カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

グラゼニ(2期)24話(最終回)脚本:プロ野球選手である限り!!

アニメ・グラゼニは、原作:森高夕次氏、作画:アダチケイジ氏の漫画をアニメ化した作品。監督は渡辺歩氏で、高屋敷英夫氏はシリーズ構成・全話脚本を務める。
2期は1期最終回12話からの続きで、開始話数は13話。

───

  • 本作のあらすじ:

プロ野球投手・凡田夏之介は、年棒にこだわるタイプで、「グラウンドにはゼニが埋まっている(すなわちグラゼニ)」が信条。そんな彼の、悲喜こもごものプロ野球選手生活が描かれる。

───

今回は、コンテが齋藤徳明氏で、演出が吉田俊司氏。そして脚本が高屋敷英夫氏。

───

本記事を含めた、グラゼニに関する記事一覧:

http://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%82%BC%E3%83%8B

───

  • 今回の話:

いよいよ夏之介の契約更改。球団側が提示した年俸は2500万円。だが夏之介は2600万円を希望し、その理由を切り出す。

───

契約更改の席で夏之介は、プロ入りした際、神宮スパイダース(夏之介が所属するチーム。ヤクルトスワローズがモデル)のスカウト・安田に言われた言葉、「所詮プロは金だ。契約更改の時はとことん貪欲になれ」を思い出していた。

f:id:makimogpfb:20190524205717j:image

この流れはアニメオリジナル。プロの道に入った時の事を思い出させることで、夏之介は「自分で自分の道を選んだ」(高屋敷氏がよく出すテーマ)男であることが強調されている。

また、2500万ではなく2600万を希望する事情も、夏之介のモノローグで語られる。
この調子で行った場合、来年の契約更改で5000万円台に行くか行かないかのラインにかかっているのが、この100万円なのだ(この流れもアニメオリジナル。原作側のアドバイスもありそう)。

それを考え、(この100万円は)「来年、再来年…その次の年の年俸に大きく影響して来る100万円なんだ」と夏之介は燃える(アニメオリジナル)。

決意と連動する火のイメージは、カイジ2期(脚本)でも出ているほか、オリジナルを交えてアニメで蓄積してきた彼の「熱さ」が出ている。

f:id:makimogpfb:20190524205815j:image

夏之介は、10月に行われた、球団創設4000勝達成・ベテラン先発投手である川崎の150勝目成立・チーム首位浮上という、めでたい事づくしのホームゲームで、6~9回まで投げて抑え、勝利に大きく貢献したのは自分であり、そこを評価して欲しいと主張する。

ここの夏之介はしっかりしていて饒舌で、カイジ2期(脚本)にて、遠藤を仲間に引き入れるべく見事なプレゼンを展開するカイジを思わせる。

f:id:makimogpfb:20190524205853j:image

だが、話を聞いた部長は、それも込みでの評価が2500万円であるとして、少し休憩しようと言い出す。
夏之介は内心、絶妙なタイミングで休憩を入れてきた部長に舌を巻く。

この「休憩」もアニメオリジナルで、後のドラマティックな展開の伏線にもなっている。
このあたりの駆け引きも、カイジ(脚本・シリーズ構成)の経験を活かしている感じがする。

休憩中、夏之介は突然、マスコミに囲まれる(アニメオリジナル)。後に明らかになるが、これも夏之介に有利に働くことになる。

交渉が再開されると、夏之介の粘りに苛立ち始めた職員が、身をわきまえろと語気を強める。
それを受け夏之介は、
「2千万台の選手は黙って言いなりになれってことですか」
「2千万だろうが1億だろうが、選手は個人事業主ですからね。みんな必死なんですよ!」
と言い返す。これもアニメオリジナルで、夏之介の熱さが強調されている。
また、どんな相手にも物怖じせず、言いたい事を言うカイジが重なってくる。

f:id:makimogpfb:20190524210037j:image

そこを部長が取りなし、職員も夏之介も、互いに謝る。
話を続けることを許された夏之介は、あの4000勝達成試合は、芸能ゴシップもあって大きくマスコミに取り上げられたと話す。

