カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

太陽の使者鉄人28号41話脚本:自分とは何か

「太陽の使者鉄人28号」は、鉄人28号のアニメ第2作。 少年・金田正太郎は、父が遺した鉄人28号と共に、インターポールの一員として悪と戦う。 監督はゴッドマーズ監督の今沢哲男氏。

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インカ帝国ゆかりの都市・ペルーのクスコが、ロボット蜂の大群と、それを率いる謎の円盤に襲われる事件が発生。

首謀者・エスコは、自らを甦ったインカ帝国の女王と名乗り、クスコをインカ帝国再建のため明け渡せと迫る。

この事件を受け、正太郎・大塚警部・敷島博士(正太郎の父の友人)・鉄人はペルーへ飛ぶ。ここで、地図が表示される。高屋敷氏の作品で地図は頻出。挙げればキリがないが、ルパン三世2nd脚本・演出、マッドハウス版XMENと比較。

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ペルーに到着した正太郎達は、現地警察のベラ警部に歓迎される。彼もまた、高屋敷氏の特徴である、味のあるおじさんキャラの一人。ルパン三世2nd脚本と比較。

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ベラ警部によると、エスコはインカ帝国時代の女王像に瓜二つで、その女王像は何者かによって盗まれてしまったという。

この説明場面でプロジェクターが使われるが、プロジェクターを使う場面はよく出てくる。ルパン三世2nd演出と比較。

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プロジェクターを使う場面は、あしたのジョー1脚本疑惑回(無記名)にも出ており、益々疑惑が強まる。

ベラ警部は、エスコが操るロボット蜂のうち、墜落した1機の修理を敷島博士に依頼する。直れば、エスコのもとへ戻る筈だから、彼女の居場所が掴めると踏んだためである。敷島博士は快諾。

ここで、時間経過を表す夕陽が映るが、夕陽も高屋敷氏の作品には付き物。太陽を重要なキャラクターと捉えているためと思われ、スタッフや年代が違っても映像が似てくる。 コボちゃん花田少年史蒼天航路脚本と比較。

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ロボット蜂は直るが、直った途端にビルを突き破って飛び立ってしまう。正太郎達は、急いでヘリで追いかける。

ヘリや発信器描写も、高屋敷氏の作品によく出てくる。1980年版鉄腕アトム脚本・ルパン三世2nd演出と比較。

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エスコの居場所がマチュピチュの神殿と判明するも、エスコも鉄人が向かって来るのを察知、ロボット蜂の大群を差し向ける。

鉄人はロボット蜂の群れに対し善戦するも、数匹のロボット蜂がブースターに入ったトラブルで墜落。

正太郎達は何とかロボット蜂の群れから逃走。ロボット蜂達はエスコのもとへ帰る。

鉄人の故障は軽微のため、敷島博士がすぐに直してくれることに。

そこへエスコが現れ、近くの街・サンピエに対し、女王の力を見せると言い放つ。

正太郎達がサンピエに赴くと、サンピエが忽然と消えてしまう。

クスコに戻った正太郎達は、サンピエが消えたことに戸惑う。
一方、敷島博士は鉄人の修理を完了。また、敷島博士は、エスコがフローレという博士にそっくりな事を指摘。

フローレ博士はタイムマシンの開発を進めていたが、行方不明になっているという。

敷島博士は、フローレ博士が過去に行き、サンピエを破壊したため、サンピエが消えてしまったのでは、と仮説を立てる。

その時、エスコが現れ、クスコを明け渡せと迫る。正太郎は鉄人を操り、エスコの円盤と戦闘。

エスコの円盤は回転ノコギリのような攻撃をしてくるが、回転ノコギリはしばしば高屋敷氏の作品に出てくる。元祖天才バカボン演出と比較。

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戦闘の最中、エスコの円盤はタイムマシン機能を発動。タイムマシン機能は周囲を巻き込む仕様で、鉄人と正太郎も、インカ帝国時代にタイムスリップしてしまう。

タイムスリップした鉄人が、太陽を背に降りてくるシーンが、高屋敷氏の色々な作品と似てくる。挙げればキリがないのだが、忍者戦士飛影脚本と比較。

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これもまた、同氏が太陽を重要キャラと捉えているためと思われる。エスコの部下が「太陽の中から現れた」とも言うので、脚本段階から意図されている画と言える。

