カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

ルパン三世2nd40話脚本:挫折あればこそ輝く「成功」

Togetterのバックアップです。修正や追加などで再構成しています。)

サブタイトルは「ミサイル・ジャック作戦」。原作コミックの「コン・ジャック」をベースにしている。今回は原作コミックとも比較していく。

今回、高屋敷氏は「毛利蘭」というPNを使っている(wikiにも明記されている変名)。

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冒頭、ルパン達がクルーザーで打ち合わせをしているが、波止場の風景が、高屋敷氏が長年仕事した出崎統氏の演出的(特徴:出崎演出もちこみ)。エースをねらえ!高屋敷氏演出回と比較。出崎統氏は、とにかく波止場好き(兄の哲氏も同様)。 

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ルパン達は、サン・ホセからプエルトリコまで大量のダイヤがミサイルに積まれて運ばれるという情報をキャッチし、ミサイルに積まれる前にダイヤを盗む計画を立てる。
成功を祈り、ルパン達は乾杯。カイジ2期脚本と比較。

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一方、地元警察の警備局長・トロンボの元に、銭形がICPOから派遣されてくる。
トロンボは、銭形を「ジョニガタ」と何回も良い間違えるなど、結構可愛い(特徴:可愛いおじさん)。1980年版鉄腕アトム脚本と比較。ちなみにトロンボはオリジナルキャラクター。 

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トロンボと銭形は、とある仕掛けを用意する。
その一方でルパン達は、鮮やかな手口で、輸送中のダイヤを盗む。
しかし、ケースを開けると銭形が入っていた。ダイヤは銭形そっくりの人形に入れられ、ミサイルのある研究所へ送られたという(特徴:知略合戦)。

今度こそルパンを逮捕すると息巻く銭形だったが、ルパンはそれを軽くいなし逃走。
ルパン達は、諦める手は無いとして、クルーザーにて作戦を練り直す(特徴:不屈の精神)。
この第一次作戦や、打ち合わせ場面はアニメのオリジナルで、チームワークの良さ(特徴:仲間愛)が強調されている。

ルパンは、研究所の所長のペットの虎に変装して研究所に潜入。そして更に所長に変装。
着替え途中に秘書が入って来るが、なんとかやりすごす。秘書がなかなか味があり、特徴の優秀モブ。めぞん一刻脚本ではモブに名前を付け、最終回にまで出演させている。

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一方で不二子は盗聴機やマイクロテレビで、ミサイルの情報を次元・五右衛門・ルパンに送る。次元と五右衛門は、ミサイルが通過するK地点にてミサイル攻撃の準備をする。
だが銭形は不二子の胸の谷間に隠された盗聴機を見つけ、不二子を牢に入れる。 

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原作では、盗聴機が隠されていたのは不二子のお尻。本作では胸の谷間に変更されている。ちなみに銭形に剥かれて不二子の胸が丸出しになるが、結構珍しい事らしく、ファンの間では邪な理由で人気が高い回らしい。

話を戻すと、盗聴機は銭形により壊されたものの、不二子のイヤリングに隠されていたマイクロテレビカメラは無事。
不二子は銭形を誘惑し、銭形の帽子の上にマイクロテレビカメラをセットする。セットした後不二子は誘惑を停止し豹変(特徴)。カイジと比較。

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ルパンはミサイルのコンピュータ分析を進め、さらに不二子を牢から救出する。
また、銭形に仕掛けたカメラからの映像で、ルパン達はミサイルの発射時刻を知る。マイクロテレビカメラのアップにより、物が無言で語る、という高屋敷氏の特徴が出ている。1980年版鉄腕アトム脚本と比較。

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第六感で、銭形は発射時間を変えるよう進言するが、トロンボは拒否。駄々をこねる姿が可愛い(特徴)。1980年版鉄腕アトム脚本と比較。

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高屋敷氏は、脚本作でも演出作でも、おじさんの可愛さを出すのが上手い。特に「脚本」でもそうなのが不思議。

ルパンは発射時間をコンピューターにインプットし、次元達がいる地点に、いつミサイルが通過するかを計算、次元達にそれを伝える。
一方ミサイル発射を見届けた銭形は、不二子に言われた事を気にして鏡を見る(特徴:真実を映す鏡)。忍者戦士飛影脚本と比較。