試合は、俳優の白木雄悟と歌手の篠山千重が、お忍びで観戦しており、それを目ざとく見つけた一般人が、その事を写真つきでSNSに投稿。それが拡散されてマスコミが球場に駆けつけ、二人の交際が公になった。

二人は8回に球場を出た所をマスコミに捕まったのだが、スパイダースファンの二人は(交際もそれが切欠)、9回も夏之介が投げているとマスコミから伝えられて驚く。
そしてそのまま夏之介が見事抑えて勝利し、チームが首位浮上したことを彼等は喜び、白木は「やったぜ凡田ー!」と叫んだのだった。

f:id:makimogpfb:20190524210153j:image

この模様は大きく報道され、メモリアル試合は多くの人々に知られることになった。

球団職員は、それはグラウンド外の出来事だと反論する。
夏之介は、8回の自分の粘りのピッチングがあったからこそ、マスコミが球場に間に合ったわけで、白木と篠山の交際が報道されるのと、されないのとでは大きな違いが出たと主張する。

部長は、「メモリアルゲームを華やかなものにした演出代」としての100万円なのか…と夏之介の話をまとめ、その理屈もわかったような、わからないような…と折れ始め、2550万円でどうだと提案する。

夏之介は、この話にはまだ続きがあるので、ネットニュースを見て欲しいと言う。
部長と職員がPCでネットニュースを見てみると、件の白木と篠山が結婚することとなり、篠山は妊娠2ヶ月であるとのニュースが大々的に報じられていた。

テレビをつけてみると、ワイドショーは二人の結婚のニュースで持ちきりであり、それに絡んでスパイダースのメモリアルゲームも報じられていた。
更に、先ほどの休憩時間に、マスコミから取材を受け、二人にお祝いの言葉を述べる夏之介もテレビに映っており、部長達は驚愕。

f:id:makimogpfb:20190524210333j:image

先に述べたように、休憩中に夏之介がマスコミの取材を受けるのは、アニメオリジナル。話を盛り立てる役目をしっかり果たしており、意義のあるアニメオリジナルを差し挟むのが上手い高屋敷氏の本領が発揮されている。

このニュースは、あと2、3日は流れるだろう…と述べる夏之介を見ながら、職員は彼の強運(ニュースのタイミングなど)に驚く。
部長はすっかり感心し、遂に2600万円にすることを了承する。

夏之介は、喜んで判を押す。
彼は最後に、色々不躾な事を言った事を詫びて去る。
それを見送った部長は、金にこだわるのもプロ根性だし、来シーズンは中継ぎのエースと期待される男なのだから、気持ちよく判を押してもらえてよかったと言う。

職員も、球団としては、実は2500万も2600万も、あまり変わらないのだと思い苦笑する。

このあたりは、善悪・良い悪いの境界を明確に引かず、人間の色々な側面を描くポリシーを持つ高屋敷氏の姿勢も出ている。

f:id:makimogpfb:20190524210433j:image

ビルを出た夏之介は、怪我をした事を考えれば、800万円アップは上出来だと、喜びを爆発させる。喜ぶ姿に愛嬌があるのは、多くの作品で見られる。陽だまりの樹・怪物くん(脚本)と比較。

f:id:makimogpfb:20190524210512j:image

その夜夏之介は、渋谷(夏之介の友達で、先発投手)や大野(夏之介と同郷の後輩で、外野手)と焼き肉屋で飲み、全員無事に契約更改したことを喜び合う。

全員年俸がアップしたわけだが、この場合誰が奢るのか?という話になり、年齢が一番上の夏之介か、年俸が一番高い大野だということになる。
大野は、今日だけだと言いながら、快く奢る。

