カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

蒼天航路13話脚本:魔王の魅力

アニメ・蒼天航路は、曹操の生涯を描いた同名漫画のアニメ化作品。高屋敷氏はシリーズ構成も務める。
監督は学級王ヤマザキや頭文字D4期などを監督した冨永恒雄氏。総監督は、バイファムやワタルなどのキャラクターデザインで有名な芦田豊雄氏。

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董卓による後漢の支配は続き、都・長安董卓は、弓を引きながら世界征服の野望を語る。ここも、弓矢や的が「無言で語る」(高屋敷氏特徴)。カイジ2期脚本と比較。

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そして宮中にて、舞や音楽の宴が催される。それを楽しむ幼い皇帝・劉協(りゅうきょう)と、それに付き合い寝転がる董卓が無邪気。キャラの幼さや無邪気さを引き出すのも、高屋敷氏の特徴。忍者戦士飛影脚本と比較。

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そんな中、養父の政治家・王允(おういん)と共に打倒董卓を図る貂蝉(ちょうせん)が、琵琶の奏者として登場する。貂蝉は、董卓に対し歪んだ感情を抱いており、殺意と同時に愛しさも感じていた。

貂蝉の奏でる美しい音色に、さすがの董卓も聞き入る。

その隙をつき、琵琶に仕込んでいた刃で貂蝉董卓に斬りかかる。
董卓はそれを難なくかわし、その巨体で貂蝉を抱き抱える。体格差を物ともせず立ち向かう貂蝉の姿が、ど根性ガエル演出と重なる。

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董卓は、何故自分を狙うのか貂蝉に問う。貂蝉は、歴史に名を残すことに苦心してきた王朝の伝統を、董卓が破壊したことを批判し、たとえ女であろうと、董卓を倒した者として自分の名を残したいと言い、董卓に噛みつく。この場面は、貂蝉が男気溢れるかっこよさを発揮しており、男女関係なく男気を描いてきた高屋敷氏の特徴が感じられる。めぞん一刻脚本でも、女子高生である八神が、男気溢れるかっこよさを見せている。

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あと、貂蝉董卓に噛みつくシーンは、ど根性ガエル演出の、ぴょん吉の噛みつき攻撃と重なるものがある。

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貂蝉の胆力を董卓は気に入り、后として彼女を迎える。この時、董卓貂蝉の着物を剥くが、ルパン三世2nd脚本の、銭形が不二子を剥くシーンが思い出される。

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その2ヶ月後、呂布が北方の匈奴討伐から帰ってくる。武勲を上げた労いとして、貂蝉が笛を奏でると、呂布貂蝉に惚れてしまう。言葉には出さねど、トンボや自然の描写で、それがわかるようになっている。こういった、「ものいわぬもの」の描写で状況を語るのは、高屋敷氏の大きな特徴の一つ。呂布の寡黙さが、それに拍車をかけている。ワンナウツあしたのジョー2脚本と比較。

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夜、呂布は女官や侍女を殺しながら貂蝉の寝所に乱入し、貂蝉を抱く。二人は激しく交わり、その激しさで壷が揺れ、割れる。「物」が状況を表す役割を担っており、高屋敷氏の特徴が出ている。元祖天才バカボン演出と比較。

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元祖天才バカボンでは、パパが壷に入っており、物=生きている、という同氏の概念が明確になっている。

呂布は、「俺は龍になる」と言い、貂蝉は、それに乗りたいと言う。禁断の愛が、ベルサイユのばらコンテの、フェルゼンとマリーに重なる。どちらのラブシーンも、イメージが多め。

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その後、貂蝉王允に、呂布を引き入れての打倒董卓計画を立案。そのためには、董卓を討てという、皇帝の詔勅(しょうちょく・皇帝の意思表示)が必要であると説く。彼女は王允に、その詔勅を出すよう皇帝を説得してほしいと頼む。

それを受け、王允は皇帝・劉協に、董卓を討てという詔勅を出すべきと直訴。

戸惑う劉協に王允は、董卓を討てる勇者を知っていると伝える。劉協が、その者の名を聞くと、王允は、呂布の名を挙げる。
ここも、龍のレリーフのアップ・間があり、「物が語る」という高屋敷氏の特徴が出ている。ここでは、龍=呂布であることを示している。DAYS脚本と比較。

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そして、董卓を討つべきという詔勅が出される。馬車に乗ったまま詔勅を聞く董卓の手が、感情と連動して描写される。元祖天才バカボン演出の、手が喋る回をはじめ。手のアップや、手のみの演技も、高屋敷氏の作品によく出てくる。忍者戦士飛影カイジ2期脚本と比較。

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董卓は馬車を破壊しながら姿を現し、詔勅を読み上げた者を斬殺する。

