カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

RAINBOW-二舎六房の七人5話脚本:木が記憶する夢

アニメRAINBOW-二舎六房の七人-は、安部譲二氏原作・柿崎正澄氏作画の漫画のアニメ化作品で、戦後間もない少年院に入所した七人の少年達のドラマ。監督は神志那弘志氏で、高屋敷英夫氏はシリーズ構成・脚本を務める。
今回のコンテは吉川博明氏で、演出は平尾みほ氏。そして脚本が高屋敷氏。

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当ブログの、RAINBOW-二舎六房の七人-に関する記事一覧:

http://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E4%BA%8C%E8%88%8E%E5%85%AD%E6%88%BF%E3%81%AE%E4%B8%83%E4%BA%BA

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  • 今回の話:

火事で負傷した六郎太(少年院の二舎六房の古株でリーダー)が退院。束の間の平穏の中、房の皆は各々の夢を木に刻む。

そして刑期満了を前に、釈前房に入れられた六郎太は壮絶なリンチを受ける。何とかしようとする真理雄(二舎六房の熱血漢)だったが…

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火事で舎房が焼けてしまった二舎六房の面々は仮舎房に移る。

凶悪な看守・石原が謹慎中のため、皆は穏やかに過ごす。

2話でもそうだったが、忠義(いかつい)と万作(大柄)がトレーニング、昇(小柄)と丈(美形)が将棋、龍次(眼鏡の頭脳派)が読書、真理雄(熱血漢)がボクシングの練習…というのが定番になっており、高屋敷氏が得意とする、キャラの掘り下げが成されている。

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そこへ、火事で負傷し入院していた六郎太(房の古株でリーダー)が予定より早く帰ってきて、皆は喜ぶ。朗らかな笑顔が広がる様は、色々な作品で強調される。宝島(演出)、あんみつ姫はだしのゲン2(脚本)と比較。

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野外作業の休憩中、二舎六房の皆は海を見ながらくつろぐ。船が横切っていくが、出崎統氏の演出の定番で、長年同氏と一緒に仕事した高屋敷氏もよく出す。あしたのジョー2・おにいさまへ…・アカギ(脚本)と比較。このうち、あしたのジョー2と、おにいさまへ…のコンテは出崎統氏。

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皆は、互いの夢を語り合う。ここは、水辺で(言葉が通じずとも)友情を確かめ合う、あしたのジョー2(脚本)のカーロスと丈に重なるものがある。

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六郎太は、中途半端に終わらせたくないとして、ボクシングを続ける決意を語る。
はじめの一歩3期(脚本)の一歩、あしたのジョー2(脚本)の丈、グラゼニ(脚本)の夏之介など、自分でやると決めたことを貫くキャラを、高屋敷氏は尊重する。

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万作は、「おいしいものを沢山食べたい」と言って皆を笑わせる。ここも、笑顔を強く印象づけている。エースをねらえ!(演出)、陽だまりの樹・F-エフ-・蒼天航路(脚本)と比較。

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将来の夢を考えあぐねる真理雄に、「筋がいい」として、六郎太はボクシングを勧める。
光の加減で、尊敬や恋、力の差などを表す描写は、しばしば見られる。おにいさまへ…(脚本)、宝島(演出)と比較。

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六郎太は立ち上がり、一足先にシャバに出てるから、後で6人揃って出てこいと微笑む。確かな友情を感じさせる微笑は、あしたのジョー2(脚本)でも見られた。

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7人は、木に各々の夢を刻み、シャバに出た後の再会の目印にすることにする。
「木」ほか、自然のクローズアップは、よく見られる。じゃりン子チエ(脚本)、宝島(演出)、おにいさまへ…(脚本)と比較。

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六郎太はボクシング世界チャンプ、昇はハーレム、忠義は自衛隊員、丈は歌手、龍次は金持ち、万作は美味しいものを食べること…と、それぞれの夢を木に刻む。

最後に真理雄は、「みんなのユメがかなえばいい」と刻むのだった。ここはシリーズの要となりそうな名場面で、高屋敷氏の構成計算の一端が見える。

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二舎六房の皆が友情を深める一方、石原と佐々木(少年院の医師)は、二人の悪事を知る六郎太をおとしめる陰謀をめぐらす。
月が映るが、全てを見ているような月の出番は多い。おにいさまへ…(脚本)、宝島(演出)、蒼天航路(脚本)と比較。