それを見ながら夏之介は、大野がプロ野球選手としていい感じに階段を上がっていることを喜ぶ。

f:id:makimogpfb:20190524210610j:image

原作通りだが、他者を見ることが、あらためて自分を見つめる事にもなる…という意味合いもあるのではないだろうか。事実、いい感じで階段を上がっているのは夏之介も同じ。

何にせよ皆と祝杯を上げられてよかったと思う夏之介であったが、一人になると、球団に強気に出てしまったことを思い出して悶絶する。ここも、全てが終わるとダメな部分が出てしまう、カイジ2期最終回(高屋敷氏脚本)のカイジが重なる。

f:id:makimogpfb:20190524210738j:image

そして、新しいシーズンが始まる。

ここからの流れは、アニメオリジナル。
「ここが僕の仕事場です」と夏之介が球場の扉を開けるのが、1期1話とリンクしている。

f:id:makimogpfb:20190524210816j:image

「僕、凡田夏之介は、プロ入り9年目の27歳。年俸1800…2600万!」というモノローグも、1期1話とリンクしており、感慨深いものがある。1話と最終回をリンクさせるのは、F-エフ-*1(シリーズ構成・全話脚本)でも見られた。

f:id:makimogpfb:20190524210851j:image

8回のピンチに、夏之介がマウンドに上がる。
「さあ、仕事のしどころですよ。この打者の年俸は2200万。2600万の僕が負けるわけには行きません」と彼が思うのも、自分より年俸が低い相手には、やたら強気になるという習性(1期2話)を思い出させて良い。

f:id:makimogpfb:20190524210922j:image

それを、徳永(夏之介の先輩で、解説者)が、渋谷が、大野が、コーチが、監督が、テレビごしではユキ(夏之介の想い人)が見守る。

f:id:makimogpfb:20190524210946j:image

グラゼニ…グラウンドには銭が埋まっている…僕が作った造語です」(原作序盤に出た言葉)
「僕は掘り続けます。プロ野球選手である限り!!」(アニメオリジナル)
と、夏之介は第1球を投げる。

f:id:makimogpfb:20190524211035j:image

だが、球場に快音が響き…
「グッ…グラゼニ~!!」

f:id:makimogpfb:20190524211108j:image

  • まとめ

流石最終回だけあり、内容が盛り沢山。これが1話に収まっているのが信じられない。やるとなると、非常に密度の濃い脚本を書く高屋敷氏の腕が存分に振るわれている。

前回23話に引き続き、アニメオリジナルの混ぜ方も秀逸。特に休憩時間を入れたのと、そのオチについてはストーリーを大いに盛り上げていた。

また、殆ど場面が動かない(交渉しているだけ)のに飽きさせない構成が、やはり見事。

誘拐犯と電話で交渉するだけなのに、話に引き込まれるMASTERキートン8話(脚本)、班長が3回サイコロを振るだけなのに緊張感が半端ないカイジ2期7話(脚本)、ラジオスタジオで話しているだけなのに面白い、本作17話(脚本)に引き続き、高屋敷氏の描く密室劇の傑作が拝めた事が嬉しい。

MASTERキートン8話(脚本)では、誘拐犯が提示する身代金を、何とか値下げしようとする交渉が描かれた。
今回の場合は、年俸の値上げ交渉。
どちらも「人間の値段」であり、考えさせられる。カイジ(脚本・シリーズ構成)でも、人間の身体・命に値段が設定されており、どこか共通するものがある。これもまた、高屋敷氏のテーマの一つ「自分とは何か」に関わってくるものなのかもしれない。

ラストの夏之介の自己紹介が、1期1話からアップグレードされているのも上手い。
これも、明らかに「自分とは何か」を表すものであり、かつまた、最終回で「自分を超え」た結果として年俸が上がったことが示されている(「自分超え」もまた、高屋敷氏の提示するテーマ)。

そして、「僕は(グラゼニを)掘り続けます。プロ野球選手である限り!!」も、自分で自分の道を選んだ「大人」であり「プロ」であるが故に「自分とは何か」がよくわかっている「凡田夏之介」という「男」を、よく表している。

