カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

カイジおよび福本作品、そのアニメが好きで、シリーズ構成の高屋敷英夫さんが、子供の頃からアニメのクレジットで凄くよく見る名前なので調べてみたものの膨大すぎてまとめきれなくなってきたので、自分のブログよりここに切り離してまとめることにしました。ツイッターアカウントは@makimogpfbです

F-エフ-16話脚本:成長に伴う痛み

アニメ・F-エフ-は、六田登氏の漫画をアニメ化した作品。破天荒だが天才的なドライビングテクニックを持つ青年・赤木軍馬が、様々なドラマを経てレーサーとなり、数々の勝負を繰り広げていく姿を描く。
監督は真下耕一氏で、高屋敷氏はシリーズ構成・全話脚本を務める。
今回は、コンテが真下耕一監督、演出が高木真司氏、脚本が高屋敷英夫氏。
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今回の話:
資金難に陥ったタモツ(軍馬の親友で、メカニック)は、聖(軍馬のライバル)のメカニックを兼任するという、苦渋の決断をする。それを阻止したい軍馬は、ある事を思い出し、一人で郷里の群馬県に行く。
そして異母兄弟の将馬・雄馬や、ユキ(軍馬を慕う、赤木家の元使用人)に再会した軍馬は、衝撃の事実を知る…
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本記事を含めた、当ブログにおけるF-エフ-の記事一覧:
http://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23F-%E3%82%A8%E3%83%95-
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資金難から、聖(軍馬のライバル)のメカニックを兼任すると決断したタモツ(軍馬の親友で、メカニック)に憤った軍馬は、彼を追いかけまわす。二人のドタバタは原作より派手で、作画もよく動く。

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他のアパートの住人達は暴れる軍馬を縛り上げ(アニメオリジナル)、何とかタモツと話し合いをさせる。

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タモツは、今の窮状を乗り切って、できるだけ多くのレースに参加し、6位以内にコンスタントに入賞してスポンサーがつくようにしたいと言うが、あくまでトップを目指したい軍馬は「6位入賞」という考えに反発、縄をぶち切る。

そして軍馬は、(前回)白タク紛いの事をして稼いだ10万円をタモツに叩きつけ、足りない分も何とかすると宣言。また、父や異母兄の将馬の金には、「タイヤが腐っちまう」ので頼らないと言い(アニメオリジナル)、ある事を思い出したと言う。

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「2、3日で金を工面するから裏切るな」という置き手紙をタモツに残し、軍馬は一人で郷里(群馬県)へ向かう。手紙は、高屋敷氏の担当作で非常に強調される。ワンダービートSめぞん一刻コボちゃん脚本と比較。

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軍馬が郷里に向かう道中の様子が、アニメオリジナルで追加されている。こういった「自然」が織り成す「間」を、高屋敷氏はよく出す。チエちゃん奮戦記脚本と比較。他も多数。

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また、「太陽」も、「全てを見ている」ものとして、印象的に描写される。ワンナウツ脚本、元祖天才バカボン演出/コンテと比較。

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少年期に実母が亡くなっているためだろうか、軍馬は、川原で遊ぶ母子を眺める。これもアニメオリジナル。高屋敷氏は、母性も強調することが多い。ど根性ガエル演出、ベルサイユのばらコンテと比較。

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また、子供が転び、一人で起き上がるのも、意味深に描写される(軍馬の成長を示唆?)。

更に、ヒッチハイクする軍馬を拾ってくれる人も、若い女性に変更されている(原作では男性)。そして、彼女と軍馬のアニメオリジナル会話は興味深い。
女性は、テニスや別荘に軍馬を誘い、「もっと青春をエンジョイしなくちゃ。あたしがハッピーにしてあげるわよ」と言うが、軍馬は「(ハッピーに)ならねーよ」と全ての誘いを断る。
ここの会話のテンポがよく、高屋敷氏の筆がノっている。

