カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

蒼天航路21話脚本:戦士の成長、軍師の覚悟

アニメ・蒼天航路は、同名漫画のアニメ化作品で、曹操の生涯を描く。高屋敷氏はシリーズ構成も務める。
監督は学級王ヤマザキや頭文字D4期などを監督した冨永恒雄氏。総監督は、バイファムやワタルなどのキャラクターデザインで有名な芦田豊雄氏。

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曹操呂布を直接見たいと言い、大軍を率いて呂布の領である徐州(じょしゅう)へと向かう。

一方、曹操の命を受け、先に呂布軍と戦っていた劉備は、義兄弟の関羽張飛と共に呂布に下るが、呂布は彼等を投獄する。

劉備を生かしておけば曹操をおびき出すエサになるためであるが、狂戦士である呂布が、そんな冷静な判断を下せる事に、呂布の軍師の陳宮(ちんきゅう)も、劉備も驚く。

一方曹操は、かつてない大軍を知略を持って動かす準備を進める。

呂布陣営では陳宮が、曹操軍を迎え討つための布陣を敷いていた。夜、陳宮呂布と話す。このとき意味深に月が映る。高屋敷氏の大きな特徴である、重要キャラクターとしての月の描写。チエちゃん奮戦記脚本と比較。

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呂布は食事をしながら陳宮の話を聞く。高屋敷氏の作品は、おいしそうな食事シーンが多い。ここも、シンプルな食事なのに美味しそうに見える。監督作忍者マン一平、新ど根性ガエル脚本(コンテ疑惑もあり)、ルパン三世3期脚本と比較。

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陳宮は、内通者がいる可能性があるとして、自分一人に作戦を任せて欲しいと訴える。
呂布は、「曹操が憎いか」と陳宮に問い、陳宮は「憎い」と答える。呂布も、曹操が憎いと言い、茶碗を握り潰す。呂布がこういったコミュニケーションを取ることは滅多にないことなので、陳宮は感動する。

直訴が効き、陳宮は作戦指揮の全権を任される。
後日、夕陽が不吉に陳宮を照らす。ここも、太陽が重要な役割を担っており、高屋敷氏の特徴が出ている。太陽の使者鉄人28号脚本と比較。

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夕陽や夕焼けが不吉を告げているのは陳宮も察していたが、呂布から作戦を一任されているのだから、と自らを奮い立たせる。

陳宮呂布に会いに行くと、呂布の(政務関連の)部下である陳珪(ちんけい)・陳登(ちんとう)が先客にいた。陳宮は前々から、この親子と曹操との内通を疑っており(実際、内通している)、彼等を怪しむ。
陳珪親子は、(呂布には似つかわしくない)籠城戦をするよう進言。そうすれば、民の心を掴むことができると言う。
民の上に立つ、つまり「王」になることは呂布の目標であるため、呂布は籠城戦をすることを決意。

陳宮は、たとえこれが陳珪親子の謀り事であろうとも、呂布の、「王」となりたい意志を汲み取り、呂布の決断に従うことにする。ここで、陳宮の兜の意味深アップがあるが、これも、物に意思や魂を持たせる高屋敷氏の特徴。家なき子演出、DAYS・めぞん一刻脚本と比較。

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陳宮は、「自分は呂布の軍師であるか」と呂布に確認する。呂布は、それを肯定。呂布に太陽光が射し込む。ここも、「太陽」が状況に連動して活躍している。はだしのゲン2脚本と比較。

呂布の言葉を聞いた陳宮は益々、「呂布の軍師」としての志を高めるのだった。

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また、ここは高屋敷氏の投げかけるテーマ、「自分とは何か」「自分の道は自分で決めろ」が表れているシーンでもある。