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銭形は、「女にもてる顔かどうか鏡を見てみたら」と不二子に言われたのを気にして鏡を見る。
忍者戦士飛影の場合、「見苦しい顔だ」と言われたのを気にして、ハザードがグラスに映った顔を見る。
作品を越えてシンクロしているのが面白い。

さて、鏡を見た銭形は、自分の帽子にセットされたカメラを漸く見つけて驚く。
だが時すでに遅し、設定時刻を迎えた五右衛門と次元は、ミサイルを攻撃する仕掛けを発動。
仕掛けは、先の尖った丸太を巨大バネで発射し、ミサイルの中のダイヤだけを貫くもの。

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丸太は見事に命中、ミサイルからダイヤだけを取り出すことに成功。
喜ぶルパンと不二子が可愛い。怪物くん脚本と比較。

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これも、演出ならわかるが「脚本」からでも画に表れる、高屋敷氏の不思議な特徴。

そして、仕掛けを命中させた次元と五右衛門もまた、握手をして喜び合う。MASTERキートン脚本と比較。

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とにかく手と手を握りあって親愛を表す表現は、あらゆる作品で出てくる。
監督作忍者マン一平では、「手を握れば友達」という直球台詞がある。

研究所から脱出したと見られるルパンと不二子は、笑い合いながら車で疾走するのだった。ここも、喜び方が可愛い。1980アトム脚本と比較。

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ラストはダイヤを映して締め。チエちゃん奮戦記脚本と比較。

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締めに静物を映すのもよくある。

  • まとめ

原作コミックを読んで驚いたのだが、原作はかなりスピーディで短い。どの話も、原作はスピーディなので、このまま30分(実質22分弱)にするのは難しい。
1980年版鉄腕アトムでは、長い原作を超圧縮していたが、ルパン三世は空いている尺を埋める技量が必要。

そこで、今回の場合はAパートまるまる(打ち合わせや第一次作戦)オリジナル。第二次作戦も、原作では描かれなかった各キャラの動向が描かれている。特に、不二子がいつ銭形にカメラを仕込んだかが丁寧に描かれている。

また、トロンボに、かなりのスポットが当たっている。オリジナルキャラクターが可愛いおじさんという辺り、もろに高屋敷氏の好みが出ている。
Aパートでは、トロンボと銭形でルパンを出し抜くなど、意外にトロンボは知略もはたらく。

太陽の使者鉄人28号の脚本もそうだが、挫折しても諦めず、リベンジを図る展開は高屋敷氏の作品には多い。今回も、第一次作戦が失敗するのはアニメのオリジナル。
原作より間抜けと言われるアニメ版銭形だが、今回は第一次作戦にて見事にルパンを出し抜く。

ところで、もう一人のオリジナルキャラクター(というかモブ)に、所長の秘書がいる。原作にも秘書が出るが、そちらは美人設定で、ルパンともヤってしまう(当然カット)。アニメの秘書は味のある顔をしており、ど根性ガエル演出を見るに、こちらは演出の三家本氏の好みと思われる。三家本氏演出のど根性ガエルでも、味のある顔の女性キャラがよく出ていた。

第一次作戦のトロンボや銭形の知略っぷりを見るに、「銭形は間抜けではない」という原作要素を大切にしている感じがする。表現が原作より若干コミカルなだけで、アニメは原作完全無視なわけではないと思う(回によるが)。
アニメ版ルパン三世の意外な一面を見た気がする。

原作にて銭形が鋭さを発揮するのは、不二子の盗聴機を見つける所あたりだが、オリジナルで追加された前半にて、銭形達がルパンを出し抜くあたり、銭形の底上げが行われている。
高屋敷氏の作品では、敵側も知略を使う展開が多い。

高屋敷氏のポリシーに、「善悪の区別は単純ではない」というものがある(道徳的にはルパンが悪なのだが)。
今回もそうで、原作では分が少し悪かった銭形側のパワーバランスを調整してまで、互角の知略合戦をさせ、双方に視聴者が感心できる作りになっている。