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この会話は明らかに、高屋敷氏が脚本参加した(最終回含む)、あしたのジョー2の経験が生きている。あしたのジョーでは、一般的な青春を何故謳歌しないのか?という紀子の問いに対し、真っ白な灰になるまで燃え尽きたい、と丈が答える。
それと同じように、軍馬は(自覚がなくても)一般的な青春では満足できない心身になってしまっていることがわかる。

あしたのジョーの場合、紀子は丈の精神について行けずに去る。今回の場合、女性が軍馬に怒って、彼を車から放り出す。どちらも、男の破天荒な精神について行けない女が描かれている。
アカギやカイジ(シリーズ構成・脚本)でも、一般的な青春よりも命がけの勝負に挑む男の姿が描かれる。

車から放り出された軍馬は、「フラれたタヌキは目でわかる」と、ガソリンスタンド店員から笑われる。「イタチのくせして、タヌキと狼間違えんじゃねーぞ」と軍馬は返す。このアニメオリジナル会話もウィットに富んでおり、高屋敷氏の筆のノリが良い。

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また、会話に動物が沢山出てくるのは、「まんが世界昔ばなし」演出/脚本経験からかもしれない。

そして偶然、父・総一郎(大富豪)の選挙ポスターを目にした軍馬は腹を立て、ポスターが貼ってあるガラスを叩き割ってしまう(原作では、放送できない行為をする)。そこへ、将馬・雄馬(軍馬の異母兄弟)が通りかかり、その場を取りなす。

軍馬が将馬に、(以前、将馬に連れていかれた)ユキ(軍馬を慕う、赤木家の使用人)の行方について尋ねると、将馬は、二人で話したい…と軍馬を竹林に誘う。

将馬は、ユキが赤木家の使用人を辞めたと告げる。軍馬は、彼女の保証はしてやったのかどうか問い詰める。将馬はそれに答えず、上半身裸になり(原作より露出多め)、軍馬がやらかした数々に傷付いたとして襲いかかる。ここの会話も、「オレはいつでもどこでも、行きたいとこには行くし、行きたくないとこには行かねーんだよ」という軍馬のアニメオリジナル台詞が、なかなか粋である。

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隙をついて、軍馬は靴を将馬の顔面にヒットさせる。これはアニメオリジナルで、どこか子供っぽい。高屋敷氏は、子供のような喧嘩をキャラクターにやらせることが多々ある。めぞん一刻脚本、ど根性ガエル演出と比較。

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また、ボクシング的な乱闘も描かれ、あしたのジョー2脚本経験が生きている。同氏は後に、はじめの一歩3期脚本も担当する。

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体格や経験の差で、将馬に一方的にやられる軍馬であったが、雄馬から連絡を受けて駆けつけたユキが、二人を止めに入る。ユキの姿を見て笑みを浮かべる軍馬であったが、直後に気絶。

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ユキは雄馬に、軍馬を自分のマンションに運ぶよう頼み込む。雄馬は了解し、軍馬をそこへ運ぶ。雄馬は温厚な性格で、(母は違えど)兄弟である将馬と軍馬の仲の悪さを憂う。

目を覚ました軍馬は、ユキが作ってくれた食事を美味しそうに食べる。とにかく美味しそうに物を食べる描写が、高屋敷氏の担当作には実に多い。DAYS・カイジ2期・MASTERキートン脚本と比較。食に対する、並々ならぬこだわりが感じられる。

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風呂に入った軍馬は、屈託なく「背中流してくんねーか」とユキに言う。原作では、ユキと軍馬は肉体関係があったが、アニメだと、一緒に育った仲で何でもあり、的なニュアンスになっている。

ユキは普通に、軍馬の背中を流す。
こんな時でも軍馬がどこか幼く、キャラの無邪気さを出すのが得意な、高屋敷氏の特徴が出ている。

その後原作では、ユキが積極的になるも、軍馬の身体が何故か反応しないという顛末になる。アニメでは、風呂場でユキに抱きつかれた際に軍馬が興奮を抑えており、おそらく身体反応がある。ここも、アニメと原作、ちょっとした違いで世界線がずれたような感じで面白い。