一方曹操は陳珪親子から、呂布が籠城戦を決意したという報告を受ける。

曹操は、戦いに生き、戦いにに己を求める「純粋戦士」たる呂布が、その衝動を抑えていることに感心し、そして警戒する。

時を同じくして、獄中の劉備も、呂布の籠城に驚く。だが、呂布の生涯のピークは今で、天下を取る気配がしない、と予想する。

かくして曹操軍と呂布軍の戦が始まった。

呂布はなんと、籠城戦にも関わらず、門を開けては単騎で無双し、また門を閉めるという行動に出る。この時、兵士が槍の束を持って呂布につき従い、槍を補充してくれる。こういった優秀モブの描写も高屋敷氏の特徴。太陽の使者鉄人28号脚本と比較。

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また、兵士から呂布へ槍を渡す手がクローズアップされる。手から手へ思いを伝える描写も、大きな特徴。カイジ(シリーズ構成)、ワンナウツMASTERキートン脚本と比較。

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人間離れした呂布の強さに、曹操軍の兵士達は萎縮してしまう。

そんな様を見て、曹操軍の猛将・夏候惇は歯がゆい思いをし、アイパッチがその勢いで破れる。ここも、「物」が心情と連動し、活躍している。MASTERキートンめぞん一刻脚本と比較。

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曹操は、呂布のやり方に苦笑し、呂布は攻略しにくい美女のようだ、と評する。

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高屋敷氏のポリシーの一つに「善悪を明確にしない」事が挙げられるが、それが表れている。

そうは言っても勝たなくてはならないので、曹操は軍師の一人・荀攸(じゅんゆう)に策を問う。

荀攸は、川を氾濫させて城を水攻めにすることを提案。筆頭軍師の荀彧(じゅんいく)は、荀攸の策は正しいが、徐州の民の反感を益々買ってしまうとして、曹操がどんどん憎まれていく事を悲しみ、泣く。高屋敷氏の作品は、泣くキャラが強調される。カイジ2期・太陽の使者鉄人28号脚本、元祖天才バカボン演出と比較。

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曹操は、百年先を見据えて戦をしなければならないとして、あえて憎まれ役となることを受け入れる。ここも、「善悪の区別は単純ではない」という高屋敷氏のポリシーが表れている。

そんな中、大地に雪が積もる。呂布軍は、周囲に曹操軍がいないことに気付く。彼等は、曹操軍が雪のせいで撤退したのだと思い込み、大喜びする。雪などの「天」が強調され、活躍するのも高屋敷氏の特徴。めぞん一刻脚本と比較。

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また、喜び方が可愛いのも特徴。太陽の使者鉄人28号あしたのジョー2脚本と比較。

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喜びも束の間、曹操軍の水攻めが開始される。自然を味方につけるのも、高屋敷氏の作品では、よく出てくるし、原作つきでは強調される。自然=キャラと捉えていることの表れ。ルパン三世3期脚本(オリジナル)でも、火山湖を決壊させる作戦が出てくる。

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かくして呂布呂布軍は、絶体絶命のピンチに陥るのだった。

  • まとめ

予測した通り、高屋敷氏はシリーズ構成の柱の一つとして、「善悪の区別は単純ではない」事を前面に出している。陳宮呂布の覚悟も、曹操達の覚悟も、等しく荘厳に描かれている。

また、呂布の軍師として全身全霊で彼に仕える生き方を選んだ陳宮の姿に、「自分とは何か」「自分の生き方は自分で決めろ」という、高屋敷氏がよく発するメッセージが込められている。

もともと陳宮曹操の軍師であったが、呂布に仕えることを自ら「選択」し、そして呂布と共に命を賭けることを「生き甲斐」とした。「生き甲斐」がある事こそ「生きる」こと、というテーマも、カイジ含め、高屋敷氏の作品によく出てくる。

次回、三国志の筋通り、呂布陳宮は一蓮托生、共に壮絶な最期を遂げることになるのだが、呂布に仕えたことを後悔しない、陳宮の立派な姿が描かれている。

一方で、自由な戦士だった呂布は、「王」、そして「龍」になるために努力し、「成長」している。そして努力が実り、将として、そして王として兵士に慕われるようになった。

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「成長」を描くのは高屋敷氏が得意とする所であり、少年や青年が「男」になる構成が多い。以前も書いたが、蒼天航路では、もっと踏み込んで、「男」が「王」に、そして「龍」に成長する様を描いている。