今回は、不二子の胸が丸出しになる回という不純な動機で人気の回ではあるが、ルパン一味のチームワークの良さも評価されている。
カイジ(特に2期の沼編)におけるチームワークの良さにも、それが生かされている感じがする。

また、ルパン達が一度失敗したことにより、ミサイル攻撃作戦成功のカタルシスを、より味わえるようになっている。
思えば、カイジ2期・沼編の脚本・構成でも、第一次作戦の失敗から、カイジがリベンジを成功させるまでのカタルシスの組み上げ方が上手い。

今回は、原作の補完や、カタルシスを高める構成など、脚本技量の高さが見られた回だった。
原作と比べることにより、アニメのルパンに求められる脚本技量が高い事がわかったのも収穫だった。ルパン三世2ndのシリーズ構成・大和屋竺氏の影響も大きいと思われる。

太陽の使者鉄人28号23話脚本:大地が「選んだ」者

Togetterのバックアップです。修正や追加などで再構成しています。)

「太陽の使者鉄人28号」は、鉄人28号のアニメ第2作。

少年・金田正太郎は、父が遺した鉄人28号と共に、インターポールの一員として悪と戦う。監督はゴッドマーズ監督の今沢哲男氏。

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九州の地熱エネルギー基地が、天馬に乗った武者のような巨大ロボット(ヒュウマロボ)に襲われ壊滅するという事件が発生。
大塚警部と正太郎は早速現場に向かう。大塚警部と正太郎は名コンビで、なんとなくカイジ脚本の、カイジとおっちゃんの関係にも生かしている感じ。

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エネルギー基地を襲った者達はヒュウマ一族と名乗っており、正太郎達は彼等の拠点を探すべく、九州一帯を飛行機で調べる。
地図を見ながら航空機で飛ぶシチュエーションが、ルパン三世2nd演出と似てくる。他作品の演出や脚本にもよくあるので、好きなシチュエーションなのかもしれない。

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正太郎達の動向はヒュウマ一族に察知されており、族長・ハヤテはヒュウマロボで正太郎達の飛行機を襲う。間一髪、正太郎が鉄人に飛行機を受けとめさせ、正太郎達は助かる。鉄人の優しい手つきが、まんが世界昔ばなしの、ガリバー旅行記脚本を思わせる。

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だが正太郎達はヒュウマ一族に包囲され、鉄人を操作するコントローラーとも分断されてしまう。為す術がない鉄人は谷底に落下。
ハヤテは更にムチで正太郎の手を痛め付け、一時的に操縦できなくさせる。男くさい対決姿勢がカイジ脚本の一条とカイジを思わせる。 

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ハヤテは、2000年前に九州を支配していたヒュウマ一族の再興が目的だと言い、この地から立ち去れと正太郎に警告し去る。
岩石に埋もれた鉄人の腕のアップ・間が同氏特徴を感じさせる。めぞん一刻脚本と比較。どちらも物をキャラとして捉えている。

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正太郎達は一旦撤退し、敷島博士(正太郎の父の友人)から、ヒュウマ一族の伝説を聞く。
伝説によれば、太古の昔にヒュウマ一族は巨神を使い九州を支配していたらしい。説明映像が太陽のアップから始まるのが高屋敷氏的。元祖天才バカボン演出と比較。 

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高屋敷氏は今回「脚本」なのに、不思議なことだが、説明映像の影絵調が、まんが世界昔ばなしの高屋敷氏演出作「11わの白鳥」の雰囲気に似ている。

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話を伝説の方に戻すと、ヒュウマ一族の行いは火や空の神の怒りを買い、火山が爆発。巨神は岩に封印されたという。
これも自然をキャラクターとして捉えている高屋敷氏のポリシーが出ている。忍者戦士飛影でも、怒りを表すように火山が噴火する展開がある。

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正太郎達は、伝説をもとにヒュウマ一族の拠点を発見する。だがハヤテに見つかり、命までは取らないから去れと、奇妙な術で叩き出される。
そこへ救援のヘリが到着。太陽を背にした画は同氏作品に多い。元祖天才バカボンルパン三世2nd演出、忍者戦士飛影脚本と比較。 