董卓は、劉協をたぶらかした者がいるとして、大臣達を詰問。そして直感で、首謀者が王允であると見抜く。

死を覚悟する王允であったが、貂蝉が割って入り、董卓を制止。董卓は、この事態が王允父娘の共謀であることを察し、そんな浅知恵では自分は倒せぬと言う。そこへ呂布が現れ、董卓を後ろから斬りつける。
そして呂布董卓の、人間離れした決闘が開始される。

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董卓は、呂布には真の王たる道・器がわかっていないと言い放つ。王の何たるかを説く姿が、カイジ脚本の会長が説く、王についての理と重なる。

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呂布は全力で斬りかかり、それを受けとめる董卓の剣が割れる。呂布の剣は董卓の眉間を捉え、ついに董卓は死ぬ。

この決闘の間、董卓呂布に言い放つ「王の理」はかっこよく、「善悪は単純ではない」事を描いてきた高屋敷氏の真骨頂かもしれない。アニメ版董卓は原作より少しキレイめにしてあり、悪役(?)としてのかっこよさが際立つようになっている。以前も書いたが、シリーズ構成の軸の一つと思われる。

また一方で、死しても歴史に名を残せればよいと覚悟を決める王允も、かっこよく描かれている。

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死した董卓の魂は赤き龍となり昇天。曹操も、龍が昇っていく様を目撃する。

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董卓の死後、董卓の身内は皆殺しにされ、董卓ともども、遺体が市中に晒される。そんな中、董卓の遺体のヘソに灯された(死体を見張るための)灯心の火が消えないという不思議な現象が起き、人々は震撼する。「火」の強調も、高屋敷氏の特徴の一つ。しかもこれは、文字通り「生きている」火。ど根性ガエル演出、コボちゃん花田少年史脚本と比較。

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王允は、自分の名を後世に残すため、他の史書を焼いたり、史家の蔡ヨウを処刑したりと、残虐な処置を行い始め、ついには貂蝉呂布を見捨てる決断をする。

雨が降る中、貂蝉は、一緒に寝ている呂布に王の器を感じられず、董卓こそ王の器だったと述懐する。そんな事を考えていると、董卓の残党によって彼女は殺されてしまう。目を覚ました呂布は、貂蝉の遺体に何かを感じつつも、何処かへ姿を消す。そして時を同じくして、董卓のへそから出ていた火も消える…。
雨が「活躍」し、ドラマを盛り上げるのも、高屋敷氏の特徴。めぞん一刻脚本と比較。

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一方王允も、都に戻った董卓の部下・李カクにより首をはねられてしまう。こうして、ますます乱世は広がる。

そして曹操は、再び蜂起した黄巾兵と戦うべく、エン州にいた。董卓死しても、まだ自分が天を掴むタイミングではないことを、曹操は察するのだった。 

  • まとめ

前半は貂蝉の、後半は董卓のかっこよさが目立つ。特にクライマックスである、王の道を説く董卓のかっこよさ、呂布董卓の死闘は特筆に値する。

前述の通り、アニメ版はどうも、董卓寄りになっているのを感じる。あれだけの暴君なのに、呂布達より董卓に肩入れしてしまいそうになるほど。これは新たな発見だった。

めぞん一刻脚本・最終シリーズ構成でも、原作に比べ、五代の可愛さ・無邪気さが目立つ作りで驚いたものだが、それに近いものを感じる。高屋敷氏の作品は、原作に寄り添いながらも、キャラクターの魅力や、感動するポイントが原作と大きく異なることが多い。ここに、同氏の妙技を感じる。

つまりは、同氏の好みに、知らず知らずのうちに視聴者が巻き込まれているのだ。本作の董卓の魅力も、その好例。

それに呼応するかのように、同氏特徴である「善悪の区別は単純ではない」さまが、本作のシリーズ構成の柱の一つとなって現れている。

もともと原作からして、三国志で悪役として描かれることが多い曹操を主人公としているわけで、アニメでも、それに従い、誰それを悪役として描く、というのを控えているのかもしれない。

そして三国志といえば、魏・呉・蜀それぞれにファンがいる歴史物。それへの配慮もあるだろう。

しかし、董卓については、反董卓軍に曹操劉備孫堅がいたわけで、彼らの共通の敵役として描いても、普通に通る。だが敢えてそうせず、しかも原作より董卓寄りになっているのは、かなり斬新。