この「“プロ野球選手である”限り!!」という言葉のために全てを積み上げたようなシリーズ構成も、流石の一言。
高屋敷氏のシリーズ構成作は、とにかく最後に畳みかけるようにテーマが放出され、そして熱い。今までアニメオリジナルを交えて積み上げた夏之介の熱さが、最後の最後でも炸裂しているのが感無量。

めぞん一刻(脚本・最終シリーズ構成)、F-エフ-・アカギ・カイジワンナウツ(脚本・シリーズ構成)、そして本作と、いずれも主人公は最終回にて「自分で自分の(生きる)道」を決めており、それを進んで行く。これも、とことん一貫しており唸らされる。高屋敷氏は、どんな作品にも、自身のテーマを乗せられるのが凄まじい。

あらゆるシリーズ構成作品にて、まとめ方が上手いのは、エースをねらえ!家なき子、宝島といった名作の最終回を演出した経験が存分に活かされているからと言える。それにしても、その上手さに毎度感嘆しきり。今回も期待を裏切らなかった。

最後に打たれて「グ、グラゼニ~ッ」となるのも、本作らしい終わり方。
先に述べたように、夏之介は大人だし、自分とは何かを普通よりわかっている男だが、若くて伸び代はあるし、完璧というわけでもない。だから失敗もするし、それを糧に成長もする。そういった、未来への期待も込められた被弾だと思う。

それにしても、決して衰えず、益々冴え渡る高屋敷氏の技術と才能には、本当に敬服する。

本作では、2本も密室劇の傑作が見れたし、相変わらずの熱いテーマも感じられた。

何より、グラゼニという作品と、夏之介という主人公が大好きになった。
F-エフ-の時もそうだったが、高屋敷氏は作品と主人公の魅力を十二分に引き出す力がある。

その腕の確かさを、期待以上に確認できたのが本作。最後まで見れて、本当に良かった。

次回は、本作のシリーズ構成(1期・2期)について書いていきたい。

*1:本ブログの、F-エフ-に関する記事一覧: http://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23F-%E3%82%A8%E3%83%95-

おにいさまへ…33話脚本:命と夕陽

アニメ・おにいさまへ…は、池田理代子氏の漫画をアニメ化した作品で、華やかな女学園を舞台に様々な人間模様が描かれる。
監督は出崎統氏で、高屋敷英夫氏はシリーズ構成(金春氏と共同)や脚本を務める。
今回のコンテは出崎統監督で、演出が廣嶋秀樹氏。そして脚本が高屋敷英夫氏。

───

当ブログの、おにいさまへ…に関する記事一覧(本記事含む):

http://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E3%81%8A%E3%81%AB%E3%81%84%E3%81%95%E3%81%BE%E3%81%B8%E2%80%A6

───

  • 今回の話:

原作を大幅に改変したエピソード。
好きという理由で、れい(謎めいた上級生)の秘められた家庭事情を打ち明けられた奈々子。一番夕陽が綺麗に見える場所に連れて行くと、れいは奈々子と約束するのだが…

───

開幕、夕陽が映る。夕陽の「活躍」は非常に多い。特に今回の役割は重要。
宝島(演出)、コボちゃん・F-エフ-(脚本)、ベルサイユのばら(コンテ)、蒼天航路(脚本)、元祖天才バカボン(演出/コンテ)、忍者戦士飛影(脚本)と比較。

f:id:makimogpfb:20190526120455j:image

夢の中で、れい(謎めいた上級生)は、亡き母との、夕暮れの中でのやりとりを思い出していた。
優しい母の描写は結構ある。
ベルサイユのばら(コンテ)、家なき子(演出)、ど根性ガエル(演出)と比較。

