カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。ツイッターアカウントは@makimogpfbです。

ワンナウツ8話脚本:野球経験がルーツの表現

アニメ・ONE OUTS(ワンナウツ)は、甲斐谷忍氏原作の漫画をアニメ化した作品。謎めいたピッチャー・渡久地東亜の活躍を描く。監督は佐藤雄三氏(カイジ監督)で、シリーズ構成が高屋敷英夫氏。
今回の演出・コンテは池田重隆氏で、脚本が高屋敷氏。

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  • 今回の話:

降りしきる雨を味方につけた渡久地(プロ野球チーム・リカオンズの謎めいた投手)と、降雨コールドにさせまいと焦る相手チーム・マリナーズとの奇妙な攻防の末、リカオンズは遂に同点に追い付く。

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開幕、雨を降らす空が映る。開幕に太陽を映すのはよく見られるのだが、とにかく高屋敷氏は「お天道様」を重視している。チエちゃん奮戦記(脚本)、元祖天才バカボン(演出/コンテ)、MASTERキートン(脚本)と比較。どれも開幕場面。

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大量失点した渡久地(プロ野球チーム・リカオンズの謎めいた投手)の狙いが降雨コールドであると気付いた対戦相手・マリナーズは焦燥。
この事態に、高見(マリナーズの強力な打者)は手を握りしめる。手による感情表現は頻出。RAINBOW-二舎六房の七人-・グラゼニおにいさまへ…(脚本)と比較。

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マリナーズは試合を成立させようと、わざと反則をして早々にアウトを狙い、渡久地も反則をして試合を引き伸ばす。
この「反則合戦」は面白く、コミカルな展開も得意な高屋敷氏のキレがいい。色々な箇所に台詞や展開の細かな改変があり、テンポがリズミカルになっている。

試合不成立・成立に関わらず、大逆転してマリナーズの威厳を粉砕すると渡久地は提言し、そのくらいしないと優勝はできないと言う。背中を見せて語るのはアニメの改変。背中で語る場面は要所要所で出る。
宝島(演出)、はじめの一歩3期・グラゼニ(脚本)と比較。

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渡久地の言葉で、リカオンズ(万年Bクラス)の皆は「優勝を狙う」という基本的なことを再認識する。
グラゼニ(脚本)やカイジ2期(脚本)も、あらためて大目標に気付かされる場面を強調している。

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焦るマリナーズは、投球練習もさせずに吉良(投手)をマウンドへ送る。
急いでいるのに吉良はボールを連発。
渡久地は、前の回にマウンドを掘り下げておいたと種明かしし、皆は驚く。皆の反応が幼い。高屋敷氏担当作は、キャラが幼くなる特徴がある。DAYS・ガンバの冒険(脚本)、ど根性ガエル(演出)と比較。

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渡久地がスパイクで掘った穴により、吉良は難儀する。原作通りだが、落とし穴作戦はダンクーガ(脚本)や、ど根性ガエル(演出)にも見られる。特にダンクーガは、ど根性ガエルが元ネタな気がする。

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フォアボールで一塁に進んだ西村に、渡久地は盗塁を指示。サインを通した以心伝心は、グラゼニ(脚本)でも強めに表現された。

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急ぐあまり牽制球も投げられない吉良に対し、西村は鈍足でも3盗。そして隙をついたリカオンズは得点を重ねて追い上げ、更に試合時間は伸びる。

雨が強くなるなか、心情と状況に連動する照明が映る。こういったランプ描写は非常に多い。おにいさまへ…グラゼニ(脚本)、空手バカ一代(演出/コンテ)と比較。

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そして、急かし続ける皆に辟易した吉良は、わざと牽制球を投げ始める。