正太郎と鉄人が降り立ったのは、インカ帝国時代のサンピエだった。町は破壊されており、長老によれば、エスコがいきなり襲って来たらしい。

それを聞いた正太郎は、現代のサンピエが消えた理由を理解。そこで、鉄人を使い町の復興を手助けする。

「まんが世界昔ばなし」における高屋敷氏脚本の「ガリバー旅行記」でも、ガリバーが原作通り小人の国のために色々貢献するのだが、それが思い出される。

鉄人によるサンピエの復興を知ったエスコは、再度サンピエを襲いに来る。

そうはさせじと、正太郎は鉄人で迎え撃ち、エスコの円盤を半壊させる。

だが、墜落した円盤に近付いた正太郎は、エスコの部下に捕らえられてしまう。

エスコに対面した正太郎は、彼女の正体がフローレ博士なのではないかと問い詰める。

エスコはそれを認め、過去に盗んだ女王像を見せる。像がよく出るのも、高屋敷氏の特徴。ルパン三世2nd演出と比較。偶然にも、ルパン三世2nd演出回でも、盗む対象が像である。

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 エスコ(フローレ博士)は、ペルーに旅行中、自分にそっくりな女王像を見て、自分がタイムマシンを完成させてインカ帝国時代に行き、女王になったのだと悟る。

タイムマシンを完成させてインカ帝国時代に降り立ったフローレ博士は、自分のテクノロジーを見せ、一気に女王となったのだった。

だが、インカ帝国の史料を調べるうち、自分が鉄人に殺される未来を知る。

ここで、不吉を知らせる鷲が映るが、こういった鳥演出も、高屋敷氏の特徴。長年一緒に仕事した出崎統氏の影響と思われる。高屋敷氏の鳥演出は、物語性があるのが特色。ルパン三世2nd演出と比較。

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エスコは、自分の運命を変えるには鉄人を倒すしかないと言い、鉄人と戦うために正太郎を解放する。なかなか男気のある行為で、性別問わず男気を描写する高屋敷氏らしい。

これを受け、鉄人とエスコは戦う。死闘の末、鉄人はエスコの円盤に勝つ。正太郎は、一緒に現代に帰ろうとエスコに呼び掛けるが、彼女は女王としてのプライドを見せ、最後の力でタイムマシン機能を発動。正太郎と鉄人を現代に帰す(特徴:単純ではない善悪)。

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エスコの円盤は爆発四散し、正太郎と鉄人が現代に帰ると同時に、円盤の破片が降ってくる現象が起きる。不思議な光景に、大塚警部達は驚き、また、正太郎と鉄人の帰還を喜ぶ。

正太郎達が現代に帰って来た時も、太陽が重要キャラとしてクローズアップされている。これも例が数多くあるのだが、あしたのジョー2脚本と比較。

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帰って来た正太郎に、大塚警部は、消えたはずのサンピエが元通りになったことを告げる。

そのサンピエの一角には、インカ帝国時代に描かれた鉄人の姿があったのだった(特徴:物言わぬものが“語る”)。ルパン三世2nd脚本と比較。

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  • まとめ

今回の目玉は、エスコの性別を超えた「男気」。運命に抗うため、鉄人との決闘を選び、最後まで女王のプライドを捨てなかった彼女には、男っぽいかっこよさがある。

これは、出崎統監督の特徴で、男気のある女子高生ばかりだったエースをねらえ!演出時代に培われたものと思われ、多くの高屋敷氏の作品で発揮されている。

こういった「男の魅力」はカイジのシリーズ構成・脚本でも如何なく発揮されており、覚醒したカイジのかっこよさに多いに貢献している。

あと、今回のテーマの一つとして「アイデンティティの如何」がある。これも、よく出てくるテーマで、今回は、エスコ・フローレと、二つの自分に揺れるエスコの姿が描かれている。最後には、彼女は「エスコとしての自分」を選び、女王として散る。

