家なき子33話演出:強固な意志
アニメ『家なき子』はエクトール・アンリ・マロ作の児童文学作品をアニメ化した作品。過酷な運命のもと旅をする少年・レミの成長を描く。
総監督は出崎統氏。
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本記事を含めた、当ブログの家なき子に関する記事一覧:
https://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E5%AE%B6%E3%81%AA%E3%81%8D%E5%AD%90
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- 今回の話:
サブタイトル:「とんでもない仲間」
脚本:山崎晴哉氏、コンテ:出崎統監督、演出:高屋敷英夫氏。
レミ達は旅を続け、猿が仲間に加わる。亡きジョリクール(芸をする猿)に似ているため、レミは猿にジョリクールと名付ける。
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旅を続けるレミ、マチヤ(レミの親友。風来坊)、カピ(芸をする犬。賢い)。
マチヤは宿代を賭けて、(イカサマを使った)知恵の輪勝負を宿屋にふっかける。
煽って賭けに持ち込むのは、元祖天才バカボン(演出/コンテ)も印象深い。
しかしマチヤは、解けない細工をしてある知恵の輪へのすりかえに失敗。宿屋は知恵の輪を解いてしまう。
ランプが目立つが、ランプの描写は頻出。ワンナウツ(脚本)、空手バカ一代(演出)と比較。
結局、レミ達は宿屋に泊まるのを諦め、野宿する。最初は怒っていたレミだったが、平謝りするマチヤを見て笑い出す。
高屋敷氏は、「笑顔」を大切にする。RAINBOW-二舎六房の七人-・あんみつ姫(脚本)と比較。
レミはあらためて、マチヤが旅に加わってくれたことを感謝し、マチヤは照れ笑いする。ここも、「笑顔」を丁寧に描写している。じゃりン子チエ・おにいさまへ…(脚本)と比較。
魚が跳ねる描写があるが、陽だまりの樹・コボちゃん・F-エフ-(脚本)ほか、魚を使った「間」はしばしば見られる。
翌日レミ達は、アレクシス(レミが世話になったアキャン家の長男)がいるバルスへの旅を続ける。
道中、滝があるが、出崎統監督も高屋敷氏も、滝を好む。空手バカ一代・宝島(演出)、アンパンマン(脚本)と比較。
レミ達は、たまたま見かけたサーカス団の馬車に、こっそり乗り込み足を休める。
橋を通る馬車の構図は結構ある。ベルサイユのばら(コンテ)、まんが世界昔ばなし(演出/コンテ)と比較。
檻の中の虎を見入っていたレミは、小さな檻に入れられた猿を発見する。
まんが世界昔ばなし(演出/コンテ)も、猿のコミカルで愛らしい演出が上手い。
すると猿は、器用に自分で檻の鍵を開けて檻から出てくる。ここも、まんが世界昔ばなし(演出/コンテ)の、頭がよく回る猿と重なってくる。
馬車が止まり、サーカス団員に見つかったレミ達だが、サーカス団長は、猿を持て余しているとして、レミに猿を譲る。
ストロベリーパニック・MASTERキートン(脚本)ほか、高屋敷氏はモブを際立たせる。
こうして猿がレミ達一行に加わったが、マチヤは生意気な猿が好きになれないと言い、レミは笑う。
ここも笑顔の描写を大切にしている感がある。ダンクーガ・おにいさまへ…(脚本)と比較。
その後、列車が来たので、レミ達は飛び乗る。列車に乗り込むアクションは、ルパン三世2nd(演出/コンテ)にもあり、比較すると面白い。
列車の荷台に乗り込んだレミ達は、石炭を見つけ、丁度列車が炭鉱の町・バルスに向かっていると予測する。マチヤは喜ぶ。
子供の子供らしい描写は、よく見られる。ガイキング・宝島(演出)と比較。
レミは猿が、亡きジョリクール(芸をする猿)にそっくりだとして、ジョリクールと名付ける。当のジョリクールは、我関せずといった態度を取る。動物のコミカルさは、まんが世界昔ばなし(演出/コンテ)や宝島(演出)でも上手い。
夜、列車に揺られながら、レミは幸せな夢を見る。列車が飛ぶイメージが出るが、列車が実際ジャンプする場面が1980年版鉄腕アトム(脚本)、ルパン三世2nd(演出/コンテ)にあり、興味深い。