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佐々木(常日頃、少年を犯している)は今夜の「相手」の少年を前に、指を洗う(原作はダイレクトな表現)。
状況や感情を表す手のアップは多い。おにいさまへ…・F-エフ-・カイジ2期(脚本)と比較。

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石原から、釈前房(釈放直前の入所者が入る房)への転房を命じられた六郎太は、そこで(石原の息がかかった)房の者達から壮絶なリンチを受ける。だが、六郎太は不敵な笑みを浮かべる。どんなイジメを受けても策略を進め、ニヤリとするカイジを彷彿とさせる。

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転房してから、食堂に出て来ない六郎太を心配した真理雄は、釈前房(一舎八房)の面々が、六郎太の事を話しているのを耳にする。
その1人の拳が腫れているのを見て、真理雄は状況を察し、彼の手を掴む。
衝撃で椀が落ちる。こうした「物」の描写は、色々な作品に見られる。おにいさまへ…めぞん一刻(脚本)と比較。

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釈前房の者達は六郎太を侮辱し、それに憤った真理雄は、彼等のうち一人を殴る。
色々とカイジ2期5話(脚本)と重なる。真理雄の場合は激情、カイジの場合は策略のうちの一つという違いはあるが。

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真理雄の先走った行為が、六郎太を益々窮地に追い込むとして、忠義は真理雄を激しく叱咤する。房の窓に蛾が集まる表現があるが、他作品にも見られる。おにいさまへ…(脚本)、空手バカ一代(演出)、アカギ(脚本)と比較。

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一方六郎太は、釈前房の皆から食べ物をぶっかけられるが、それを掴んで食べる。
おにいさまへ…・F-エフ-・じゃりン子チエ(脚本)ほか、生きるための「食」の大切さを、高屋敷氏は強くうったえる。

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後日、真理雄は釈前房の者達に頭を下げ、自分を思う存分殴るかわり、六郎太に手を出さないで欲しいと頼む。
それを受け彼等は、真理雄がボクサー志望と知りながら、彼の右拳を石で粉砕する。
カイジ(脚本)の、指を切られる場面が重なる。

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真理雄の右拳を壊したことを、釈前房の者達から告げられた六郎太は、そのうちの一人の顔面に強烈なパンチを浴びせる。
一転攻勢の構成は、はじめの一歩3期・カイジ2期(脚本)ほか、効果的に使われる。

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今までのリンチは石原のヤキよりヌルかったので我慢してやっていたが、真理雄の一件はやりすぎだとして、六郎太は拳を構える。カイジ2期5話(脚本)にて、リーダーとして満を持して大槻班長に立ち向かうカイジと重なる。

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「自分のことなら、何があっても耐えてみせる。だが、自分のために仲間が痛めつけられるのは絶対に許せねえ…」というアニメオリジナルのナレーションが入る。カイジ2期(脚本)のカイジベルサイユのばら(コンテ)のオスカル、ど根性ガエル(演出)のひろしほか、仲間/弱者/親友が虐げられると激怒するキャラはクローズアップされる。

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  • まとめ

シリーズ中、重要な回と言える。
皆の夢が刻まれた木は、(50年後の状態で)1話アバンにアニメオリジナルで出てきており、その経緯がここで明かされる。
高屋敷氏が得意とする時系列操作が、ここで効力を発揮しており、同氏の構成計算の巧みさが光る。

話の密度も濃く、かなりの量の原作を消費している。
夢を木に刻む話、釈前房の六郎太の話、石原と佐々木の陰謀、真理雄の右拳損傷、六郎太の一転攻勢のクライマックスなど、複数のエピソードを上手く捌いており、じゃりン子チエ脚本で培った技術が使われている。

ラストの六郎太の一転攻勢は、それまでの積み重ねがある分、カタルシスが感じられる作りで、話の組み立てが上手い。高屋敷氏は、キャラの魅力を積み上げ、それをどう爆発させるかの計算が緻密。

真理雄が六郎太に憧れていることを丁寧に描いたことで、右拳を粉砕された真理雄の痛みや、それを受けての六郎太の怒りが手に取るようにわかる仕組みになっている。夢を語る話と、六郎太の転房の話を、1話内に詰めた意図が窺える。