対して、正太郎は「フローレ博士」として彼女を扱い、一緒に帰ろうと呼び掛けるわけだが、それは正太郎の優しさでもある。これはこれで、正太郎の「男気」が描かれている。

このように、今回は「男気」「アイデンティティ」「プライド」が柱となっていると考えられる。

この3つはカイジのシリーズ構成・脚本でも大きい位置を占めており、カイジはじめ「男気」がある魅力的なキャラが出て、石田さんの最期はじめ「矜持」が描かれ、人間競馬や鉄骨渡りを通し、カイジは自分のアイデンティティの如何を問われる。
極限状態のなか、カイジは自分のアイデンティティとも言える「人間らしい優しさ」を捨てない選択をしていく。

そう見ていくと、今回のエスコ(フローレ博士)も、自分とは何かを考え、彼女なりの選択をしたと言える。それが悲しいものであろうとも。

今回は、「己を強く保て」というメッセージが強く、それは高屋敷氏の様々な作品で打ち出されている。テーマ的には、カイジのシリーズ構成・脚本のルーツを色濃く感じる回だった。

 

太陽の使者鉄人28号32話脚本:「主人公と中高年の交流」を強調するための布石

Togetterのバックアップです。修正や追加などで再構成しています。)

「太陽の使者鉄人28号」は、鉄人28号のアニメ第2作。 少年・金田正太郎は、父が遺した鉄人28号と共に、インターポールの一員として悪と戦う。 監督はゴッドマーズ監督の今沢哲男氏。

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まず、サブタイトルの「死闘!白夜の対決」。
高屋敷氏のルパン三世2nd演出コンテ作に「白夜に消えた人魚」というサブタイトルの回があり、それと重なる。どちらともノルウェーが舞台なのも共通する。

北海にて、雷神トールと名乗る巨大ロボットとバイキング達により、輸送船が次々と襲われる事件が発生。

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雷神トールは雷を操るが、雷が1キャラクターとして波乱を告げる場面は多々ある。
1980年版鉄腕アトム花田少年史・アカギ脚本と比較。

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北海での輸送船襲撃事件が続発する最中、ノルウェーからNYまで美術品を船で運ばなければならないノルウェーは、正太郎と大塚警部、鉄人に美術品の警備を依頼する。

大塚警部が地図で説明する場面、舞台が同じノルウェーなだけあり、ルパン三世2nd演出と重なる。 

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その頃ノルウェーでは、地元警察のオーギャン警部とニガール部長が波止場に佇んでいた。

特徴の出崎演出持ち込みの波止場描写。エースをねらえ!演出、ルパン三世2nd演出、アカギ脚本と比較。不思議なのは、「脚本」でも波止場描写が似てくること。

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オーギャン警部は定年間近の渋い刑事で、ニガール部長は、そのよき理解者。
とにかく高屋敷氏の作品では、味のある中高年が沢山出てくる。
渋いカテゴリということで、アカギ脚本と比較。

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ところで、同じくノルウェーを舞台にしたルパン三世2nd演出回でも、「ニガール」という名前のキャラが出てくる。どちらも警官だが、性格と外見は大きく異なる。

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オーギャン警部は、正太郎達と共に美術品の警備をすることになっているのだが、今まで自分流の仕事をしてきた彼にとって、それはあまり面白くない事だった。
高屋敷氏特徴で、煙草演出が渋い。1980年版鉄腕アトムカイジ2期脚本と比較。 

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オーギャン警部と正太郎達は、なんとなく気まずい雰囲気になりながらも、美術品を積んだ船に乗り込む。
出港時に太陽が映る(特徴:太陽は重要キャラ)が、同じノルウェーが舞台のルパン三世2nd演出でも太陽が強調されている。

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船が沖に進むと、雷が発生して雷神トールとバイキングが出現。鉄人は雷神トールに、オーギャン警部達はバイキングに苦戦。
混戦の中、正太郎、大塚警部、オーギャン警部は海に投げ出されてしまう。
一度敗北を味わう展開は、高屋敷氏の作品によくある。

正太郎達は巡視船に救出されたものの、輸送船は奪われてしまう。更に、大塚警部は負傷。
そんな中、責任を感じたオーギャン警部は辞表を出し、単身ベルゲンに向かう(特徴:体を張る中高年)。

オーギャン警部を放っておけない正太郎は、鉄人に乗ってオーギャンを追う。自暴自棄のおっちゃんの元にカイジが来てくれる場面が思い出される。カイジ脚本と比較。主人公が中高年に優しいのも、高屋敷氏の特徴。