f:id:makimogpfb:20190526120532j:image

翌朝。ソロリティ(学園の社交クラブ)廃止派は、全校の2/3以上の署名を集め、学園はそれを受けて審議に入った。

ソロリティ会長である蕗子は、それでも毅然と振る舞う。姓が異なるが蕗子の妹であるれいは、割れた窓の隙間からそれを見守る。窓辺まわりは、しばしば印象的に描かれる。空手バカ一代(演出/コンテ)、はじめの一歩3期(脚本)と比較。

f:id:makimogpfb:20190526120615j:image

れいは、いつになく上機嫌で薫(れいの親友。体育会系だが病を抱える)の前に現れる。キャラクターが晴れやかな態度/笑顔を見せる様子は強調される。グラゼニじゃりン子チエあんみつ姫(脚本)と比較。

f:id:makimogpfb:20190526120646j:image

更衣室にて、れいは薫に、誇りと気高さを失わずにいる蕗子の姿を見れた喜びを語る。れいはボールを持ちながら話すが、気持ちを込める物として、ボールはよく使われる。DAYS・グラゼニ・F-エフ-(脚本)と比較。

f:id:makimogpfb:20190526120723j:image

夕刻、奈々子と智子(奈々子の幼馴染)は、父の不倫が元で、傷害事件を起こし停学中のマリ子(奈々子の級友)宅を訪ねる。
駆けっこする二人が幼い。無邪気で可愛い友情は、高屋敷氏の得意分野。グラゼニ(脚本)、ど根性ガエル(演出)、カイジ2期(脚本)と比較。

f:id:makimogpfb:20190526120756j:image

マリ子と、彼女の母は、以前世話になった貴(蕗子の兄)とすっかり仲良くなっており、マリ子の母の離婚後の引っ越し先を一緒に見て回る程。
皆が朗らかに笑い合う場面は、色々な作品に見られる。宝島(演出)、あんみつ姫(脚本)と比較。

f:id:makimogpfb:20190526120830j:image

マリ子の母は、皆にクレームブリュレをふるまう。飯テロは高屋敷氏の定番。
グラゼニ(脚本)、元祖天才バカボン(演出/コンテ)、MASTERキートン(脚本)と比較。

f:id:makimogpfb:20190526120901j:image

すっかり元気を取り戻したマリ子の母は、笑顔を見せる。コミカルで和やかな雰囲気作りは、同氏の得意とするところ。
ベルサイユのばら(コンテ)、エースをねらえ!(演出)と比較。

f:id:makimogpfb:20190526120930j:image

その夜、蕗子は父からの電話を受け、気丈に振る舞う。ここも窓辺描写。ベルサイユのばら(コンテ)と比較。

f:id:makimogpfb:20190526120955j:image

作劇としても、原作未登場の、蕗子の父親が出たのは驚き(声は出てないが)。
キャラクターを掘り下げるアニメオリジナルが、同氏は上手い。

一方、れいは奈々子を呼び出し、一緒に夜景を眺める。
タワーのある情景は、数々の作品で強調される。グラゼニ・アカギ(脚本)と比較。

f:id:makimogpfb:20190526121029j:image

ルーツは、無記名で脚本参加した、あしたのジョー1最終回の東京タワーかもしれない。

れいは、蕗子は生まれてすぐに本家に引き取られた、実の姉なのだと奈々子に語る(表向きは異母姉妹)。
奈々子は驚き、何故自分に話すのかと、れいに問う。
れいは「あなたが好き」と言い、奈々子を抱擁する。抱擁やハグは多い。グラゼニ・F-エフ-(脚本)、ど根性ガエル(演出)と比較。

f:id:makimogpfb:20190526121105j:image

れいは、明日、夕陽が一番綺麗な場所に連れて行くと奈々子に約束する。
翌朝、目覚めたれいは窓を開ける。
運河を船が行く。船描写は出崎統監督の定番だが、高屋敷氏もよく出す。アカギ・F-エフ-・めぞん一刻(脚本)と比較。