多くの作品で、高屋敷氏は仲間愛を強く描くが、アニメオリジナルのナレーション「自分のために仲間が痛めつけられるのは絶対に許せねえ…」は、それが直球で表れており、同氏のポリシーを再確認できる。
こういった所も、同氏の担当作を追う醍醐味。

本放送が、カイジ2期本放送の前年にあたることもあり、やはりカイジとのシンクロが多々ある(スタッフも一部共通している)。奇しくも今回(5話)とカイジ2期5話とのシンクロ具合は高い。
凄惨なイジメを主人公達が受け、最後に反撃を開始する流れも共通で、高屋敷氏のシリーズ構成のクセが見える。

今回は、皆の夢が語られるわけであるが、高屋敷氏のテーマの一つ「自分の道は自分で決めろ」と相性が良い。
原作のどこを強く押し、何をテーマにしていくかは、原作つきアニメで重要。
同氏はそれが抜群に上手いので、そこにも注目して見て行きたい。

RAINBOW-二舎六房の七人2話脚本:夏の終わりの雨

アニメRAINBOW-二舎六房の七人-は、安部譲二氏原作・柿崎正澄氏作画の漫画のアニメ化作品で、戦後間もない少年院に入所した七人の少年達のドラマ。監督は神志那弘志氏で、高屋敷英夫氏はシリーズ構成・脚本を務める。

今回のコンテは島津裕行氏で、演出は米田和博氏。そして脚本が高屋敷氏。

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当ブログの、RAINBOW-二舎六房の七人-に関する記事一覧:

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  • 今回の話:

真理雄ら6人が少年院の二舎六房に収監され、房の古株・六郎太と出会ってから約1ヶ月。
孤児院にいる妹・メグが里子に出されると知った丈(二舎六房の1人。混血の美形)は、仲間の協力のもと脱走し、メグと対面するが…

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開幕、真夏を表すセミが映る。季節の移ろいの描写が丁寧なのは、他の高屋敷氏担当作でも目立つ。
チエちゃん奮戦記・めぞん一刻グラゼニ(脚本)と比較。

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二舎六房の面々は、あだ名で呼び合うようになっていた。

六郎太(房の古株でリーダー)は、真理雄(熱血漢)にボクシングを教える。あしたのジョーに似たフレーズが幾つか追加されており、高屋敷氏の、あしたのジョー1・2脚本経験(1は無記名)が活きている。

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忠義(いかつい)は万作(大柄)をサポート役にして腹筋を鍛え、昇(小柄)は丈(混血の美形)と将棋をする。この組み合わせは後々にも見られ(特に今回は丈と昇のドラマがある)、原作もアニメも伏線の張り方が上手い。

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こういったさりげない伏線は、グラゼニ(シリーズ構成・全話脚本)にも多かった。

龍次(眼鏡の頭脳派)は読書をしながら、少しは頭を使えと昇を煽り、昇は龍次に掴みかかる。彼の本のアップ・間があるが、こういった「間」は頻出。ベルサイユのばら(コンテ)、宝島(演出)、あんみつ姫(脚本)と比較。

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真理雄は、昇と龍次の小競り合いを取りなす。そんな彼らを見て、六郎太は苦笑する。この笑顔はアニメの追加。(不思議なことだが、脚本でも)微笑から満面の笑みに至るまで、高屋敷氏は様々な笑顔にこだわりを見せる。グラゼニおにいさまへ…あしたのジョー2(脚本)と比較。どれも複雑な感情をはらむ。

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面会に来た孤児院の園長から、妹・メグが里子に出されると聞いた丈は、食事中に、そのことを仲間に打ち明ける。食事のクローズアップは多く、「食」に重きを置く姿勢が感じられる。カイジ2期・忍者戦士飛影グラゼニ(脚本)と比較。

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妹の事が気になり、危険な作業中も上の空の丈を昇が助ける(あわや事故の事態は、アニメオリジナル)。回転ノコギリのアップがあるが、回転ノコギリは過去作品にもしばしば見られる。元祖天才バカボン(演出/コンテ)、太陽の使者鉄人28号(脚本)と比較。