だが劉備が予想した通り、呂布の成長はピークに達してしまった感がある。そうなると、あとは龍として昇天するのみとなる。

そんな運命の悲しさはあるが、呂布陳宮が、自分で自分の生き方を選んだ事が、強く印象に残る回だった。

蒼天航路20話脚本:「男」から「龍」へ

アニメ・蒼天航路は、同名漫画のアニメ化作品で、曹操の生涯を描く。高屋敷氏はシリーズ構成も務める。
監督は学級王ヤマザキや頭文字D4期などを監督した冨永恒雄氏。総監督は、バイファムやワタルなどのキャラクターデザインで有名な芦田豊雄氏。

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曹操は、皇帝・劉協(りゅうきょう)を奉り、豫州(よしゅう)の許(きょ)を都とした。だが、宛城(えんじょう)にて張繍(ちょうしゅう)の反乱に遭い、貴重な部下達や、長男の曹昴を失ってしまう。

そして曹操が許都に撤退した後も、張繍軍との戦は続いた。

一方徐州では、賭けがもとで曹操軍に下った劉備を中心に、呂布軍との交戦が続いていた。

そんな中、曹操は勇猛果敢な兵士・楽進(がくしん)を将に昇格させる。

楽進は、なんとなく忍者戦士飛影(高屋敷氏脚本参加)のダミアンに雰囲気が似ている。

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高屋敷氏は、ダミアン初登場回の脚本を書いており、その後の脚本回もダミアンへの思い入れが感じられる。雰囲気が似て来てもおかしくないかもしれない。

また、曹操軍の筆頭軍師・荀彧(じゅんいく)の甥・荀攸(じゅんゆう)が新たに軍師として加わる。荀攸は冷静で、曹操達を客観的に見ることができる目を持っている、優秀な人物。可愛いおじさん的なところもあり、こちらも高屋敷氏の得意分野を生かせるキャラクター。ルパン三世2nd脚本でも、愛嬌があり、そこそこ頭もキレる、トロンボというキャラクター(アニメオリジナル)が出てくる。

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新たな戦力を得た曹操は、あらためて張繍軍と交戦することに。

張繍軍には賈ク(かく)という優秀な軍師がいて、彼は曹操を追い込むための緻密な作戦を立てる。曹操曹操で、新たな将である楽進をサポートしつつ、賈ク(かく)との知略合戦を繰り広げる。

モノローグを多用した頭脳戦は、カイジの脚本にも生かされており、カイジ2期脚本7話では、カイジとの駆け引きを繰り広げる大槻班長のモノローグが大半を占める。それでいて緊張感とテンポが持続しており、近年の高屋敷氏の脚本の中でも屈指の出来。今回は、それを彷彿とさせる。結果的に、賈ク(かく)は曹操に、班長はカイジに、頭脳戦で敗北する。

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このようなキャラ同士の駆け引きや知略合戦は、高屋敷氏の得意分野と見られ、色々な演出や脚本作で見られる。戦いには善悪関係なく知略が必要、というポリシーが窺える。

曹操との知略合戦に敗れた賈クであったが、何故か曹操は止めを刺さず、兵を引く。

賈クはそれに疑問を持つが、すぐに、曹操が自軍の新顔(楽進たち)を育てるために、自分達を利用したことに気が付くのだった。

ここまでで、賈クのモノローグが多用されたこともあり、賈クにもシンパシーを感じる構成になっている。善悪の区別を単純にしないのも、高屋敷氏の特徴。

一方、曹操の命を受けて呂布軍と戦っている劉備達は、呂布の軍師・陳宮(ちんきゅう)に手を焼いており、ジリ貧になっていた。

そんな状況でも飯を元気にかっこみ、口についた米粒を舐め取る劉備の食いしん坊描写に、高屋敷氏の特徴が出ている。挙げればキリがないが、監督作の忍者マン一平、新ど根性ガエル脚本(コンテ疑惑もある)と比較。

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再び呂布軍が迫って来ているという報を受けた劉備は、嫌な予感がすると言い、堂々と(?)逃げ出す。