f:id:makimogpfb:20190526121140j:image

浮き足立つ奈々子は、約束の時間より大分早く家を出て、一緒に時間を潰して欲しいと智子にお願いする。
ここも友情が微笑ましい。エースをねらえ!(演出)と比較。

f:id:makimogpfb:20190526121205j:image

れいは気分よく薫と電話で話し、薫はれいが元気な事を喜ぶ。薫はボールを持ちながら話す。コミュニケーションツールとしてのボールもまた、色々出る。グラゼニ・DAYS(脚本)と比較。

f:id:makimogpfb:20190526121229j:image

借りていたヴェルレーヌの本を月曜に返すと、れいは薫に言う。
その後、れいはシャワーを浴びる。シャワーシーンは、原作を改変してでも出てくる。グラゼニカイジ2期(脚本)、空手バカ一代(演出/コンテ)と比較。

f:id:makimogpfb:20190526121256j:image

身支度をしながら、れいは蕗子との接点である大切なブレスレットを手にする。
大切なものを持つ手のアップは、よく出る。F-エフ-・カイジワンダービートS(脚本)と比較。

f:id:makimogpfb:20190526121316j:image

その頃蕗子は、レコードを聞きながら紅茶を飲んでいた。
れいは元々は素直で明るい子だと、蕗子は貴に語る。
レコードのアップが出るが、「物」の意味深アップは多い。あしたのジョー2・アカギ・グラゼニ(脚本)と比較。

f:id:makimogpfb:20190526121348j:image

れいとの約束の時間が近づき、奈々子は智子に髪飾りを直してもらう。
とにかく高屋敷氏の友情描写は幼く愛嬌がある。グラゼニ・F-エフ-(脚本)、ど根性ガエル(演出)と比較。

f:id:makimogpfb:20190526121412j:image

智子は、からかいながら奈々子を見送り、奈々子はあかんべーする。ここも幼い。
舌を出す仕草もまた、色々な作品に見られる。宝島(演出)、めぞん一刻(脚本)と比較。

f:id:makimogpfb:20190526121436j:image

花屋に寄ったれいは、蕗子の好きな赤いバラを、彼女の家に配送するよう頼み、奈々子のためにも花束を買う。
状況やキャラと連動する花描写は、沢山出てくる。あしたのジョー2・コボちゃん(脚本)と比較。

f:id:makimogpfb:20190526121502j:image

待ち合わせの駅に若干早く着いた奈々子は、ベンチに座って海を眺める。
海を眺めるのは、宝島(演出)にもあり、どちらも、後に切ない展開となる。
「海を見ていました」という奈々子のナレーションの声が震え、これから起こる悲劇を示唆する。

f:id:makimogpfb:20190526121525j:image

奈々子に会いに行く途中、風に飛ばされた花束を取ろうとして、れいは橋から落ち、電車に跳ね飛ばされる(原作では薬の過剰摂取による自殺)。
花束が印象に残る。魂が宿ったような「物」の描写は多い。F-エフ-・あしたのジョー2(脚本)と比較。

f:id:makimogpfb:20190526121602j:image

そして、れいのブレスレットが飛ぶ。こちらも、魂がこもった「物」の描写。
グラゼニ・F-エフ-・カイジ2期(脚本)と比較。

f:id:makimogpfb:20190526121631j:image

今渡の際、れいは夕陽のイメージを見る。
全知全能的で、生死を司るような夕陽は頻出。宝島・家なき子(演出)、ベルサイユのばら(コンテ)と比較。

f:id:makimogpfb:20190526121651j:image

「きれいな夕陽ね」と言う母(イメージ)に、「はい」と答え、れいは絶命する。

f:id:makimogpfb:20190526121713j:image

蕗子は警察から、れいの死を知らされショックを受ける。
奈々子は、夕暮れの中れいを待ち続けるのだった。
情感ある夕暮れは多く出る。宝島(演出)、アカギ・F-エフ-・蒼天航路(脚本)と比較。

