったことなど。
カイジの場合は、地盤や、沼(パチンコ台)の偶発的トラブルなど。

高屋敷氏の作品によくある、美味しそうな食べ物の描写については、ルーツは謎。よっぽどの食いしん坊かと推測したりはするが…。
ただ、単なる食べ物ではなく、「意思」や「役割」があるのは確か。食べ物は、否応なく人の意思がこもるからかもしれない。

自然や物、食べ物にしても、高屋敷氏の表現する「もの言わぬもの」は、「なぜそこに出す必要があるか」の理由付けがハッキリしていて、単なる場つなぎではない「意思を持つ物」である迫力がある。
毎度、演出でも脚本でも同じ事ができるのが謎だが…。

ちなみに今回出てきた「ウイスキーが隠し味の豚肉の唐揚げ」、「キートン 唐揚げ」で検索すると、再現を試みる人達のブログやサイトが多く出て来る。プロの業なので再現は難しいとは思うが、気になる人には検索をオススメする。