カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。ツイッターアカウントは@makimogpfbです。

ワンナウツ20話脚本:バッテリーという関係

アニメ・ONE OUTS(ワンナウツ)は、甲斐谷忍氏原作の漫画をアニメ化した作品。謎めいたピッチャー・渡久地東亜の活躍を描く。監督は佐藤雄三氏(カイジ監督)で、シリーズ構成が高屋敷英夫氏。
今回のコンテは笹木信作氏で、演出が平尾みほ氏。そして脚本が高屋敷氏。

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  • 今回の話:

リカオンズ(謎めいた投手・渡久地の属する球団)対ブルーマーズ(組織的なイカサマを行う球団)の第二戦は、3対5とリカオンズが2点を追う展開に。
ブルーマーズのサイン盗みのカラクリを解明した渡久地は、反撃に転じる。

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渡久地(謎めいた投手)は、リカオンズ(渡久地が属する球団)監督・三原を、金の力で従わせる事に成功。
渡久地の指示通りのサインを出す三原を見て、打席の出口(リカオンズ捕手)は安堵し、渡久地は笑みを浮かべる。
二人の笑みはアニメオリジナル。こういった改変は多々ある。グラゼニ・F-エフ-(脚本)と比較。

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リカオンズの出すサインを把握し、とある楽器の音を使って選手にそれを伝えているブルーマーズ(対戦相手の球団)は、バント指示の三原のサインに対応すべく前進守備を敷くが、それは渡久地と出口の思惑通り。出口はバントからヒッティングに切り替え、ヒットを放つ。
それを見てリカオンズの面々は大喜び。とにかく高屋敷氏担当作は、キャラが喜ぶ様子が可愛い。はだしのゲン2・あんみつ姫(脚本)と比較。

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事情を知らない三原は、出口が機転をきかせたのだと勘違いして、バントは危ないと渡久地に抗議するが、約束通り指示に従えと渡久地に言われ萎縮する。ここは三原に愛嬌がある。こういった中高年キャラの可愛さは多くの作品で目立つ。宝島(演出)、じゃりン子チエ(脚本)と比較。

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出塁後は三原のサインに従えばいい…と渡久地に言われた出口だが、三原は次の打者の近藤に、定石通りの送りバントを指示。だが近藤はヒットを打ち、出口は全力で2塁に走った結果、バスターエンドランの形に。驚く三原に、渡久地は次の指示を出す。このあたりも、三原に愛嬌がある。

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次なる三原のサインは、初球ホームスチール。あまりに無茶な指示に出口は驚愕。
ここも三原が可愛い。とにかく高屋敷氏の担当作に、愛嬌ある中高年キャラはつきもの。F-エフ-・グラゼニ(脚本)、宝島(演出)、あんみつ姫・1980年版鉄腕アトム・太陽の使者鉄人28号(脚本)と比較。

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ホームスチール指示に戸惑う出口は、そもそもホームスチールは単独で行うものなので、やらなくてもいいのではないか?という思考に行き着き、やるフリだけしようと決意。光の方を向く裸の出口のイメージが入るが(アニメオリジナル)、光を絡めた心理/状況描写は要所要所で見られる。おにいさまへ…グラゼニ(脚本)、宝島(演出)、はじめの一歩3期(脚本)と比較。

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出口がホームスチールのふりをした間に、近藤が2塁へ盗塁。戸惑ったブルーマーズ野手陣はエラーし、その間に出口はホームイン。これで点差は1点に。
わけがわからずベンチに帰ってきた出口に対し、渡久地はカラクリを語り始める。ここでも、アニメオリジナルで「笑み」が追加されている。RAINBOW-二舎六房の七人-・グラゼニ花田少年史(脚本)と比較。

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渡久地はチームの皆に、これから三原はパターン2のサインを出すと伝え、それを知らない三原はパターン1のサインを出し続けていた。それをうまく組み合わた結果、奇策が成功したのだった。
渡久地の解説の際の演出(ベンチをシアターの観客席に見立てる)が、グラゼニ(脚本)と似ているので、一応比較。