f:id:makimogpfb:20190526121738j:image

  • まとめ

大筋以外、いや大筋すら原作と大分違う。原作に沿っているのは、

  • マリ子と貴が仲良くなった
  • マリ子の引っ越し
  • ソロリティ廃止関連
  • れいが奈々子に秘密を打ち明ける

あたりぐらいで、それすら台詞が大幅に変更・追加されている。

れいの死因が事故死に変更された(原作は自殺)のも、死の直前まで、れいが生きる事に前向きになっているのも、あまりにも大胆な原作改変で驚愕。
原作クラッシャーな出崎統監督と、やるとなると原作を大改変する高屋敷氏が合わさり、凄い事態になっている。

蕗子の改変も凄い。原作では、ソロリティ廃止の署名運動や家庭の事情がらみで、彼女はれいを激しく罵倒しているのに、アニメでは若干、れいに対する感情が軟化している。
いわば180度事態が変わっている。
この大胆さにも驚く。

F-エフ-(シリーズ構成・全話脚本)*1では、キャラクターの行動・言動を原作と正反対にしたり、原作で自殺未遂するキャラが、アニメではそうしなかったりしていたが、それに近い事が行われている。

グラゼニ(シリーズ構成・全話脚本)*2でも、原作のネガティブな事象を、あっという間にポジティブなものに変えてしまった手腕に驚かされた(23話)。

とにかく、原作に非常に忠実なものもあれば、原作と激しく異なるものもあるのが驚異的。

言い出したのが誰なのかわからないが、れいが生きる事に前向きになるのは原作と違いすぎる。
出崎統監督の、死の雰囲気漂う寂寥感ある作風とも大分違うような気がする。
まるで、高屋敷氏と出崎統監督の衝突と融合が起こっているような感覚を受ける。

何故そう感じるかというと、まず、高屋敷氏が数々の作品にて、精神疾患やネガティブ思考による自殺を否定していることと、「生きる」事について強いメッセージを発していることが挙げられる。
そこから考えると、今回の前向きなれいは、高屋敷氏的と言える。

一方で出崎統監督は、寂寥感ある「死」を幾度となく描いてきた(特に、監督作である後期ベルサイユのばら)。れいの死に方は、あまりに残酷であるが、美しさも描かれる。
突如やってくる理不尽な死という点では、出崎統監督的と言える。

ベルサイユのばら後期に、もし高屋敷氏が参加していたら(同氏が参加したのは前半の長浜忠夫監督期)、もっと「前向き」な要素や、ロザリーの成長要素が加わるのではないかと想像したことがある。
本作では、それに近い感覚を受ける。

つまり、事故死する前の、前向きなれい=高屋敷氏要素、そんな彼女に理不尽な死が襲いかかる=出崎統監督要素なのではないか…と思えてくる。あくまで感覚としてではあるが。
どちらも相当に自己主張が強そうなのは確か。

他の箇所に目を向けてみると、可愛い友情描写や、皆に笑顔が広がるあたりは非常に高屋敷氏的。
特に、マリ子の母が笑顔を見せるあたりは、原作より大分救済されており和む。

また、れいが「あなたが好き」と奈々子に言うのは、原作と大分違う。原作では、彼女は「死」の世界を見ていて、結局は他者を置き去りにする(自殺する前に、奈々子に人形をあげたりするが)。
「好きならハッキリ言う」は、高屋敷氏のポリシーなので、ここも同氏的。

そして夕陽。出崎統監督と同様、高屋敷氏も夕陽に並々ならぬこだわりがあるようで、生死を見つめたり、願いを聞き届けたり、旅立ちを見送ったり、成長を見守ったりする。同氏の「お天道様」信仰の徹底が見られ、面白いところ。

れいの死に話を戻すと、やはりここは高屋敷氏と出崎統監督の個性のぶつかり合いが見られ興味深い。ともすれば、両氏の死生観の違いに発展しそうである。
これにも注目しつつ、今後見て行きたい。