ここで戦慄するのが、劉備が太陽を横切る描写。元祖天才バカボン演出・ルパン三世2nd演出と重なる。

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他の演出・脚本作でも似たような描写があり、「脚本」なのに過去・未来作と絵面が似てくる怪現象が、ここでも出ている。
あと、高屋敷氏の作品では、太陽は重要なキャラクターなので、そのこだわりも感じられる。

劉備軍が逃げる最中、関羽劉備を守るため、しんがりを務めることに。
すると呂布軍の将・張遼(ちょうりょう)が、関羽に一騎討ちを挑んで来る。張遼は、シ水関の戦いでの呂布関羽の一騎討ちに影響を受けており、関羽と同じく青龍刀を使う。両者は互角に戦うが、好機に声を出した張遼が、その隙をつかれ敗北。ここも、なんとなくベルサイユのばらコンテ、忍者戦士飛影脚本と雰囲気が似てくる。

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関羽張遼に、青龍刀を使うのは十年早いと言い放ち、止めは刺さずに去る。ここも、青龍刀という「もの」に魂があるかのような表現や強調が続き、もの言わぬ物をキャラクターと捉える高屋敷氏の特徴が出ている。

一方で劉備は、兵達を逃がし、自分達は呂布に下る決断をする。ここで劉備が着物を脱ぐのだが、ここの強調に、高屋敷氏の特徴である、アイデンティティの如何を問う「脱衣演出」が出ている(服=アイデンティティを示す物)。チエちゃん奮戦記脚本と比較。

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とにもかくにも、脱衣や裸は、主にアイデンティティと絡めてよく出てくる。

劉備達は呂布と対面するが、ここでも、特徴である、太陽の強調描写がある。

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狂戦士であるはずの呂布は、珍しいことに、劉備達に興味や殺意を抱かず、自軍の大切な将である張遼の身を案ずる。劉備は、そんな呂布に「やばさ」を感じるのだった。ここでは、呂布劉備も「将」の顔に豹変している。豹変も、高屋敷氏の特徴。

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曹操は、劉備達については泳がせておくことにする。曹操劉備と同様、狂戦士ではなく、軍師や兵を率いる「将」として成長している呂布に興味を抱き、今の呂布は「美しく見える」とすら言う。ここの強調も、善悪の区別を単純にしない高屋敷氏のポリシーが出ている。

曹操は、将としての呂布を自身の目で見るため、大軍を率い、呂布のいる徐州へと向かうのだった。

  • まとめ

全体を通して、軍師達の生きざまや活躍が描かれ、前半は荀攸賈ク、後半は陳宮(呂布の軍師)の思いや考えがクローズアップされている。

知略描写を得意とする高屋敷氏にとって、知略を生業とする「軍師」はうってつけのキャラクター。それも手伝い、軍師達が生き生きと動く。

また、長くてもテンポがよく、名調子なモノローグが続き、緊迫感が持続する構成に、名作であるカイジ2期7話脚本との繋がりを見ることができる。

もともと、テンポが速く名調子な長台詞は、高屋敷氏の特徴であるが、それが今回、存分に生かされている。

そして、狂戦士から将へ「成長」(?)した呂布についても描かれる。前半では、兵から将へ昇格した、曹操軍の楽進が描かれており、それと絡めて考えるのも面白い。

もともと高屋敷氏は、家なき子最終回演出を筆頭に、少年から男へと成長する様を描くのが得意なわけだが、本作では、一人の男が「天を目指す将」へと成長する様も描いている。

呂布はしばしば、高屋敷氏脚本回(今回含む)で、「自分は龍になる」と志を高めており、「自由な戦士であるが故、王の器ではない」と董卓に指摘された所を直しつつある。

本作では、原作通りだが「天を目指す将」は龍に例えられ、死ぬと魂が龍となって天へ昇る。

高屋敷氏は、本作のシリーズ構成にて「一人の男」が「龍」へと成長する様も描いているのではないだろうか。

段々と、シリーズ構成のテーマが見えて来る回だった。