また、カイジ(シリーズ構成・脚本)の兵藤会長と董卓が重なるのも驚いた。二人が説く「王の理」は異なるものの、王としての凄みは共通する。董卓のかっこよさは、貂蝉も実感しており、呂布に抱かれながらも董卓の「王の器」を恋しく思うほど。
また、何故彼女がそう思うのかが、今まで積み上げて来た董卓の魅力により、説得力を持つようになっている。
また、董卓役である大塚芳忠氏の熱演も、魅力の一つ。
そして、シリーズの半分を迎えた13話にて、董卓の死を描いたのも、高屋敷氏の相当な思い入れを感じるし、その構成の計算力の高さも凄い。
とにもかくにも、董卓の魅力がピークに達する回だった。

蒼天航路12話脚本:天を見上げる者達

アニメ・蒼天航路は、同名漫画のアニメ化作品。高屋敷氏はシリーズ構成も務める。
監督は学級王ヤマザキや頭文字D4期などを監督した冨永恒雄氏。総監督は、バイファムやワタルなどのキャラクターデザインで有名な芦田豊雄氏。

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後漢を支配する暴君・董卓は、汜水関の戦いにて反乱軍を蹂躙。都・洛陽を燃やした後、長安に都を移した。

その後、焦土と化した洛陽に孫堅の軍が入城。夏候惇(曹操軍の重鎮)の助言もあり、孫堅は洛陽の復興を目指すことに。

調査中、孫堅達は五色の龍の気を放つ箇所を発見。そこを掘り起こしてみると、王朝に代々伝わる玉璽(ぎょくじ=皇帝が使う印章)が出土した。高屋敷氏特徴の「生きているような“物”」。意味深なアップ・間が、龍が出てくる原作通りの演出に拍車をかけている。つまり、「物が生きている」ことがわかりやすくなっている。1980年版鉄腕アトム脚本でも、「魂」を持つAIが重要な役割を演じており、それがアップ・間により表現されている。

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孫堅は、玉璽がある限り、洛陽の意味は失われていないとして、復興に励む。その噂を聞き、多くの豪族達が洛陽に集まる。

董卓長安遷都や、孫堅による洛陽復興の情報は、はるか西方にまで及び、曹操の命で西方に旅に出ていた曹操の軍師・荀彧(じゅんいく)の耳にも届く。ここも、高屋敷氏特徴の「全てを見ているキャラクター」である太陽の意味深アップ・間がある。ベルサイユのばらコンテと比較。

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一方、反董卓軍を統括していた袁紹(えんしょう)も、董卓への対抗策を、太陽を見ながら練っていた。あらゆる者が同じ太陽を見ている…という演出(月にも適用)は、高屋敷氏の演出や脚本に多く出てくる。

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曹操は故郷に身を寄せ、父と囲碁に興ずる。ここも、碁石の意味深アップがある。アカギやカイジ(脚本・シリーズ構成)にも、ゲームに使われる物の意味深アップが沢山出てくる。

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曹操は父に、今の自分には金と策が必要と言う。そこへ、曹操の言う「策」、つまり軍師の荀彧が旅を終えて曹操のもとにやって来る。曹操碁石を打った直後に荀彧がやって来たり、曹操が荀彧を「策」と例えるあたりに、「人ではないもの」を活躍させる高屋敷氏の特徴が出ている。

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その2年後。董卓の支配する都・長安は、恐怖政治ではあるものの栄えていた。

文人・蔡ヨウがその様子を書き記していると、董卓とその部下がやって来る。
この時、香炉のアップになり、董卓達が来ると煙がなびく。ここも、高屋敷氏の特徴である「意思を持つもの」の描写。めぞん一刻脚本と比較。こちらも、意思を持つように煙が動く。

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董卓の部下は、蔡ヨウが董卓を誹謗するような事も記述しているとして、蔡ヨウを批判する。
だが董卓は、蔡ヨウとの問答の末、自分の有り様を書き記すことを許す。ここの問答で、蔡ヨウの瞳に董卓が映る。高屋敷氏特徴の、「真実を映す鏡」演出。あしたのジョー2脚本と比較。

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ここでは、粗暴であるが王者の器がある董卓の、真の姿を映している。瞳には真の姿が映っているのだが、蔡ヨウは董卓の真の姿を、まだ探っている最中という演出にもなっている。

董卓は蔡ヨウの文才を認め、その才を見抜けなかったとして、蔡ヨウの事を告げ口してきた部下の目を刺すのだった。

そんな董卓に反発する者は多く、国の政務を執る司徒(役職名)・王允(おういん)もその一人だった。

どうすれば董卓を打倒できるか王允が考えあぐねていると、彼の養女・貂蝉(ちょうせん)が、自分が董卓の懐に潜り込み、策を練る手伝いをすると進言。
王允は反対するが、貂蝉の決意は固い。美しくなって董卓に取り入るべく、彼女は瞼を自分で切り、整形する。
ここで、灯の意味深アップ・間がある。これも高屋敷氏の特徴で、あらゆる作品に出てくる。挙げればキリがないが、あしたのジョー2・めぞん一刻カイジ脚本と比較。