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素直ではないものの、オーギャン警部は正太郎の同行を認める。
オーギャン警部がベルゲンに向かうのは、長年の刑事の勘からだった。また、ベルゲンは(北欧神話の)トールやバイキングゆかりの地でもある。

オーギャン警部の勘は当たり、フィヨルドの一角にて、盗まれた輸送船を発見。だが、美術品や乗組員は見つからなかった。
鉄人が来ているのを知った敵の首領・ノースゲルは雷神トールに乗り出撃。鉄人と死闘を繰り広げる。

一方でオーギャン警部は対人戦にて雑魚を次々と倒す。
鉄人は雷神トールの雷攻撃に苦戦するも、諦めずに立ち上がる(特徴:不屈の精神)。カイジ脚本にて、カイジの諦めない姿勢が強調されていたのが思い出される。

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また、何度も立ち上がる展開は、あしたのジョー脚本にも通じるものがある。
鉄人は持ち前の頑丈さで雷神トールに反撃し、とどめのフライング・キックで雷神トールを粉砕する。

事件解決後、レストランの松明の炎のアップが映る。特徴の、「自然や物がキャラクターとして語る・見ている」描写。特に火は頻出。
ベルサイユのばらコンテ、あしたのジョー2脚本と比較。 

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ニガール部長は、正太郎達に感謝する。またも不思議な特徴で、「脚本」からでも喜ぶリアクションが可愛い。1980年版鉄腕アトム脚本と比較。

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そしてオーギャン警部に対し、ニガール部長は辞表を返す。思いを伝える「紙」も頻出。エースをねらえ!演出と比較。

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それを受け、オーギャン警部は辞表を松明に投げ入れて燃やす。ここも、火が「役割」を持っている。MASTERキートン脚本と比較。

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オーギャン警部は、定年までの残り少ない時間を警官として生きることに決め、次の任務に向かうのだった。
「プロの背中」ということで、MASTERキートン脚本と比較。

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  • まとめ

香港が舞台ということで、同作脚本28話と、ルパン三世2nd43話脚本の共通点が多かったのに続き、今度はノルウェーが舞台ということで、ルパン三世2nd演出コンテの147話とリンクしている。名前まで被る(ニガール)のは驚き。

また、登場する地名も、ルパン三世2nd演出と被る(ベルゲン)。推測だが、ノルウェーに関してルパン三世2nd演出に入れられなかった要素を、今回に回しているのではないだろうか。

やはり不思議なのは、「演出」でも「脚本」でも、出る個性が共通している点。演出では話に、脚本では画に、殆ど関与できないと思われるのだが、映像が似てくる。
ただ今回を見るに、脚本にて自分の好きな状況を作れる事が、何となく窺える。

例えば、出崎兄弟演出的な波止場を登場させるには、船で美術品を輸送するという状況を設定すればよい事などが挙げられる。
また、同氏特徴の太陽に関しても、白夜という設定にすることで、太陽を多く登場させる事ができる。ベルサイユのばらコンテと比較。

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また、同氏が好きなシチュエーションと思われる、中高年と年下の主人公との交流も、強調するための装置が脚本にあるような気がする。
カイジ脚本でも、石田さん・おっちゃんとカイジとの交流が強調されるように設計されている。

今回、オーギャン警部と正太郎の交流を強調するために、後半は大塚警部が怪我でリタイアする。まさに「脚本の都合」。
また、高屋敷氏のロボットアニメに対するポリシーとして、生身の人間の戦いも描かれる。

こうして見てみると、演出でも脚本でも、高屋敷氏は「自分の好きなもの」を出すための「装置」を作るのが上手いのではないだろうか。
年を経ると、脚本にて、その能力が多いに発揮されることになる。

1980~82年は、高屋敷氏が演出と脚本、両方の仕事を掛け持ちしていた過渡期かつ重要な年でもある(特にジョー2脚本)。
また、今回の「脚本」のネタ元に、ルパン三世2ndの「演出」が使われているのは面白い。

これを見るに、高屋敷氏にとって「脚本」と「演出」の距離は近いのかもしれない。
演出には脚本の経験を、脚本には演出の経験を使えている。
脚本と演出の相関関係について、考えさせられた回だった。