明け方前、列車が止まり、レミ達は鉄道職員に見つかってしまうが、今回は見逃してやると言われ放免となる。
ここもモブが味わい深い。カイジ・F-エフ-(脚本)と比較。
朝、再びレミ達は、バルスへ向け歩き出す。カピの背中に乗っているジョリクールを見て、マチヤもカピに乗ろうとするが当然できない。
動物とのコミカルなやりとりは、宝島(演出)、あんみつ姫(脚本)ほか多い。
マチヤは人力トロッコを見つけ、レミ達はそれに乗って線路を走り、一気にバルスへ向かう。スピードの表現や演出が、元祖天才バカボン(演出/コンテ)、忍者マン一平(監督/脚本/コンテ)と共通している。
バルスに着いたレミ達はアレクシスを探すが、ジョリクールが少女の持っている弁当を奪おうとする。食いしん坊描写は、まんが世界昔ばなし(演出/コンテ)、ガンバの冒険(脚本)ほか数多い。
ジョリクールは、カピには大人しく従い、弁当を奪うのを止める。
賢い動物の描写も、よく見られる。じゃりン子チエ・あんみつ姫(脚本)と比較。
少女の名はシモーヌといい、偶然にもアレクシスの許嫁であった。シモーヌは、レミの話を山程アレクシスから聞かされていると笑う。ここも笑顔を重視した描写。ストロベリーパニック・あしたのジョー2(脚本)と比較。
「許嫁」とは「いいひと」という意味だと、レミはマチヤから教わる。シモーヌは照れる。
女の子らしく赤面する描写は、怪物王女・アンパンマン(脚本)、ど根性ガエル(演出)ほか丁寧。
そんな折、アレクシスが怪我をしたという知らせが入り、レミ達は現場へ急行。レミはアレクシスと再会する。
再会場面は、陽だまりの樹(脚本)も印象的。
幸い、アレクシスは足を挫いただけだった。レミは安堵で泣き笑う。
高屋敷氏は、脚本でも演出でも、繊細で複雑な感情描写が得意。
RAINBOW-二舎六房の七人-(脚本)、ガイキング(演出)と比較。
アレクシスとレミは、あらためて再会を喜び、握手する。手から手への感情伝達は頻出。忍者戦士飛影(脚本)、ガイキング(演出)、ワンナウツ(脚本)と比較。
レミとマチヤは、ガスパール夫妻(アレクシスの叔父・叔母)、ポール(シモーヌの兄)、シモーヌに挨拶する。
レミは、アレクシスとシモーヌの仲をからかう。無邪気なからかい場面は、宝島(演出)や新ど根性ガエル(脚本)にもある。
ポールから、アレクシスの代理として炭鉱で働かないかと誘われたレミは承諾する。マチヤは、やれやれといった態度を取る。ニヒルな所作は、宝島(演出)やルパン三世3期(脚本)でも目立つ。
夜、マチヤはレミのお人好しぶりに呆れたと言うが、レミが働いている間、動物達と芸をして稼ぐと腹を括る。
気のいい親友の描写は、おにいさまへ…・RIDEBACK(脚本)などでも印象に残る。
レミとマチヤは、互いにあかんべーする。似たようなジェスチャーは、色々な作品に見られる。宝島(演出)、おにいさまへ…・めぞん一刻(脚本)と比較。
こうしてレミは、炭鉱で働き始めたのだった。以降の本作の地下描写は、カイジ2期(脚本)の地下労働施設とかなり重なってきて面白い。
- まとめ
2代目ジョリクールとなった猿のコミカルな描写は、まんが世界昔ばなしの「さるのきも」(高屋敷氏演出/コンテ)に重なるものがあり、高屋敷氏が、自身の引き出しを活用しているのがわかる。
また、キャラの喜怒哀楽、特に「喜」を重視しており、細やかな感情表現が相変わらず秀逸。とにかく高屋敷氏の担当作は、笑顔が印象深い。
細やかな感情表現は、脚本の立場になってもこだわっているのが、最近ツイッターフォロワーさんの協力で入手した、忍者戦士飛影24話の実際の高屋敷氏の(コンテ前)脚本からも見て取れる。
忍者戦士飛影24話の実際の高屋敷氏の脚本についてのレポートは、こちらにまとめた:
https://makimogpfb2.hatenablog.com/entry/2022/08/18/203602
キャラが、どんな仕草をし、どんな気持ちで、どんな表情をするのか。それを徹底的に分析し、演出でも脚本でも、細やかに指定するから、完成映像に反映される。高屋敷氏の、アニメに対する真摯な姿勢には感銘を受ける。
また、マチヤがあらためてレギュラー化してから、高屋敷氏が得意とする、男の子同士の微笑ましい友情が生き生きと描写されるようになっており、その上手さにも唸らされる。