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正太郎達がハヤテの術で眠らされていた間に、ハヤテ達は第2のエネルギー基地を襲撃。次のエネルギー基地への襲撃を止めるべく、正太郎は鉄人を直ちに再起動。
これは、警官の一人がコントローラーを持ってきてくれていたおかげ。同氏特徴の優秀モブ。らんま脚本のモブも優秀。

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鉄人との戦闘に突入したハヤテは、阿蘇山へ鉄人を誘い出す。マグマに鉄人を落とす作戦だったが、もみ合った双方がマグマに転落。ヒュウマロボはマグマに耐えられず爆発。
散り際にハヤテと悪鬼の顔が重なるが、沼に一条の顔が重なる、カイジ2期脚本と比較。

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一方、鉄人は無事にマグマから生還。
正太郎は、もっと話し合えたらこんな事態は避けられたかもしれない、と憂う。善悪の区別は簡単ではない…という高屋敷氏のポリシーの表れ。1980年版鉄腕アトム脚本の、善悪の判断がつかないロボットの死と比較。

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大塚警部は、正太郎の言動に、「それは思わん方がいい」と言う。
二人と鉄人は崖に佇むのだった。このビターな余韻も、1980年版鉄腕アトム脚本13話のラストに通じるものがある。

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  • まとめ

今回、同作18話脚本の海底火山、忍者戦士飛影の活火山、ルパン三世3期の火山湖、と同氏作品に火山がよく出てくるのは興味深い。
自然をキャラクターと捉え、様々な活躍をさせるのは高屋敷氏の特徴だが、火山も重要キャラなのかもしれない。

また、ヒュウマ一族の伝説にて、「空や火の神」が「怒って」、巨神を岩に封印したとある。
やはりこれも、自然をキャラクターと捉える高屋敷氏のポリシーが出ている。
また、ヒュウマロボと鉄人の決戦の場も、活動が活発になった阿蘇山

いわば、阿蘇山が今回の戦いに「怒って」いる。
そして、それを戦術に生かそうとしたハヤテはそこそこ頭が切れる。カイジ2期脚本でも、地盤をカイジが味方につけた事が強調されている。
蒼天航路ワンナウツ脚本も、自然を味方につける。

本シリーズは正太郎が鉄人によく無茶をさせるが、今回もそうで、鉄人とヒュウマロボは双方マグマに落ちる。
それでもヒュウマロボが爆発し、鉄人が生き残るのは、大地がどちらを生かすか、キャラクターとして「選択した」とも取れる。

そもそもヒュウマ一族は太古の昔にも「空や火の神」(=自然)を怒らせており、今回も鉄人というより自然の前に敗れたともいえる。
思えば本作のタイトルは「太陽の使者」鉄人28号。もともと鉄人は「自然」に愛されているということかもしれない。

それとは別に、ヒュウマ一族の長・ハヤテは、正太郎達の命までは取らないなど、中々男気のある武人として描かれており、ここにも「善悪は単純ではない」という高屋敷氏のテーマが表れている。
そのため、正太郎もハヤテの最期を少し悼む。

ただ、子供向けなので、大塚警部に「それは思わん方がいい」と言わせている。だが、それを受けた正太郎が複雑な笑顔を見せる所に、やはりビターな雰囲気が漂っている。
後年、深夜の大人向けの作品を手がける事が多くなる兆しが出ている。

カイジ2期最終回脚本では、地下に行く一条に対し、カイジが「這い上がって来い」と発破をかける様が強調されている。
これは一条がまだ生きているからこそ、かける事ができた言葉であり、今回のハヤテに正太郎が言えなかった事とも言える。

カイジ2期脚本・シリーズ構成の沼編では大地が味方し、今回は、大地が鉄人を「選んだ」わけで、やはり自然という「もの言わぬもの」の活躍が大きいわけだが、興味深いところである。演出だけでなく、「脚本」でもこれを出せる所が面白い。

今回は、高屋敷氏の「自然をキャラクターとして扱う」ポリシーが色濃く出ているわけだが、「火山」はその「感情」を表現しやすい。
だから、同氏作品には火山がよく出るのかもしれない。
とにかく今回は、火山が重要な役回りをする回だった。