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夕刻、少年院の少年達は浴場へ入るため並ぶ。カイジ2期(脚本)の、地下強制労働施設でのシャワー場面に重なるものがある。

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そこへ、食料運搬業者が扉を開けて入ってくる。扉の向こうが眩い描写は、グラゼニカイジ(脚本)でも印象的。

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昇は丈に、妹に会わせてやると言って自らの腕を噛み、蛇に噛まれたと一芝居打つ。原作通りだが、高屋敷氏は「噛みつき」に縁がある。カイジ(脚本)、ど根性ガエル(演出)、蒼天航路(脚本)と比較。オリジナルでも出す故、ど根性ガエルの経験を活かしている節がある。

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六郎太は状況を察し、「戻ってくるんじゃねえぞ」と丈の背中を優しく押す。こちらも原作通りだが(優しさの)強調が見られる。
「手」による感情伝達表現は数多い。
おにいさまへ…(脚本)、宝島(演出)、グラゼニめぞん一刻(脚本)と比較。

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昇と六郎太を皮切りに、他の二舎六房の面々も、蛇が出たと芝居し、看守達を煙に巻いて丈を逃がす。仲間愛は、様々な作品で前面に出される。カイジ2期・はじめの一歩3期・あんみつ姫(脚本)、ど根性ガエル(演出)と比較。

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丈は脱走(原作では昇も追随)し、身を隠しながら過去を回想する。
回想の中で、丈は妹に歌を歌う(歌うのはアニメオリジナル)。ランプが映る。ランプ表現は定番。宝島(演出)、カイジ2期・グラゼニおにいさまへ…(脚本)、空手バカ一代(演出)と比較。

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一方、他の二舎六房の皆は散々肉体的に絞られた上、独房に入れられる。
文句をたれる龍次に対し六郎太は、何故皆が丈の逃亡を咄嗟に助けたか問い、「仲間だからだ」と結ぶ。
ここも、仲間愛の強調が見られる。それは、カイジ(シリーズ構成・脚本)でも同様。

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昇は、月を見上げる。原作もアニメも、月がクローズアップされる。高屋敷氏は、あらゆる事象を見守るものとして、月を重要視する。はじめの一歩3期・F-エフ-(脚本)、空手バカ一代元祖天才バカボン(演出/コンテ)、めぞん一刻(脚本)と比較。

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昇は、自分の過去を語る。飲んだくれの父と、それにオロオロするばかりの母を避けて、昇は妹を連れ、よく外に出ていたという(原作では、妹について言及されない)。昇が妹をおんぶするのはアニメオリジナルで、はだしのゲン2(脚本)にて母をおんぶするゲンが重なる。

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たまたま、昇が妹を連れずに外に出た日は、広島に原爆が投下された日だった。運命の日、太陽が映る。生と死を司るものとしての太陽は、実によく出る。
宝島(演出)、F-エフ-・MASTERキートン(脚本)と比較。どれも、生と死の境目の場面。

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自分は、原爆で家族を失い孤児となったので、丈がほっておけなかったと昇は言う。
はだしのゲン2(脚本)のゲンも、原爆で父・姉・弟・妹・母を失っている。
原爆絡みは、はだしのゲン2を思い出さずにはいられない。

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孤児院では、メグが里親と対面していた。里親は、あからさまにメグを性的な目で見ており、彼女の手を握る。
敵意や悪意を「手」で伝えるパターンは、他作品でも見られる。F-エフ-(脚本)、宝島(演出)と比較。

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丈は孤児院に辿り着くが、待ち伏せていた追手に取り押さえられる。丈は園長に、何度(性的に)悦ばせれば妹に会わせてくれるのかと、園長が自分を常日頃犯していた事実を言い、園長は怒る。
カイジ2期(脚本)にて、大槻に堂々と立ち向かうカイジと重なる。

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なおも園長の性犯罪を匂わせる発言を続ける丈を、園長は花瓶で殴り、花鋏を掴む(原作ではナイフ)。感情と連動する花鋏は、おにいさまへ…(脚本)にも見られた。

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その頃、二舎六房の他の皆は、石原(悪辣な看守)から、丈が確保されたことを告げられる。皆をクズ扱いする石原に、真理雄は憤る。
強者が弱者を見下し、虐げる構図は、カイジ(脚本)にもある。