高屋敷氏はアニメーター経験はないが、「こういう絵を描いてほしい」と作画セクションに伝えるのは相当に上手いのではないかと考えられる。
先に述べた、忍者戦士飛影24話の高屋敷氏の実際の脚本も、相当に映像を想像しやすい文章で、まるで絵の無いコンテのようだった。同氏は、アニメというものを熟知している感がある。
大抵の場合、アニメは多人数による総合芸術。人から人へ明確に意向を伝えられなければ、作品は破綻してしまう。そう思うと、高屋敷氏の「伝える力」は相当に強力。
だからこそ、作品に表出する高屋敷氏の個性を見るのは面白い。また、本作の出崎統監督はじめ、高屋敷氏と関わった名監督は、同氏の個性を潰さないし、同氏も潰されない。
そのくらいの強固な意志があるからこそ、高屋敷氏は長年アニメに携わってこれたのではないだろうか。あらためて、同氏の情熱に敬服する。
緊急特集:忍者戦士飛影24話の高屋敷氏の脚本を入手!
togetter( https://togetter.com/li/1932023 )のバックアップです。非常に重大な情報を得たので緊急特集です。
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いつも私がやっている、アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの探求について急展開です!フォロワーさんから、古本屋で忍者戦士飛影24話(高屋敷英夫さん脚本)の脚本を見つけたと連絡があり、送ってくださいました!本当にありがとうございます!
脚本は、シーン番号などがなく、完成映像とは結構異なる箇所があるため、大抵コンテから起こすアフレコ台本ではなく、コンテ前の脚本と思われます!つまり剥き出しの高屋敷さん成分が見られます。超貴重!この頃(1980年代)は手書きなんですね。
まずサブタイトルからして完成版と違い、「我が故郷・地球!!」となっています。 完成版のサブタイトルは「舞い降りた翼」です。
しかし清書した人、高屋敷英夫さんの名前を書き間違ってます…
話の流れは、完成映像と脚本とで違いはないのですが、脚本段階ではキャラの心情にグッと踏み込む描写があります。キャラの掘り下げは高屋敷さんの得意技ですが、それがはっきりわかります!
内容については、前書いたこちらを紹介:
https://makimogpfb2.hatenablog.com/entry/2017/01/03/184550
キャラの心情描写の一例。特にロミナ姫(ヒロインの一人。ラドリオ星王女)の心情がハッキリ指定されています。高屋敷さんは、台詞に頼らない作劇をする傾向がありますが、こんな感じの指定があるから完成映像にも出るんですね。
完成映像には反映されず残念ですが、地球に降下したジョウ(主人公)が、地球の大地を感慨深くなでる描写があります。手の描写は、他の高屋敷さん担当作でも頻出。やはり脚本段階からある表現なんですね!
手の表現といえば、こんなのも。やはり脚本段階からあるんだと感動しています。こちらは完成映像にも反映されています。
高屋敷さんがよく出す夕陽も、やはり脚本段階から指定がありました!情景を想像しやすい文章です。残念ながら完成映像は、脚本より情感が失われています。あしたのジョー2の高屋敷さん脚本回にも似たシーンがあります。
そして驚いたんですが、アクションシーンもちゃんと細かく書かれているのです!コンテや作画の領域だと思ってました…。
完成映像とは少し異なりますが、迫力が伝わります。絵のないコンテのようです。さすが演出やコンテ、監督の経験者!
残念ながら完成版には反映されませんでしたが、ロミナがジョウを想うモノローグがあります。ここもキャラの掘り下げが感じられます。代わりに、完成映像ではロミナの表情に気合が入っています。
こんな感じで、脚本段階でキャラの心情や仕草、シーンの情景、そしてアクションシーンまでもが、詳細に書かれているのを実際に目にすることができました!これ私がもしコンテを切る立場なら、凄い切りやすいと思います!アニメのことを考えた脚本です!
いやほんと、読むことが出来て感無量ですし、大収穫です。重ね重ね、送っていただいたフォロワーさんに感謝です(代金お支払い済)!!