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渡久地は出口の思考を読みに読んでいた。そして、その通りに出口が動いたからこそ敵側の混乱を招いたのだと、出口を(彼なりに)褒める。ここは、出口と渡久地の関係性を掘り下げる場面として働き、今回の構成の肝となっている。

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リカオンズは逆転し、(サイン交換しないため、ブルーマーズがサインを盗めない)渡久地が抑えて、リカオンズは勝利。
それを見た及川(リカオンズ広報部長)は喜ぶ。シリーズ全体を見守るキャラの強調は、カイジ1・2期、RAINBOW-二舎六房の七人-(いずれもシリーズ構成・脚本)でも印象深い。

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試合後、意味深な彩川(リカオンズオーナー)の発言が気になった及川は、彩川と渡久地との契約書(1アウト取る度に、渡久地に+500万円、1失点毎に渡久地が-5000万円)を密かに見直し、重大な事に気付く。

一方、ブルーマーズのヘッドコーチは不敵な笑みを浮かべる。

彩川は、渡久地を破滅させられると自信を覗かせる。

そして渡久地は、買ったばかりの外車でドライブした後、煙草をくゆらすのだった。

これらの場面は原作と順序が異なる。器用な時系列操作は、高屋敷氏の十八番。

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原作の時系列を操作し、渡久地が煙草を吸う場面を最後に持ってくることで、今回の話に余韻を持たせている。煙草を印象づけるのは、多くの作品に見られる。
カイジ・RAINBOW-二舎六房の七人-・グラゼニ(脚本)、ルパン三世2nd(演出/コンテ)、めぞん一刻(脚本)と比較。

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  • まとめ

今回の話の肝は、(前述の通り)出口と渡久地の関係の掘り下げ。
話のテクニカルな面を盛り上げつつ、出口の人間性を描写し、それを把握している渡久地の姿がクローズアップされている。

これは、互いに信頼しないと成り立たない、バッテリーという関係の強調でもある。実際の野球経験(元高校球児で、高校野球部の監督経験あり)がある高屋敷氏は、そのあたりのことを熟知しているのかもしれないし、好きなのかもしれない。

今回において、出口という人間の内面がかなり描写されたわけであるが、彼が愛すべき素直さを持っていることが視聴者にわかるようになっている。そして渡久地も、出口のそういう所を買っているのを強調している。

一見、一人で試合を支配しているような渡久地は、野球は一人でできないという事を十分承知している。そして勝つために、各人の個性を把握/信頼して指示を出している。原作もアニメも、ドライな作風の中に、うまくウェットな部分を入れる構成になっている。

カイジ1・2期(シリーズ構成・脚本)においても、チームにおいてメンバーそれぞれを信頼することの重要性が描かれている。お人好しのカイジは手痛い裏切りも経験するが、それでも人を信頼する事を止めるわけではなく、結果、大勝利を掴むことがある。

グラゼニ(シリーズ構成・全話脚本)でも、先発と中継ぎ、投手と捕手といった関係を前面に出している。
特に、先発(渋谷)が、中継ぎである主人公・夏之介の親友であるという構造を、アニメオリジナルも交えて強く打ち出している。

このように、本作・カイジグラゼニ(いずれもシリーズ構成・脚本)は、厳しい「勝負」の世界を描きながら、「人を信頼すること」の重要性も主張している節がある。
この三作が、勝負に勝って大金を掴もうとする事だけに終始している話ではない事が、この事からもわかる。

本作でも、序盤・中盤・終盤と、そういったウェットな部分を、じわり滲ませているわけだが、その塩梅や構成が実に上手い。もともと高屋敷氏は、凝った話の中に「情」を組み入れるのが巧み。それが遺憾なく発揮されているのが、今回も感じられた。