皆は自分の気持ちをわかってない…と、吉良は過去を回想。
プレートの意味深な「間」がある。これは、グラゼニ(脚本)でも印象深い(どちらもアニメオリジナル)。

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吉良は契約更改時に、勝利数が多いのに防御率の悪さを指摘され、年俸を減額された過去があり、こうも(時間ばかり優先して)失点して防御率が滅茶苦茶になったので、試合を捨てる行動に出たのだった。
グラゼニ(脚本)でも、契約更改における投手の苦労が描かれた。

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牽制球を連発→遅延行為と取られボークに…を繰り返す吉良に対し、遂にマリナーズ監督の忌野はピッチャー交代を指示。吉良はリリーフの田代に、こんな試合は捨てた方がいいと耳打ちする。
手から手への意思伝達は、多く見られる。グラゼニ(脚本)、宝島(演出)と比較。

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やさぐれた吉良が深くした穴のせいで、田代はコントロールが乱れに乱れる。
一方渡久地は、このところ打撃不振の胡桃沢に、投球コースの予測を告げて送り出す。背番号のアップ・間はよく見られる。DAYS・グラゼニ(脚本)と比較。

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相手の心理を読みきった渡久地の予測はズバリ当たり、胡桃沢は初球を叩いて満塁同点HRを放つ。リカオンズベンチは大歓喜。ここも喜び方が幼い。演出作も、不思議だが脚本作もこうなる。カイジ(脚本)、宝島(演出)と比較。

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マリナーズマリナーズで、忌野のリアクションに愛嬌がある。かわいい中高年キャラの描写は、高屋敷氏の得意とするところ。ど根性ガエル(演出)と比較。こちらも野球回であり、ルーツ的なものを感じさせる。

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雨が激しくなって試合は一旦中断するも、裏で動く彩川(リカオンズオーナー)の意向で試合再開となるのだった。
閉幕に空が映る。意味深な空模様描写は様々な作品にある。グラゼニ・RAINBOW-二舎六房の七人-(脚本)と比較。

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  • まとめ

開幕と閉幕の、雨を降らす空の描写が綺麗にまとまっている。閉幕ナレーションの「雨は更に激しさを増した」(アニメオリジナル)でも、意図は明らか。こういった、天候を絡めた情緒は色々な作品で出てくる。アニメオリジナルも多い。

純粋に、反則合戦は見ていて楽しく(?)、原作の面白さを崩さないための、テンポや台詞の細かい調整が見られる。
単純に原作をなぞっても原作通りにはならないわけで、アニメ用の調整が必要。その調整の塩梅の良さは、じゃりン子チエの脚本で大いに発揮されている。

高屋敷氏の担当作によく見られる、背中で語るようにする原作改変が最近気になってきたのだが、これは同氏の野球経験(元高校球児で、高校野球部の監督も務めた)から来ているのではないだろうか。守備時には、野手の背中がよく見えるものだからだ。

野手は、チームメイト(特に投手)の背中で調子の良し悪しを感じると考えられ、それをキャラの細かい感情を表すものとして応用しているのかもしれない。
あくまで推測なのだが、そう考えると色々と合点が行く。

高屋敷氏の野球経験がルーツとなっていると考えられる特徴は数々あり、私がよく挙げる「キャラの幼さ・仲睦まじさ」、「喜び方の可愛さ」もそれに含まれる(チームワークや、勝利の喜びから来ている?)。そう考えると、意外な経験がアニメに使われているわけで面白い。

話の密度の濃さも相変わらずで、尺に収めるために原作のどこをピックアップして、どこを捨てるかの選択が上手い。
カットするだけでなく、追加や改変も見られるのが、技量の高さと才能を感じさせる。

本作は(色々と変化球だが)野球アニメであり、それ故に高屋敷氏の「野球経験から来る表現」が剥き出しになっている。これは、同じく野球アニメであるグラゼニ(同氏シリーズ構成・全話脚本)にも見られる現象。本作もグラゼニも本当に面白い作品であり、同氏のルーツを探る意味でも実に興味深いと感じた。