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孤児院では、園長と丈が対峙しているところにメグが現れ、丈を(わざと)邪険に扱う。身寄りの無い者は、人に利用されて生きていくしかない…と彼女は言い放ち、丈は涙を流す。身動きできない状態での悲しみは、カイジ(脚本)や宝島(演出)にも見られる。

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雨の中、心身ボロボロの丈は少年院へと運ばれる。
部屋の中でメグは、熊のぬいぐるみ(親に捨てられた時に持っていたもの)を抱きしめる。ぬいぐるみはアニメオリジナルで、おにいさまへ…(脚本)やルパン三世2nd(演出/コンテ)を彷彿とさせる。

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雨が窓を打ち付け、メグは号泣する。本当は、丈が来てくれて嬉しかったと、彼女は思う。
雨の中のドラマは強調される。はだしのゲン2(脚本)、エースをねらえ!(演出)、ベルサイユのばら(コンテ)、空手バカ一代(演出)と比較。

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メグは里親のもとへ行き、部屋の灯りが消える。こういった灯りの描写も多々ある。めぞん一刻(脚本)と比較。

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少年院に戻った丈は暴行されて全身傷だらけになった上、手錠で拘束されたまま独房に入れられる。

ラスト、「降りしきる雨は、夏の終わりを告げていた」というナレーションが入る(アニメオリジナル)。高屋敷氏が、雨や季節の移ろいを重視しているのが直球で出ている。

  • まとめ

全体を覆う仲間愛が印象に残る。
高屋敷氏が、多くの作品で強く押し出す「一人は皆のために、皆は一人のために」という精神は、同氏が愛する野球(元野球部で、高校の野球部経験あり)のチームワークから来ているのかもしれない。

また、兄妹愛についても描かれる。原作では言及されない、昇の妹についてアニメオリジナルで描かれているのは、丈・メグ兄妹との対比であり、昇が丈に肩入れする理由を明確にしている。

原作では、脱走する丈に昇が追随し、一緒に鯛焼きを食べたり、丈を追手から逃がすために、わざと捕まったりする下りがあるが、アニメではカット。丈の掘り下げに集中する為かもしれない。
時折、高屋敷氏は大胆な改変をする。こういった大胆さは、おにいさまへ…グラゼニの脚本にも見られた。

昇の原爆体験について、アニメで色々追加されているのは、はだしのゲン2脚本経験が活きているのが窺える。
プロデューサーの丸山正雄氏も、『はだしのゲン』から『この世界の片隅に』に至るまで、原爆についての強いこだわりが感じられる。

作監督の神志那氏は、マッドハウスHUNTER×HUNTERの監督でもあるわけだが、後半の非常に過激な展開を、殆どぼかさず表現しており、本作でも過激な描写から逃げない。高屋敷氏も、それに伴って過激描写に取り組んでいる。

過激といえば、F-エフ-(シリーズ構成・全話脚本)では、原作の性的描写があまりできなかったものの、代替として過激な暴力描写が出ていた。
深夜放送で、過激描写を辞さない神志那監督の尽力もあり、本作では性的描写もハッキリ出ており、時代が味方している。

月明かりの中、六郎太が「仲間」について説くあたりは、高屋敷氏の強調が見られる。仲間愛については、構成の要になって来そうな気配があるので、今後も、そこに注目しながら見て行きたい。

高屋敷氏は、「仲間だ」「友達だ」「好きだ」など、愛情をダイレクトに伝えるポリシーがあるようで、六郎太の言う「仲間だからだ」も前面に押し出されている。カイジ2期(脚本)でも、カイジが「仲間だろ!」と言う場面を強調している。この辺りも興味深い。

ラストのナレーション、「夏の終わりを告げる雨」は、色々な作品にある意味深な季節描写を直球で表しているわけであるが、おにいさまへ…グラゼニ(脚本)のナレーションでも季節に関して触れており(アニメオリジナル)、高屋敷氏のセンスが感じられる。

季節への意識にしろ、頻出する「物言わぬもの」の「間」にしろ、演出経験に裏打ちされた、「空間」を構築する「脚本」を、高屋敷氏は書けるのではないか…と思うことがある。何にせよ脚本は、台詞の羅列だけでは済まないのではないだろうかと、同氏の脚本作を見る度、考えさせられる。