更にアニメでは、ユキの後に「さっぱりしたぜ~」と風呂から出てくる軍馬が無邪気で、こんな時でもキャラの無邪気さを出せる高屋敷氏の腕が凄い。

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ユキは煙草を吸っており、煙草とコーヒーカップが映る。「静物」が「語る」のは、高屋敷氏の大きな特徴。めぞん一刻・DAYS脚本と比較。

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ユキは、将馬に「囲われている」ことを打ち明ける。驚いた軍馬は、タオルを落とす。ここも「物」が「役割を持って動く」という、高屋敷氏の特徴が出ている。蒼天航路カイジ2期・めぞん一刻脚本と比較。

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将馬と結婚する気なのか、と軍馬が尋ねると、ユキは結婚する気は無いと答える。原作では、彼女は将馬の子を身籠っており、状況は更にシビア(アニメでは、今のところ不明)。

ユキは煙草をくゆらせる。高屋敷氏は、喫煙シーンをじっくりやる傾向がある。
太陽の使者鉄人28号めぞん一刻脚本と比較。

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軍馬はユキから煙草を奪い、自分の母親(総一郎の愛人)のような生き方はさせない…と憤る(+原作では、妊娠中の喫煙を諌める)。
ここも、煙草がじっくり映る。空手バカ一代演出、カイジ2期脚本と比較。

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また、原作通りだが、煙草の、火のついた側を握りしめる軍馬は、ユキの痛みを少し共有しているようで切ない。

軍馬はユキのマンションから出ていく。そして、一人残されたユキの孤独が描かれる。「孤独」を描くのも、高屋敷氏の大きな特徴の一つ。元祖天才バカボン演出/コンテ、MASTERキートン脚本と比較。

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孤独は万病の源、または破滅への道であることを、高屋敷氏は多くの作品で表している。

一方、ユキの部屋を飛び出した軍馬は、意を決した目をしていた。

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  • まとめ

とにかく、ドラマが盛り沢山な回。ドラマが多い分、高屋敷氏の筆が冴え、色々な会話のテンポが良い。それでいて、静物や自然を使った「沈黙の間」も多く、尺や密度の使い方が上手い。

そしてやはり、ヒッチハイク時の、女性と軍馬の会話が面白い。丈に始まり、今回の軍馬、後のアカギ、カイジと、一般的な青春ではなく、命がけの勝負に身を投じる男の姿が重なっていく。
「男の生きざま」にこだわる高屋敷氏の一面が窺える。

また、いつまでも子供ではいられない試練も描かれる。ユキの変貌は、それにあたる。
ユキは、1話や2話で、家庭で孤立する軍馬を癒す存在であり、ある意味、母のような役割も持っていた。それが今回、崩壊する。

もう一人の、子供の頃からの付き合いであるタモツも、聖に取られそうになっている。軍馬の大切な、あるいは依存していた存在が次々と離れる危機にあり、軍馬の成長が促される。

思えば、軍馬が上京する際、アニメオリジナルで、ユキとタモツが見送っていたのも意味深。この二人が、軍馬にとって非常に大切な存在であるということかもしれない。

成長するということは、何かを失ったり、痛みを伴ったりするもの。今回は、それも描かれた。軍馬の幼さ・無邪気さが、アダルトな状況の中でも発揮されるのは、それを際立たせるためかもしれない。また、キャラの幼さを引き出す高屋敷氏の手腕には、毎回感心させられる。

あと、ユキの孤独が、7話(アニメオリジナル)に引き続き描写されている。原作では、彼女はどんどん破滅に突き進むが、アニメでは少し救済されている。孤独が救済されないと破滅に向かうのは、数多くの高屋敷氏の作品で強調されている。

シリーズ半分にあたる今回、故郷で半ば軍馬を突き放すような出来事が発生する構成も上手い。次回も、予告や原作から察するに、非常に濃いドラマが展開されそうであり、益々期待が高まる。