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貂蝉は整形時に出た血を唇に塗り、狂気を見せる。意味深に口紅を塗る場面は、度々高屋敷氏の作品に出る。ルパン三世2nd演出・めぞん一刻脚本と比較。

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洛陽では、袁紹が勢力を拡大しつつある旨を袁術(孫堅と同盟中)から聞いた孫堅が、袁紹と戦うべく、荊州に赴くことを決意する。

出立の日、曹操から孫堅のもとに派遣されている夏候惇は、次に会うときは董卓を討つ時だと、孫堅と約束を交わす。中年男性同士の渋いやりとりは、高屋敷氏作品でよく強調される。太陽の使者鉄人28号・アカギ脚本と比較。

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一方曹操はエン州にて、農民の反乱を鎮圧する戦に参加する。
天下を「治める」ことを目指す曹操は、農民の扱いには慎重になるべきと説く。

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荀彧もそれに賛同し、曹操が農民を取り込むよう進言。そのために、農民のリーダーとなっている巨漢・虎痴(こち)の存在を曹操に伝える。

その虎痴とは、曹操の青年期において、共に戦った許チョ(1話登場)であった。曹操は、より多くの民を救いたいのなら、生涯ずっと自分に仕えよ、と許チョを説得。男の熱い友情描写も、高屋敷氏の特徴(少し無自覚天然BLなところあり)。忍者戦士飛影脚本と比較。

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その頃孫堅は、多くの民の指示を得ながら進軍していた。孫堅の家臣や家族達は、荊州を制することができれば天下が見えて来る、と沸き立つ。

孫堅は、ひとり月を眺める。ここも特徴である、「重要キャラクターとしての月」。雲に隠れたり、雲から顔を出すことで、未来を予兆し、現状を照らす。火の鳥鳳凰編脚本(金春氏との共著)と比較。

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孫堅が今後の未来について、月を見ながら考えていたところ、突如として、敵である劉表軍の兵に射られてしまう。

射られてもなお孫堅は倒れず、射手達は恐れをなして逃げ出す。

孫堅は天命が尽きるのを感じ、悔いはないとして、龍となって昇天する。

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虫の知らせか、器が割れ、孫堅の長子・孫策は不吉を感じる。ここも、特徴として「物」が活躍している。めぞん一刻脚本と比較。

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孫堅の魂が龍となり天に昇るさまを、曹操も目撃。巨星が堕ちた事を察するのだった。

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そして長安では、貂蝉董卓に取り入るべく、準備をしていた。雷が波乱の幕開けを知らせる(特徴:天=重要キャラ)。花田少年史・アカギ脚本と比較。

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  • まとめ

今回も、太陽や月といった「天」が活躍している。忍者マン一平(監督)や元祖天才バカボン(演出や脚本)では、太陽や月に顔がついていたり、声を出したりするのでわかりやすいが、本作含めシリアス作品での効果は更に大きく、凄みを感じるほど。

また、今回の主軸となっている孫堅の死であるが、まんが世界昔ばなしの「幸福の王子」演出にて、王子像とツバメの魂が太陽に回収される場面が思い出される。つまり、高屋敷氏が描く死=太陽や月、すなわち天に昇ることであると見て取れる。サブタイトルも、「孫堅昇天」。

だからこそ月は、間もなく天命が尽きる孫堅を「見ている」。そして孫堅も月を見上げる。孫堅は明るい未来を夢見て月を見ていたのだが、無情にも孫堅は死んでしまう。
だが孫堅は、悔いることなく昇天。「悔いがない」ことが強調されるあたり、あしたのジョー2最終回脚本の、「真っ白な灰になるまでやったから悔いがない」丈の、ラストの微笑が思い出される。

そして、蔡ヨウと董卓の問答のシーンにて、高屋敷氏の特徴の一つ、「善悪の区別は単純ではない」が描かれている。本作では、このテーマに割と重きを置いているような感じがする。戦乱の世に、善も悪も無い…からであろうか。

アニメ蒼天航路の特色として、董卓をはじめとした、悪役(?)キャラのかっこよさが目立つことが挙げられる。本作における、高屋敷氏のシリーズ構成方針の軸かもしれない。

一方、貂蝉の男気(女性だが)も描かれる。性差なく高屋敷氏は男気を描くが、貂蝉もまた、固い決意を押し通す強い人間だということを前面に出している。

今回、色々な武将が出て、それぞれの戦場を駆けているが、皆、同じ太陽や月を見ている。彼らは「天」を目指しており、そんな彼らを「天」が見ている。
そういった関係性を感じる回だった。